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連載小説:011

011:log

 当事者の言い訳なんていうものは、何の意味もなさないのだ。
 興がその事実に気がつく前に、小崎は既に達観していた。群がる友人達に、当たり障りの無い説明を繰り返しているその姿は、あまりに毅然としていて逆に突っ込むことができない。
 それを横目に、興は友人達の追求に何も言えず机に突っ伏したままだ。
「なーなー、マゾ男」
「頼むから、そのマゾ男ってのだけはやめてくれ」
「じゃぁ、マゾも」
 既にため息すら出ない。
 一時限目が始まるまでの数分。体験したことのない人だかりの中心で、興はうずくまりひたすら時間が過ぎるのを待った。

 チャイムが鳴り響き、わらわらと興の周りにたかっていた男子生徒が自分の席へと戻っていく。
「興、大人気だね」
 鉄国が振り返って興を笑う。といっても、あまり表情の動かない鉄国は一見無表情にもみえる。鉄国と高校一年時から同じクラスだった興は、彼の細かい表情まで読み取れるが、正直男とそんな仲になっても、うれしくもなんとも無い。
「ほっとけ」
「でもなんだって、何も言わないのさ。言い訳なんていくらでもできるだろ?」
「下手なこといって、小崎に迷惑かけるのもあれだし」
「……」
 鉄国の反応がなく、不思議に思って興は顔を上げる。と、手元に視線を落とす鉄国の顔が見えた。
 不思議に思い、顔を出す興。鉄国の手には、手帳が置かれていた。
「……なに書いて……っておい!」
「ただの調査レポートじゃないか。気にすることじゃぁない。そら、先生がきたぞ」
「くそっ。って、きてねぇし!」
 その一瞬、興が手帳から目を離した一瞬で、魔法のように鉄国の手から手帳はきえていた。
 これ見よがしにひらひらと鉄国は手の平を泳がせる。言いようにもてあそばれて、興は精も根も尽き果てたとばかりに机に突っ伏した。
「どうせ詳しく教えてくれといっても、教えてくれないんだろ? だから調べるしかないじゃないか」
「そっとしておく、なんていう選択肢は」
「ゴシックは、田舎町じゃ最高の娯楽だよ」
 田舎というほど田舎ではないが、かといって娯楽が豊富であるといえば否である。興も其処は納得できるのか、何も言わず口をつぐんだ。
 扉が開き、ざわついていた教室は一瞬にして静まりかえる。退屈な授業が始まる。
 日直の号令。着席したまま、適当な礼を交わす生徒達。一体なにに礼をしてるのか。
「出席とるぞー」
 その声と同時、いきなり睡魔が襲ってくる。興は、落ちそうになる意識を必死で鼓舞し、自分の名前が呼ばれるまでの長い長い時間を耐え忍ぶ。



 結局、毎度の授業間の休みは、人の渦に巻き込まれる形で気の休まる時間は無かった。
 飄々と興から得た情報をレポートする鉄国に、興は怒りを通り越し関心する。
「昨日あのあとは何したんだ、なぁ美甘ぉ〜。一足先に大人の階段かぁ?」
「おやじくせぇなぁ! 特になんもねーし! 期待してるような事柄は一つもない! ないから、散れ! そして帰れ!」
 朝よりは減ったと言っても、いまだに人だかりは出来ている。手を振り回し、人を払ったところですぐに集まってくるのはまるで虫を開いてにしているようで心労だけが溜まっていった。
「あーくそ」
「まぁ、そろそろ飯でも食おう。このままじゃ購買のパン売り切れてしまう」
 鉄国が立ち上がり、思わず一緒にいこうといつもの癖で興は立ち上がった。
 ぱんと、財布を叩き現実を思い出す。もう財布の中身では駄菓子ぐらいしか買えないのだ。
「――わりぃ、おれ昼飯は」
「興、はい弁当」
 ぬっと人垣をわって伸びてきた弁当に、あたりが一瞬にして色めき立つ。
「なにぃ! こ、これは!」
「なんと!」
「くくくくく、クロ!? 報告と違わないか!」
「これはいわゆる」
「あ・い・さ・い弁当デスカー!」
 騒ぎは火をついたように広がる。まるで祭りのような騒ぎだ。なにもココまで騒がなくてもいいのに、と興は小崎から弁当をうけとりながら思う。これじゃまるで小学生じゃないか。
「納得のいかない顔だね、興」
 人にもまれながら、鉄国が笑う。弁当を受け取りながら、興はうんざり顔をかえした。
「けど、これが別の人なら君だって同じことしていたんじゃないか?」
 言われて、言葉を詰まらせる興。
 やはり田舎は娯楽に飢えているのかもしれない。すこしは多めに見ないといけないな、と興はため息をつく。
 乗り出してくる人を払いのけ、受け取った弁当を広げてさらに騒ぎが大きくなるったころには、すっかり頭からなくなっていたのだが。



 夕暮れ前のまだ明るいじかん、下校する生徒に溢れる学校前を四つの影がふらふらと躍り出る。
「散々だった……」
「感謝してもらいたいぐらいだ」
 学友の追跡を払いのけ、学校から逃げ出すように出てきた彼らは、一様にため息をついた。
「いや、まじありがとうクロ。助かった」
 力ない足取りの興の横で、今日は自分が調査するから皆は帰れと助け舟をだした鉄国が冷めためで興を見下ろしていた。
 その横には小崎・朝弓と空風・衣緒。四人のなかで、一番背の高い衣緒は、一人状況が飲めてないのか、楽しそうに空を見上げていた。
「べつに、普通に事実を絶えればいいのに」
 小崎のことばに、心底呆れた顔を返すのは興。
「はぁ? あんなこといえるのかよ。大体ああいうのってばれたらいけないって、相場が」
「そうなの? 別にいいと思うけど。ことさらひけらかすことでもないけど」
「小崎さん? ちょっといいかな」
 口を挟んだのは鉄国だ。眼鏡を押し上げながら、無表情で小崎を見る。一瞬訝しげに視線を返した小崎だが、無言で頷いた。
「まぁ、コレでも僕は興の友人でね。実際もんだい、どうなってるのか。当たり障りの無いことを教えてくれるとありがたいんだけど。本人が、どうしても口を割らなくてね」
「あきれた……。彼の両親が居なくなったの。いつ帰ってくるか判らないから、家で興を預かることになったのよ。だから、代わりに私の下僕になったわけ」
「……それで納得しろと?」
「クラスの女子はみんな納得したけど?」
 無言で視線をやり取りする鉄国と小崎。二人は、じっと見つめあいまるで腹の探りあいをしているようにすら見える。
「ヘンなの?」
 首をかしげ、衣緒が呟く。
「俺は頭わるいからわかねぇ。空風はヘンだとおもう?」
 興が無言のにらみ合いの線上から体をそらして言うと、衣緒はぷるぷると顔を振った。
「じゃぁ、いいんじゃないか? 俺は、鉄国が深読みしすぎなきがする」
「クロちゃんは、深い?」
「ああ、ホリとか?」
「……興。明日、君の学校生活の安全が約束されなくてもいいなら、なんでも言うといいよ」
 さっきに興はたじろいだ。めがねの奥の視線が、刃物のように突き刺さる。
 学校は平和だ。あるいみ平和ではないが、きっと平和なのだ。興は、長い長いため息をつくと、おもむろに地面に膝をつけ、鉄国に土下座をした。

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