スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

連載小説:013

013:log
 もとから学校の授業なんて、頭にはいってくるタイプではない。眠気任せに、興は机に突っ伏したまま物思いにふけっていた。
 机の配置は、男女列ごとに交互になっている。隣の席というものは存在していないので、机は均等にすべて平等に並んでいた。ぽんと、目の前に紙がころがってきて、興は驚きに目を見開いた。ふとみると、隣の列にすわっている女生徒が、興と目を合わせて軽く手を振った。
「?」
 なんだとろうかと、紙をとり興は椅子に座りなおす。
 不思議なたたみ方をしてる紙切れは、思いのほか簡単にほつれる様に開いた。見た目からは判らないほど大きくなった手紙に驚きながら、まるっこい女の子特有の文字を目で追っていく。
 読み進めるたびに頭痛が酷くなる。書いてある内容は、予想通り小崎とのことだった。
 ――空風か。

 のほほんとしていたので、油断していた。自分を恥じ入りながら、興は何とか手紙を最後まで読み終えると、おもくため息をつく。
 飛び交ってる噂の真偽をたずねる旨が文章の大半だったが、中には既に噂から確定事項に移ったような事柄まであった。
 女のネットワークの恐ろしさに、さらに気が沈む。
 もう、言い訳も尾ひれのついた噂の収束も無理なようにすら思えた。
 いわく、実際のところドコまでいったのか。
 ドコってなにがドコだ。小崎の家ならいったことがある。
 いわく、ご主人様ってことは身も心もささげたのか。
 雇用主に、なぜ心までささげないといけないのか。
 いわく、朝弓を大切にしてね。
 お前のだったのか。
 困った表情で、興は手紙を投げてきたであろう張本人をみる。視線に気がついたのか、ちらっと興をみると意味深な笑いを返された。
 寄せ書きのような質問と、勘違いの塊を興は折り目に合わせて元に戻し始める。
 が、手紙が元に戻らない。
「む……」
 複雑怪奇に畳み込まれた手紙は、癖がついているのに戻らないのだ。仕掛けを知っているのは女子のみ。
 ――つまり部外者が開いたらすぐにばれるわけだ。
 ある種暗号のようなものを感じ、興は関心する。が、事体がそんなことで好転するわけもなかった。大きくなった手紙は目立つ。さらには、蛍光色で書かれた文面。
 ――この手紙自体が罠なんじゃ。
 教師が、机の前を通ったら一発でばれる。折り目を無視して畳み込もうとしてもしっかりとついた折り目がソレをさせない。
 ――手紙一つで大ピンチ!?
 あせった手では、さらに答えの折り方には到達できず紙のこすれる音だけが耳にとどく。さらにソレがあせりを加速させていくのだ。
「興」
 と、前に座っていた鉄国が振り返っていた。大丈夫なのかと驚いて教師をみると、なんだか黒板に長ったらしい文を書き写している。
「鉄国。某国からの戦線布告だ。暗号解読ができん」
「……この暗号解読班がすぐにでも解読してみせましょう」
 別に読まれて困る内容はない、興は手紙をそっと鉄国の手に渡す。
 受け取った鉄国は、すぐさまに元の向きに戻るとごそごそと手紙を弄り始めた。
 程なく机には、ぽとりと手紙だった塊がかえってくる。さっき落ちてきたときと同じ形だ。
「すげぇ」
「小崎の弁当のおかず一品」
 おごれといわないあたり、さすがにわかってくれてると興は苦笑しながら頷いた。
「しかし、よくこんなの戻せるな……お前もしかして。女か」
「惚れるなよ?」
「うげぇ、キモイ」
「ふむ、やはり僕は男のようだね。安心した」
 舌打ちで抗議をしつつ、興はふてくされたまま机に突っ伏した。



 休みの時間は、嘘のように静かだった。といってもちらほらと珍しい物をみにくるような類の野次馬は見え隠れしていたのだけど。
 男子生徒は、鉄国の奔走により少なくても集まって興に話を聞こうとするような人間はいなくなった、とはいえ事あるごとにネタにはされていたが。
 女子生徒にいたっては、もとより近づいてこない。とはいえ、噂が絶えることもなくこそこそとした会話の端々に興の名前や、珍しい物をみるような視線があった。
 久しぶりに平穏を取り戻した興は、小崎に貰った弁当を開く。
「マゾ男ー、お昼ごはんたべよ」
 ぬっと顔を出したのは空風だった。
「んな」
 空風の後ろには、小崎が立ってる。
「空風、お前女子に変なこと吹聴しただろ」
「え? フイチョウ? フイゴなら知ってるよ」
「……衣緒、なんか興のこと皆に言い触らしかって」
「えとね。んーとね。昨日、晩御飯食べて一緒に帰ったよって言った」
「……」
 天然スパイだ。興は熱の冷めない額に手を当ててうずくまった。
「僕も、ご一緒していいかな?」
 購買部から惣菜パンを勝ち取ってきた鉄国が、近づいてくる。
「興のおもりとは、大変ね峰時君も」
「おもりってなんだよ!」
「渦中の人じゃないんで、僕は気楽なもんだよ」
「結局、大山鳴動して鼠一匹。すぐに収まる噂だしね。食べましょ」
「実際、大山が鳴動したらそれそのものが問題なんだけど、まぁ僕には関係の無い話し」
 いそいそと、鉄国は机を興の机にあわせると一人惣菜パンを開き始めた。
「マゾ男、食べないの?」
 気がつけば、ちゃっかりと椅子をつけ、弁当を食べ始めている空風。彼女の向かいには、弁当を広げている小崎が座っている。
「マゾ男っていいかげんやめてくれよ……」
「さて、興。約束の品、貰っていくよ」
「ああ」
 弁当を差し出す。手を伸ばしてきた鉄国が、狙いを定めておかずを取ろうとした瞬間、興はひょいと弁当を退けた。
「なにすん――」
「一応小崎から貰ったんだ、小崎の了解を得てからな」
「了解?」
 訝しげに、眉をしかめる小崎。
「ああ、鉄国におかずを一品上げると約束したんだ」
「……わざわざそんなこと。気にしないでいいよ、上げたんだから好きにして」
 ただ、小崎はすこしだけうれしそうに笑った。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL