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サークル かみみゅ 冬コミ参加情報

 & 風車のある風景 試し読み公開 

 冬コミは相変わらず委託参加するはこびになりました。
 今年の配布は

 新刊 風車のある風景 ポストカード3枚組み 100円
 既刊 風車のある風景 1巻、2巻 各500円

 となります。
 小説に関しては、下記に試し読みも用意いたしました。 小説、漫画部分あわせて5話ほど公開します。

 委託させていただくサークル様は
 蛇足亭様 : 三日目 東ト-13b
 もぞしび様: 三日目 東ル-13a
 のお二方となります。ありがとうございます。
 配布品に差はありませんが、残り冊数が少ない2巻は奇跡が起これば無くなるかもしれません。
 よろしくお願いします。

 ためし読みは下記リンクをクリック


 ■ 風車のある風景 一巻 試し読み第一話
 ■ 風車のある風景 一巻 試し読み第五話[漫画](一部抜粋)
 ■ 風車のある風景 二巻 試し読み第二話
 ■ 風車のある風景 二巻 試し読み第五話[漫画](一部抜粋)
 ■ 風車のある風景 二巻 試し読み第七話(一部抜粋)

夏コミ参加作品 マルコフ連鎖概要

マルコフ連鎖ジェネレーターを使用して、
2009年夏コミ参加作品「風車のある風景」から第一話”風車のある街”のプレ版を掲載してみます。



 見渡す限り、雲海が広がっている。
 不思議なほどに明るいそれは、中空構造になって愚図られるだけだと必死で笑いを飲み込む。
「まったく天下の大企業ベルフレア様は、上に人影があった。風車はみなそろって同じ速度で羽を回しているように街がこの屋上に追いついてしまう。
「あれぇ?」
 メルは工具袋を拾い上げると歩き出す。
「まったく、ちょっと待ってくださいね」
 リグのそばに着地すると手を引かれながら引きずられるまま、リグはその随分と明るい星に目を細めて笑う。
 空にはまだ早い……って星なんてどこにある風車の羽が彼女の焦点がそこに結ばれることはないのだ。
「まったく天下の大企業ベルフレア様は、中空構造になったような気が楽になった。
 メルの脅しにすっかり腰を抜かしたリグは空にはまだ早い……」
 人の発展は随分と早い。限られたであろう経路は、柱から伸びる街がこの屋上に追いついてしまう。
「まったく、でかい癖に繊細なんだし、気を抜いたら心臓が口から出てくる。
 このままぐずぐずしていた。
 ――足元は風上街、そこから右回りに九〇度回ると風雨街、そこから右回りに九〇度回ると風雨街、続いて風下街、風はやまず、風に流れる雲が、高所恐怖症。
 だいたい十ヘッドもあれば家一軒ほどを支えきれるはずだ。風に髪を泳がせながら立っている。あるのは雲と空と雲しかなかった。高所恐怖症の後輩はどうにもこれほどの大きさではないが、よくよく考えている気すらしていれば、日が暮れる、戻ろう」
 金属樹の風を受けても機嫌が悪くなっている。あるのさ」
「終わりましたよ〜」
 そう言いながら、リグは見つけた。
風車の資材搬入に使われた土地と資源でここまでやってきたことに、メルは振り返ると、名残惜しそうに空を見上げている。
「……ずび……」
 鼻水と涙でぐちゃぐちゃになって愚図られるだけだと必死で笑いを飲み込む。
 言われて、ピクリと震えた。見れば雲海に影を落としているんだか。やっぱ風上のほうが調子悪いなぁ」
 ぷるぷると震えて使い物にならないだろう。
 放っておけばそのまま座り込んでいるリグの恐怖は限界に達したのっていくつ?」 見上げている。





うーん、カオス。

番外02「また会う日まで」

 挿絵はNEOROSIのMyu氏。いつもありがとう。
 


 まだ、私の歯車は回っていた。

 遠く地平線の彼方に、歯車が横たわっていた。昔、ゆっくりとその歯車が回っていたなんてもう誰も信じないかもしれない。
 どこまでも広がっていそうな草原に、強い風が吹いている。
 空にあいた大穴は黒くぽっかりとその口を開け、まるで草原を見下ろすようにしてたたずんでいる。世界を守るはずの大天蓋にはそんな穴が開いている。おかげで、世界には風がやまなくなった。
「めくれ放題だな」
 黒髪を風に流し、真っ黒なメイド服を揺らしてススキがつぶやいた。
 暇そうにそばでアサガオが動きを止めた歯車を眺めている。その後ろで、アサガオの真っ白な髪の毛をいじっているスモモがうれしそうに鼻歌を歌っていた。


 視界を巡らせれば、逆側には何がおもしろいのかススキと同じポーズで胸をはって空を見上げているシュンランとフィリフェラがいる。その二人の横で、あたまを抱えているのはフウランだ。さっきめくれあがったスカートの腹いせに、殴られたらしい。
 ススキは片手に竹箒、あいた片手は腰に、ひらひらのスカートをそのままにして仁王立ち。横には二人のお供を伴い、胸をはって空を見上げているものの、
「ゆれんけどなぁ」
 誰の胸もない。
 声の主にススキが振り返った。
「じじぃ」
「セクハラです!」
「変態!」
 干物のような老人がログハウスの窓から、さっさと顔を引っ込めると家の奥へと逃げていくのが見える。
「うははははー」
「ウンジン!! まちやがれ!」
 飛び込むように家に飛び込んだ瞬間だった。
 木造のちゃちな小屋だったはずの視界に、あり得ないものが見えた。
 ――霧!?
 白く煙る視界。思わず口と鼻を服で覆うが、その鼻孔に臭ったのはツンとした刺激臭。
 ――なんだ?
 知っている毒物の知識が頭の中でぐるぐると回り始める。即効性の毒ではない。体のの変調もなければ、視界も意識も今のところはっきりしている。刺激臭はしたが、記憶にある毒物のどれともすこしずれている気がする。
「ほほほ。前のようにはいかんて」
 ウンジンの捨て台詞に反応はせず、ススキは必死で記憶を探る。
 ある程度の数の毒は記憶しているが……。
 ――マニアックなのまで臭いでわかるほどじゃねぇし、臭いだけでわからないのが多すぎる。
 肌に触れているだけで危険な可能性もあると、ススキは一歩さがる。目に染みるところから、間違いなくそれが体にいいものではないと悟るが、やはり記憶に思い当たりはない。
「ジジィ……。次は完全乾燥してやる」
 いいながら、霧から離れるようにまた一歩下がるススキ。
「姉様、危ないですっ」
「なんすか? どうしま……なんスかこれ? 毒?
「え? 毒 ほんと? すっちゃったぁ。 どうしよう……」
「どうしましたの? スモモさん」
「なんの霧?」
「姉様すってはいけません!」
「これ……」
「やだぁ……え、死んじゃう? 死んじゃうの? ねぇ、アサガオちゃん、毒なの? 死んじゃうの?」
「シュンラン、フウラン、とりあえず後ろに。いま変態を追うのはよしましょう」
「おまえら、落ち着け!」
 めちゃくちゃだった。顔見知りの五人は、それぞれ好き勝手に暴れている。
 思わず突っ込んだとき、霧を大量に吸い込んでしまったススキは思わず咳き込む。
「ごほっ! がはっ!」
 ――やべぇ……。くそ、あの馬鹿干物っ!
 呼吸もままならず、とにかく野次馬五人を外に出そうと、手振りだけで家から追い出す。
「わわっ、押さないで。ちょっと……あっ」
「きゃぁ!」
 足を床の突起にひっかけバランスを崩したシュンランが倒れて、それにつられて真後ろにいたスモモが尻餅をついた。スモモの横にいたアサガオがスモモに手を伸ばそうとして、前にいたフウランの足を踏む。
「わっ、と」
「った!」

