2020.03.02 Monday
2007.05.15 Tuesday
今日のニュース
[PC]
[science]
[etc]
■【MAD】みち☆すた完全版 もってけ!及川光博(web拍手より)
みっちー!! 相変わらずのすてきっぷり。
勢いあまって、ほかのミッチー動画もみてしまった。
■小説付きパンの缶詰『クロワッサン夫人』とは?
でも逆のほうが効果あるようなないような
そして公式の
■となりのみよちゃん 【商品紹介】 缶パン
TOPに撃沈。
アメコミ柄が、死ぬほどきになる。
■塗装済み完成品 1/8 ペルソナ3 アイギス
とてもいい感じのアイギス。
でもこれ、絶対曲がる。間違いなく曲がる。ぐにゃっていくよ足元から。
■(MAD)攻殻機動隊 - トグサ、ウィルスに引っかかる(コンビネーションバラエティ)
少佐の微笑みで笑いすぎてイスから落ちた。
■真ん中の黄色いおじさんに注目してみる9分間(俺的ニュースの盛りw)
最初の二分は飛ばしてもOK
言葉なんかわかんなくても、つたわるのだ。
生きる希望がわいた
■僕が転んで泣いてるよ!(ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS)
やべぇ かわいすぎるw
■「美鳥の日々」夕方再放送で乳首券発動に期待した人々(ゴルゴ31)
コレは仕方がないとおもう。うn。
■『電脳コイル #1メガネの子供たち』の重箱のスミズミ。(かーずSP)
いい感じにまとまってます。
1話目だから情報量おおいな、とおもってたけど、予想以上だった。もう一度見直すかなぁ。
■ブルース・ウィリス、掲示板に降臨全レス>疑われてiChatで本人証明(Shamrock’s Cafe)
これほどまで、英語が読めない自分がふがいないと思ったことはない!
くそ!
■無人エレベーター、最上階越え天井に衝突 (読みゲー)
天元突破しようとこころみてみたいお年頃なんだよ。
[2ch]
□雑記とか。
□買う予定
予定:
『星の緑の丘で』 小川一水
『おれはミサイル』 秋山瑞人
『フリーランチの時代』 小川一水
『Bottom of the World(全2巻)』 桜坂洋
『.49ers Point-Forty-Niners(全2巻)』 新城カズマ
『人狼日記(全3巻)』 古橋秀之
□雑記:
一日48時間になんねぇかな。あ、もちろん就業時間はそのままで。
7月まで祝日がないという現実に、愕然となる。
6月に祝日がないってのは、たしかドラえもんで得た知識だ。
この罪は重い……。
拍手:4回
[science]
[etc]
■【MAD】みち☆すた完全版 もってけ!及川光博(web拍手より)
みっちー!! 相変わらずのすてきっぷり。
勢いあまって、ほかのミッチー動画もみてしまった。
■小説付きパンの缶詰『クロワッサン夫人』とは?
でも逆のほうが効果あるようなないような
缶の側面にある【美味しい召し上がり方】までもが“マダム口調”になっていたこと。すばらしいマダムっぷりに、購入するほか選択肢がなくなった!
「開缶後、ラップ等でくるんで電子レンジで20秒から30秒ほど温めると、より美味しく召し上がることができてよ」、「切り口で手を切らないようご注意あそばせ」、「脱酸素剤は無害だけど食べられないわ」etc……。
そして公式の
■となりのみよちゃん 【商品紹介】 缶パン
TOPに撃沈。
アメコミ柄が、死ぬほどきになる。
■塗装済み完成品 1/8 ペルソナ3 アイギス
とてもいい感じのアイギス。
でもこれ、絶対曲がる。間違いなく曲がる。ぐにゃっていくよ足元から。
■(MAD)攻殻機動隊 - トグサ、ウィルスに引っかかる(コンビネーションバラエティ)
少佐の微笑みで笑いすぎてイスから落ちた。
■真ん中の黄色いおじさんに注目してみる9分間(俺的ニュースの盛りw)
最初の二分は飛ばしてもOK
言葉なんかわかんなくても、つたわるのだ。
生きる希望がわいた
■僕が転んで泣いてるよ!(ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS)
やべぇ かわいすぎるw
■「美鳥の日々」夕方再放送で乳首券発動に期待した人々(ゴルゴ31)
コレは仕方がないとおもう。うn。
■『電脳コイル #1メガネの子供たち』の重箱のスミズミ。(かーずSP)
いい感じにまとまってます。
1話目だから情報量おおいな、とおもってたけど、予想以上だった。もう一度見直すかなぁ。
■ブルース・ウィリス、掲示板に降臨全レス>疑われてiChatで本人証明(Shamrock’s Cafe)
これほどまで、英語が読めない自分がふがいないと思ったことはない!
くそ!
■無人エレベーター、最上階越え天井に衝突 (読みゲー)
天元突破しようとこころみてみたいお年頃なんだよ。
[2ch]
□雑記とか。
□買う予定
予定:
『星の緑の丘で』 小川一水
『おれはミサイル』 秋山瑞人
『フリーランチの時代』 小川一水
『Bottom of the World(全2巻)』 桜坂洋
『.49ers Point-Forty-Niners(全2巻)』 新城カズマ
『人狼日記(全3巻)』 古橋秀之
□雑記:
一日48時間になんねぇかな。あ、もちろん就業時間はそのままで。
7月まで祝日がないという現実に、愕然となる。
6月に祝日がないってのは、たしかドラえもんで得た知識だ。
この罪は重い……。
拍手:4回
2006.03.31 Friday
「返礼」「帰還」「変化」
土臭い匂いに、シランは空を見上げた。風が吹いたのだと気がついたのは、自分の髪の毛が視界の端っこで揺れたから。
夜空を見上げても、いつものように淀んだ空気が星空を隠している。風がなく、淀んだ空気の層は灰色になって空に溜まっている。雲といえば雲。しかし、確実に雲のような美しさはないそれは、ただの層だ。
シランは久しぶりに感じた風に、息を大きく吸い込む。もう誰も居ないこの街で、彼は一人深呼吸をした。
世界を捨て旅立った人々とは別に、残った人間も居た。
