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連載小説「保健室のロボット先生」

LOG

 ゆっくりと意識は、同じ場所をめぐっている。
 回転していると言うよりは、円周を永遠と歩き続けているような、不毛な感覚。
 いつ終わるともしれない、いや終わりを望んでいたのだろうか。ルチルは、歩き続ける。恐怖も、疲労も、不安も、感覚もない。
 しかし、自分は歩いている。同じ場所をぐるぐると。
 そういえば。
 あの生徒は大丈夫だったのだろうか。
 
 ぱちんと言う、ちいさな衝撃を伴った熱。
 一瞬にして体の感覚が返ってくる。目覚めとは根本が違うが、同じ系列のような感覚。まるで、もぐった後に息を吸った時のような、体中が熱をもって行く感覚。
 自分を認識していくと同時、記憶が数珠繋ぎに思い出される。
 何をしていたのか、何をしようとしてたのか、何が起こったのか。それらが一瞬にして掘り起こされる。
「!」
 あわててルチルは跳ね起きた。と、いきなり感覚の違うからだの動きにつんのめる。
「おハよう、ルチル君」
 掛けられた声に振り返ると、都紙博士が楽しそうにルチルを見ていた。
「え? あれ?」
 自分の状況を確認しようと、ルチルは周りを見回す。いつもメンテで寝かされるベッドの上に、自分が寝ているのを自覚した。
 場所を自覚してからの覚醒は早かった。
「どうしてここに……」
「ユキさんがはこんできたんダ。体はクルマに巻き込まれてしまってね、使い物にならなくなって閉まったので、首だけここにつれてきた。さぞかしスプラッタな状況だっただろうネ」
 そういって、博士はくつくつと笑う。  
「は、はぁ」
 自分の首を抱えて走りまわるユキの姿を想像して、ルチルは苦笑いを返した。
「調子はどうですか?」
 と、ルチルは背後から声を掛けられ振り返る。
 相変わらず無表情なユキがルチルを見下ろしていた。
「え、あはい」
 軽く質問信号を飛ばすと、今までとは比べ物になら無い速度で反応があった。見た目は、特に変わったところもないのに、明らかに出力、反応速度、感度全てにおいてハイエンドとしかいい用の無い答えが返ってくる。
「あれ? なにこれ」
「それ、ユキ君のボディと同じ設計でネ」
「……はぁ」
「……」
「……」
「えぇーーー!」
 驚きに飛び上がった瞬間。
 轟音を立ててベッドがひしゃげた。
「……いや、そのなんだ。君の体の規格が古すぎてね。他に合う筐体が見つからなかったんダ」
「そ、うなんですか……」
 それなら仕方ない、自分を救ってくれたことには間違いは無い。ルチルは取り急ぎ出力制御を片っ端から入れていく。バイパスに暗号門を設置、駆動系への伝達経路変更。体中が麻痺していくような感じをうけるが、ソレでも出力も反応速度も少ししかおちてかない。ゆっくり丁寧に、ルチルは出力制御を加えていく。
「現状の報告は必要でしょうか?」
「あ、はい。あ、でも今ちょっと出力系の見直ししてるんで口頭でお願いできますか?」 
「かしこまりました。ルチル様が、確認された生徒、一宮雄様は先ほど、病院に戻られました。現在怪我の細かい検査が行われているはずです。事故のほうですが、基本的に一宮様が起こした事故とうい形で収集がつきそうです。幸いけが人は……でておりませんし」
 一瞬ユキは言いよどむ。目の前で、怪我――いや壊れたルチルにそういう現状を伝えるのははばかられたのだろう。けれど、聞いている当人は特に反応もなくユキの言葉を聴いている。
「トラックの方は、私が破壊した部分にかんしては、博士が負担してくださるそうですので、ルチル様がご心配するような事はございません」
「そうですか、でも助けてもらってしかも弁償まで……」
「本来、主人の居ないロボットは雇い主がその全責任を負うと言う形になっております。ですが、ルチル様の雇い主は下をたどれば国にたどり着きます」
「もしかして」
 驚いて、ルチルは博士を見る。にやにやと笑っている博士は何も答えない。
「はい。コレをきっかけに、ロボットの基本的存在権の法改正へもって行く予定かと思われます」
 とんでもない話しだ。だいたい、ロボットは現状に不満なんか抱いていないのに。いや、出来るだなんて知らない、知らされて居ないからそういう物だと受け入れられているだけかもしれない。
「ロボットが、ロボット自信で責任を取り、個を確立する事は人を助けることでもあります。現在ロボットを購入したばあい、そのロボットの主が全ての責任を負いますので、ロボットが家にでて何か事故を起こした場合全責任は購入者にかかります。この現状が改善されない限り、ロボットの市場拡大はありえません」
「はぁ……なんか、難しい話しですね。とにかく、助けるためのロボットが、失敗した時人に迷惑をかけてしまうというのが嫌だと」
「……そうです」
 ともかく、ルチルにとっては雲の上の話しには違いなかった。そんなもんなのかと、ルチルは首をかしげふと生徒の事を思い出す。
「そういえば、あの一宮君は登校していたはずなんですけど」
 休みを取った生徒のなかに、その名前はなかった。それは間違い無い。なのになぜ、彼はあの場にいたのか。
「それについては、確認が取れております。一宮様は、午前中保健室にゆくといって教室を出てから行方不明になっておりました。おそらく、保健室でルチル様の変わりの代理の教諭と何かあったものと思われます。連絡が行き届かず、教師は保健室、代理の教諭は教室にいると勘違いしリストから漏れていたと思われます」
 それは、なんらかが一番重要なきもするが、今そのことを詮索している余裕もないだろう。ルチルは、そうですかとうなづいて立ち上がった。
「明日もきてくれたまえ。少しからだの様子を見よう」
「あ、はい。ありがとうございます。急いで学校にもどらないといけないので、今日はこれで」
 ペコリと頭を下げると、ルチルは部屋を出て行った。
 残されたのは博士とメイド。二人は無言で、へこんだベッドをみおろしている。
「博士」
「なにかネ」
「ルチル様のからだは――」
 其処まで型は古くなく、いくらでも変えは手に入るはずなのだ。なのに、
「面白いからにきまっているじゃないカ」
 そういって、笑った。メイドは、手の施しようがないとばかりにため息をついてうつむく。

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