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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 そんな話しはきいていなかった。ルチルは思う。
 階段に出る幽霊は、屋上から降りてきた少女の霊と言う話しだったのだから。目の前に広がっているあるはずのない五階の怪談なんて聞いた事もなかった。
「七不思議に、こんなのあった?」
 もしかしたら聞き逃したとか、あるはずの無い八つ目とかいうネタかもしれない。
 ルチルが横で階段を見上げている秋末をみると、秋末はじっと上を見たまま口を閉じている。

 足音だけが聞こえている。ルチルにはその音の出所は判らないが、なぜか足音はずっと近づかず遠ざからず聞こえていた。
 まるで五階の踊り場でぐるぐるまわってるかのように。
「……ない。屋上にいる女の子は、階段を降りてあるはずの無い地下へ行くって言う話だもの。他のも出没してるけど、女の子が連続して移動するのは屋上から地下だけ。他の音楽室とかは、全然つながってない」
 呟くような、秋末の声。語尾は、足音にかきけされた。
「音楽室と、図書室と、プールだっけ」
「そう。屋上、階段、音楽室、図書室、プール。屋上と階段はつながってて、別々に怪談になってるけど」
 屋上の怪談は確か――
 
 夜、学校の屋上に行くと飛び降りようとしている女の子がいる。
 あわてて飛び降りをやめさせようと近づくと、なぜかどれだけ歩いても金網にすら近づけない。
 なんとかして手を伸ばすと、其処はすでに金網の外。と言う話しだ。
 もし、生徒が無視して屋上から逃げようとすると、扉が閉まる。
 足を取られ、引きずられ、ゆっくりと屋上から突き落とされるのだと言う。
「死んでるなら、大体怪談にもならないわけで……」
「そゆこと、原典もたしか飛び降り騒動のはずよ。結局教師に止められて飛び降りなかった女の子は確かにいたみたいだけど」
 秋末がため息をついて言う。視線はずっと五階から外れていない。
「そう、作り話。だけど、目の前に無いはずの五階があるのはたしか」
「どうしよ」
「とりあえず、五階よりも足音を立ててる犯人を見つけるのが、教師としてのやるべき事かしらん?」
 ルチルを見て笑った。手にもったライトを振り、秋末は階段を登り始める。
「あ、まって」
 あわてて追いかける。高さ的には、五階見えている場所は屋上だ。だから、錯覚だとしても高さがおかしくなっているわけじゃない。大丈夫だと自分に言い聞かせて、ルチルは階段を登っていく。
 五階から上がっている階段は屋上へ続いているのだろうか。ルチルは先に五階へたどり着いた秋末を追って登る。
 
 トン。
 
 足音が聞こえる。
 
 トン。
 
 自分でも、秋末でもない足音はずっと聞こえている。
 
 トン。
 
 その足音につられるように、ルチルは五階へとたどり着いた。
「あれ?」
 秋末がいない。先に上にあがったのかと覗いてみるが其処には屋上か、六階へ続く踊り場があるだけだ。
「?」
 五階の廊下にでたのだろうかと、ルチルは階段から顔をだしてみる。真っ暗な廊下は先が見えず、秋末が持っていたライトの明かりもなくなっている。
「秋末先生?」
 返事はなく、足音が一つ聞こえるだけ。声は闇に解け、すぐに耳に届かなくなった。無音を背景に、足音とボールを突く音だけが聞こえている。学校の外を走る車の音すら聞こえない。風も音を立てず完全な無音。ソレを規則的に切り割くのは、誰のか判らない足音とボールをつく音だけだ。きわめてノイズが少ない状態だと、音の出所も判りそうなのだが結局音がどこからきてるのか、ルチルには判らない。ただ、やはり階段の上の方なのだと、根拠の無い思いだけが、頭のなかでくるくると渦を巻いていた。
「……どこ」
 声を出してもどうせ聞こえないだろうと、ルチルは階段を登る事にする。
 秋末は、足音の犯人を見つけると言っていたのだ。きっと、五階の廊下へは出ていない。
 自分の考えに頷くと、ルチルは追いかけるように階段を登り始めた。
 登り始めた瞬間。
「――」
 足音の焦点が一瞬にして合った。
 まるで今まで汎用として霧のようだった物が、一瞬にして一箇所へあつまったような感覚。余りに鮮明に音源が特定できたために、ルチルは驚きで動けなくなった。

 トン。
 
 トン。
 
 足音は、ルチルの直上。屋上へ続く扉か六階があるばしょだ。行くしか無い、踏み出した足に力をいれ、ルチルは階段を登る。
 足音は代わらず同じ場所で足踏みをしているようにすら聞こえていた。
「秋末せんせ?」
 踊り場へ、足を踏み出す。背後には、あるはずの無い五階。目の前には踊り場が広がっている。
「せんせ……」
 返事はない。足音が聞こえる。闇が落ちてる。ボールの跳ねる音。返事は、無い。
「……」
 ルチルは一歩を踏み込んだ。踊り場に出て、振り返る。
「!」
 階段が続いている。その先にあるのは、屋上へ続く鉄の扉。そしてその前に立っている、女の子の姿。
「あなたは……」
 女の子は、ボールをついて、その場をぐるぐると回っている。
「何でこんな所に」
 秋末がいないと言う事実が疑問になるまえに、目の前にいる女の子へルチルの注意はむかっている。
「どうして……麻ちゃんがいるの?」
 ボールが跳ねる。
 

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