この世界はもうだめだ、そういったわりには結構自分は長生きしてるし、世界が何も変ってないことにシランは首をかしげる。難しいことは判らない、けれど任された仕事があっることだけは確かだった。だから、いつものように廃墟にしかみえないビルの中に足を運んでいく。彼だけが、同じ場所を歩くのでその廊下にだけは埃が少ない。まるでその場所を通ってくれといわんばかりに元の色を保った廊下をシランはとぼとぼと歩く。廊下はまだ開けていて、その場所から空が見えた。思わず立ち止まるシラン。
相変わらずビルの色と同じ灰色をしている。風が吹いた気がしたのだけど、気のせいだったらしい、彼はため息を一つ、また歩き出した。
寂しくないといえば嘘だとおもうし、かといって辛いかといわれればそうでもない。かすかに腹の底辺りにわだかまる倦怠感は、体中から力を奪っていくがそれで動けなくなることはない、シランはそのことを知っている。
いつものようにいつもの道を。
階段を降り、空が見えない地下へ。嗅ぎなれた地下室の匂い。鉄錆と腐りかけた水と。配線が起こしたショートで出てくるイオン臭。それと、シオン自身の匂いだ。
扉を力いっぱい押す。ちょうつがいは毎日使われているというのに、今日も軋みを上げて抵抗を試みる。けれど結局シランの力に負けて道を譲った。
同時、部屋に薄明かりがついた。
大人二人が手を広げたら壁に当るぐらいの大きさの、小部屋には壁がなかった。代わりにあるのは一面を埋め尽くす計器とディスプレイ。このばしょに、内壁はなかった。天井にも計器とコードがのたくり、床はコードに埋め尽くされていた。
怖気ずに、シランは速度を落とさず部屋の片隅に向かった。その場所には、小さな入力デバイスが一つ顔を出している。その場所に手をのせると、すっと薄暗かった部屋に色がさす。ディスプレイがすべておともたてずに光をともしいく。まるで光の波のように部屋全面に広がったそれは、おちつきを取り戻すと次々に情報を流していく。
その座る場所もなく、おともないディスプレイの光だけが動くばしょで、シランは仕事を始める。
温度、湿度、水質、気圧、大気構成、地質構成、地殻変動値――、マイクロマシン量。
ありとあらゆる環境をすべて記録し、並べ整理し比べる。世界はまだ大丈夫か、世界はまだ生きていけるのか、ただ調べ分析する。
人は居ない。
シランは残ってこの仕事を引き受けた。こんなことに何の意味があるのか、シランにはわからない。この場所をすててどこかへ行く人たちのことも、シランにはわからない。こんなにも静かで何も変らない世界が壊れるといわれてもぴんとこないのだ。
そして、出てきたデータもそんな未来は待っていないとばかりにいつもどおりの数字をたたき出す。
「異常なし、か」
シランのことばに、反応するようにディスプレイの中の映像が揺れる。それが面白くて、シランはくすりと笑いを漏らした。
波打つように、部屋のディスプレイ全部が揺れだす。まるでシランの反応を喜んでいるかのように。
「ん?」
ディスプレイに、蓄積してきたデータからの予測結果が吐き出されていく。
そこに変化があった。緩やかなカーブではあるが、世界に温度が戻ってきていた。流れる予測結果は、いつものように先十年で止まる。しかし、緩やかなカーブがこのままどうなるのか、その結果は十年ではわからない。グラフは、微妙な変化にとどまっている。
「予測データの幅を増やせば――」
腹の奥底に溜まった倦怠感はなくなっていた。代わりに湧き上がるような熱い何かがこみ上げてくる。
今まで滑らかに動いていた指先は、やったことのない走査のため心なしか震えている。緊張か期待か、それとも恐怖か。判ってるはずの操作を繰り返し、ゆっくりと数値を変えていく。
グラフが未来を指示め始めた。ゆっくりと伸びていく曲線は、確実に世界が変っていくという未来を指し示している。
「すごい……」
既にこの場所でたった一人のままどれぐらい立ったか、シランはもう忘れた。しかし、気の遠くなるほど長い時間だったのだと、この場所がそして胸の底からわきあがる熱さが語っていた。
思わず立ち上がり、ガッツポーズをとる。実際この荒廃した世界にたいしてシランが直接何かをしたわけではない、むしろ彼はただ諦観していただけだ。けれども、それでもやはりうれしかった。
とっくに死んだのだと思っていた。世界は既に停止したのだと。しかし、世界は生きていた。この目の前の数字が何よりの証拠だった。
「急いで連絡をしないと……」
◇
空は、風がなく空気が澱んでいた。灰色の夜空には星の小さな光は隠れて見えず、雲ひとつない。澱み、停滞した濁りのような層。
ゆらりと風がゆれる。頬に当るその風にシランは顔を上げた。あの日固着していた世界が動き出したひから、世界は何も変っていないように見えた。しかし、間違いなく予測データと同じ線をたどり、世界は動き始めている。実際実感するには後どれほどたてばいいのか、気が遠くなるほどの時間が必要だろう。だが、シランはまったく絶望せずにその空を見上げている。
きっといつかあの空も動く時がくるのだ、と。
と、いきなり世界を打ち付けるような重く響く音が轟いた。
「な、な!?」
静かだっただけに、耳がついてこない。驚きに、シランは地面に倒れこむ。もしかしたら世界が終わるのか、そんな恐怖にかられ彼は地面にうずくまる。
連続する重たいおとは、遠く空の上からきこえてきている。
――そんな、折角未来がみえたのに。
泣きそうになりながら、世界の終わりをみつめようと顔をあげて瞬間だった。
空が割れた。
灰色の空を切り裂き、夜空を彩る星がかおを出す。目を見開き、空を見上げたシランの視界に、巨大な質量をもった何かが降りてきている。
いくつモノその黒い塊をみて、シランは思い出す。
――船だ!
そう、居なくなった人間がのっていった船だ。あの日、世界が壊れると此処をすて、居なくなるときにのっていった船だ。
驚きとよろこびに、シランは手を広げて叫ぶ。自分はここにいると、聞こえるはずもないのに、ここにいると、皆が帰ってきてくれたと彼は純粋に喜び手を振り上げた。
まるでソレに気がついたように、船から光が放たれた。
ちかちかと、まるで歌うように船がひかりだす。
――未来だ!
