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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 風は、葉に当って始めて声を上げる。光は、葉に当って始めて輪郭を得る。
 地面は、葉に埋もれて地平を得、空は葉の上に体を広げる。
 木が揺れている。冬だと言うのに冷たいと言うよりは涼しいぐらいの風に、葉がざわめき風を歌う。秋末とルチルは無言でその場に立ち尽くしていた。
 
 三柱鳥居は、鳥居という名が付いているが、既にそれは鳥居の「神域への門」や「神域の結界」という意味合いは見て取れない物だった。
 三本の柱は正三角形の頂点の場所に配置され、島木と貫が辺を描いている。
 それは丸で、鳥居が組み合わさったと言うよりは、溶けあったと言うようなイメージに近い。
 他の鳥居より、三柱鳥居は一回り低い。それがまた、ここが終着点なのだと言う印象を強くしている。
 三つの柱に囲まれている中心点に、両手で収まりそうな小さな砂山。そして、周りに賽銭がなげこまれている。
「へんな鳥居」
 秋末はそんな事をいいながらも、目を離せないで居る。
 古ぼけた鳥居だと言うのに、なぜかそこに不思議な存在感が存在している。ルチルですら感じるこの感覚に、人間である秋末が何も感じていないわけもない。
 両腕を交差させ、秋末はじっと鳥居を見上げて言る。
「ねぇ、ルチル。なんでこんな形してるの? これ」
「諸説入り混じってはっきりしないの、古墳を向いているとか、夏至や冬至の日の入り日の出の方向だとか、おっきな神社のある山をさしてるなんてのもあるんだけど。他にも外国から来たっていうのもあるし」
 首をかしげる秋末。あまり関心が無いのか、良く判らないといった表情のまま、ふぅんと薄く頷いた。
「でも、何かを指してるようにはみえないけどね。外側になにかってより、中央になんかあるんじゃないのこれ? ほら、なんか土もってあるし」
「湧き水の水源を祭るってのもあったはずよ。三方を囲んで、どこからでも拝めるようにっていうことじゃないかな」
「ふーん。ね、他にもあんのこういう鳥居」
 秋末の言葉にルチルは頷く。現存確認されているのは、現存七基。
 『木嶋社』
 『三囲神社』
 『大神教会』
 『和多都美神社』
 『大和三柱鳥居』
 『穂積三柱鳥居』
 『神山三柱鳥居』
 そして、既に現存はしていないが『諏訪神社 蛭子社』に一基。
 昔修復された物もあり、やはりそこに統一した意志は見出せず、理由ははっきりとしない。
「なんだ、結構あるのね。まぁいっか、取りあえず賽銭なげておこっと」
 ポケットから小銭を取り出し、秋末は三柱鳥居の中央へ投げ込む。
 乾いた音といっしょに、小銭が地面に転がる。
 二拝二拍手一拝。
 ルチルもあわてて、後を追うように拝む。

 ◇

 ゆっくりと吹いた風は、山の斜面をなでおろし草木を揺らす。
 どれぐらい立ったのかと、不安になって時間を調べるものの結局車を降りてから一〇分も立っていない。
 不思議な時間感覚に、ルチルは記憶をたどってみるが特に変な部分は見当たらなかった。
「そろそろもどろっか、おなか減った」
 秋末の言葉に、ルチルは頷く。すっと横を通って、秋末が山を下り始めた。規則正しい足音は、風に消えるほど小さく、背の高い体が揺れている。
 小走りに秋末の背を追いかけて、鳥居の回廊を抜ける。耳に届く、風切音が鳥居の数を教えてくれているように、同じテンポで音を立てていた。
「まってよー」
 出来るだけ土をふまないように、ルチルは選びながら急ぎ足で追いかける。
「はらへったー」
 全く待つつもりはないといいたげに、秋末は山を下っていく。
 頭の後ろで手を組み、すきっぷするように歩く彼女は歩いているのに駆け下りているようにすら見える。
「まってー」
 必死で追いかけようとするが、ぜんぜん追いつかない。

 ゆっくりと眼下に、自動販売機の背が見えてきた。
 秋末は既に自動販売機の横にあるゴミ箱に空き缶を捨てていた。ため息交じりに、ルチルは山を下る。
「おそいよ、もー、むり、はらへった」
「はいはい」
 ため息混じりに、路肩に止めてあった車に乗り込む。
「あとどれくらいなの?」
 助手席に乗り込みながら、秋末が言う。
「あと五分もないよ、ほら、あそこに屋根が見えてる」
 少し木にかくれてはいるが、確かにルチルが指を刺した方向に、黒い屋根が見えている。それを覗き込むようにして秋末は確認した。目に見えているので安心したのか、文句も言わず彼女は椅子に体を預ける。
 ルチルがアクセルを踏むとゆっくりと、車が動き出した。エンジンがあげる音が単調で、規則的な子守唄になる。
 トトトトトと、音を立て車が道路をすべるように走る。ゆっくりと流れる風景を見ながら、ルチルは先ほどの記憶を何度も反芻していた。
 三柱鳥居は、数が少なく、そしてあんなふうに鳥居が並んでいるようなのは、知っている限りなかった。たいていは、単品というか単独でそこに立ち遺跡のようにすら見えるその姿をさらしている。
 しかし、あの三柱鳥居だけはちがった。そこが神域であると伝えるように並んだ鳥居、そしてその先に鎮座していた。
 大体、ライブラリからしか手に入らない情報しかてもちにはなく、新しい何かを思いつくわけでもない、ルチルはため息混じりにアクセルをふみ、車を前に滑らせた。
「ねぇ、ルチル。あの鳥居ってもしかして、すごい発見なわけ?」
「本物なら……でも何も確証がないから、年代鑑定とかしないと」
 そんなもんなのかね、と秋末はつぶやく。
 ゆっくりとカーブをぬけ、蕎麦屋の屋根が顔を出してきた。

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