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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG
 
 タン、タン、タン、タン、タン。
 足音が聞こえる。人間の足音じゃないのはすぐにわかる。人間にしては、体重が重たい、なのに足取りが軽快。たんぱく質と、鉄塊の差。
 ロボットの足音だ。
 タン、タン、タン、タン、タン。
 それが、なぜか聞こえている。聴覚機構の故障か、それとも認識バグだろうか。この学校で、ロボットは自分と、清掃専属のロボットの二体のはずだから。そして、清掃専属のロボットは二足歩行はしない。
 故に、その足音は自分である。

 ではなぜに、立ち止まっているのにその足音が聞こえるのか。
 タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン。
 ルチルは、音がしている後ろを振り返る。
 が、その足音の主はおらず、音も消えた。
 それよりも、扉だ。そう思い直し、ルチルは視線を戻す。依然目の前には、扉があった。いつの間に出来たのだろうか、突き当たりには確かに引き戸の扉が存在していた。触ってみれば、レールとの隙間を扉がガタン、と音を立てて揺れる。
 タン、タン、タン、タン、タン。
 また、あの足音が聞こえた。確かに音がしている、そして近付いてきている。
 勢いよくふりかえるが、やはり廊下は誰もいなかった。
 同時背後で、ガタンと扉が揺れた。
「!」
 驚きまた振り返る。だが、当然扉が開いたわけではなかった。風にゆれた扉は、ルチルの目の前でもう一度自らを揺らして音を立てる。
 タン、タン――
 足音が真横に。
 タン、タン。
 そして、そのまままっすぐ通り過ぎていった。
 扉の向こうへと。
 
 ずいぶん呆けていた。手にもった照度計が、影に入って警告音を短く上げた。
 その音に我に返ったのか、ルチルは手の中の照度計の電源を落とすと、睨むように扉を見据える。
「……」
 思わず体中を確認するルチル。最近自分がどこかおかしいのではないか、その不安と記憶に無い扉、主のいない足音。そのどれもが、自分が壊れているという恐怖を連想させた。
 ルチルは一度大きく息をすると、扉に手をかける。
 足跡は向こうに消えた。知らない扉がいつのまにかに目の前にある。手に力を入れるには十分過ぎる理由だった。
 手をかけた扉は、抵抗無くレールの上をすべり開いた。
「……う……わぁ」
 見上げ、ルチルは目を見開いた。
 風が流れる。風が声を上げるように音を立てている。湿気た土の匂い、乾燥した葉の匂い、青い青い草の匂い、そして突き抜けた空の匂い。
 肌を撫でる風は楽しげに一瞬渦を作っては空に舞い上がる。見上げた空は、秋晴れで何処までも青くそして澄んでいた。
 木の匂いにルチルは視線を落とす。
「裏山、かな?」
 周りを見回せば、葉を落とした木といまだ青く茂る木が半々のようななんともさびしい林が広がっていた。
 自分が上履きなのも忘れて、ルチルは足を踏み出す。
 地面には、枯葉がつもり風に吹かれ控えめに声を上げていた。足音は、枯葉の折れる乾いた音に置き換わる。
 そういえば、と先ほどした足音を思い出しルチルは周りを見回すが、やはり誰もソコにはいなかった。
「……」
 一通り見回して、ルチルは視線を地面に落とす。
 と、そこに足跡があった。間違いなくルチルの足跡ではない。その足跡が、ずっとさきへとつづいていたのだ。
 足跡を追うようにルチルは歩き出す。ソコには既に恐怖も不安もない。足跡は確かにそこにあり、扉は確かに学校の裏にある山へと続いていたのだから。
 後は、追っている足跡を追いかけて足跡の犯人を確認すればいい。走すれば、自分が壊れていないと納得することができるだろう。
 手にずっともっていた照度計をポケットにしまうと、ルチルは少し歩く速度を上げた。
 この山は何処に続いているのだろうか、少しワクワクし始める。足取りはどんどんと軽く、そして速くなっていた。
 足跡の持ち主は、どんな人だろうか。そんなことを考えながらルチルは足跡を追いかけて山を登る。
 タン、タン、タン、タン。
 頭の中でリズムを刻みながら、足跡の後を歩く。
 体中から、問題無しの反応をうけながら前に。空気を吸って、酸素を手に入れ熱を吐き出す。リズムにのって、後ろでまとめた髪の毛が背中を叩いている。
 そのリズムが楽しくて、ついルチルは鼻歌を歌いだす。
 足跡を追って前に。一歩、一歩確実に。
 タン、タン、タン……。
「……あ」
 そして、足跡が途切れた。
 どれくらい登ったのか判らなくなって、ルチルは体内時計に質問信号を投げかける。
 631秒との返答がすぐさまかえってきて、自分に飽きれた。殆ど十分も歩いていたのだ何も考えずに。迷ったらどうするのだと、軽く頭を小突きながらもルチルは足跡の先を探してみる。
 だが、やはり足跡が消えたとか、ソコからとんだというわけではなく途切れている。
「……」
 ルチルは、しゃがみこんでその足跡を覗き込んだ。
 何も無い。ふっとまるで風が吹くようにソコで足跡は途切れていた。
 少し残念そうな顔をして、ルチルは立ち上がる。もう一度だけ、ぐるっと辺りを見回したが、やはり周りにはなにも見えないのか、小さく息を吐いて山を下ろうと足を踏み出した。
 タン、タン、タン、タン。
 足音が聞こえた。
 驚きに、ルチルの足は止まる。枯葉を踏んだ、乾いた音がした。
 タン、タン、タン、タン。
 音のする方向に顔を向ける。
 木の上、頭上であの足音がする。
「あ、きがついちゃった?」
 木の枝に、女の子が一人。ルチルを見下ろして笑っていた。

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