シランは手を振って叫ぶ。
夜空を見上げても、いつものように淀んだ空気が星空を隠している。風がなく、淀んだ空気の層は灰色になって空に溜まっている。雲といえば雲。しかし、確実に雲のような美しさはないそれは、ただの層だ。
シランは久しぶりに感じた風に、息を大きく吸い込む。もう誰も居ないこの街で、彼は一人深呼吸をした。
世界を捨て旅立った人々とは別に、残った人間も居た。
この世界はもうだめだ、そういったわりには結構自分は長生きしてるし、世界が何も変ってないことにシランは首をかしげる。難しいことは判らない、けれど任された仕事があっることだけは確かだった。だから、いつものように廃墟にしかみえないビルの中に足を運んでいく。彼だけが、同じ場所を歩くのでその廊下にだけは埃が少ない。まるでその場所を通ってくれといわんばかりに元の色を保った廊下をシランはとぼとぼと歩く。廊下はまだ開けていて、その場所から空が見えた。思わず立ち止まるシラン。
相変わらずビルの色と同じ灰色をしている。風が吹いた気がしたのだけど、気のせいだったらしい、彼はため息を一つ、また歩き出した。
寂しくないといえば嘘だとおもうし、かといって辛いかといわれればそうでもない。かすかに腹の底辺りにわだかまる倦怠感は、体中から力を奪っていくがそれで動けなくなることはない、シランはそのことを知っている。
いつものようにいつもの道を。
階段を降り、空が見えない地下へ。嗅ぎなれた地下室の匂い。鉄錆と腐りかけた水と。配線が起こしたショートで出てくるイオン臭。それと、シオン自身の匂いだ。
扉を力いっぱい押す。ちょうつがいは毎日使われているというのに、今日も軋みを上げて抵抗を試みる。けれど結局シランの力に負けて道を譲った。
同時、部屋に薄明かりがついた。
大人二人が手を広げたら壁に当るぐらいの大きさの、小部屋には壁がなかった。代わりにあるのは一面を埋め尽くす計器とディスプレイ。このばしょに、内壁はなかった。天井にも計器とコードがのたくり、床はコードに埋め尽くされていた。
怖気ずに、シランは速度を落とさず部屋の片隅に向かった。その場所には、小さな入力デバイスが一つ顔を出している。その場所に手をのせると、すっと薄暗かった部屋に色がさす。ディスプレイがすべておともたてずに光をともしいく。まるで光の波のように部屋全面に広がったそれは、おちつきを取り戻すと次々に情報を流していく。
その座る場所もなく、おともないディスプレイの光だけが動くばしょで、シランは仕事を始める。
温度、湿度、水質、気圧、大気構成、地質構成、地殻変動値――、マイクロマシン量。
ありとあらゆる環境をすべて記録し、並べ整理し比べる。世界はまだ大丈夫か、世界はまだ生きていけるのか、ただ調べ分析する。
人は居ない。
シランは残ってこの仕事を引き受けた。こんなことに何の意味があるのか、シランにはわからない。この場所をすててどこかへ行く人たちのことも、シランにはわからない。こんなにも静かで何も変らない世界が壊れるといわれてもぴんとこないのだ。
そして、出てきたデータもそんな未来は待っていないとばかりにいつもどおりの数字をたたき出す。
「異常なし、か」
シランのことばに、反応するようにディスプレイの中の映像が揺れる。それが面白くて、シランはくすりと笑いを漏らした。
波打つように、部屋のディスプレイ全部が揺れだす。まるでシランの反応を喜んでいるかのように。
「ん?」
ディスプレイに、蓄積してきたデータからの予測結果が吐き出されていく。
そこに変化があった。緩やかなカーブではあるが、世界に温度が戻ってきていた。流れる予測結果は、いつものように先十年で止まる。しかし、緩やかなカーブがこのままどうなるのか、その結果は十年ではわからない。グラフは、微妙な変化にとどまっている。
「予測データの幅を増やせば――」
腹の奥底に溜まった倦怠感はなくなっていた。代わりに湧き上がるような熱い何かがこみ上げてくる。
今まで滑らかに動いていた指先は、やったことのない走査のため心なしか震えている。緊張か期待か、それとも恐怖か。判ってるはずの操作を繰り返し、ゆっくりと数値を変えていく。
グラフが未来を指示め始めた。ゆっくりと伸びていく曲線は、確実に世界が変っていくという未来を指し示している。
「すごい……」
既にこの場所でたった一人のままどれぐらい立ったか、シランはもう忘れた。しかし、気の遠くなるほど長い時間だったのだと、この場所がそして胸の底からわきあがる熱さが語っていた。
思わず立ち上がり、ガッツポーズをとる。実際この荒廃した世界にたいしてシランが直接何かをしたわけではない、むしろ彼はただ諦観していただけだ。けれども、それでもやはりうれしかった。
とっくに死んだのだと思っていた。世界は既に停止したのだと。しかし、世界は生きていた。この目の前の数字が何よりの証拠だった。
「急いで連絡をしないと……」
◇
空は、風がなく空気が澱んでいた。灰色の夜空には星の小さな光は隠れて見えず、雲ひとつない。澱み、停滞した濁りのような層。
ゆらりと風がゆれる。頬に当るその風にシランは顔を上げた。あの日固着していた世界が動き出したひから、世界は何も変っていないように見えた。しかし、間違いなく予測データと同じ線をたどり、世界は動き始めている。実際実感するには後どれほどたてばいいのか、気が遠くなるほどの時間が必要だろう。だが、シランはまったく絶望せずにその空を見上げている。
きっといつかあの空も動く時がくるのだ、と。
と、いきなり世界を打ち付けるような重く響く音が轟いた。
「な、な!?」
静かだっただけに、耳がついてこない。驚きに、シランは地面に倒れこむ。もしかしたら世界が終わるのか、そんな恐怖にかられ彼は地面にうずくまる。
連続する重たいおとは、遠く空の上からきこえてきている。
――そんな、折角未来がみえたのに。
泣きそうになりながら、世界の終わりをみつめようと顔をあげて瞬間だった。
空が割れた。
灰色の空を切り裂き、夜空を彩る星がかおを出す。目を見開き、空を見上げたシランの視界に、巨大な質量をもった何かが降りてきている。
いくつモノその黒い塊をみて、シランは思い出す。
――船だ!
そう、居なくなった人間がのっていった船だ。あの日、世界が壊れると此処をすて、居なくなるときにのっていった船だ。
驚きとよろこびに、シランは手を広げて叫ぶ。自分はここにいると、聞こえるはずもないのに、ここにいると、皆が帰ってきてくれたと彼は純粋に喜び手を振り上げた。
まるでソレに気がついたように、船から光が放たれた。
ちかちかと、まるで歌うように船がひかりだす。
――未来だ!
シランは手を振って叫ぶ。
2006.03.30 Thursday
「障害」「不安」「一蹴」
人がいる場所に静寂が落ちると、床の辺りからじわじわと違和感が溜まっていく。否応なく緊張させられるその違和感が、ついに喉元までせり上がりこらえきれずゼシドは咳をした。
響いたその音に、息を呑むような悲鳴が上がる。
建物の向こう、車と人ごみの音が聞こえている。あとは、ゼシドの弟分ともいえるピーズが神経質そうに叩く床の音だけだ。
「ピーズ、貧乏揺すりはやめろと何度言ったら判るんだ」
ゼシドの言葉に、ピーズはびくりと身をこわばらせると、すぐに直立不動になった。高級そうなソファにピーズの巨大な尻のあとがついてるのをみて、ゼシドは笑いをこらえる。
「けど、兄貴」
全てにおいて二人分といったピーズは、大きな腹を揺らして口答えをしようとする。
「イライラすんのは判るが、――ほれ」
そういって、片隅を顎で指した。
「人質がびびっちまうだろう」
肩に担いだ突撃銃を、慣れた手付きで手元に戻すと腰をかけていたカウンタからゆっくりと立ち上がる。ピーズとは対極に細い体で、大きな銃を軽々と持ちあげあたりを見回す。銀行のロビーの片隅には、従業員と客が一まとめにされて座らされていた。昼時で客は少なく、従業員も昼休みで半分以上ではらっていた、ロビーを埋めるほどの人間はおらず、全員が腕足すべて縛り上げられていた。
カウンターの前に並ぶ待合ようのソファの手触りを楽しみながら、ピーズは大きな体を揺らしてゼシドのほうへと歩いていった。
「でも兄貴、人がいなくてついてましたね」
「バカタレ」
ピーズの軽口に、手近にあったポケットティッシュを投げるゼシド。軽い音がして、ピーズの腹に当ると、そのまま床に転がった。
「えー」
「お前が寝坊しなけりゃもっと上手く言ってたんだよ。そら、みやがれもう警察のやつら包囲を開始してやがる」
言われてピーズがシャッターの降りた窓の隙間から、外をうかがう。細い隙間から漏れる日の光に目を細めながら、ピーズは外の通りに並ぶ車の列を見つけた。
「兄貴、警察が!」
「だから、さっきからいってんだろ!」
飛んできたのは、灰皿。綺麗な放物線を描き、ピーズの頭に直撃する。相変わらず軽い音がして、ピーズは一瞬バランスを崩す。
「いてー」
「ま、いいさ。どうせ正面きって逃げるつもりなんかねぇし。フムン……しかし、早すぎる気もする」
「そうなんですか?」
ピーズの言葉を無視して、ゼシドはカウンターの向こう側に座っている受付嬢を見下ろす。
「まだおわんねぇの?」
「は、はい! もうすぐですので、おまちくださいっ」
こんな時でも接客態度を崩さない受付嬢に、関心しながらゼシドは彼女が詰め込んでいく金の束を見た。
――わざと遅らせてやがる。誰の差し金だ?
