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連載小説「保健室のロボット先生」

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 ふとしたときにぽっかりと時間が空くことはよくあるけれど、それが数日単位だとそれこそ浪費に困ってしまう。
 ルチルは、カレンダーに表記された連休を眺めて呆然としていた。
 土日で休みだと思っていたのだが、実は金曜日が祝日で、さらには学校の創立記念日というカレンダーには表記されて居ない休みが次の週の月曜日。いつもなら、土日なんて寝ていれば過ぎるのだが、四日間という時間はさすがに空きすぎだった。

「どうしよう」
 今日の帰りにふと、明日が休みなのだと言う事をしって呆然とする木曜日。
 ルチルは、部屋にかかっているカレンダーを見て固まっている。
 こういうとき時間をつぶせる趣味があればいいのだが、いかんせんルチルにそんな高尚な趣味はなかった。ゲームをしてすごそうかと、回線を開いては見る物の、それで月曜まで時間をつぶすのかと考えると、知らず回線を閉じていた。
 服を買いに行こうかと考えるが、特に今更流行を追う気にもならないし見せたい相手もいない。ため息混じりに、視線を薄暗い部屋にそらしてみる物の、やはりそこに何かあるわけではなかった。
「うーん」
 ペットが居ればなぁ、などと思ってみるものの大体平日家に半分しかおらずしかも帰ったらすぐ寝るような生活ではペットがかわいそうだ。
「そうだ」
 思いついたかのように、ルチルは携帯電話を取り出した。
『あい、秋末』
 活舌のよい秋末の声が電話のスピーカー越しに聞こえる。一瞬しゃべるのが面倒なので、直接声を電波で飛ばそうかと思うが、首を振ってその考えをルチルは振り払う。
 コミュニケーションは歩み寄りからなのだから。
「私。ねぇ、暇?」
『暇だけど? なに? また、連休だから暇つぶしに付き合えって?』
「あたりぃ」
 実のところ、秋末に連休の暇つぶしを手伝ってもらったのは何回だろう。首を傾げてみる物の、あまり覚えてはない。ただ、あいまいに笑った。
『はー、別にいいけどさ。なんかあんの?』
「うーん、ドライブいこう、ドライブ」
 適当に言ってみる。
『わーった、わーった。なんも考えてないのね』
「うん」
 胸を張って答えると、ため息が返ってくる。ルチルは、この様子では秋末も予定は入っていないだろうと、口元を緩める。

 ◇
 
 結局、予定も目的もなく二人は自動車で繰り出していた。
 秋末が行きたがった温泉は、ルチルにはこれっぽっちも利点が無いので没。料理も楽しめないとなると、行く場所が限られてしまう。
 結局、当ても無く遠出をして買い物をするという、兎にも角にも意味の無い事に時間を費やすことにしたのだ。
 その先で、うまい料理でも食べられれば秋末は満足、ルチルはもとより時間さえつぶれれば満足と、一応それなりな妥協点ではあった。
「まったく、時間と資源と資材の無駄遣いだわ」
 助手席をめいっぱいリクライニングさせ、秋末がつぶやく。言葉の割りに、顔は笑っていた。
「時間だけは無駄じゃないと思うけど?」
 いいながら、ルチルはハンドルを握っている。都会へとつながっている大通りを逆側に、町を囲んでいた山を抜けて、高速に乗る。連休の頭ということでそれなりの数の車が併走していたが、渋滞とよべるような代物にはなっていなかった。
「ねー、ルチル。私おなかへったんだけどー」
 寝転がりながら、秋末が手をひらひらとさせ訴える。ルチルは、ナビにアクセスして近場で何かないかと先ほどから探していたが次のサービスエリアは思いのほか遠かった。
 秋末が文句を言う前に着いてしまえばそこでと考えていたのが不意になり、ルチルはあわてて他の経路を探索し始める。
「んー、次の料金所を降りていけば一〇分ぐらいであると思うんだけど」
「っていうか、さっきのところで止まれば……」
「言うのが遅い。高速道路でUターンなんかできないわよ」
「ぐ……」
 車は、ゆっくりとカーブを切り料金所へと向かう。
 土地勘はなくナビ任せの長距離ドライブは、そうしてゆっくりと始まりを告げた。
 
 山道をとことこと車が上っていく。
 この先に、蕎麦屋があるらしい。車が止められる場所と言うのは限られており、他に行けそうな店を諦めた。
「がー、だめだ。腹減ったぁー」
 助手席で暴れる秋末。
「もぉ……」
 急ごうにも山道で速度が出せず、ルチルは眉を寄せため息を付いた。と、視界に自動販売機が見えてくる。
「ね、あそこでジュースかって我慢して。もうちょっとあるから」
「えー……しかたないなぁ」
 リクライニングが戻され、秋末の顔が横に来る。ルチルは、秋末に合わせるように車を減速させていった。
 自動販売機の傍に車をとめると、秋末がふらふらと車の外へと出た。追いかけるようにルチルも、車を出る。
「何買おうかなぁ……」
「粒粒とか、やめといたら?」
 秋末の押し込もうとした指の先には”粒粒唐辛子”といういかにもな真っ赤なジュースがある。
「えぇ……確かに……コレからご飯だしねぇ」
 しょうがないなと、押したのは”ぬるり新食感! フレッシュNATTO”と銘打たれたジュースだった。ルチルはタイトルだけで、おなかがいっぱいになる感覚に襲われる。
 けたたましい音を立てて、自動販売機の取り出し口に缶が投下さた。
「それにしても、結構……ん? 神社?」
 言われて、秋末の顔が向く方向を見ると、自動販売機の裏に赤い鳥居が規則正しく並んでいるのが見えた。
 

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