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連載小説「保健室のロボット先生」

と言うわけで、今年最初の連載です。まだロボット先生は続きます。
いい加減、保健室関係ないんじゃね? って言われそうなんでちょっと、アレなかんじで。
LOG

 休暇の後の学校ほど、倦怠感漂う場所も珍しい。そんな空気をすっていれば、体中が倦怠感にさいなまれることは間違いなく、保健室の扉が開く音すら倦怠感に満ちていた。
 ルチルは軽く体を伸ばしながら、いつも通りに小さな専用の机へと座った。
 始業式は既に終わり通常授業が始まってる。冬休みの長いとは言えない連休ではあるが、それでも授業に復帰するにはそれなりに気力が必要なのだろう、聞こえてくる喧騒も今日は意外と静だった。特に睡眠時間をずらすでもないルチルにとっては、学校へくることにそれほどの抵抗はなかったが、学校を覆い尽くす倦怠感に負けあくびを一つ。

 冬の寒さは今だ衰えておらず、関節の節々がたまに軋みを上げていた。温度調整の上手く行かない体は、こういう時だけ不便で仕方がない。軋み事態は、特に問題にならないのだがどうしても体全てに振動が伝わる、それはきっと人間には判ってもらえないなんとも言えない気味の悪さだとルチルは思う。
 とうのルチルだって、痛みは判るものの病気の苦しみは判らないのでどっちもどっちであるのだけれど。
 
 ルチルは、後ろで纏めていた髪の毛を開いた手でいじりながら、何をするでもなく校庭を眺めていた。
 一応市の委員会から届くメールや事務書類などを適当に片付けながらなのだが、椅子の背もたれに体を預け片手はキーボードを、もう一つの手は髪の毛の房をいじっている。視線は、校庭へとそそがれ、どう贔屓目に見ても彼女が仕事をしているようには思えなかった。
 寒空のなか、既に体育の授業なのか校庭に生徒達がばらばらと姿を現してくる。まるでそれが、
郡体の統率が取れた動きに見えてルチルは薄く笑う。
「さて、と」
 生徒達が寒空の下、授業を受けているのに自分が不真面目に仕事をするのはと、ルチルは姿勢をただし広げてあったノートPCに向かい合った。
 ディスプレイには、何通ものメールと電子印鑑受領待ちの書類、そしてセミナーお誘いの広告が並んでいる。
 それに真正面から向かい合うと、彼女は両手をキーボードへと預ける。軽やかな、キータッチの音が静かだった保健室に響き始めた。
 
 笑い声、廊下を歩く足音、世間話、咳払い、くしゃみ、黒板を叩くチョークの音、紙をめくる音、ホイッスルに歓声、風が揺らす窓の音、それら全てが一つになってやっと喧騒になる。ルチルにとっては、聞きなれた喧騒だ。一つ一つの音は、全く連続していないのに、なぜか耳に届く音の総量は変わらない。ある一定の波をもって、雑多な音は一つのBGMを形成しているのだ。
 その一定したBGMが途切れ、ルチルは思考を引き戻される。
 一定のリズムで刻まれる硬い音は、足音だろう。廊下の上を歩く、硬質で乾いた音ではなくて外を歩く砂利を踏む音だ。
 その足音が近づいてくる。
 なんだろうと、ルチルが窓を覗きこむとジャージ姿の男子生徒が二人保健室へ歩いてきていた。
 そのまま二人は、校庭側へ開いている保健室の扉をノックした。
「はいはいー」
 ルチルは立ち上がり扉を開き、二人を招きいれた。 
「どうしたの?」
 見ると、一人の生徒が肩をかしていもう一人を支えている。
「足挫いたみたいなんですけど」
 見た感じ、変な方向に曲がるでもなく腫れているわけでもなかった。靴を脱ぐ時も、普通に脱げたところを見ると大事ではないと、ルチルは心の中で安堵の息を吐いた。
「あ、其処にすわらせてあげて」
 言いながら、ルチルは手を洗う。備え付けの小さな水場には、消毒用の洗剤とタオル。それと、インスタントコーヒー。なんだか少しかっこがつかないと、苦笑しながら彼女は洗った手を服。ホンの少し、コーヒーの匂いがして、さらに苦笑。
「えっと……」
 担任への届けようの紙を棚から取り出すと、連れ添いの少年に差し出す。
「コレに、クラスと……ここに名前。書いてね」
「はい」
 付き添いの生徒に紙を渡すと、ルチルは足を挫いた生徒の足元にしゃがみこむ。
「靴下、脱がすね」
「……」
 居たいのか、無言で頷く生徒を確認しルチルは靴下を脱がす。運動靴に入った砂で汚れた靴下を取ると、少し赤くなった足首が出てきた。
 軽く触り、反応を見ながらルチルはシップがあったかどうか必死で思い出していた。古くなっていたら、まだ氷水のほうがましである。
「先生、書きました」
「あ、はいはい。そこにおいといて」
 言いながら、ルチルは立ち上がる。シップや包帯などが入ってい棚をあさり始めた、ルチルの背後で生徒達が何かを話していた。
「うわ、すげー赤くなってんじゃん」
「いてぇ」
「だから今日はやめとけっていったのにさ」
「偶然だろ、偶然」
「偶然で噂どおりの場所怪我するってのもな」
「偶然じゃなかったら、なんだよ」
「だからさー」
 たわいもない会話を背中で聞きながら、ルチルはシップの袋と取り上げる。裏を確認すると――
「去年の、夏……」
 期限はとっくに切れていた。そういえば買い換えないと、とおもってそのままにしていたのだ。ため息をつきながら、袋をゴミ箱へ。
「せんせ?」
「期限切れ。ちょっとまってね、アイスノンか氷水作るから」
 疑問の声に振り返り、ルチルは笑ってごまかした。
 気を取り直しルチルは冷蔵庫を開ける。そこには保冷剤が入っている……はずだった。
「えぁ」
 熱さましようの保冷剤は跡形もなく、変わりに見慣れた白い塊が見える。
 生ものを運ぶのに使う保冷剤だ。熱冷まし用の保冷剤とは温度も持ちも違うが、やりすぎれば凍傷にもなる真っ白な塊が冷凍庫には鎮座していた。
 食べられませんの白い文字が嫌に鮮やかに見える。
 ――しかたない、か。
 氷水よりは、扱いやすいだろうとルチルはそれを取り出す。
「げ、先生それ宅急便とかにいれるやつじゃん」
 そして、目ざとく見られた。
「あ、あははは。大丈夫。しにはしないから」
 タオルを一枚取り出し、保冷剤をくるむとルチルは座っている生徒の足にそれを縛り付ける。
「お昼前には、溶けると思うから、そしたらまたきて。それまでに腫れが引けばいいんだけど」
「はい、ありがとうございました」
 ゆっくりと付き添いの生徒の肩に担がれ二人は保健室を出て行く。
 無言でルチルは二人を見送ると、ゆっくりとため息をついた。
「とりあえず」
 アイスノンをもっていったであろう生臭教師を問い詰めなければならない。
 

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