スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

連載小説「保健室のロボット先生」

 今年の連載はコレで終了になります。
 来年はまた通常平日更新で頑張りますのでよろしくお願いします。

LOG

 凛と張り詰めた空気の糸は、まるで辺り一体を絡めとるように広がっていた。
 それは丸で動けば引き裂くというような、脅迫めいた静止。風すら動くことをやめ、ルチルと秋末は息を殺し無言で何も無い山の斜面を見上げている。
 何も無い。
 そう、何も無いのだ。
 あの時、自動販売機の裏に見つけた鳥居の回廊が無くなっている。ルチルは記憶を確認し、自動販売機が同一の物だと言う核心を得る。それでも信じられず、位置情報を何度も取り直し行きの時に確認した情報と照らし合わせる。
 結果はどれだけやったところで、同じ場所だという確信にしかならない。
 無音が静寂を呼び込み、凛と張り詰めた空気はゆれることすら許さずその場にたたずむ。息すら苦しいのに、大きく口を開ける事すら出来ない。

 恐怖にもにたその場所の空気に、二人は身動き一つ取れないでいた。
 と、低い音を立てて自動販売機が唸る。温度によるスイッチが入ったのか、保冷装置に火が入った音が響いた。冷やした液体を管に流し込み、缶の並ぶ内部を冷やしていく。冷えた空気がゆっくり揺れ始め、それが張り詰めた空気の糸を切り取って行った。
「……」
 けれど言葉は出ず。秋末はじっと山をにらんでいた。
 緩やかで一定な振動音は、次第に耳になれ消えても居ないのに意識できなくなっていく。
 それは、鳥居が消えた感覚にもにた、水をつかむようななんとも頼りのない感覚だ。
「ちょっと、のぼってみようか」
 秋末が静かにつぶやいた言葉に、ルチルは横に立って無言で頷く。ゆっくりと、歩き出した秋末の後ろをおい、ルチルは辺りをせわしなく確認していた。
 けれどそれも、無駄だと次第に諦めがやってきた。
「何も無いね」
 何も無いのだ。その視線の先にあるのは、ただのあれた山の斜面である。枯れ草と枯葉が腐り土となり、木聳え立ち、根が顔を出している。ただの山の斜面なのだ。
「本当にここ、なんだよねぇ」
「うん。私が壊れてなければ……」
「ちょっと、怖いこといわないでよ〜」
 ギャグだととったのか、秋末は苦笑いを返す。だが、ルチルはそれ以外にこの場所が行きの時の場所と違うという理由が見つからなかった。
「私も同じだとおもうし、ヤッパリ鳥居が無くなったんじゃ」
 いいながらも、秋末はあせるような足取りで山を登っていく。勢いは体力が減るとその分増えるのか、次第に大またにそして早く、気が付いた時にはルチルはかなりの距離を開けられていた。
「ま、ってー」
 木をつかんで体を前に、足を踏み出しては上へ。
 必死で繰り返す物の、秋末に追いつく気配はなくあわててルチルは叫んだ。
 声が届いたのか秋末が振り返りルチルを見下ろす。
「なに、ルチル遅い……え?」
 見下ろしていた秋末の顔が驚愕に包まれる。その反応に、ルチルは後ろを振り返った。
 空は青く、冷えた空気は揺らぐこと無く空を透かす。白い雲は太陽の光に輪郭を彩っている。開けた空を額縁のように縁取るのは冬の寒さに落ちた木の枝。
「え……」
 思わず疑問符が口からこぼれる。あの時青く茂っていた木は、どこへ行ったのか。あの時見た風景と全く違うそれに、二人はしばらく呆然とその場に立っていた。
 風が揺らすのは葉のざわめきではなくて、枝同士が踊る乾いた音。
 その風景は何もかもを否定する。
 この場所ではないのだと、その風景が叫ぶ。ここではなく、どこでもない。電子脳が軋みをあげた。
 
 結局のところ、二人は諦めて山を降りた。
 単調な風景の続く高速道路を、ラジオの電波を拾いながら車が走っている。
「けっきょく――」
 助手席は、限界まで倒され既に水平に近い形になっており秋末はそこに体を預けるような形で、寝転がっていた。
「なんだったんだろね」
 幻を見たのか、それとも場所を取り違えたか。
「狐にでも化かされたかね」
 そういって、秋末は笑う。だが、その笑いも少し力が無くため息が混ざっていた。
「ヤッパリ、違う場所のぼったのかな」
 ルチルはアレから何度も確認を繰り返していた。ルチルの持つソフト郡が高性能ではないからという言い訳が通じないほど何度も、やり方を替え順番をかえ、場所が同一なのかどうか、調べていた。地面の傾斜率は同一だが、木の量が違う。もちろん葉がはえているかどうかと言う話しでいうのなら、全く別ではあるのだけど、何本かは確かに同じ木が存在していた。
 入り口は全く同じ地面形状にしても同一、しかし木々は全く違う様相を見せ、鳥居は無かった。まるでそれは、時間が違うといったようなそんな雰囲気。残った木と、地面だけがあの場にあったと言われれば納得できそうな具合だった。
「絶対いっしょでしょ。他に分かれ道がなかったんだからさ」
「それはそうだけど……」
 力無いルチルのつぶやきは、横を通り過ぎる車の爆音にかき消される。
「ま、コレだけは考えてもしかたないね。取りあえず、日が落ちるまで進みましょ」
 と、考えを放棄した秋末は手をひらひらと振り、ため息を一つ。
「もしかして最初に見た方が幻だったのかな」
 ゆっくりとカーブを曲がる車は、じわりと遠心力で二人を引っ張る。それに負けた秋末が寝返りを打つようにルチルを見た。
「それはないね」
「どうして? どっちがほんものだなんて」
「だって――」
 そういって秋末は、ポケットに手をいれた。
 しばらく探り、取り出したのは。
「ほら。嘘じゃないでしょ」
「それって……」
「そ、ひろってきちゃった」
 秋末の手に握られているのは、あの時三柱鳥居の中央に投げ込まれていた投げ銭だった。
 今使われている硬貨とは待ったく違うその形に、ルチルは息を呑んだ。
「良くわかんないけど、古い硬貨っぽいよね。ま、今でも手に入るならなんんら不思議では無いんだけど……でも、確かにあそこに私達はいたって証拠にはなるでしょ?」
「そ、それはそうなんだけど」
「なに?」
 ルチルは、眉を寄せ秋末を見る。
「それって、賽銭泥棒なんじゃ」
「……」
 車は高速道路を走り続ける。アスファルトをきるタイヤの音は一定で、まるで耳に届かない透明な音。空では、太陽がゆっくりと傾き始めその下を、二人を乗せた車は走り続けている。



 了

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL