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「共演」「幻想」「舞踏」

 見渡す限りどこまでも続いている平野。だった。ありふれた形容詞は、既に過去形に移り変わっている。今は見渡す限りの人間、である。さらに言うのならば。
 半分は人間だった物。だ。

 血風吹き荒れるとはいったもので、実際に遠目に平原を見下ろせば、赤い風が舞っている。色がついた風、というのもなんだか不思議なきがして、離れた高台から戦況を見下ろしていたツリーアゲートの前線隊の指揮官は、視線をそらした。空は青く、のっぺりと広がっている。
「緑金国の増援を確認しました!」
 叫び声に、思わず指揮官は自軍と相対する原色をちりばめた無粋極まりない軍服の集団をにらむ。あいも変らず、ツリーアゲートの軍勢は勢いづき、緑金国の軍を押している。勝利は確実といったふうだ。しかし、増援が着てしまえば、すでにツリーアゲートの軍の後ろに控えるのは民間人。一気に形勢が崩れてもおかしくはない。血眼になって、彼は地平線の向こうをみやる。けれど遠く、地平線の向こうには増援などみえなかった。
「いないではないか! でたらめなこと――」
 苛立ちに思わず、兵を蹴り飛ばす。こんなことをしても、何も変らないというのは彼にも判っている。だが、とめられるなら苦労はしない。
「も、申し訳ありません。増援は、約……え? 一名……です?」
 報告書を読み上げていた男は、思わず紙に顔を近づける。
「なんといった」
「いえ、一名と……」
「……かえれ」
「……は」
「私の前からうせろといっている!」
 立ち上がろうとしていた兵をもう一度けりつけ、大きなため息をひとつ。いらない報告で、無駄に同様した自分が憎いのだ。
 逃げ帰っていく兵の背中をいまいましげににらみながら、彼は椅子に戻り平野の戦況を見下ろした。
 血吹き荒れる戦場は、赤く染まっている。風が赤いが、風に色がついている不思議が、ああ風というよりは水だ。などとどうでもいい感想に、彼は一人苦笑する。ツリーアゲートの勝利は、既に決まったも同然なのだから。

 骨を砕き、肉を裂き、血を踏みしめる。
 喧騒だけが届き、意味のある命が飛んでくることはない。聞こえるのは、命乞いと叫び声だけ。あとは、剣のぶつかる音だけだ。
 ――気分悪い。
 ヘリオドールは、剣を力いっぱい振り回しながら思う。先ほどからずっと振り回している剣は、耳元で風を切る音を立てるが、それよりも右腕そのものがいたくてもうやめたくなった。
 と、声の質が変るのをヘリオドールは聞く。
 それは先ほどまでの、叫び声とは違い完全に恐怖に彩られた声だ。
 なんだと驚き振り返って、今度はヘリオドールも同じく声を上げた。恐怖に彩られた声を。
「う、わあああああああああああああ!」
 目の前に聳え立っているのは、血の柱。赤い、赤い柱が立っている。
 その柱の中央に、人影が見えた。その血の柱は間違いなく血で、そしてそれを作り上げているのがその人影だということだ。
 驚きと恐怖に、ヘリオドールはしりもちをつき、そのままの格好で後ずさり始める。途中、何度も死体にぶつかり、手の平には血と泥が隙間なくついた。
 必死になって近づいてくる血の柱から、ヘリオドールは逃げる。けれど、それはまるで悪夢のような速度で近づいてきた。
 肉の千切れる音がする。そのたびに、血が空へ舞い上がる。まるで噴水のようだ、ヘリオドールは思う。既に逃げることを本能から諦めたのか、体中に力が入らない。
 血の竜巻ともいえるそれが目の前に近づく。音が聞こえる。肉が引きちぎられ、断末魔すら上げられなかった肺からもれる息が、骨が砕け、体中から液体を噴出す音が。
「……」
 目の前に迫ってきた。

 ◇

 それは誰もが後に、首を振ってありえないと口をそろえるような出来事だった。
 緑金国からやってきたった一人の人間に、数万の兵が蹴散らされたのだから。
 到着から数十分。平野は、下の静けさを取り戻していた。
 身の丈よりも巨大な剣を振り回す。きるというより、たたきつぶすためのその武器が、なぜ切れるのか、なぜ面白いように兵士の首をはねるのか、誰もが理解できず理解されずに命をとばした。踏みしめる足が、地面を這い蹲る兵をつぶし、振り上げた手が立ちはだかる兵を肉塊に変える。右へ、そして左へ、攻撃という攻撃は受け流され、滑るように剣の腹でいなされる。飛んできた矢が当ることはなく、投げられた石がかすることはない。
 まるで踊っているように、それはツリーアゲートの兵士をなぎ払っていった。
 ダンスの相手は、ツリーアゲート、相手をした兵はことごとく空を赤く染めるために消費される。
 剣をへし折り、防具を貫き、巨大な剣が唸る。
 悲鳴とその雑音がBGM、相手を次々にかえソレはツリーアゲート本陣が位置する小高い丘までたどり着いた。
「な、な……」
 司令官の目の前に血に染まった赤い人間が一人。
「なにが……」
「――理解する必要はない」
 血煙が上がる。
 
 平原が広がっている。
 見渡す限りドコまでも広がる平原だ。
 赤く、血の色にそまり鉄の匂いのする平原が広がっている。

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