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連載小説「保健室のロボット先生」

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 恐怖はどこからくるか、そんなことを考えながらルチルはいつものように保健室にある自分の机にむかってノートPCを叩いていた。
 基本的に寂れた保健室なので、仕事は十分にはかどりおかげでやらなければならないことは、ほとんどない。学校の見回りと日誌、たまにやってくるレポート提出と備品検査。少なくても、忙しくて何も出来なくなるなんていうことはないのだ。
 だからこそ、彼女は暇な時間を思考でつぶす。

 趣味がただのインスタント食品あつめなので、時間をつぶせる物がないというのが最たる理由のきもするが、本人は余りその事に関して問題を感じていない。
 恐怖はどこだろう。ただそれだけをルチルは頭の住みで考えていた。驚きとは違うだろうし、生命の危機ともちがう、もっとべつの何か。ノートPCのディスプレイにうつってるのは、学校の怪談がまとめられているサイトだった。
 ルチルは、さきほど秋末が言っていた怪談が気になって調べているのだ。
 ボールが階段を転がるという旨の、ぴったりな怪談は見つからない物の、ボールのはねる音に関してはそれなりに記述を見つける。
 いわく、ボールが跳ねる音がする方へ歩いていくとそこには自分の首でドリブルをするバスケ部員が居た、だの。万年玉拾いだった野球部員の霊のでる校庭。体育準備倉庫に閉じ込められ、ボールに噛り付いて餓死した子供。校庭から飛び出たボールを追いかけて車に引かれた子供。
 数え切れないほどの数。そのどれもが、いじめや事故なのは、やはり不吉の象徴だからだろうか。それとも、それこそが恐怖の元になるものか。
 ルチルは首をかしげながらノートPCを操作しサイトを次々と眺めていく。
「んー」
 けれど、彼女にはやはりその恐怖と言う物が判らない。もしかしたら、ホラー映画やお化け屋敷にいけば、なにか判るのかも知れない。
 
 一度、画面から体を引き。彼女は体を伸ばす。既に時間は昼休み、日が昇りきり保健室に直接太陽はさしこんでいない。暖かいはずの時間だが、日陰になっているので意外と保健室そのものの空気は温まって居なかった。
 寒さにすこし固まった潤滑液が、ごりっと体の中を動く。その感覚に眉をしかめながら、ルチルは椅子から立ち上がった。
 サイトを回ってもオカルト関係は、学校のサイトフィルタをかけられてほとんど詳しくは見れない。たまに、フィルタのリストからもれたサイトをチラッと見る事が出来るぐらいだった。電話回線をつかって別のところへアクセスするのも手だったが、ルチルは其処までするのは面倒くさいと諦めたのだ。
「失礼します」
 扉がノックされ、体を伸ばしていたルチルはそのままのポーズで背後の扉へ振り返る。
「はーい」
 扉から顔を出したのは、朝に足を挫いた生徒だった。
「先生、あの」
「はいはい、そこに座って」
 そういって椅子を進め、ルチルは冷しておいた熱冷まし用の保冷剤を冷凍庫から取り出す。
 朝、秋末に奪われていたそれは、しっかりと固まっていた。
 少しうつむき加減の生徒は、自分の足を見ながら無言。挫いていない足のほうをぶらぶらとさせながら、彼はルチルの到着をまっている。
「お待たせ。まだ痛む?」
 彼の足元にしゃがみこみ、括り付けられている保冷剤を外しながらルチルが言う。
「まだ少し……、ねぇ先生。足大丈夫なのかな……」
「ただの捻挫よ。へんに動かさなければ明日にも普通に歩けるわ」
 心配そうな生徒の声を聞きながら、ルチルは手際よく保冷剤を足首に巻きつけていく。既に腫れは引き始め、赤かった患部もない出血を起こした部分を残して通常の肌の色へと戻っている。
「でも……」
 何が不安なのか、彼の顔色は優れず声にも元気はない。
「どうしたの? さっきいってたボールの話し?」
 ルチルが言うと、はたからみても判るほどに彼は体を硬直させた。
「ね、先生その怪談知らないんだけど教えてくれる?」
「……ロボットでも、幽霊とか信じるんですか?」
 ルチルは苦笑を返す。実際信じる信じないも、観測できるかといわれたら首をかしげるしかなく、今まで一度も観測したことはない。
 ふと、ルチルは麻の事をおもいだした。二人いた麻。あるはずの無い山にのぼったり、知らないホームへ降りたり。それは確実にルチルが経験したことだと記憶している。
 だから、ルチルはうなづいた。
「信じる。というより、無いなんて私には証明できないから」
 その言葉に判ったのか判って無いのか、生徒はあいまいにうなづいて怪談を話しだした。
 その内容は、やはりルチルが調べてきたサイトにあった怪談ににた内容で、特に新たな発見は無い。夜の学校で、上の階からボールが転がってくるのだという。階段をまるで下りてくるように、とんとんとんとん、と同じリズムでゆっくりとボールをつく音が階段から聞こる。ボールを見つけ、追いかけるとなぜか一階よりも下へ階段が伸びている。
 しかし、その階段を下ってはいけない。その下は昔墓地だった土地に建った学校の、慰霊堂へとつながっているのだと言うのだ。慰霊堂は既に昔に入り口を閉ざされ、いまだ成仏できない霊の巣窟になっているという。もし、一歩でも階段を降りれば踏み出した足に。膝まで降りれば膝に、最後まで降りきれば全身に呪いが降りかかるだろう。
 
 よくある、あるはずの無い階と階段の段数が混ざったような話しではある。ルチルは首をかしげて生徒に聞いた。
「ね、ボールはなんか関係があるの?」
「昔その慰霊堂へ降りてしまって戻ってこれなくなった女の子が付いてる鞠なんだって」
 その子は、屋上にまつわる七不思議にも出る少女で、実のところ音楽室で童謡を歌う少女でもあるらしい。なんとも、省エネな七不思議だとルチルは思う。
「ふぅん。そっか。でも大丈夫よ、呪いがあるとしてももう怪我は治りかけてるでしょ」
 そういって、軽く彼の足首を叩く。
「いたっ」
「ね?」
 痛みは既に引いているはずだ。大体保健室まで一人で歩いてこれたと言うのに、心配性にも程がある。
「……はい」
 納得したのか、諦めたのかとにもかくにも生徒はゆっくりと椅子から立ち上がると礼をいって保健室を出て行った。
 ――慰霊堂ねぇ。
 大体、墓地なんて地盤の緩そうな場所に学校を建てるという考えがおかしいのだ。災害時に、避難場所にも指定されるような場所がそんなことでは問題がある。
 だからといって、幽霊が出ないという証明にもなら無いわけだが。
 折角だから、秋末でも驚かしてやろう、そんな無意味過ぎる考えに一瞬ルチルは笑った。

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