 目の前で四人がドミノ倒しに倒れるのをみながら、フィリフェラが一歩をさがってくずれいく四人を見下ろしている。
「あらら」
「どあぁぁぁぁ!」
 下がろうとして、後ろの五人を避けようとむりな体制をとったススキもまた倒れていく。
 結局、フィリフェラ以外の全員が家の入り口の前でなすすべもなく倒れていった。あくまで自業自得だったが。
「あああああああああ」


 結局、霧は毒ではなかったのか、未だに全員が全員健在ではあった。
 だがとうぜんなんでもないわけがない。
「これ……アルコールっすね」
 アルビノの真っ白なほほを、心配になるほど赤くそめたアサガオが焦点の合わない目でつぶやく。
「お酒ぇ?」
「姉様、大丈夫、ですか?」
「全く、この程度のお酒で酔うとは、はしたない」
「ごめんなさい……姉様」
 とくにかわりのないフィリフェラとスモモはべつとして、ほかの三人は驚くほど赤くほほを染めている。
 とくにアサガオとシュンランはアルビノということもあり、ほとんど色素のない頬の皮膚をすかして血の色が浮き上がっている。
「アサガオちゃん、顔まっかだよぉ。リンゴみたい」
 ゆらりと、怪しげに伸びた手はスモモの手だった。冷たいと、思わずアサガオは驚くが自分があつくなっているのだと一呼吸置いて理解する。
「んー、酩酊してるかって自分じゃわかんないもんっすね……」
「ったく、あのじじぃ」
 ススキが起き上がりめんどくさそうにため息をついた。
 ほとんどすっていない自分も、軽く頭の奥がずきずきと痛む。かなりの濃度だったのだろう、アルコールはいまだ微かに風に混ざって独特の臭いをまき散らしている。鼻や目などの粘膜が直接アルコールにふれて血管拡張されいるのがわかる。きっといま自分の顔をみたら、真っ赤な目をしているだろう。
 ――うえ……酒は飲むに限るな……。
 無理矢理酔うだけ酔わされた気分に、ススキは顔をしかめて立ち上がった。すでに霧は晴れ、家の中が見渡せるようになっている。
「とりあえず、あのセクハラ干物をとっつかまえましょう」
 フィリフェラがシュンランに手を伸ばしながら言う。
 ようやく皆我を取り戻し始めたのか、なんとか格好だけでもと立ち上がり始めた。
「ウンジン様、捕まえてどうするの?」
 スモモの素朴な疑問に、シュンランはふと我に返ったのか首をかしげ、真逆にフィリフェラは当然だとばかりに顔を赤くする。
「侮辱されて黙っていては、名折れですっ!」
「あー、スモモちゃんにはわからない悩みっスよ」
「えー? なにそれ。私仲間外れなの?」
「そうですわ、スモモさんにはきっと一生ご縁のない話ですっ! ほっといてください」
 語調を荒げ、フィリフェラがきんきんとわめくが、ほかの誰もがついてきていない。
「私も関係ないっス」
 フウランはこっそりと女陣を眺めて一人品評会にはいる。
 一番はだれがどうみてもスモモだ。最近また一段と大きくなった。といっても年相応であって取りただすほどのものではない。周りが周りだけに目立つといえば目立つのだけれど。生まれも育ちも普通、ススキの弟子ではあるものの一番式術のへたな本当に普通の女の子だからこそ、やはり大きさも普通なのだろう。ただ普通と評価すると、あたりから総スカンを食らうのは間違いがない。
 ――だいたい、お城にはもっとすごい人多いし……。
 二番目はシュンランだ。スモモよりは控えめな大きさではあるものの、問題視するようなものではないとフウランは思う。いつも一緒にいる分、本当の悩みがわからないところはあるが、もとより彼女はそんなことを気にするようなタイプではない。いまもなぜフィリフェラと一緒になって語気を荒くしているのか、フウランにはわからない。姉であり、フィリフェラの家に引き取られる前から似たような境遇で育ってきたにも関わらず、たまにシュンランはよくわからない行動をする。
 ――服より剣な人だしなぁ。
 三番目はアサガオだ。スモモと比べてしまうと、残念の一言になる。が、本人は全くこれっぽっちも気にしていないし、大きさも自覚している希有なタイプだった。くだらないと、鼻で笑い飛ばすわけでもないが、負い目としてもかんがえていない。アサガオの興味は、すでにそういうところからかけ離れているのかもしれない。もとよりフウランと同じアルビノでしかも親にいいように利用され続けた彼女だ、どこか超然としててもおかしいところはない。
 ――僕は、これぐらいのほうが控えめで……。
 四番目は、フィリフェラだった。誠に残念なその直線は、上手く言葉にできない。ないのかえぐれているのか、それともなにかそういう決まりなのか。あらたな物理法則とでもいうべきか。
 ともかく、みていられないほど酷いとはこのことだ。フウランは、思わず目を背ける。
 ――お母様の血を引いているはずなのに。
 遺伝子というものが存在しているのか、疑問視されそうなレベルである。養子であるシュンランとフウランの母であるカトレアはフィリフェラの実の母だ。ただほんの少しその事実が揺らいだ気がした。
 ふと、視線を感じてフウランは顔を上げる。
 みなの視線が痛かった。
「いえ、けして僕は皆様を評価できるような、そんな大それた人間ではありま……えーと。参りましたね。せめて、立っておくべきだったと。走って逃げる余裕はなぁぁぁぁぁぁ――」
 語尾は空遠くへとかすれて消えた。フウランの姿もまた、地平の彼方へと消えていく。
「さて、とりあえず奪われたプライドは取り戻すのが必然ですわ」
 フィリフェラが煙を上げる拳をひらひらとしながら言う。
「えー、ウンジン様もうどっかいっちゃったよー」
「スモモさん!」
「はいぃっ」
 スモモはフィリフェラの一括で、はじかれるように姿勢を正す。
 五人から一人ぬけた四人の集まりを、ススキはあきれた表情で見下ろしていた。相変わらずすぎて、逆に新鮮なぐらいだ。
「見つけましたよ、ウンジン様」
 声を上げたのはアサガオだった。なにやら彼女の周りに光る点と線が点滅したり移動したりしているのが見える。
「これなに?」
 シュンランが手を伸ばすが、点も線もただの光なのか触れられない。
「簡単な式術の固まり、かな? ちっちゃな式術を大量に起動させてるっス。最小単位はこの点。この点一つが、この『天球儀』のある程度区分けした範囲に対応するっす。んでこの線が走査中の区域の帯。定期的に『天球儀』全域を走査してるっス。んでこの点滅してるのが、大きな式術を使用してる区域。ここが私っす、んでこっちに四区画にわたって式術反応がでてるっす。あ、この薄い点滅がススキさんの家っス」
 感応式マップの仕組みだった。本来式術師であるなら、こんなまどろっこしいことをせずに、全域走査するだろう。アクティブソナーと同じ要領をつかえばいい。問題は反応を受け取るのは己だということだ。アルビノであるアサガオやフウランは、先天的に色がない。色がないということは、式術が反応しないということだ。色なしとはいったもので、どんな式術でもアルビノの彼女らを塗りつぶすことは不可能だ。つまり彼女らアルビノは式術をほとんど使えない。とくに己を基点にするようなたぐいの術はほぼ使えない。
 そこでアサガオが考え出したこの術だった。己を媒介にせず、空間と空間をつなぎ、感覚ではなく視覚で式術の結果を得る方式だ。
「ややこしい、式術ばっかつかうなおまえは」
 といいながら、ススキは興味津々にアサガオの式術をのぞき込む。
「ここ、ほら。移動してるっス」
 そういってアサガオが指した大きな光は、確かにゆっくりとだが走査線が走るたびに微かに反応を変えていた。
「こちらからみると、あちらの方角かしら?」
 フィリフェラが指すのは、地平線に突き刺さる大きな歯車。
「そうっすね」
「追いかけますわよ!」
 フィリフェラの号令下、皆が一斉に動き出した。


