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連載小説「保健室のロボット先生」

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 赤い漆塗りの、神域へと続く入り口。山の傾斜に沿って、規則正しく微かな乱れすら無く、その鳥居は並んでいた。
「いくつあるんだろ」
 遠く斜面にそってなだらかにカーブしている鳥居の群れは、その先の数を教えてはくれない。
「見ただけで五〇基は超えてるみたい」
 ルチルのつぶやきに、秋末が首をかしげる。
「き?」
「鳥居は、一基、二基ってかぞえるのよ」

「はー、そうなんだ。それにしても私が知ってる鳥居とちがって、やけに貧乏くさい感じ」
 整然と並ぶ朱色の門は、山の斜面を駆け上り闇に溶けている。先は見えず、それは既に回廊といった趣すらある。伏見稲荷大社千本鳥居にも通じるほどの鳥居の群れを前に、秋末は腕を組んで首をかしげている。 
「もしかして、その鳥居って、おーっきくてこう反っていて飾りとかついてる鳥居のこと?」
「そうそう、どこだっけな平安神宮でみたきがする」
 秋末の言っている鳥居を思い浮かべてルチルは笑った。性格も大雑把だが、やはり彼女は大きい物が豪華という主義らしい。
「それは神明鳥居(しんめいとりい)っていう鳥居ね。ここに並んでいるのは明神鳥居(みょうじんとりい)っていう種類よ」
 いうと、秋末は眉を寄せ首をひねり、しばらく固まった。
「んー……わからん。取りあえずさ、折角なんだしお参りしていこ」
 そういって、腰に手を当てて歩き出した。
 鳥居とは、神域へと通じる門であり結界である。一つ一つゆっくりと自分の横を過ぎ去って行く鳥居をルチルは数えながら秋末の後ろを歩く。
「よんごおろくしちはちきゅう……」
「ねぇ、ルチル。どこまで続いてるのかな、これ」
「じゅうじゅういち……へ? さぁ、どこまでだろ。伏見稲荷のよりかは短いと思うけど」
「ふーん」
 先をさっさと歩く秋末を追いかけながら、ルチルは小走りになる。
「じゅう……あれ? あ……あー」
 数えていた鳥居の数を忘れ、思い出そうにも秋末は先をどんどんとあるいていっていた。
「あー、まってよ!」
  

 空気は湿り、そして地面に沈んでいる。苔むしたという表現が一番しっくりくる、そんな湿った石畳の上を、二人はゆっくりと同じテンポであるいていた。
 斜面は特に急ということもなく、ルチルの内蔵時計は歩き出してから五分もたっていないと告げていた。だが、なぜか永遠と彷徨っているような感覚に二人は襲われている。
 それは、迷ったと言う不安よりは長い間この場所に居るのではないかという疑問のような、微かな物だったが、確実にそして次第に腹の底の辺りにたまり始めていた。同じ風景が続くことがそうさせるのか、もっと別の何かなのかは二人には判らない。
 ただ、口数少なく二人はその鳥居の続く回廊を歩き続けていた。
 石畳はところどころ土を見せ、ぼろぼろ。鳥居も、既に塗装がはがれ木の色をさらしている物もある。雨にぬれ、苔に染まりそれでも存在感だけは確かにここにある。鳥居の周りは背の高い木々が取り囲み、周りは薄暗い。葉が風にゆれ、一瞬だけ空が顔を出す。その光は一本の筋となって地面に葉の形を切り取ってはすぐに消えうせていく。
「意外とながいなぁ」
 秋末のつぶやきに、ルチルは顔を上げた。秋末の手には先ほどかった缶ジュースが握られている。まだ飲み終わっていないのか大事そうに握っている。
「でも、まだ五分もあるいてないわ。風景がかわらないからじゃない?」
「そう? そんなもんかなぁ。ま、たしかに疲れて無いけどさ」
 そういって、また秋末はテコテコとリズム良く歩き続ける。秋末の歩き方はイカにも威風堂々といったぐあいで、胸を張り、腕をふり、足を振り上げて歩く。だが、足音はほとんどしない。
「あ、ルチルほらあそこ」
 と、いきなり秋末が立ち止まる。
 彼女が指し示した先を見ると、ぽっつりと鳥居の先が闇に沈んでいた。まるでそこが最後だと言わんばかりに唐突に暗くなっている。
 一点透視の視界のなか、ルチルと秋末はその消失点へと向かって歩いている。
 完璧に均整の取れた視界の中を歩いていると、本当にこの道のりが神域への入り口になっているのではと思えてくる。それともそんな催眠作用でもあるのだろうか。ルチルは首をかしげながら、周りを見回す。
 代わり映えの無い鳥居、次第に近づいてきた消失点は輪郭を少しずつ浮き上がらせてきていた。
 大きな社があるのかと思っていたが、そんな物は無いようだった。薄暗くて何か判らないが、少なくても鳥居が続いているわけではなさそうに見える。
「なんだろ……」
 もとより地図に記載されて居ない、大きな本殿があるとは思えなかったが、コレほどまでに鳥居が並んで居ればそれこそ有名になってもよさそうな物である。
 我慢できず走り出した秋末の背を見送りながら、ルチルは自分の居る場所を何度も検索していた。
 結局山の中という検索結果しか得られなかったが、そんなもんだろうとルチルも秋末の後を追う。
 石畳だった地面は、既に石と土の比率が逆転し、鳥居も塗装と木の比率が逆転していた。相変わらず空は木々の葉に覆われ見えず、空気は冬だと言う事を忘れさせるほどに湿っていた。
「え」
 驚いて立ち止まった秋末が、ゆっくりとルチルの方を振り返った。
「どうしたの?」
 思わす問うルチルの言葉に、鳥居の柱に体をよせて先を見せる秋末。
 彼女が示した先にあるのは、
「え……なにそれ」
 不思議な形をした鳥居だった。
 それは、既に鳥居と言うよりはなにかもっと別の建造物にすら見える。圧倒的な存在感、ストーンヘンジやピラミッドなどに通じる、太古の神へ通じる手段のような厳かな匂い。
 鳥居ではある。それは正面から見ればそうであったが、円柱の柱は三本。貫と呼ばれる下段の柱をつなぐ木の棒は、正三角形に配置された柱三点に三角を描くようにそのまま差し込まれている。上に乗る島木と呼ばれる物も、同じく正三角形を描き、鳥居のような門や境界を示すような線の形ではなく既にその場がそうだという、面を示す印にも見えた。
 正三角形の鳥居。
「これ、三柱鳥居じゃない……」
「みはしら?」
 ルチルのつぶやきに、秋末は首をかしげた。

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