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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 いまだ日が落ちるのは早く、夕暮れかとおもったときには既に夜になっている。車のヘッドライトが、アスファルトのおうとつをクッキリと浮かび上がらせている。まだ日がおちて間も無い、薄暗い町をルチルの車は綺麗な曲線を描きながら走っている。
 地面を削るタイヤの音は一定で、エンジンの振動だけが車内を揺らしている。身を任せばそのまま眠ってしまいそうなほどの安定がここにはある。排ガスと鉄が駆動する音、油の匂い。その全てが、ルチルにとっては心地の良い物だった。
 街灯が光の尾を引いて後ろへと流れていく。走っているのは自分なのに、なぜか町が後ろへと流されているようにすら見える。対向車線を通る車がたまにヘッドライトを投げかけてくきては、車内を一瞬だけ白く染めてはすぐに去って行く。
 車どおりは少なく、のんびりと走っているルチルの車が追い抜かれるような事はなかったし、後ろから煽られるような事はなかった。

 そんなゆっくりとした時間のなかで、ルチルは怪談を思い出す。
 嫌に統一性のある七不思議に若干の不安があるのだ。調べた中では、そんな統一性のある怪談なんて目にかかった事は無い。
 常に出てくるのは一人の女の子で、その女の子がどういったいきさつで幽霊として出現しているのかにかんしては、全く語られて居ない。
 ただ、屋上に居たり、階段を降りてきたり、さらには音楽室で歌を歌ったり。後は、図書室とプールに出没している。七つのうち、五つも出ずっぱりな彼女は一体学校にどんな恨みがあるというのだろうか、少なくてもただならぬ恨みであろうとルチルは自分の考えに首を縦に振る。
 そんな事をしてるまに、ルチルの車はマンションの駐車場に止まる。
「急がなきゃ」
 独り言を呟きながら、ルチルは小走りに駐車場を横切りエレベーターへ。
 エレベーターの中の、なんとも言えない凝り固まった空気に包まれていると、自分の部屋のある階につくの前にエレベーターが止まった。
 減速による軽い浮遊感と一緒にモーターの唸りが聞こえた。
 重苦しい音をたて、エレベーターが開く。
「あれ?」
 しかし、エレベーターには誰も乗ってこなかった。
 不思議におもいルチルは、エレベーターから首だけをだして周りを確認してみるが、やはり周りにはだれも居ない。エレベーターが来るのが遅くて階段でいってしまったのだろうか。首を傾げてみる物の、答えが出るわけでは無い。
 と、いきなり衝撃がきた。
 視界がぶれ一瞬思考が停止する。
「たっ」
 耳元で、扉の動く音を危機ルチルはエレベーターの扉に顔を挟まれたのだと理解する。
「うぅ」
 予測していなかった痛みに、ルチルはしゃがみこんだ。
 足元しか見えない視界のなかで、扉が閉まる音が聞こえる。
 

 
 充電中あまり部屋の中を動き回れないのが、ルチルは苦手というより不満だった。確かにコードの距離はそれなりにあるのだが、有線であるが故部屋というし切られた空間を移動するにはどうしても扉をつかうことになる。
 だから、目的地まで直線では余裕の距離でも実際のところもっと遠回りをしなければならないのだ。大体、充電されている感覚というのはけして人間の食事のソレに当るわけでもなく、ある種の充足感を得ることもできない。
 数字としてはじき出された残量が増えるだけの話しでしかない。充電電池の中にまで、神経機構を組み込むほど酔狂な開発者は今だ現れて居ないのが現実だ。
 本来動き回っては充電する時間が延びるが、実際出力と入力からいってどれだけ頑張っても平然と電池には化学反応が起こり、しっかりと電力は蓄えられていく。
 つまるところ動けるのだ。でも、コードがあるから動けない。
 このジレンマが、ルチルは嫌いだ。どうせなら動けなければいい。はっきりとしてほしかった。
 部屋に備え付けてある電圧安定装置から、腕に伸びるコードは軽く細く、そして頑丈に出来ている。接続部分も簡単に外れるようには出来ておらず、動いても構わないという意思表示しか感じられないのだ。だと言うのに、動こうとすれば見計らったかのようにコードは壁に引っかかり椅子に引っかかり、たんすに引っかかりルチルの腕を引っ張るのだ。
 コレではまるで、犬ではないかとルチルはいつもおもう。秋末のためにも、急いで充電を追え学校へ向かおうと、無線関係のシステムを全てスリープさせていた。その所為で、単独ネットにもつなげず電話も出来ず、テレビも見れない。
 やる事が無いのだ。
 あせりが、暇という時間を加速させている感覚。いつもなら、のんびりと待っていられると言うのに、今日に限ってはなぜか時間の歩みがあまりにも苦痛に感じるのだ。
「うーあー」
 床に転がり、腕を寝室の方向へ伸ばしコードぎりぎりのところへ向けている。テーブルの下にもぐりこみ、眉をよせ彼女はテーブルの裏を見上げた。
 木で出来たテーブルの裏側は、コーティングもされておらずそのままの木の肌が露出していた。
 なんだか見ては行けない物を見た気がしてルチルは視線をそらす。
 と、いきなり部屋の電気が暗くなった。
 それはブレーカーが落ちたようなデジタルな変化ではなくて、ゆっくりと電圧が下がったようなそんな緩やかな変化。
 停電だろうかと勘違いしたルチルは、テーブルからゆっくりとはいでる。
 ちょうどできったところで、ライトは光を取り戻し、停止しかけた冷蔵庫が唸りを一つあげる。
「?」
 何がおこったのか判らず、ルチルはそのままテーブルから這い出た格好で部屋へと戻って行く。
 そろそろ充電が終わるころだ。
 部屋に戻り、ルチルは腕に付いているコードを外す。外す瞬間に、体にぴりっとした感覚が走る。
 先ほどの電圧降下によるものだろうかと首をかしげ、ルチルはため息をついた。コレから、学校にいくまえに、秋末の為に買出しをしなければならないことを思い出したのだ。
「めんどくさいなー」
 人間も充電式にすればいいのに。そんな事を考えながら、ルチルは出かける用意を始めた。
 
 一体何を買えばいいだろうかと考えながら、ルチルは部屋を出る。
 すっかり暗くなった空は、ぽっかりと穴が開いたように何もなかった。相変わらずにこの町は田舎で、静かで、真っ暗なのだ。
 学校の行く道すがら、どこで何を買おうか、そんな事を考えながらルチルはエレベーターを呼ぶ。モーターの唸る音が静かな夜に響き始めた。

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