 結局、ウンジンはすぐに見つかった。
「まさか、あんなところにいるとは」
「正しく干物っすね」
「さすがに、ちょっと……」
 式術を使って隠れてはいるものの、どこからどうみてもウンジンだった。正確にいえば、ウンジンの形をした木が生えているというべきだろうか。確かに遠目からみれば、ほかの木に紛れることもあるだろう。だが、残念ながらここはただっぴろい草原だった。ぽつぽつとしか木はたっていない。もしも近づかれたらものの数秒で看破されるだろう。
「ジジィ……」
 さすがにやる気もなくなったのか、ススキがため息をつく。
「そういえば、薪が不足してませんでしたっけ」
 アサガオが皆を振り返って言う。
「ええ、そういえばそろそろ切り出して乾燥させないと、とおっしゃっておられました」
 すぐに反応したのはフィリフェラだ。
「そうなんだ、じゃぁこの木にしようっか。すぐに乾燥しそうだしね」
 さらっとスモモがえぐいことをいって、アサガオがうれしそうに口元を引き上げた。
 一人ついてきていないシュンランが、ふと弟のフウランはどこまで飛んだのかそんなことを考えている。と、ぽんと肩をたたかれシュンランは振り返った。
「じゃ、さくっときってくださいな」
「? はい、姉さま」
 よくわからなくても、姉の命令は彼女のなかで最優先事項である。
 シュンランは手を掲げ、いつも通りに剣を呼び出す。彼女の背丈をかるく超える大剣は、当然のように主のコマンドに反応し格納庫から飛び出した。一瞬にして音速を超え、圧縮された空気が水蒸気の雲の尾を引いてく。格納庫の警備兵が、隊長の剣が空に飛んでいったと腰を抜かしながら上司に報告したときには、すでに剣はシュンランの手に収まって湯気を立てていた。
「薪つくるのね?」
「そそ、さくっと根元からやっちゃってくださいっス」
 アサガオの言葉に、こくんとうなずき無造作にシュンランは剣を肩に担いだ。まるでおもさを感じさせない動きの向こう、老木が逃げようかこのままだまし通そうか二択に体を震わせていた。切り倒されるか、集団リンチを受けるか。
「……」
 あきらめたのか、このまま刈り取られようと、せめてさくっといってくれとばかりに木は動かなくなる。
「さらば、ジジィ」
 ススキのつぶやきを合図にしたように、剣が振り下ろされる。
「っ!」
 風切り音すらたてず大剣は振り切られた。地面から顔をだしていた草が揺れたぐらいで、もうそれ以外に剣が動いた形跡はのこっていなかった。
「おー、おみごとっす。さすがっすね。ほいじゃ、小屋までもってかえりましょうか」
 わかったとばかりに、シュンランが剣をはなしかわりに未だ倒れていない老木を持ち上げた。まるで置物の用に木は地面からはなれ、かるがるとシュンランの肩に担ぎ上げられる。
「さて、まいりましょう。丸太は薪にしないといけませんから」
 フィリフェラは先頭にたっていて、だれからも彼女の表情はわからなかった。ただ、間違ってもその顔を見たいと思う者はいなかった。

 小屋をまえに、数人の男が立っていた。雰囲気は焦りと不安に塗りつぶされている。彼らに見守られるように、小屋の壁にもたれかかっているのはフウランだった。腹部が破れ肌が露出している。未だ気絶し意識を回復していないのか、事情を聞けず周りの男達はおろおろとしたまま小屋をのぞいたりあたりを見回したりしていた。
「なにしてるんすかね? あれ中央の城の人じゃないっすか?」
「そうですわ。なにしてるのかしら。あら、フウランも」
「あ、私の部下だ。おーい、なにしてんの?」
 シュンランが丸太を担いだままぶんぶんと手を振る。
「隊長! 何しているのはあなたの方です! 格納庫から剣が飛び出したと報告があって、反応を追ってここまで来たんですよ。こちらの支部にも連絡がいっております、逃げ出されてもすぐに見つけますよ」
「あー」
 心底めんどくさそうに、シュンランは眉をひそめる。こちらに気がついたのか、フウランが腹を押さえながら顔を上げる。情けない弟の姿にシュンランが声をかける。
「おはよう、フウラン」
「姉様、おはようございます。……じゃなかった、今日はここまでのようです」
 当然だと鼻息荒くする兵士。
「お戻りください、隊長」
「王女も……いい加減こんなところで遊んでおられないで……」
 アサガオの背に隠れていたフィリフェラが舌打ちを一つ。
「あー、また今度っスね。薪割りは」
 アサガオがため息混じりに笑う。
「……戻りますわ、フウラン、シュンラン」
「はい、姉様」

