スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

連載小説:015

015:log
 監視されてるなんて露にも思ってないのは、当然監視されている側なのは自明の理で、とうぜん興と小崎に関してもその現実は当てはまる。
 実際、店の奥で事の成り行きを見守っていた数人に二人が気づくことはなかった。
 店内のBGMに混ざって流れてくる二人の会話に、彼らは耳を欹てる。
「なー、クロ。これはまずいんじゃないのか、ほらプライベートとかっていうのだがな」
 弱気になった一人が、鉄国に問いかけるが鉄国はまるで取り合わずに二人を見つめている。
「あっ、おさないでー」
 一番したにいた空風がうめく。
「あぁ、わりぃわりぃ」
 棚の奥、順番にはけていく人影。結構な音がしていたが熱で頭が旨くまわっていない興が気がつくわけも無く、アレ以外に気配に敏感なわけでもない普通の女の子である小崎がさらに気がつくわけも無い。
「声がさー、聞こえないんだよ」

「おまえねぇ、これ以上いってばれたらホントどうするんだよ」
「でも、普通のカップルなのか主従関係なのかをだな」
「そりゃ下僕っつーぐらいだから、主従――」
「それはないね、小崎が下僕の意味を取り違えるとは思えない」
「意味?」
「お前のいう主従って、奴隷と主人の関係じゃないか。小崎のいう下僕ってのは、どちらかといえば、下男。メイドやバトラー。執事といったほうがわかりやすいか? つまりは使用人。といってもバトラーはいいすぎだな、フットマンか。まぁ、呼称はどうでもいいけど。ともかく、性欲旺盛なお前の頭のなかで繰り広げられているSMプレイの一貫ではなく、なんらかの理由で雇われた、お手伝いといった位置づけだとかんがえるのが、無難だろうね」
「性欲旺盛でわるかったな」
「裏に回ったら、声きこえないかなー」
 と、いきなり空風が呟き一人小走りに二人のいる棚の後ろへとかけていった。
「いいのかね」
「まぁ、ばれないと思うけど」
 あわてて空風を追う男ども。すでに、他の客のことなんて彼らの目にははいっていなかった。

「だから、……本当に大丈夫……………。寝不足なんじゃ……」
「誰の所為で寝不足…………てるんだ。晩飯のあと…………」
「………………ないのは、興が悪い」
「それはまぁ、俺の所為だけど……………なんとかなんない?」
「ん? ああ、私…………」
「そそ、…………」
「…………痛い……」
「……腰に……るし」
「それは、興が……ないの。私の所為じゃない……」
「……い?」
「………………まだ足りないの?」
「……せめて……の使ってる……みたいなのがいんだけど」
「下僕の癖に……いわない。…………、感謝して……。なんなら立って……する?」
「いやー、それはさすがに……でもあれな…………方がマシだ」
 声が聞こえてくる。
 とぎれとぎれではあるが、興と小崎の声が棚を飛び越えて聞こえていた。
「……えーっと」
「ゆるぎないな」
「わり、ちょっとトイレ」
「あほか!」
 小声で六人が騒ぎながらわらわらと棚に張り付いている姿はあまりにも居様だった。その隣の棚は、傍からみればカップルがいちゃついてるようにしか見えずさらに通りづらい。したがって、そのあたりに他の客が寄り付くことがなかった。いたって最悪な部類の結界により、彼らの安全は守られているのだ。
「腰がいたいねぇ。風邪引いたのは、小崎が寝かさなかった所為と」
「途切れ途切れの言葉で類推するのは浅はかすぎるけど、まぁこの場合は、シカタがない……かな」
 鉄国もため息混じりに認める。小崎とはそんなんじゃないといっていた興に幻滅しながらも、どこか抜け落ちた情報を必死で頭の中で組み立てている自分に鉄国は苦笑した。
 ――我ながらお人よしというか。
「大体、立ってなにするんだ」
「そりゃおまえ、駅べ――」
 ぱかんと、小気味のいい音が鳴る。頭を叩かれた彼は、狙った突込みをもらえて満足なのか、ニヘラと笑って口を閉じた。
「さすがに高校生、絶倫だ」
「……たとえば」
「ん? クロどうした」
 考え込むようにうずくまった鉄国が、ゆっくりと顔を上げる。
「小崎の家で食事をしたときに、椅子が興の体に合わなくて文句を言っている」
「……むりやりすぎね?」
「小崎の足りないの発現は、くっしょんとか」
「……いってて無理があるなって顔ぐらいはやめたほうがいいんじゃ?」
「――だな」
 ため息を一つ、鉄国は立ち上がる。
「あ、おい鉄国どうするんだよ」
「この場に突然現れた時、あいつ等が狼狽すれば僕らが予測したとおり」
「……なるほど」
「マッタク狼狽しなかったら、きっと予測とはちがう健全な会話だったってことで」
 いいながら、五人を残し飄々と鉄国は棚の裏へと歩いていった。

「興、なに話しこんでるんだ」
 突然の鉄国の登場に、興は驚き思わず勢い良く振り返った。
 その瞬間、小崎の匂いがふわりと鼻につく。
「ん、ああ。寝不足でな、風邪が」
「大丈夫か? 学校より酷くなってるようにみえるけど」
「ああ、それよりもさ小崎の所為で腰が――がっ」
 不穏当な発現に小崎が興に蹴りをくれた。びたんと、まるで魚が叩きつけられるような音をたてて、興は床に倒れる。
「椅子の所為で私の所為じゃない!」
 珍しく声を荒げた小崎に驚きながら、鉄国は棚の向こうで『スケベ椅子か!』想像たくましい言葉を聴いた。
「おい、興。大丈夫か?」
 倒れた興をおこそうと手を伸ばす。が、興の反応はなかった。
 おかしいなと、鉄国がしゃがみこむ。
「あ、おい。興!」
 興は意識を失っていた。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL