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連載小説:022

022:log
 駅前に集合。小崎のいった言葉に皆が同意し、とりあえずのところ三人は興の家からさっていった。
 病み上がりに外出かよ、という文句はまったく頭からでてこなかった。どちらかといえば、先ほど家に到着したという鉄国のメールの末尾についていた言葉のほうが、興の頭の中を駆け巡っていた。
『こりゃ、ダブルデート以外の何物でもないな』
 別に引っ込み思案でもなければ、まったくそういった出会いすらなかったわけでもないが、それでも特に求めなかったという理由で年齢が彼女の居ない暦と同じ数を数え続けている興にとってみれば、それはあまりの一大事だ。同じ境遇であるはずの鉄国は、居たって普通に見えたのがさらに興の焦りを加速させていく。
 思わず同じクラスにいるそういった経験の多そうな友人に助けを求めようと携帯をもったところで、また携帯が震える。
 登録されていないアドレスだったが、IDのところにある文字に興は思わず生唾を飲んだ。

 ayu。小崎だ、と思うまえに携帯を手馴れた操作で弄る。一拍の後、液晶に写る文字を眺めながら興は深く息を吐き出した。
『できるだけ、衣緒と峰時君から離れないようにしよう。そのほうが、二人が変られる確率も少ないだろうし。あんなことがあった後だから、きついと思うけどそのほうがきっとましだから。』
 自分がなぜ小崎と共にいるのか、その現実を突きつけられた。刃物のように言葉が刺さることもなく鈍器で頭を殴られるショックもなく、それはそうだという諦めというか納得に似た寂しさが胃の辺りに広がって、なんだか興は自分が情けなくなった。
 そのまま興はふらふらと携帯を閉じると、汗にまみれた寝巻きを――
 寝巻き?
 CD屋で倒れたとき、たしか制服だった。夏服は、ワイシャツだ、こんな服ではなかった。誰かが着替えさせてくれたのだろう。自分で着替えた記憶がないことを必死で思い出しながら、興は服を洗濯かごへと投げていく。
 すべて脱ぎ終えても、やはり自分で着替えた記憶はない。
「ん……?」
 鉄国だろうか。とりあえずそれ以外にはありえないだろうと納得すると興は、心の中ですまないことをしたと謝る。
 と急がなければ既に昼前になっていることにきがつき、興は慌てて風呂場へと駆け込んだ。

 ◇

 風邪というよりは、疲れだったのだと家をでてから納得する。どこか熱っぽい感じがのこっているが、体調は悪くはない。
 無理をしなければ、問題はないだろう。かってに決め付けると興は今更ながらにお腹が減っていることに気がついた。
 昨日の昼飯から何も食べていないのだ。よるは、粥を無駄にしてしまった、朝もあわただしく何も食べていない。考えた瞬間、腹の虫がきっかいな音をたててなる。
 空腹を覚えるとソレはさらに意識の表面にでてくるのか、さらに空腹感が体中をおそってきた。自分がいつから腹ペコキャラになったのかをかんがえながら、興は体をくの字にまげて歩き続ける。
「そうだ、バスに」
 ポケットに手を当てて、金が無いことを思い出す。思わず膝の力が抜けるのが判った。自転車で行くと止める場所がない、歩きかバスか、そうでもなければタクシーかという選択しかないじょうきょうで、ポケットには数十円だけが入ったままだということをわすれていた。
「……」
 悔し紛れに開いた財布。入っているのは残高百円の銀行のカード、いまや使えないことこの上ないテレフォンカード、ゲーム屋の会員カードに、レンタルビデオ店の会員カード。そしてレシート。と、テレカのなかに、バスカードが入っているのを思い出し、興は慌てて財布をひっくりかえす。図書カードとテレカにまじって、バスカードが一枚。たしか、兄が引越しする時にもう使わないから、とくれたものだ。
「ああああ、ありがとうにーちゃん!」
 生まれて初めて心の其処から兄に感謝し、興はバス通りへと足をむけた。

 携帯の時間は十一時過ぎ、駅へでればきっと十二時前ぐらいにはつける。ソレを確認しながら、バス停のベンチにすわる興。
 クルマ通りは少なく、思い出したかのように数台が列をつくって目の前をクルマが通っていく。何の気なしにソレを眺めていると、ふと向かいの歩道に珍しい人影をみた。といっても、知り合いではなく格好が珍しいという意味で。
「……メイド!?」
 ふわふわのスカートにエプロン。白いカチューシャに……服は黒が基調で装飾が道路を挟んだ反対側でも少し見て取れる。
「ほんとにいるのか……それとも魔の手はすでにこの町にも」
 テレビと噂話でしかきいたことがないが、メイドがいる喫茶店というものがあるらしい。だったら、執事の喫茶があってもいいじゃないか、なんてどうでもいいことを考えたぐらいの記憶ぐらいしかないが、考えて見れば自分は小崎の下僕。バトラーだ。ってことは自分もああいったしっかりとした服を着なければならないのだろうか。ふと考える自分の正装に、君の悪さを感じて興は、うぇとうめいた。
 と、そこで初めて気がつく。道路を挟んだ向こうを歩いていたメイドがいまだ視界の中にいた。というか、立ち止まりこちらを見ている。
 片側二車線、四車線と中央分離帯ぶんの距離はさすがに目を細めても表情が細かくは見て取れない。こちらを間違いなく見ているという確証はなかった。
 だが興には、メイドがこちらを見ている気がした。じっと無表情に、見るという意思よりは希薄だが、間違いなく焦点をこちらに合わせてきているようなそんな感覚に、興は目を外せない。
 ――もしかして、アレか?
 しかし襲ってくるでもなく、とくに敵意も感じない。べつだん殺気とかを感じてしまう特異体質ではないが、向こう側でたっているメイドはただ佇んでいるだけのようにもみえる。
 焦点から外しそれでも視界からは出ない程度に目をそらす。と、目の前がいきなり暗くなった。バスが来たのだ。ブレーキが軋みをあげながら、興の目の前で扉が開く。定額制の先払い。兄にもらったカードをさしこんで、興はバスの中を見回した。知り合いはいない、客もまばらで二人がけの席が一つと奥の五人がけの席が半分開いていた。さすがに座りづらい感じがしたが、空腹で目がくらみそうなのと、車内に誰も立っていないのを確認すると興は二人がけ席へと歩き出す。背中で、バスカードが通る音がきこえ、乗車する客が自分以外に居たことに気がつく。
 はて、自分以外待っていなかったはずだが。首をひねりながらも、振り返るなんてこともせず興は二人がけの席に座った。
 その瞬間、頭が真っ白になる。支払いを追え、バスの中央を足音も立てずに歩いてくるメイドの姿があった。すけるような白い肌は、小崎や空風の肌なんかよりも綺麗にすらみえる。整えられた肩にかからない程度の黒髪が、足の動きにあわせて揺れている。白いカチューシャと、黒い服、白いエプロン。マッタク色がない、モノクロと称してもいいぐらいの白と黒のコントラストの塊が、目の前まで歩いてきて立ち止まった。
「よろしいですか?」




 メイドを出した瞬間筆が走った。
 なんかたぶんおれは、メイド好きなんじゃないかって、
 そんな気がしてきたんだ。
 ウゥッ!

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