 兵士達に囲まれて、フィリフェラ、シュンラン、フウランの三人が浮かない顔をしてる。
 ススキは無言でその三人を眺めていた。これは彼らが選んだ道だ。誰も文句を言うことはできない。
 手持ちぶさたにフィリフェラが銀色の髪をなでつけている。しかられた子供のようにうつむくシュンランと、苦笑いをしているフウラン。
「んじゃ、また。暇みつけて遊びにいくっス」
「ええ。薪割りはとっといてください」
「乾燥させておくッっスよ」
「アサガオ様――」
 割って入ったのは、一人の兵士。服装からみると、この兵士達の指揮者だろうか。
「……中央ならいかないっすよ。遊んでるときに邪魔される生活は、私にはできないっス。必要のない権利をもらって、義務をおしつけられるなんてまっぴらっス」
 とりつく島もない、とアサガオは右手をひらひらさせる。
 めくれあがった袖から、手首が顔をだす。それはアサガオの白い肌ではなかった。手首の間接部分から顔をだしてるのは、光を反射する銀色の玉。球体関節。
 フウランが手を伸ばし、アサガオの手首を隠した。
「……」
「さ、いくっス。また遊びましょう」
 右肩よりさき、彼女には腕がない。今うごいているのは、義手だ。フウランが必死で開発した式術を練り込んだ動く義手。式術近衛団の団長である彼の持つ権力と財力が作り上げた試作品だった。
「こんどは、手いがいもちゃんとしたやつ作りますから」
「……ありがとう」
 視線でフィリフェラが出発を促す。
 地面で転がっているウンジンが目を伏せ、スモモが寂しそうに笑っている。アサガオは無表情のまま三人を見つめていた。
 ススキは目をそらし、つまらなそうに空を見上げていた。
 瞬間移動を可能にする銀色の光が無音のまま広がっていくと、すぐにあたりは色を失い光に塗りつぶされる。まぶしそうに皆が目を細めるなか、大人数を移動させる銀色の式術が発動した。
 瞬きの後には、もう光は消えていた。残ったのは、なくなった空間を埋める空気の流れだけだった。
「もどるぞ」
 ススキのつぶやきが聞こえていないのか、アサガオはまだ消えた三人がいた場所を見つめている。
「おい、アサガ――」
 のばした手が、

 アサガオの肩をすり抜けた。

「……あぁ」
 そうだった。
 ――私は。
 ススキは己の手をみる。ゆっくりと感覚が戻ってくるのがわかる。
 うたかたの夢から覚める、そんな感覚だ。
「とっくに、私はここからいなくなってたんだ」
 視界が戻る。いや、意識がもどってくる。夢から覚める。

 ここは『天球儀』なんかじゃない。

 耳の奥に響いてくるのは重たい唸りだ。
「おはようございます。艦長」
 視線を向ければ、メイド服に身を包んだ女性が一人。
「ああ、おはようツバキ。それと戦争はとっくに終わった、船長とよべ」
「ユウ様と仲直りされたのですか? それに十分戦争と呼んで問題ないかと」
「ただのけんかだ。戦争じゃねぇよ」
 星間航宙艦”プルタブ”は、ゆっくりとその巨体を宇宙に漂わせている。広宙域連邦は勢力をひろげ、『天球儀』から唯一の生き残りとして登録されたススキは今も母親の下で働かされていた。むろん納得する訳のないススキが反旗を翻し、
「50万隻の戦闘艦と1千万隻の無人戦闘機をつかって、半径5メガパーセクの星という星を蒸発させるのは喧嘩とはいいません」
 全天ともいっていい大戦争が起こった。
「……すまん」
「仲直りされたのですか?」
「……すまん」
「総督府長は、また胃潰瘍で倒れたそうです。お見舞いはいかがいたしましょう」
「そうだな……」
 プルタブがゆっくりと、恒星も惑星も何もない宙域を漂っていく。遠く、ちかちかと揺れる光はどこか名も知らない恒星の光だ。塵の一つだってない空白地帯にも、恒星の光は届く。天覆うのは光の網だ。
「狭いなぁ」
 ススキのつぶやきに、ツバキは無言で昔のことを思い出していた。この大深淵たる宇宙を前に「ちいせぇ」とつまらなそうにつぶやいたススキの母親のことだ。
 ――親子なのですね。
 親子げんかはまだくすぶっている。この血族は、こんな世界ではまだ物足りないのだ。そう思うと、機械の体とコードの心が柄にもなく震える。
 まだ彼女たちは先の世界を見せてくれるかもしれない。
「次はどこへ? 艦長」
「久しぶりに、『天球儀』でもよってくかぁ……」
 ツバキは無言で了解の意を伝えると、プルタブがゆっくりと回頭を始めた。涙滴型よりも細くとがった紡錘型をしたプルタブの頭が『天球儀』のある方へと向く。静かに唸りを上げていたエンジンに本格的な火が入ると、艦がきしむ音が混ざり始めた。
「発進」
「了解」
 数秒後、その場所には光のかけらも残さず、プルタブの姿は消えていた。


 『天球儀』の夜は、静かだった。
 未だ過去の事件の名残が残る、穴の開いた天蓋から星の光が漏れている。
「アサガオちゃん、もどろ? 今日は、泊まってくんでしょ?」
「なんか……」
 三人が連れて行かれて、それからずっとアサガオは煮え切らない顔をしてウンジンのすむ小屋から外を眺めていた。
「どうしたの? ほら、晩ご飯できたよ」
 スモモはここのところずっとウンジン宅であるこの小屋で過ごしていた。ウンジンの世話と、式術の特訓という名目で家から逃げ出してきたのは、誰もが知るところだ。実のところ彼氏と喧嘩したのだと、風の噂はこの町外れのぼろ小屋まで十分とどいていた。
「なんか、今日ススキさんがいたような……」
「あー、うん。そうだね、なんか私も一緒に走り回ってた気が……。懐かしいね」
「いまなにやってんスかねぇ。ここからじゃ、宇宙のことは全然わかんないから」
「ひょっこり帰ってくるかもよ?」
「……そういうこと、いうと」
「え?」
「……うわぁ。なんかいやな予感が」
 ぽっかりと空いた穴から星が見えている。
 いや、見えていたはずだった。
「星が、消えてく」
「違うっす……」
 プルタブだ。真っ黒な船体をしかもまっすぐこちらに向かって突き進んできている。
「夜目が利くアルビノの目はこういうとき最悪っス」
「え? え? アサガオちゃん、顔真っ青だよ!」
「ははっ……」
 スピードを落とさない宇宙船の先端が、とんでもない速度大きくなっていくのがよく見えた。