一瞬、視線をめぐらせるがそれらしい人間は居ない。一まとめにした人質は、目隠しと猿轡をし、腕と足を縛り、全員を結び付けてある。腕を上げれば誰かの首が絞まり、逃げ出そうと足を伸ばせば、どこかで倒れる人間が出る。逃げ出すことは簡単だが、少なくても一人逃げ出す間に、残り全員を始末することができる。人質に対しても人質なのだ。それに見も出来ず言葉もだせぬ状態で音だけ聞いていれば、恐怖は否応にも高まる。この状況下で鉄があげる摩擦尾音を聞けば、平静でいられる人間は一握りだろう。感謝するは、平和ボケした彼らの生活とソレを作り上げた政府。
「兄貴ー、腹へったんだけど」
「バカタレが」
手近に何もなかったので、モノは飛ばなかった。ため息混じりに、もう一度周りを見渡すがやはり、受付嬢になにかを伝えられそうな人間はやはりいなかった。
まだ金は積み込み終わらない。鞄にはまだ隙間がある。イラきついでに、カウンターをけりつける。人質の集団がびくりと反応するのをみて、少しだけゼシドは溜飲が下げられた。
「兄貴、包囲おわったみたいですよ」
「そうか。おい、嬢ちゃん。もういいや、それで」
その言葉は予測できてなかったのか、一瞬呆けた顔で女性はゼシドを見上げる。
――ああ、そういうこと。
「いいね。聡い女は嫌いじゃない。勇気も認めよう」
言いながら、ゼシドはゆっくりと銃口を持ち上げていく。
「お前、わざと金を入れるのちんたらしたな」
反応はない。が、口を一文字に引き結び、じっとゼシドを見上げている。
「兄貴? 急がないと」
「てめぇそこらへんのバカと同じにしたな? 欲にかられて、逃げ時を間違うようなバカと。残念だったな。おとしまえはつけてもらうぜ?」
言いながらゼシドはセーフティーの外れた銃のトリガーに指をかけた。
「兄貴!」
じっと、女性はゼシドをみていた。試しに、指に力をかけるゼシド。トリガーの軽い乾いた音がする。まだ発射されない。けれど、あと数ミリで銃は反応するだろう。
しかし、彼女は微動だにせずじっと見上げているのだ。
――へぇ。
「行くぞピーズ!」
鞄をおもむろに持ち上げると、ゼシドはカウンタから飛び降りる。銃口は外さない。
「いいね、あんた。足りない分は今度取りに来る」
ソレだけを言うと、ゼシドたちは走り出す。出入り口へとぬけ、彼らはロビーから見えなくなった。正面からいかないといっておきながら、彼らは正面の出入り口へと走り出したのだ。
一瞬訝しげに見送った彼女だったが、緊張に足が震え歩けなかった。大きなため息を吐いて、心拍数を落とそうとする。まだ警察は踏み込んでこない。
どれだけの時間がたったか。
呼吸の数などとっくに忘れ、気がつけば体中がこわばっていた。
受付カウンタの前で座っていた彼女は、そのままの姿勢のまま、乗り込んできた警察の姿を見た。催涙弾を投げ込み、いっせいに入ってきた警察はソレこそ死の軍隊のようにすらみえ、煙の向こう薄れ行く視界のなか、彼女は心の中で唾を吐く。ガラスを割りやがって、と。
◇
結局のところ、あの二人組みが捕まったという報道は見なかった。一体どうやって逃げ出したのか、そんなことは彼女にとってどうでもよかった。
自宅でのんびりと出社する用意をしながら、部屋の片隅においてある物をみる。
いつになったら、残りの物は取りに来るのだろうか。
自分がトロイせいで、迷惑をかけた。
邪魔だから早くきてほしい。そんなことを考えながら、あくびをする。
札束の山は、部屋には似合わない。
響いたその音に、息を呑むような悲鳴が上がる。
建物の向こう、車と人ごみの音が聞こえている。あとは、ゼシドの弟分ともいえるピーズが神経質そうに叩く床の音だけだ。
「ピーズ、貧乏揺すりはやめろと何度言ったら判るんだ」
ゼシドの言葉に、ピーズはびくりと身をこわばらせると、すぐに直立不動になった。高級そうなソファにピーズの巨大な尻のあとがついてるのをみて、ゼシドは笑いをこらえる。
「けど、兄貴」
全てにおいて二人分といったピーズは、大きな腹を揺らして口答えをしようとする。
「イライラすんのは判るが、――ほれ」
そういって、片隅を顎で指した。
「人質がびびっちまうだろう」
肩に担いだ突撃銃を、慣れた手付きで手元に戻すと腰をかけていたカウンタからゆっくりと立ち上がる。ピーズとは対極に細い体で、大きな銃を軽々と持ちあげあたりを見回す。銀行のロビーの片隅には、従業員と客が一まとめにされて座らされていた。昼時で客は少なく、従業員も昼休みで半分以上ではらっていた、ロビーを埋めるほどの人間はおらず、全員が腕足すべて縛り上げられていた。
カウンターの前に並ぶ待合ようのソファの手触りを楽しみながら、ピーズは大きな体を揺らしてゼシドのほうへと歩いていった。
「でも兄貴、人がいなくてついてましたね」
「バカタレ」
ピーズの軽口に、手近にあったポケットティッシュを投げるゼシド。軽い音がして、ピーズの腹に当ると、そのまま床に転がった。
「えー」
「お前が寝坊しなけりゃもっと上手く言ってたんだよ。そら、みやがれもう警察のやつら包囲を開始してやがる」
言われてピーズがシャッターの降りた窓の隙間から、外をうかがう。細い隙間から漏れる日の光に目を細めながら、ピーズは外の通りに並ぶ車の列を見つけた。
「兄貴、警察が!」
「だから、さっきからいってんだろ!」
飛んできたのは、灰皿。綺麗な放物線を描き、ピーズの頭に直撃する。相変わらず軽い音がして、ピーズは一瞬バランスを崩す。
「いてー」
「ま、いいさ。どうせ正面きって逃げるつもりなんかねぇし。フムン……しかし、早すぎる気もする」
「そうなんですか?」
ピーズの言葉を無視して、ゼシドはカウンターの向こう側に座っている受付嬢を見下ろす。
「まだおわんねぇの?」
「は、はい! もうすぐですので、おまちくださいっ」
こんな時でも接客態度を崩さない受付嬢に、関心しながらゼシドは彼女が詰め込んでいく金の束を見た。
――わざと遅らせてやがる。誰の差し金だ?
