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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 確かこの辺りだ。
 思い出しながら、ルチルは居間の辺りをふらふらと歩く。
 昨日の夜、リクライニングチェアからずり落ちて、買ってきたインスタント品を取り出そうとしていた。そのときの場所をしっかり覚えてるわけではないけれど。大体の動きを予想すれば、場所ぐらいわかる。
 せっかくなんで、昔の自分に何か言おう。そんな事を考えながら、ルチルは昨日の事を思い出した。そういえば、あの時何かいおうとしていたような、そんな気がする。それとも声が聞けなかっただけで何か言っていたのかもしれない。
 言っていたとなると、何を言っていたのだろう? 想像してみても、特に何か伝えるような事はない。ルチルは首をかしげて現れるのを待った。
 出てきたときには、きっとわかるだろう。何か言いたくなるかもしれないし、それまでになにかおもいつくかもしれない。
 そんな事を考えながら、次第にわくわくし始めている事にルチルは気が付いて居ない。
「うー、何を言おう」

 テンションは既に最高潮。気が付けば足踏みをし、ルチルは楽しそうに笑っている。
 と、予想通りの場所に緑色の服をきた、過去のルチルが現れた。何かを拾おうと手を伸ばし、そして、四つんばいになって何かを探している。
 ――ああ、袋に頭をつこんでいたっけ。
 ふと、昨日の状況を思い出してルチルは笑った。誰も居ないから出来る格好だと。
 恥ずかしい。
 だが、自分の事でもあるので何も言えない。ルチルは頭を抱えてため息を付いた。
 ほどなく、過去のルチルが顔をあげて一瞬不思議そうな顔をした。焦点は合わないが、幾分はっきり見えている気もする。
 ――なにか言わなければ。
 でも、何も言えない。かがむようにして、座り込んでいる自分を覗き込むというのは、なんだかとても不思議な感覚だった。
 と、見上げてる過去のルチルの服に目が留まる。
「あ、ねぇ。ボタンかけ間違えてる」
 いぶかしむような顔をした過去のルチルは、そのままゆっくりと消えて言った。
「……あ」
 しまったと、思ったときにはもう遅かった。
 結局、何も言えずに、いやどうでもいい事を一言いってすべてが終わったのだ。
「あーあ」
 残念だとおもうが、よくよくかんがえてみれば声が届かないのだ、何かを言ったところでなにがあるわけでもない。
 ルチルは頭をかいて、部屋に戻る。
「ねよ……」



 結局、あの現象がなんだったのか、そしてどういった意味かなんてのはわからなかった。ただ、一瞬未来と過去の間に何かがあったのだと、勝手にルチルは納得している。
 どうせわからないのなら、無理に考えても仕方が無い。
「――のです」
『わからんから、考えてもって、そりゃ思考放棄だろ』
 ディスプレイの向こうから、返事が帰って来る。
 放課後の保健室。夕暮れ色にそまった校庭を窓に映しながら、ルチルはノートPCの前に座っていた。
「でも、調べようがないからそれでいいじゃないですか」
『まぁ、調べてもしょうがないわな。触れるわけでも声が聞けるわけでもないなら』
 ノートPCのディスプレイには、セミロングの綺麗な黒髪の持ち主が移っている。ルチルの先輩だ。
「声が聞けたらどうするんですか」
『え? 競馬の予想とかさ。いろいろあるじゃないか』
「先輩……」
 ルチルのじとめに、先輩はアハハハとあいまいな笑いを返す。
「また合えたら良いのにな」
『なんだ、ルチルはナルシストだったか。そんなに自分が見たいのか』
「えーだって、未来の私から話しが聞けるかもしれないですよ?」
『お前さっき自分で、声履きこえなかったっていってたじゃないか』
「うー……でも」
 何とかして何かを伝えたい。ルチルは、頭をひねるがやはりうまい事おもいうかばなかった。
『それにしてもなんなんだろうな。人間にも見えてるってことは、実際何か起こってるんだろうし』
「ですよ」
 結局は答えの無い不毛な議論だった。
『うーん……まいいか』
「あ、今度あったらえっと……こうやって紙にかいて」
 机にあったメモに、ルチルは文字を書き込み、それをディスプレイの前に差し出した。
『……なるほど。でもさ、ルチル。一体手に持ってる物のどのぐらいが見えるんだ? 保健室の前を歩いていたお前は確か掃除してたんだよな? 箒とかもってなかったのか? それはみえてたか?』
「え?」
 言われて思い出す。だしか背中で愚痴を聞きながら、ルチルは箒でゴミをはいていた。
「あ……だめなのかなぁ」
 保健室で見たときは、何も持たないで歩いていた
『でも服は見えてるから、もしかしたら体に近い物とかなら大丈夫かもな』
「あ、そうか。さすが先輩」
 うれしそうに、ルチルは紙に何かを書き始めた。先輩は、カメラの角度でその文字が見れないのか視線をしきりに動かしている。
「できました」
 その小さな紙には、「こんばんわですか、こんにちわですか?」という短い文がかいてある。
 コレを肌身離さずもっていれば、いつ同じ事が起きてもおきても大丈夫。ルチルは胸を張る。
『……もっとなんかさー。ま、いいか。――あ、おい! ルチル! 後ろ!』
 先輩の声にルチルが振り返る。と、そこにはたぶん未来のルチルが立っていた。
 服装も違うから、日付が違うのだろう、ルチルは急いで机においたったメモを手にとって突き出した。
 未来のルチルは、ルチルを見て薄く笑って手の平を出す。
 ―― 紙は見えませんでした。こんばんわ ――
「え」
『ぶっ』
 未来のルチルは、笑って手を振っている。あわててルチルも手を振り替えした。
「あ、消えた……」
『うはははは、ルチルも掌にかいて用意しておきな。はは、ははははは』
 先輩の笑い声がノートPCから響いている。
「うぅ……そんなに笑うことないじゃないですか」
 紙を丸めて、ルチルはつぶやいた。



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