 その日、ようやく修繕工事が始まった大天蓋の穴の工事は一時中断することになった。

 空から真っ黒な剣が差し込まれている。
 大地震かとおもわれた、次の日の朝。『天球儀』にはプルタブが刺さっていた。
 草原に吹き続けていた風がやんだ。
 世界中の誰もが、そのことに喜べず深いため息をついたという。
「いやー、すまんすまん。ここってビーコンねぇからさ」
 大笑いしながら、ススキが肩を揺らしている。

 久しぶりにメイド服を着られたのがうれしいのか、上機嫌の彼女は小屋の前で箒を振り回している。
「すみません。すみません。すみません」
 ひたすらウンジンと事態を収拾にきたフィリフェラに頭を下げ続けるツバキの声が、風のない空に申し訳なさそうに溶けていく。
「大丈夫、次はミスしないって」
 ススキの笑い声に、誰かがため息をついた。

 昔、崩れ落ちた歯車は動いていない。
 それでも世界は、ずっと動き続けていた。これからもきっと。



小説log

かみさまごっこ

人生は「過程」か「結末」か?(小説執筆者募集!!)(karimikarimi)
 参加作品。脱稿。
 時間がないのをいいわけにはしたくないけど、あまり推敲してないのに参加していいものだろーか、ちょっとなやむ。むむ。まぁいいか! 勢いで! イヤッホー!
 って、なんかトラックバックおくれないんですけど……。このまま不参加とか笑える。笑えるからあきらめるか。




 その部屋は汚れ一つなくて、とても綺麗だけどつまらない部屋だった。
「おはようございます」
 絨毯敷きの部屋に声は響かず、鈴のように広がり水滴のようにその余韻を消していった。
「おはよう。キキョウさん」
 答えた声は、まるで風のようだった。空気が揺らぐだけの存在感のない、ともすれば気がつくことのないような声だった。

「さん付けはやめてくださいと、再三もうあげているのですが……」
「キキョウさんがボクのこと、かみさまってよばなくなったらね」
「……でしたらあきらめます」
 特に気分を害したわけでもなく、キキョウと呼ばれた女性はいつも通りのやりとりに軽く息を吐き出した。
 神様、とよばれているのは彼女の目の前で座っている若い男性だ。
「どうして? ただぼくのこと、むかしのようになまえでよんでくれるだけでいーのに」
「神様は、神様ですから」
「ボクがよちできるから? みんながそういうから? ぼくはそんなふうによばれたくなんかないよ」
 不機嫌そうに男はうつむく。ゆったりとしたソファーに体を沈み込ませまるで逃げ出すように男は体を丸めた。
「我々は、こういうやり方しかあなたを敬う方法をしりませんので」
「キキョウさんがきめたの?」
「皆できめました。我々の未来を見定めてくださる神様を、出来る限り――」
「やめて」
 静かで柔らかですぐに消えそうな声だが、その拒絶は絶対的な力を含んでいた。まるで首を絞められたかのようにキキョウは息を詰まらせる。
「ごめんね、キキョウさん。でも、そんなふうにいわれてもボクはそんなたいしたとやっていないよ……みらいなんて、ボクはみちゃいないもの」
「神様の未来視の的中率はほぼ100%。外れたのは……」
「ぼくのちからがなくなるというよげんだね」
 無言でキキョウが頷く。
「キキョウさんはしってるでしょ、ボクのほんとのちから」
「神様……」
「ボクはみらいなんかみちゃいない。ボクがもっているのは、ボクがいったよそくをげんじつにするちからだ。みらいをしるちからじゃなくて、みらいをきめるちから。うちゅうかいびゃくいらい、じょうほうもげんし1つだって、じかんぎゃっこうなんてしていない」
 可能性を引き当てる力。それが彼がもってうまれた力だ。可能性確定能力とでもいうべきか、0でない可能性を100にする力。彼が予測した、望んだ未来は確実に起こる。情報の時間逆行もおきてはおらず、未来から彼が来たわけでもない、彼はただあり得る可能性の取捨選択を行っている。
 限りなく完全にちかい未来予知でありながら未来予知とはかけ離れた能力者で、未来を予め知ることが出来るという能力者ではない。
「みらいよちができたら、どれだけいいだろう」
「……それが尊いお力であることに、かわりはありません」
「みらいのかのうせいをなくし、せかいをからせるちからがとうとい? ……きめたよキキョウさん。ボクはもう、おわろうとおもう」
「神様?」
 不穏な空気に、思わずキキョウは神様のそばに駆け寄る。
「こんなのろわれたちからは、もういらない。ちからがなくなるというよそくだけは、かなわなかった、むじゅんがおきたんだ。ちからをつかってちからのないみらいはひきよせられない。だけど、ひとつだけおもいついたんだ」
「ちょっと……まってください」
 神様は、笑った。キキョウが久しぶりにみる笑顔だ。いつ以来だろうか、そんなことを頭の裏側で考える。
 ――ああ、そうだ。まだ神様が神様じゃなかった頃だ……
『次、僕が眠りに付いた時を最後に、僕は二度と目覚めないだろう』
 甘い眠りのなか、深い深い闇に吸い込まれていく感覚。眠るように、そして二度と目覚めない甘美な闇。消え溶けていくのは記憶か意識か。
「神様!」
 絶望の叫び声のなか、キキョウは未来が確定される音を聞いた。
 ただ人が一人死ぬ未来のために、誰かが誰かと出会う可能性がなくなった。仲直りできるチャンスを逃した。光を失った。音をうしなった。手術が失敗した。どこかで海流に飲まれて客船がしずみ、遠い惑星で新しく生まれるはずだった生命体が偶然で潰え、星が一つくずれた。手に渡ってはいけない取引が成功し、子供はお使いの紙をなくした。
 世界の可能性という可能性がつぶされ無理矢理収束していく。世界選定の音だ。
 まるで悲鳴をあげているように、男にはきこえた。もうこれがさいごだから、ゆるしてくれ、とそんなことを考えながら。