一瞬、視線をめぐらせるがそれらしい人間は居ない。一まとめにした人質は、目隠しと猿轡をし、腕と足を縛り、全員を結び付けてある。腕を上げれば誰かの首が絞まり、逃げ出そうと足を伸ばせば、どこかで倒れる人間が出る。逃げ出すことは簡単だが、少なくても一人逃げ出す間に、残り全員を始末することができる。人質に対しても人質なのだ。それに見も出来ず言葉もだせぬ状態で音だけ聞いていれば、恐怖は否応にも高まる。この状況下で鉄があげる摩擦尾音を聞けば、平静でいられる人間は一握りだろう。感謝するは、平和ボケした彼らの生活とソレを作り上げた政府。
「兄貴ー、腹へったんだけど」
「バカタレが」
手近に何もなかったので、モノは飛ばなかった。ため息混じりに、もう一度周りを見渡すがやはり、受付嬢になにかを伝えられそうな人間はやはりいなかった。
まだ金は積み込み終わらない。鞄にはまだ隙間がある。イラきついでに、カウンターをけりつける。人質の集団がびくりと反応するのをみて、少しだけゼシドは溜飲が下げられた。
「兄貴、包囲おわったみたいですよ」
「そうか。おい、嬢ちゃん。もういいや、それで」
その言葉は予測できてなかったのか、一瞬呆けた顔で女性はゼシドを見上げる。
――ああ、そういうこと。
「いいね。聡い女は嫌いじゃない。勇気も認めよう」
言いながら、ゼシドはゆっくりと銃口を持ち上げていく。
「お前、わざと金を入れるのちんたらしたな」
反応はない。が、口を一文字に引き結び、じっとゼシドを見上げている。
「兄貴? 急がないと」
「てめぇそこらへんのバカと同じにしたな? 欲にかられて、逃げ時を間違うようなバカと。残念だったな。おとしまえはつけてもらうぜ?」
言いながらゼシドはセーフティーの外れた銃のトリガーに指をかけた。
「兄貴!」
じっと、女性はゼシドをみていた。試しに、指に力をかけるゼシド。トリガーの軽い乾いた音がする。まだ発射されない。けれど、あと数ミリで銃は反応するだろう。
しかし、彼女は微動だにせずじっと見上げているのだ。
――へぇ。
「行くぞピーズ!」
鞄をおもむろに持ち上げると、ゼシドはカウンタから飛び降りる。銃口は外さない。
「いいね、あんた。足りない分は今度取りに来る」
ソレだけを言うと、ゼシドたちは走り出す。出入り口へとぬけ、彼らはロビーから見えなくなった。正面からいかないといっておきながら、彼らは正面の出入り口へと走り出したのだ。
一瞬訝しげに見送った彼女だったが、緊張に足が震え歩けなかった。大きなため息を吐いて、心拍数を落とそうとする。まだ警察は踏み込んでこない。
どれだけの時間がたったか。
呼吸の数などとっくに忘れ、気がつけば体中がこわばっていた。
受付カウンタの前で座っていた彼女は、そのままの姿勢のまま、乗り込んできた警察の姿を見た。催涙弾を投げ込み、いっせいに入ってきた警察はソレこそ死の軍隊のようにすらみえ、煙の向こう薄れ行く視界のなか、彼女は心の中で唾を吐く。ガラスを割りやがって、と。
◇
結局のところ、あの二人組みが捕まったという報道は見なかった。一体どうやって逃げ出したのか、そんなことは彼女にとってどうでもよかった。
自宅でのんびりと出社する用意をしながら、部屋の片隅においてある物をみる。
いつになったら、残りの物は取りに来るのだろうか。
自分がトロイせいで、迷惑をかけた。
邪魔だから早くきてほしい。そんなことを考えながら、あくびをする。
札束の山は、部屋には似合わない。
2006.03.29 Wednesday
「共演」「幻想」「舞踏」
見渡す限りどこまでも続いている平野。だった。ありふれた形容詞は、既に過去形に移り変わっている。今は見渡す限りの人間、である。さらに言うのならば。
半分は人間だった物。だ。
血風吹き荒れるとはいったもので、実際に遠目に平原を見下ろせば、赤い風が舞っている。色がついた風、というのもなんだか不思議なきがして、離れた高台から戦況を見下ろしていたツリーアゲートの前線隊の指揮官は、視線をそらした。空は青く、のっぺりと広がっている。
「緑金国の増援を確認しました!」
叫び声に、思わず指揮官は自軍と相対する原色をちりばめた無粋極まりない軍服の集団をにらむ。あいも変らず、ツリーアゲートの軍勢は勢いづき、緑金国の軍を押している。勝利は確実といったふうだ。しかし、増援が着てしまえば、すでにツリーアゲートの軍の後ろに控えるのは民間人。一気に形勢が崩れてもおかしくはない。血眼になって、彼は地平線の向こうをみやる。けれど遠く、地平線の向こうには増援などみえなかった。
「いないではないか! でたらめなこと――」
苛立ちに思わず、兵を蹴り飛ばす。こんなことをしても、何も変らないというのは彼にも判っている。だが、とめられるなら苦労はしない。
「も、申し訳ありません。増援は、約……え? 一名……です?」
報告書を読み上げていた男は、思わず紙に顔を近づける。
「なんといった」
「いえ、一名と……」
「……かえれ」
「……は」
「私の前からうせろといっている!」
立ち上がろうとしていた兵をもう一度けりつけ、大きなため息をひとつ。いらない報告で、無駄に同様した自分が憎いのだ。
逃げ帰っていく兵の背中をいまいましげににらみながら、彼は椅子に戻り平野の戦況を見下ろした。
血吹き荒れる戦場は、赤く染まっている。風が赤いが、風に色がついている不思議が、ああ風というよりは水だ。などとどうでもいい感想に、彼は一人苦笑する。ツリーアゲートの勝利は、既に決まったも同然なのだから。
骨を砕き、肉を裂き、血を踏みしめる。
喧騒だけが届き、意味のある命が飛んでくることはない。聞こえるのは、命乞いと叫び声だけ。あとは、剣のぶつかる音だけだ。
――気分悪い。
ヘリオドールは、剣を力いっぱい振り回しながら思う。先ほどからずっと振り回している剣は、耳元で風を切る音を立てるが、それよりも右腕そのものがいたくてもうやめたくなった。
と、声の質が変るのをヘリオドールは聞く。
それは先ほどまでの、叫び声とは違い完全に恐怖に彩られた声だ。
なんだと驚き振り返って、今度はヘリオドールも同じく声を上げた。恐怖に彩られた声を。
「う、わあああああああああああああ!」
目の前に聳え立っているのは、血の柱。赤い、赤い柱が立っている。
その柱の中央に、人影が見えた。その血の柱は間違いなく血で、そしてそれを作り上げているのがその人影だということだ。
