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連載小説「保健室のロボット先生」

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 結局、ゴミ掃除をして戻ったときには五時限目がおわりかけていた。文句を言う秋末をひっぱりながら、ルチルはゴミをすて保健室へと戻ってきている。
 幾ばくかの疑問は、ずっとルチルの頭の中で回っている。
 だけど実際触れられるかもわかってないのに、何かを考えようとしても無理なきもした。
「あー、つかれた」
 ちゃっかりと、保健室に居座っている秋末は、自分で勝手にお茶を汲んでいる。
 ポットからお湯のでる、騒がしい音が保健室にこだまする。
「職員室もどらなくていいの? だいたい、終わった事報告しないと」
「いーの、いーの。したところで、三歩あるくまに忘れるわ、あのボケ親父」
 ポットに視線を落としながら、秋末は背中で答える。お湯の音も一緒に流れてくる。聞いているだけで熱くなりそうなお湯の音に、ルチルは首をすくめる。
 椅子に座り、窓越しに校庭の様子を見る。

 もしかしたらまた、見れるかもしれないと期待はするものの、なんだか頭の隅ではもう見れないだろうという変な核心があった。
 ルチルは記憶を思い出しては頭の中に並べてみる。昨晩、寝ぼけていたときに二回みた、一回目は今に普通にたっていて、ぼやけていたけれど此方を見ていた。そして、なにかつぶやいた。
 二回目は、台所にたっていた。でも、此方を振り向きすぐに消えた。
 三回目は、朝起きたときだ。寝室の扉の近くで、何かを見ていた。見てたのだろうか、ふと疑問が頭を掠める。もっとこう、意味の無いただぼーっとしていたような気もする。
 四回目は、保健室の前を歩いていた。
 一回目と二回目はピンク色の服。三回目以降は、茶色の地味目の服。今自分が着ている服とたぶん同じようなものだろう。
 それと、五回目。なのだろうか、扉を開けたときに音も上下も何もかも喪失したような感覚になった、あの時。合わせ鏡のようにたくさんの自分が見えた。そしてそれを数えないのなら、先ほど秋末はみたらしいが、保健室の中ですわっていた。
「はい、お茶」
 とん、と机の上におかれたのは湯気を立てる湯のみ。
 ルチルが顔を上げると、秋末はルチルを見下ろしながらお茶をすすっていた。
「あち、ねぇ」
「ん?」
「さっきのあれ、ルチルは何だと思う? 特に幽霊みたいにへんな雰囲気じゃないのは確かなんだけど……だいたい幽霊ってもっとじめーっとしてるし……なんだったのかな。ドッペルゲンガー? でも、あれの定義はたしか……」
「いかな姿であろうとも、自分が自分であると認める事の出来る自分以外のなにか」
「そうそう、そんなのだっけ。でも、ルチルに私は似てると思ったけど、それがルチル本人であるとはおもえなかったし、それにあんたがそう認識はしてないんでしょ」
「うん、そりゃ……言われるまで同じ服だってのも気が付いてなかったし。それにね」
 体をしっかりと回し、ルチルは秋末に向かい合う。
「私、昨日もにたような人みたの。確かにさっきみたのは茶色い服で同じだったんだけど、夜見たときはピンク色の服をきてたの」
 自分でもばかげた事を言っていると思う。同一だという証拠すらないのに、それでもなんだか同じ人であるきがしてならない。ロボットが予感だなんていえば、それこそ笑い物だろうが、電子脳は同一の現象であることを伝えてくる。人かどうかは判別が付かない、だが同じ現象である可能性はある。
「もし、同じだとして。同じ人だったら、服をかえたってこと? ますます幽霊じゃないっぽいねそれ。そういう現象って体験談とかきくかぎりじゃ服が変わるって聞いたこと無いんだけど。まぁ、そういう話しに詳しいわけじゃないけどさ」
 ルチルは頷く。
「なんなんだろうね……」
「そうねぇ」
 二人は首をかしげて考え込む。ゆっくりと、風の無い保健室の中をお茶の湯気が昇っていった。
「あ!」
 パンと、いきなり秋末が手をたたいた。
「ふぇっ」
 驚きにルチルが、椅子から滑り落ちそうになった。
「そう、ルチルあんた。昨日の夜何色の寝巻ききてた?」
「寝巻きって……パジャマなら緑っぽいストライプの……」
 そこまで聞いて、秋末は大きなため息を吐いた。
「あー、そう……じゃぁ今のルチルの姿がっていうはなしでもないのね……これでルチルじゃない可能性の方が高くなったか……髪の毛の色も似てるんだけどねぇなんかこう、ぼやけて見えないっていうか」
「なんなんだろうね」
「ねぇ」
 結局話しは元に戻る。
 二人はため息で、湯飲みからあがっていた湯気が揺らいだ。

 ◇

 結局何か答えが出るわけも無く。そして、もう一度例のアレが彼女らの前に現れることもなかった。
 なんとはなしに、もう一人の麻のような現実離れしたイメージがあるが、もう一人の麻はもっとはっきりとした存在だった。人間ではないように見えるし、彼女が一体何者かもルチルはわからないが、それでもあの焦点の合わないあの感覚はない。
 夜になり、ルチルは仕事を片付けて家にもどってきた。基本的に残業してまでする仕事と言う物は無く、それこそ普通にやっていても十分な量しかないのだけれど、今日は秋末に連れ出されたため少し作業がのこってしまったのだ。
 別に急ぐことも無いと、いつものペースでやっていたら日は沈み結構な時間になってしまった。
 荷物をおくために寝室に入る。ルチルは電気をつけ荷物を乱暴に放り投げた。肩にかける鞄は、きれいに放物線を描き化粧台の椅子に着地した。
「お」
 だ、鞄の中身がずれて重心が崩れたのか、鞄は椅子から滑り落ちそうになる。
「がんばれ!」
 思わず拳を握り、応援するルチル。なににといえば、鞄にであり、意味が在るかと言えば、在るわけも無い。
「おおおぉぉ、あとちょい。そこだ。とまれっ!」
 叫ぶでもなく、なぜか小声で力をいれてルチルは言う。知らず拳は握っていたが、前に持ってきて構える事は無く自然体。なんとも、へんなぽーずというよりは自然体なのに力が入っていると言う奇妙なかたちでルチルは応援する。
「とまれぇぇ、お……おー」
 鞄の崩れが止まり、椅子の上でなんとか鞄は落ち着いた。
「?」
 ふ、と横に何かがいたような気がしてルチルは振り返る。
 けれどそこには何も無く、いつもどおりの寝室があるだけだった。

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