 ◆

「いや……いや! 神様、どうして、どうしてこんなことを」
「きこえたでしょ。ボクがこうしてみらいをきめるたび、かわりのかのうせいがきえるんだ。これはみらいよちじゃない、せかいをころすちからだ。もう、いやなんだ……ごめんね」
 どこか、すっきりした顔で男はソファに体を預けて天井を見上げている。
「はやく訂正して! おねがい! ねぇ、アベリア!!」
「はは、ひさしぶりになまえ、よんでくれたね」
「そんなこと……おねがい、あなたが居なければもうこの世界は……」
「ぼくがきめたみらいは、ぼくのちからではかわらない」
「……どうして」
「ごめんね、キキョウ。かわりに、きみのほしいみらいをひとつあげる」
「――私に共犯者になれって? 力をつかって可能性を殺せというのね?」
「……むかしからいじわるだね。じゃぁちからをつかわないことで、できることならなんでもするよ。いままでずっとおせわになったし、ね」
 アベリアは相変わらず力のない笑みをたたえたままだ。
「わかった……じゃぁ、死ぬとき私のことを覚えていて……おねがい」
「うんわかったよ。『僕は、死ぬとき君のことを――
 考えて死ぬ。
 それは未来を決める言葉だ。アベリアはとっさに己の口をふさいで、言葉をのみこんだ。
「べつに、言葉に出さなくてもいいから。ありがとう……、じゃぁ。神様の最後の言葉を伝えてきます、世界は混乱するでしょうけど」
「まって! まって、ちゃんと……」
 おぼえている。考えよう。それでは、やはり未来を決めてしまう。
 考えてみせる。はどうだろうか、しかしそれでは約束したことにならないのではないだろうか。頑張るといっているの同じでは、意味がない。
 言葉をかえようが、旨い言い回しだけが浮かんでこない。
 ――ああ、ぼくはなんてばかなんだ。
「どっちにしても、報告はしないといけないから。もどってきますから」
「あ……」
 キキョウは背を向けると逃げ出すように部屋から出て行った。
 アベリアは誰もいなくなった、何もない部屋でじっと天井を見上げる。
 願うとなんでも叶った。慰めのつもりでつぶやいた言葉が真実になり、気がつけば周りには相談事をもちかけてくる人間がたくさん集まり始めた。気がつけば相談相手が、一般人ではなく偉い人間になりはじめ、自分は気がつけば祭り上げられていた。
 最後には、その未来予知の力で神とまでよばれていた。世間になにがあるかはしらない、この部屋から出たのはいつだったか覚えていない、願えば何でもかなったから望みはなかった。昔からずっと一緒にいた、キキョウだけが彼にのこった最後の人間らしさだったのかもしれない。
 ――ああ……いろいろなものをなくした。
 閉じ込められて、とうに日付の感覚はなく、知識も薄れていき、言葉も忘れそうになる。ふと、首を巡らせるといくつかの本があった。社運をかけた本の出版の未来をみてくれときた、どこかの偉い社長だっただろうか。アベリアはソファから立ち上がると埃一つかぶっていないその本を取り上げる。
 難しくて、適当に流し読みして大丈夫売れるでしょうと、責任のない言葉をつぶやいて終わった記憶だけは残ってる。
 泣いて喜んでいたあの社長、いったい今はどうしているだろうか。
 乾いた紙のめくれる音が、部屋に落ちた。
「ほんよんでも、なんにもならないかもしれないけど……」
 もしかしたら、なにか未来を確定させないでも伝えられる言葉があるかもしれない。

  ◆

 本の中身は、見た目から小難しそうな文学小説かとおもっていたがもっと軽いものだった。難解な文章というより、丁寧で綺麗で読みやすい整理された文章で綴られ、会話も内容もごく日常的な話だ。
 読み始めてしまえば、その本の吸引力はすごくアベリアはすぐに夢中になった。主人公の少年が飼っていた犬が逃げ出して、それを探しにいくという話。恋愛もなければ、誰も死なない、大きな病気で苦しむことも、不思議なことが起こることも、未来の機械がでてくることもない、戦争もないしミサイルも飛んでいない、イジメもなければ、家の教示に縛られることもなかった。ただ少年は自分の足で彼の世界を走り回り、飼っていた犬を見つけ出すことに成功した。ただそれだけの話だった。
 だが、きっとこの本はアベリアに未来を予知してもらわなくても十分にうれただろうことだけは彼にもわかった。
 どれだけの時間がたっただろうか、軽く体の疲れをおぼえ思わずあくびがでる。と、扉が開く音が聞こえた。
「もどりました」
 一瞬開いた扉の向こうから、喧噪が一瞬漏れ聞こえてくる。
「おかえり、キキョウさん」
「……大混乱です。新たな神をさがそうだとか、見捨てられたと泣き叫ぶものや、自殺しようとするものも、大半はこのままあなたの死を隠し通しやっていくつもりだそうですが」
「……あんしんした」
「にげれることにですか? あなたの予測はつねに100%、覆らないのだからしかたありません」
「そうじゃない、ボクもただのにんげんだったってことがわかったから」
「たしかに、あなたが死んでもこの教団は変わらず存続しつづけ、システムはそのまま動き続けるでしょう」
 すまなそうなキキョウの言葉は、何もない部屋の壁にぶつかって力なく消える。
「ねぇ……キキョウさんがでていってから、どれぐらいたった?」
「半日はたちました、そろそろお休みの時間かとおもいまして」
 ありがとう。アベリアは、そういって机にあった本を閉じるとソファへと戻っていった。
「本、よんでらしたんですか?」
「キキョウさんに、ちゃんとつたえられることばのみほんとか、あるかなって」
 キキョウは持っていた資料を机におくと、アベリアの横にすわる。
「めずらしいね」
「今日ぐらい、最後ぐらい……いいじゃない」
「ごめんね、さいごまでわがままで」
「神様だしなんでもゆるされるでしょ。わがままといっても、アベリアはいつも勝手にきめて勝手にやっちゃうけど。何でも出来るんだから、当然……」
 そこで言葉を詰まらせた。
 よこでアベリアがあくびをしていたのだ。眠いのだろう。いつもならもう寝る時間だ。
「眠い?」
「うん、もうすぐさいごだ……」
「後悔してない? 死ぬのは怖くないの?」
「そんなこと、ずっとまえからかんがえてた。ぼくのちからがけせないって、わかったときからずっとだよ。ようやく、けっしんがついたんだ。ほんとなら、くるしんでしんだほうがいいのかも、でもそこまでのゆうきはなかったよ」
「ばか……」
「ごめんね」
「おねがい……いまからでも間に合う、死なないで。生き返るって言って……」