驚きと恐怖に、ヘリオドールはしりもちをつき、そのままの格好で後ずさり始める。途中、何度も死体にぶつかり、手の平には血と泥が隙間なくついた。
必死になって近づいてくる血の柱から、ヘリオドールは逃げる。けれど、それはまるで悪夢のような速度で近づいてきた。
肉の千切れる音がする。そのたびに、血が空へ舞い上がる。まるで噴水のようだ、ヘリオドールは思う。既に逃げることを本能から諦めたのか、体中に力が入らない。
血の竜巻ともいえるそれが目の前に近づく。音が聞こえる。肉が引きちぎられ、断末魔すら上げられなかった肺からもれる息が、骨が砕け、体中から液体を噴出す音が。
「……」
目の前に迫ってきた。
◇
それは誰もが後に、首を振ってありえないと口をそろえるような出来事だった。
緑金国からやってきたった一人の人間に、数万の兵が蹴散らされたのだから。
到着から数十分。平野は、下の静けさを取り戻していた。
身の丈よりも巨大な剣を振り回す。きるというより、たたきつぶすためのその武器が、なぜ切れるのか、なぜ面白いように兵士の首をはねるのか、誰もが理解できず理解されずに命をとばした。踏みしめる足が、地面を這い蹲る兵をつぶし、振り上げた手が立ちはだかる兵を肉塊に変える。右へ、そして左へ、攻撃という攻撃は受け流され、滑るように剣の腹でいなされる。飛んできた矢が当ることはなく、投げられた石がかすることはない。
まるで踊っているように、それはツリーアゲートの兵士をなぎ払っていった。
ダンスの相手は、ツリーアゲート、相手をした兵はことごとく空を赤く染めるために消費される。
剣をへし折り、防具を貫き、巨大な剣が唸る。
悲鳴とその雑音がBGM、相手を次々にかえソレはツリーアゲート本陣が位置する小高い丘までたどり着いた。
「な、な……」
司令官の目の前に血に染まった赤い人間が一人。
「なにが……」
「――理解する必要はない」
血煙が上がる。
平原が広がっている。
見渡す限りドコまでも広がる平原だ。
赤く、血の色にそまり鉄の匂いのする平原が広がっている。
半分は人間だった物。だ。
血風吹き荒れるとはいったもので、実際に遠目に平原を見下ろせば、赤い風が舞っている。色がついた風、というのもなんだか不思議なきがして、離れた高台から戦況を見下ろしていたツリーアゲートの前線隊の指揮官は、視線をそらした。空は青く、のっぺりと広がっている。
「緑金国の増援を確認しました!」
叫び声に、思わず指揮官は自軍と相対する原色をちりばめた無粋極まりない軍服の集団をにらむ。あいも変らず、ツリーアゲートの軍勢は勢いづき、緑金国の軍を押している。勝利は確実といったふうだ。しかし、増援が着てしまえば、すでにツリーアゲートの軍の後ろに控えるのは民間人。一気に形勢が崩れてもおかしくはない。血眼になって、彼は地平線の向こうをみやる。けれど遠く、地平線の向こうには増援などみえなかった。
「いないではないか! でたらめなこと――」
苛立ちに思わず、兵を蹴り飛ばす。こんなことをしても、何も変らないというのは彼にも判っている。だが、とめられるなら苦労はしない。
「も、申し訳ありません。増援は、約……え? 一名……です?」
報告書を読み上げていた男は、思わず紙に顔を近づける。
「なんといった」
「いえ、一名と……」
「……かえれ」
「……は」
「私の前からうせろといっている!」
立ち上がろうとしていた兵をもう一度けりつけ、大きなため息をひとつ。いらない報告で、無駄に同様した自分が憎いのだ。
逃げ帰っていく兵の背中をいまいましげににらみながら、彼は椅子に戻り平野の戦況を見下ろした。
血吹き荒れる戦場は、赤く染まっている。風が赤いが、風に色がついている不思議が、ああ風というよりは水だ。などとどうでもいい感想に、彼は一人苦笑する。ツリーアゲートの勝利は、既に決まったも同然なのだから。
骨を砕き、肉を裂き、血を踏みしめる。
喧騒だけが届き、意味のある命が飛んでくることはない。聞こえるのは、命乞いと叫び声だけ。あとは、剣のぶつかる音だけだ。
――気分悪い。
ヘリオドールは、剣を力いっぱい振り回しながら思う。先ほどからずっと振り回している剣は、耳元で風を切る音を立てるが、それよりも右腕そのものがいたくてもうやめたくなった。
と、声の質が変るのをヘリオドールは聞く。
それは先ほどまでの、叫び声とは違い完全に恐怖に彩られた声だ。
なんだと驚き振り返って、今度はヘリオドールも同じく声を上げた。恐怖に彩られた声を。
「う、わあああああああああああああ!」
目の前に聳え立っているのは、血の柱。赤い、赤い柱が立っている。
その柱の中央に、人影が見えた。その血の柱は間違いなく血で、そしてそれを作り上げているのがその人影だということだ。
驚きと恐怖に、ヘリオドールはしりもちをつき、そのままの格好で後ずさり始める。途中、何度も死体にぶつかり、手の平には血と泥が隙間なくついた。
必死になって近づいてくる血の柱から、ヘリオドールは逃げる。けれど、それはまるで悪夢のような速度で近づいてきた。
肉の千切れる音がする。そのたびに、血が空へ舞い上がる。まるで噴水のようだ、ヘリオドールは思う。既に逃げることを本能から諦めたのか、体中に力が入らない。
血の竜巻ともいえるそれが目の前に近づく。音が聞こえる。肉が引きちぎられ、断末魔すら上げられなかった肺からもれる息が、骨が砕け、体中から液体を噴出す音が。
「……」
目の前に迫ってきた。
◇
それは誰もが後に、首を振ってありえないと口をそろえるような出来事だった。
緑金国からやってきたった一人の人間に、数万の兵が蹴散らされたのだから。
到着から数十分。平野は、下の静けさを取り戻していた。
身の丈よりも巨大な剣を振り回す。きるというより、たたきつぶすためのその武器が、なぜ切れるのか、なぜ面白いように兵士の首をはねるのか、誰もが理解できず理解されずに命をとばした。踏みしめる足が、地面を這い蹲る兵をつぶし、振り上げた手が立ちはだかる兵を肉塊に変える。右へ、そして左へ、攻撃という攻撃は受け流され、滑るように剣の腹でいなされる。飛んできた矢が当ることはなく、投げられた石がかすることはない。
まるで踊っているように、それはツリーアゲートの兵士をなぎ払っていった。
ダンスの相手は、ツリーアゲート、相手をした兵はことごとく空を赤く染めるために消費される。
