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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 足音が聞こえる。規則正しい連続音だ。リノリウムの冷たい床を、ゴム底の靴が叩く音。
 硬質で冷たくて、嫌にとがった音が――
 二つ。
 立ち止まったルチルには、確かに聞こえた。二人分の足音が聞こえる。
 音源の特定をしようと、聴覚機構の解析深度をあげて行く。けれど音源が二つあると言う答えしかなく、一つは自分の前方5mという秋末の足音ともう一つは、位置不明という結果が返ってくる。ノイズか、エコーだということもある。秋末の足音が、静かな階段に反響して耳に届いているだけだということもあるはずだ。
 秋末が立ち止まってるルチルにきがつき、振り返った。
「どうしたの?」
 足音が聞こえる。
 
 秋末は、立ち止まって振り返っているのに。
 
 足音が――
 
 トン。
 
 聞こえる。
 
 トン。
 
 場所が判らない。恐怖というよりは、その不可解な事実に対して納得ができない。ルチルは周りを見渡し音源を探る。
 両耳の角度をかえ方向をかえ、足音の音源を探る。だが、その音源を捕えることができない。解析深度は既に足音の持ち主がどんな靴をはき、どんな歩き方をしているのか割り出せるほどの情報量まで到達。しかし、反響ノイズの所為かやはり音源を特定できるほどの情報はない。というより、音源特定のためのソフトなんてルチルは積んで無いのだ。エコーからの逆算と、両耳へ届く遅延と音量から必死に計算を試みる物の、計算は終わりが見えない。
「……ルチル?」
「足音が」
「うん……」
 秋末にも聞こえているのだろう。概算しても下から足音がくるのか、上からくるのかすらわからない気味の悪い足音に、ルチルは辺りをきょろきょろと見回す。
「上か」
「上?」
「見に行こう、ルチル」
 無言でルチルはうなづく。歩き出す秋末の後をおって、ルチルも階段を上る。足音は三つ。ルチルと、秋末と、誰だか判らない足音。
「女の子の幽霊かな」
「さぁね。でも幽霊の方がありがたいかも」
 そういって、秋末が笑った。自分でいった事が面白かったのか、肩を揺らしている。
「なんで?」
「泥棒よりゃ、実害なさそうだしね。正直泥棒や強盗で警察はいってくるよりは、まだ霊媒師が着てくれたほうがまし」
「なるほど」
 確かにそうだ。学校の被害から言えば、どうみても泥棒のほうが被害が大きい。盗まれてなくても、見つけてしまえば警察を呼ばざるを得ない騒ぎになるだろう。試験問題も、万全を期して作りなおしになるだろう。
 でも幽霊なら、二人が驚くだけでいい。最悪幽霊にとり殺されるとしても、こういった場合の幽霊は、死体を残さないのが定石らしい。つまり行方不明で片付けられる。だから、学校に被害はほぼ無いと言っても良いのだ。
 秋末らしいといえば、らしい。例え幽霊騒動になったとしても、くるのはお払いに来る人間ぐらいのものだ。霊媒師とかがきて、なんか死体でもみつけてしまえば警察事になるが、そこは結局おそかれはやかれ警察が来る運命だということことで、諦めも付くのかもしれない。
 其処までの大事は中々ないだろうが、泥棒は一人でもみたらそれだけで大事になる、どっちがいいかと言われれば、幽霊がいいと答えるのも仕方の無い事だ。
 
 一階と二階をつなぐの踊り場から上に。二人は、足音を追いかけて階段を登る。
 足音は確かに聞こえていた。だがもう一つなにか別の、足跡では無い別の音が聞こえてくる。
「……」
「なにかな、これ」
 ルチルが呟くと、秋末が足を止めて振り返った。
「ボール……厚めね。空気が少ないかんじ」
 自分の解析結果よりはっきりした答えをいわれ、ルチルは驚く。
「一応、バレー部の顧問だからね。毎日きいてるから、差ぐらいわかるよ」
「なるほど」
 足音は三人分、さらにボールのつく音。
 既に二人は四階へ続く踊り場へと来ていた。音が聞こえる。
「ねぇ、あとは屋上だけじゃない?」
「そうねぇ。でも、屋上は鍵開いて無いはずだけど」
「そんなこといったら、昇降口だって鍵しまってるじゃない」
 眉をしかめながら、ルチルが秋末の前に立って階段を登る。
「けど、職員玄関の鍵は開いてる。今日宿直だってしらなくたって、普通に職員玄関から入ろうとするでしょ」
「そっか……」
 四階にたどり着くが、やはり音は階段の上からやってきていた。一度確認するように四階の廊下を覗くが、闇色にそまった廊下はすぐに先が見えなくなっていた。
「いくよ、ルチル」
 声をかけられ、ルチルはあわてて向き直る。既に秋末は階段を登り始めていた。あわててルチルは秋末の後を追って階段を登る。
 トン。
 足音がする。
 トン。
 二人以外の、もっと体重の軽い軽やかな足音。そして、その足音に合わせるように、
 トン。
 ボールが跳ねる音が聞こえる。
 踊り場を曲がり、屋上の扉が――
「……え?」
 其処には、屋上へ続く扉ではなく。
「何で……五階」
 廊下があり、天井があり、階段の正面にある流し場が見えている。
「なにこれ……」
 秋末とルチルは踊り場からあるはずの無い五階を見上げて立ち尽くしていた。

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