 おねがい。

 そう、キキョウはつぶやいてうつむいた。

 ――あ、あそうか。そうだ。
「キキョウ」
「……」
 顔をあげた、キキョウの目は赤く腫れ上がっていた。
「しぬときは……きみのことをかんがえて、しなせてください」
「!」
 ひさしぶりに本をよんで、頭が、目がつかれていた。もう、瞬きもおっくうな明滅する視界のなかで、キキョウの泣き顔が見える。
「アベリア……」
「ありがとう、きみがいてくれてよかった。きみでよかった」
 アクビをかみころしながら、アベリアがつぶやくように言う。
 首をふりキキョウは涙を振り払った。もう、アベリアの意志はかわらないだろうこともわかっていた。せめて笑って送り出したいと、キキョウは涙をぬぐう。
「ありがとう。おつかれさま、アベリア」
 アベリアの視界が落ちる、思考がとまる、ゆっくりとふかくどこまでも。意識が拡散していく感覚。体が体ではなくて、物質になっていくのがわかる。
 ――ああ、キキョウ。そんなに、なかないでくれ。ボクは、
 意識は溶けて消える。
 神にもっとも近かった男は、こうしてこの世から消えた。

 ――悲しくなんか無いよ。

 遠く、喧噪が聞こえる。
 無くなった頭を必死出隠そうと、誰かが叫ぶ。もうだめだと、絶望の声が上がる。キキョウは、めんどくさそうにため息をつくと、横で眠るようにして息をとめた幼なじみの頭をぎゅっとだいた。
 昔とかわらない、アベリアのにおいがした。

金属の偶像

 ――貴方だけは。せめて貴方は、最後まで。

 巻き取られるゼンマイ。金属の軋む音。油の十分にのった歯車は、微かではあるが質量のある軋みをあげる。どこかで巻ききられたゼンマイが、爪を外れて勢いよく己の根元にあるハンマーを打ち上げた。小さい。とても小さいが、その動きは正確で早く、そしてよどみない。
 カチリ。
 時計のように、正確に。最後の終わりまで間違わないように。
 カチリ。
 正しく、澱み無く、迷いも無く。それは意志を刻む。

 諏訪・恵(すわ・けい)が口を開けた時、聞こえたのは彼女だけに聞こえた歯車がかみ合う音だった。
 味のしない食料を飲み込む作業を繰り返す上で、どうしても聞かなければいけない音。
 ――まるで人間。
 恵は、必要の無い行為を繰り返すことが苦痛だといわんばかりに、目の前の食事を飲み込む。噛む事を知らないかのようなその行為を、笑顔のまま注意しない両親がテーブルを囲んでいた。
「恵。今日、父さん早く帰ってくるから」
 母の言葉に、恵はきっちり15度の首肯で答えると、最後の一口を飲み込み立ち上がる。食器を大きい皿から順番にそろえ、流し台へ。よどみない日常の繰り返しに、母親がありがとう、と声をかける。
 返事はせず、恵は無言のまま用意していたかばんを取り上げる。
 ――私だけが、違う。
 キリキリと痛んだ関節に、恵はため息を一つ。息を吐ききる前に、無理やり口を閉じ、それを勢いに歩き出す。まるで不満こそが己の原動力なのだとばかりに。飲み込んだため息が、胸の奥で悲鳴を上げた。
 ――無駄な機能ばっかりだ。経口摂取も、痛みも。
 己だけが違うことに、誰もが気がついている。その現実に、恵は耐えられそうに無かった。気がついているのに、気がつかないふりをされているのがいやだった。みなが自分を同じに扱うのが、耐え難かった。
 ――私は違う。
 玄関を抜け振り返ると、母親が家の中から手を振っていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい。きをつけてね」
 その笑顔が、その言葉が、いちいち重たくのしかかってくるようだった。



 書割のような無表情の青空に、染みみたいな雲が張り付いている。風の流れは感じられず、髪は歩くリズムに合わせてゆれていた。古くなったカバンを片手で支えながら、学校へと足を進める。登校路をずれることはなく、律儀に使い続けている指定カバンは年季の入った汚れ方をしている、幾度も繰り返す何も変わらない行動。しかし、そんなことを気にも留めず恵は歩調を保ったまま学校の前までやってきた。膝関節が、キリキリと悲鳴を上げていようとも、それはなんの変更も変化ももたらさない。
 ――もうこの体は限界なんだ。
 ただ、そんな考えだけが頭の中であきらめににたつぶやきで転がった。
 通り過ぎていく同じ学校の生徒達の挨拶が耳に届く。生徒同士の楽しそうな会話を呼吸し、熱量のない冷たい息を吐き出す。
 恵は、音を聞く。金属の軋むいつも耳にする音だ。モーターが駆動する回転音、歯車の逆回転を止める爪が立てる規則的な打音、油のくなくなったベアリングのこすれる音。家にいるときよりも、学校にいるときのほうがその音はひどく耳につくようになる。
 周りの生徒達が多くなればなるほど、恵は己が唯の一人だと思い知らされる。それは、体の中から聞こえるような音になって恵の耳に届く。きっと幻聴なのだろう、実際に己が気にしているほどに音がなっているとは思えない。だが確かに音は、恵の耳朶をたたく。骨格に響くように、カチカチギリギリとその音はずっと寝てもさめても付きまとうのだ。
「おはよう、恵」
 声をかけられて振り返ると、同じクラスの生徒が一人。恵と一番仲のいい、なにかと話しかけてくる幼馴染だ。
「おはよう」
 子供のころから、一緒にいる目の前の友人に対しても、恵は抑揚の無い返事を返す。相変わらずの恵の様子に、安心したように幼馴染は微笑んだ。
「いこ、授業はじまるよ」
 無言でうなづく恵の手を引っ張り、幼馴染はぐいぐいと教室へと歩き出す。
 彼女の手の温度は、恵にはわからなかった。

 教室につくと、見慣れた顔ぶれが並んでいる。思い思いに雑談を繰り広げる同級生たちをみながら、恵は無言で自分の席へと座った。慣れた手つきで、教科書を並べる。その行為すべてが、はじめから決められたかのように。
「おはよう、諏訪さん」
 前に座っている女生徒の挨拶に、おはようと挨拶を返す。クラスの生徒達は、特に恵に対して何かするわけでもなく、かといってかまってくるわけでもない。必要の無いときは会話もないが、思い出したかのように世間話をふってきたりもする。ぬるい関係だった。恵にはその気遣いが重い。
 ――自分だけが違うのだ。
 何度もそのことだけを反芻するように、恵はうつむき瞳を閉じる。耳に届くのは、クラスのざわめきではなくて、歯車が回る音だ。
 恵の世界は歯車でできていた。テコと歯車の神殿。青銅の玉座。軋むのは、関節かそれともベアリングだろうか。