剣をへし折り、防具を貫き、巨大な剣が唸る。
悲鳴とその雑音がBGM、相手を次々にかえソレはツリーアゲート本陣が位置する小高い丘までたどり着いた。
「な、な……」
司令官の目の前に血に染まった赤い人間が一人。
「なにが……」
「――理解する必要はない」
血煙が上がる。
平原が広がっている。
見渡す限りドコまでも広がる平原だ。
赤く、血の色にそまり鉄の匂いのする平原が広がっている。
2006.03.28 Tuesday
「手綱」「困惑」「閉塞」
朝焼けの空を見上げて、鉄譲(てつじょう)は寒さに体を震わせた。マフラーから出た肌が、一気に外気に当てられて体中が冷えるような冷たさに、彼は身を縮める。
その動きで、温まった空気が上着から逃げ出し一瞬で体が冷えた。その寒さに、鉄譲は顔をしかめて歩き出した。
世界は停止している。
青か紫か、どっちつかずだがどっちについてもあまり代わりのないような空の色に、世界が青く染まっている。吐き出した息も白く、ドコを見回しても温かみのあるものなんてなかった。鉄譲は、鈍色に沈む街の中を一人歩いていく。躊躇いもない彼の歩みは、ある種機械的で無機質な印象すら受ける。それほどまでに、迷いもなく淡々と彼は道を歩いていた。
鉄譲は歩いている。
まるで決められた道を進むロボットのように。といっても、彼本人がそんなことを考えているわけではなかった。
ただ、彼は出たかった。
この街から。
誰も住んでいないこの街から。
太陽は上がらない。朝焼けのあの場所で停止し、それ以上下がることも上がることもないのだ。鉄譲は、一度も天高く上った太陽というものを見たことはないし、月が空にあるのも見たことがない。あるのはこの朝焼けのあやふやな空だけだった。
同じ場所を、ぐるぐると。街の外周を回るように歩いている。
彼は街の内側と外側を見比べて、眉をしかめる。嫌になったというような表情で、彼は足を止めた。
まるで首輪をつけられた犬が犬小屋を回り続けてるようなイメージ。
街の中心からそれ以上離れられない。その事実に、彼はため息を一つ。白い息だけは、自由に街の外へと流れていった。
それがなんだか羨ましくて、彼は一度だけ手を伸ばす。
けれど足は動かなかった。
ふと、後ろから足音が聞こえて視線を向ける。
自分より少し背の小さい青年がは知っているのが見えた。走り続けているかれを、コレで何度見ただろうか。首をかしげるが、会話をしたことがないので聞いたためしもなかった。
鉄譲は通り過ぎていく少年を見送って歩き出す。
迷いなく、よどみなく、先へ突き進む姿を見送るとまた静寂がやってくる。
街は静かなまま停止、自分は永遠に前に歩くことしかできない。なんともいえない事実が、それこそなんともいえない感情になって渦巻く。
打破できる何かがあるわけでもなく、ただ歩く。
「ああそうか」
歩くことしか許されてないのだ。
だから、自分は歩き続け。疑問を覚えても足を進めるほかなく、そしてそれ以外に出来ることはない。
停止した街の周りをただずっと、いつ終わるとも知れない先へ向かって歩く。
前を、歩いていた男が見えてくる。
自分を走りぬいていった少年ではなく、もう一人の男だ。彼とも鉄譲は何度もあっていた。だが、やはり話したことはない。
走っている少年とは、話す時間がないが、彼となら話せるかもしれない。そうおもい、鉄譲は声を掛けようと手を上げた。
「なにかようか?」
しかし、逆に向こう側からさきに声をかけられ、あわてて鉄譲は手を下ろす。驚きもあったが、向こうもこちらが来るのを待っていたふうでもあり、動揺は隠せただろうと鉄譲は心の中で呟く。
「え、あ。いや。良く見かけるので、きになりまして」
敬語は便利だ。少しでもへりくだって相手に声をかけるだけで、相手との距離をはかりながら会話することもない。先に自分を下に落とす技術。そして、下に落とすことで自分は安全圏を手に入れることができる。
「……見かけるのは当たり前だろう? なにせ、同じ場所を回っている。当然だ」
自分より少し年上だろうか。頭に白髪が見え隠れしている。上からモノを言う態度に、一瞬かちんときたが、鉄譲は愛想笑いと浮かべてへへへと答えた。
「そりゃまぁそうなんですが」
「なぜ、話しかけた?」
「……は?」
話しかけたのはそっちだろう、そういいそうになって、あわてて言葉を飲み込む。
「あ、いや。たしかに話しかけようとしましたが」
「だから、なぜ話しかけた」
「……気になったから、ではいけませんかね?」
相変わらず顔に愛想笑いを張付けたまま、鉄譲は呟く。すこし、頬が引きつってる気がしたが、もうそれを気にしてる余裕はなかった。
「なぜ今更。話しかけるならいくらでもチャンスはあったのに、なぜ今なんだ」
「いいぇ、なんとなくなんですが……」
鉄譲の言葉に、男はあからさまに落胆したため息をつく。
「なぜだときいてる」
「寂しかった……からとか?」
「話し相手が居なくて、寂しかったか」
かもしれない。
「それとも、つらかったか」
「……」
そうかもしれない。
「ただ逃げ出そうとしてるだけだろう?」
逃げるという言葉に、反射的に言葉がでる。
「逃げるのはいけないことですか?」
自分の言葉に驚く鉄譲、けれどその言葉もわかっていたといわんばかりに男はため息を吐いた。
「悪くはない。逃げるからこそ、動きが生まれる。痛いのがいやで逃れる。寂しいのがいやで寄り添う。納得がいかなくて手を尽くす。なにもかも、悪くない。誰もとがめることは出来ない」
けれど、と男は言う。
「それは、悪いと認識できてるからだ。今が寂しいということは、寂しくなかったことがあったということだ。すべては差で出来ている。だから、逃げようとしたということは、先を知ってるということに他ならない」
「……はぁ」
何を言っているのだろう。いぶかしんで眉をひそめる。口元をマフラーにうずめ、鉄譲は男の言葉が行き過ぎるのをただまとうと決めた。
「お前は先をしらない。なのに先を知らずにそれを望んだ。それは逃げではなく、無理解。何も判っていない」
「……」
「そら、やってくる。あの子供のほうが、お前なんかより幾分もましだ」
走り去っていった少年が、街を一周したのかまた後ろから追いついてきた。
「なにを……私は別に。逃げてなんか」
「逃げられやしない。永遠に。回り続けるだけだ」
少年が走り去る。目の前を横切った時、がちんという硬質な音が聞こえた。