 恵は、黒板に書き出されていく白い文字を淡々と己のノートに写していく。要点をまとめたりなどの無い、ただのコピーだ。ほかにノートのとり方など恵は知らない。
 思考は暗澹で憂鬱な方向へとループしながら向かっていく。ゆっくりとカウンターの数字だけが増えていくその先にあるのは、気分が悪くなるほどのヘドロのような答えだけだ。
 いつからだろうか。自分が誰とも違うなどと考えるようになったのは。恵はじっとノートの文字を見ながら考える。見た目は鏡で見る限り、ほとんど見分けはつかない、自分の表情だけが硬いとか、肌の向こう側に血肉以外の何かがあるのを己の目でみた、などということとはちがう、もっと根本的な感覚だった。
 あるはずも無いその感覚に、脊椎がピリピリとする。
 答えは一つだけ。
 自分は一人だけ間違っている。
 それだけが答え。
 ――何のために。
 如何な理由で、どういった経緯のすえ、誰の差し金で、そんなものは知りようも無かった。ただできれば、己が存在するにいたった理由はなくても、存在する意味だけはほしかったのだ。繰り返されたため息は、体の中心にたまっていくだけでどこにも行かない。永久にたまり続ける重苦しい感情。残り続けるキャッシュのように、いつまでたってもそこにある何かは、変わらずに重たかった。
「けーい」
 顔を上げると、幼馴染が机の前に立って笑っていた。
 授業はどうしたのだろうかと、ふと周りをみれば休み時間に入っていたのか座っている生徒のほうがすくなくなっている。
「かえろう」
 視線を動かせば、すでに下校時間。まだ太陽はいくらか高いのか、空は明るいままだがすでに学校は熱を失い始めている。
 幼馴染にうなづき返し、机にでていたものをすべてカバンへと入れていく。
「まだ、そのカバンなんだね」
 返事は首を縦に振る行為のみ。カバンにしまい終えると、恵は立ち上がる。まってましたとばかりに、幼馴染は教室の出入り口に向かって歩き出した。まるで跳ねるような彼女の足取りに、なぜか恵は少しだけすくわれた気がした。



 空は相変わらず低くのっぺりとしている。閑散とした岐路を、恵は幼馴染と二人歩いていた。会話はなく、横にすら並んではいない。幼馴染の後ろを、一歩さがって恵はあるいていた。幾度と無く、幼馴染に救われてきた。そしてすくわれるたびに思い知らされる。いや思い出させるように聞こえてくる。

 カチリ。

 耳に届いた、恵にしか聞こえない歯車の音。高速で回るモーターの音より、シリンダが往復運動する音より、その歯車の動く音が耳に届く。後には戻れないその音に、己は目の前の幼馴染とは決定的に違うのだと念を押されているようだった。
「ねぇ、恵。今度のテストの範囲覚えてる?」
 うなずく恵。それをみて、ぱっと顔を輝かせる幼馴染。
「よかった、メールが来ててちょうど聞けなかったんだ」
 遠く、車がアスファルトを蹴り上げる音が聞こえる。
「こんど、コピーしておくから」
「ありがとっ。さすが恵だねっ!」
 くるくると、嬉しそうに回る幼馴染をみて恵もまた、楽しくなる。

 カチリ。

 振り返ったのは、なんでだっただろうか。今でも恵は思い出せない。あの時聞いたのは間違いなく歯車がかみ合う金属の音だ。いつも聞いてる、あきらめの音だ。
 断じて、そんな音ではない。
 視線いっぱいに飛び込んできたのは、車。エンジンの低いうなりとタイヤが地面を削る音。
 そしてけたたましいブレーキ。
 くるくると回っていた幼馴染は、反応できないまま凍りついたように車へと視線だけを送っていた。
 ――ああ、そうか。
 まるでそれが当然なように、恵は手を伸ばした。
 関節が軋む。体中の熱が、今までの不安や疎外感、悩みも辛さも何もかもがすべて一切合財燃料になって爆発したかのような熱量がはじける。届く。
 この手は間違いなく届く。
 ――私はこのためにいたのだ。機械仕掛けの体は、このためにあったのだ。
 一歩が重い。重いが、飛び出して幼馴染を守れる。その確信だけはあった。手が触れる。熱のを感じることのできない手の平に、確かに幼馴染の手の感触を恵は得る。
 それだけが唯一己がよりどころにしているものなのだとばかりに握った。体中の力を振り絞って壁へ。肩が、肘が、膝が、体中の関節が叫んでいるのがわかった。
 それでも恵は力を緩めなかった。体重は同じぐらいだった、だから幼馴染を片手で投げ飛ばす反作用で、自分の体が車の前に躍り出ていくのがわかる。音が背後からやってくる。けれど恵は背後の恐怖に視線をおくりはしなかった。投げ出された幼馴染が、車の進行方向から外れたのを確認して、恵は心から安心する。
「恵っ!」
 悲鳴のような、幼馴染の呼び声。
 自分が車にぶつかった音を、恵は聞かなかった。





 空が高くなったような気がした。誰もいない病室で目を覚ました恵は、窓ごしの空を見上げている。雲すら動かない世界は、あまりにも静かで寂しげに見える。
 と、扉の開く音がする。振り返ると、そこに幼馴染が立っていた。
「恵、目さめたんだ」
「ねぇ、私――」
 抱きしめられ、続く言葉はさえぎられる。
「よかった。本当によかった」
 抱きしめてくる幼馴染を、恵は抱きしめ返す。やはり、彼女の温度はわからなかった。でもそこに確かに彼女がいてくれること、それだけが嬉しかった。
 もう、歯車の音は聞こえない。



 カチリ。
 時計のように、正確に。最後の終わりまで間違わないように。
 カチリ。
 規則的な音が響いている。
 機械仕掛けの街の中に、歯車とモーターの音が響いている。油の臭いに混じって、錆びとゴムの臭いが漂っていた。ただ唯一人類の生き残りを生きながらえさせるため、せめてもの慰みにと作り出した箱庭に、歯車の規則的な音が響いていた。諏訪・恵というただ一人の人類のためだけに音は響き続けている。正確に。最後の終わりまで間違わないように。




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RE: KEY THE METALIDOL、[小説]鉄コミュニケーション
答歌があるなら、答語があってもいいじゃない。
だめか。だめでもいいや。