どこか遠く、鐘が鳴り響き始めた。
「私たちは、大元でつながっている」
「……」
「何も、寂しがることはない」
返事をせず、鉄譲は歩き出す。また同じ場所、同じ方向を。鐘がなっている。
十二回ぐらいなったところで、鐘の音は止まった。鉄譲は歩き続ける。街からは、多分出られない。
時計
その動きで、温まった空気が上着から逃げ出し一瞬で体が冷えた。その寒さに、鉄譲は顔をしかめて歩き出した。
世界は停止している。
青か紫か、どっちつかずだがどっちについてもあまり代わりのないような空の色に、世界が青く染まっている。吐き出した息も白く、ドコを見回しても温かみのあるものなんてなかった。鉄譲は、鈍色に沈む街の中を一人歩いていく。躊躇いもない彼の歩みは、ある種機械的で無機質な印象すら受ける。それほどまでに、迷いもなく淡々と彼は道を歩いていた。
鉄譲は歩いている。
まるで決められた道を進むロボットのように。といっても、彼本人がそんなことを考えているわけではなかった。
ただ、彼は出たかった。
この街から。
誰も住んでいないこの街から。
太陽は上がらない。朝焼けのあの場所で停止し、それ以上下がることも上がることもないのだ。鉄譲は、一度も天高く上った太陽というものを見たことはないし、月が空にあるのも見たことがない。あるのはこの朝焼けのあやふやな空だけだった。
同じ場所を、ぐるぐると。街の外周を回るように歩いている。
彼は街の内側と外側を見比べて、眉をしかめる。嫌になったというような表情で、彼は足を止めた。
まるで首輪をつけられた犬が犬小屋を回り続けてるようなイメージ。
街の中心からそれ以上離れられない。その事実に、彼はため息を一つ。白い息だけは、自由に街の外へと流れていった。
それがなんだか羨ましくて、彼は一度だけ手を伸ばす。
けれど足は動かなかった。
ふと、後ろから足音が聞こえて視線を向ける。
自分より少し背の小さい青年がは知っているのが見えた。走り続けているかれを、コレで何度見ただろうか。首をかしげるが、会話をしたことがないので聞いたためしもなかった。
鉄譲は通り過ぎていく少年を見送って歩き出す。
迷いなく、よどみなく、先へ突き進む姿を見送るとまた静寂がやってくる。
街は静かなまま停止、自分は永遠に前に歩くことしかできない。なんともいえない事実が、それこそなんともいえない感情になって渦巻く。
打破できる何かがあるわけでもなく、ただ歩く。
「ああそうか」
歩くことしか許されてないのだ。
だから、自分は歩き続け。疑問を覚えても足を進めるほかなく、そしてそれ以外に出来ることはない。
停止した街の周りをただずっと、いつ終わるとも知れない先へ向かって歩く。
前を、歩いていた男が見えてくる。
自分を走りぬいていった少年ではなく、もう一人の男だ。彼とも鉄譲は何度もあっていた。だが、やはり話したことはない。
走っている少年とは、話す時間がないが、彼となら話せるかもしれない。そうおもい、鉄譲は声を掛けようと手を上げた。
「なにかようか?」
しかし、逆に向こう側からさきに声をかけられ、あわてて鉄譲は手を下ろす。驚きもあったが、向こうもこちらが来るのを待っていたふうでもあり、動揺は隠せただろうと鉄譲は心の中で呟く。
「え、あ。いや。良く見かけるので、きになりまして」
敬語は便利だ。少しでもへりくだって相手に声をかけるだけで、相手との距離をはかりながら会話することもない。先に自分を下に落とす技術。そして、下に落とすことで自分は安全圏を手に入れることができる。
「……見かけるのは当たり前だろう? なにせ、同じ場所を回っている。当然だ」
自分より少し年上だろうか。頭に白髪が見え隠れしている。上からモノを言う態度に、一瞬かちんときたが、鉄譲は愛想笑いと浮かべてへへへと答えた。
「そりゃまぁそうなんですが」
「なぜ、話しかけた?」
「……は?」
話しかけたのはそっちだろう、そういいそうになって、あわてて言葉を飲み込む。
「あ、いや。たしかに話しかけようとしましたが」
「だから、なぜ話しかけた」
「……気になったから、ではいけませんかね?」
相変わらず顔に愛想笑いを張付けたまま、鉄譲は呟く。すこし、頬が引きつってる気がしたが、もうそれを気にしてる余裕はなかった。
「なぜ今更。話しかけるならいくらでもチャンスはあったのに、なぜ今なんだ」
「いいぇ、なんとなくなんですが……」
鉄譲の言葉に、男はあからさまに落胆したため息をつく。
「なぜだときいてる」
「寂しかった……からとか?」
「話し相手が居なくて、寂しかったか」
かもしれない。
「それとも、つらかったか」
「……」
そうかもしれない。
「ただ逃げ出そうとしてるだけだろう?」
逃げるという言葉に、反射的に言葉がでる。
「逃げるのはいけないことですか?」
自分の言葉に驚く鉄譲、けれどその言葉もわかっていたといわんばかりに男はため息を吐いた。
「悪くはない。逃げるからこそ、動きが生まれる。痛いのがいやで逃れる。寂しいのがいやで寄り添う。納得がいかなくて手を尽くす。なにもかも、悪くない。誰もとがめることは出来ない」
けれど、と男は言う。
「それは、悪いと認識できてるからだ。今が寂しいということは、寂しくなかったことがあったということだ。すべては差で出来ている。だから、逃げようとしたということは、先を知ってるということに他ならない」
「……はぁ」
何を言っているのだろう。いぶかしんで眉をひそめる。口元をマフラーにうずめ、鉄譲は男の言葉が行き過ぎるのをただまとうと決めた。
「お前は先をしらない。なのに先を知らずにそれを望んだ。それは逃げではなく、無理解。何も判っていない」
「……」
「そら、やってくる。あの子供のほうが、お前なんかより幾分もましだ」
走り去っていった少年が、街を一周したのかまた後ろから追いついてきた。
「なにを……私は別に。逃げてなんか」
「逃げられやしない。永遠に。回り続けるだけだ」
少年が走り去る。目の前を横切った時、がちんという硬質な音が聞こえた。
どこか遠く、鐘が鳴り響き始めた。
「私たちは、大元でつながっている」
「……」
「何も、寂しがることはない」
返事をせず、鉄譲は歩き出す。また同じ場所、同じ方向を。鐘がなっている。
十二回ぐらいなったところで、鐘の音は止まった。鉄譲は歩き続ける。街からは、多分出られない。
時計