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連載小説:026

026:log
 笑うしかない光景だった。逃げようと、小崎にちかよった興は彼女に断られて思わず唖然とする。
 だがすぐにその意味がわかった。逃げる必要などなかったのだ。逃げても意味が無い、いや、逃げる意味はない。
 逃げる必要がないのだ。その場で終わるのをただ、ただみていればいい。
 血嵐が巻き上がるのが見える。普通の人間が相手でも、あのメイドにはなんの障害にもならないのだろう。まるで踊るようにという表現はあまり適切ではない。無造作に、ただただあるがように振り払う腕。それだけで、まるでミキサーに賭けられたように赤い塊が空へ舞い上がる。空に舞い上がるうちに、赤みはうせすぐに消え、地面を汚すことはなかった。
 それはとても奇妙な光景なのだろう。だが、興にはそんなアレの末路よりもメイドの一挙一動から目が離せなかった。
 赤い噴水ともいえるその中央で、逃げ出すものも向かうものも等しく吹き飛ばしていくその姿は、あまりにも鮮烈だった。

「あれは、なんなんだ」
 興の呟きに、困ったように小崎が小さく息を吐いた。
「存在があやふやな、世界の垢。らしいけど、私もよくは知らないし」
「あ、いや」
 そっちじゃなくて、あのメイドの話を。そういおうとおもったが、興は言葉を飲み込んで頷いた。
「幽霊みたいなものだっていったら、そんなもんだっていわれたけど」
「誰に?」
「ムイさん」
 また、その名前だ。興は首をかしげる。
「それ、だれ?」
「へ? 興の家にもきたんでしょ? ほら髪の毛が長くてほそーい人」
「あ、ああ……ああ。あいつか」
 いつも偉そうな女の姿を思い出しながら興はうなづく。
「なぁ、いつまでこんなこと続けるんだ?」
「ずっと……」
「はぁ!?」
 毎日襲われるといっても過言ではない。例え、体も鍛えていない興で十分太刀打ちできるほどの弱さしかないとはいえ、寝る間もなく日々狙われている。それが、いつまでも、きっと小崎のその見分ける力が無くなるまで、永遠に続くのだろう。それを想像して、軽い恐怖を覚えた。
 だったら自分が永遠に守ればいい、そんな考えなんて興には浮かばなかった。
「そんな」
「ま、その解決方法を探してきてくれるんだってさ」
 それで、どこかへ行ったのか。はて、両親を探しにいってくれたのではないだろうか。ふと興の頭に疑問が浮かぶ。
「解決方法、ね」
 二人が話しているあいだに、排除は速やかに完了していた。あとには、まるで平日の昼前のような静けさが辺りに広がっているだけだ。
 ふとその静けさに興は寂しさを感じる。自分が何も出来ていない事実と、この先も何も出来ないであろう現実を目の前に突きつけられた。小崎を助けることも叶わず、根本からの解決もしてやれない。
「なにもできなかったら、へこんでるの?」
 思わず図星をさされて、興は思わず身を硬直させた。
「べつに」
「私は、別になんとも思ってないけど。言われたことはちゃんとやってくれたし」
 いいながら、小崎は歩き出した。目を丸くしたまま白黒させていた興は慌てて小崎の後ろを追いかける。
 向かう先にメイドが静かに立っていた。
「申し訳ありません、出すぎた真似を」
 そういって、メイドは興に頭を下げる。
「あ、いやそんなことは」
「そろそろ人が戻ってくると思います。私はこれで」
 そういうと、メイドはゆっくりと駅のほうへと歩き出した。まるで嘘のように人がビルから出てくる。バスが到着する音が背中から聞こえた。駅に電車が到着したのか、人が流れてくるのが見えた。
 まるで夢でも見ていたかのように、駅前は賑わいをとりもどしていった。
「なんかしてたのか」
「なにかって?」
「なんか、こう、人よけ? みたいなやつ」
 興の質問に小崎は首を振って答える。
「偶然、世界に隙間が出来たように人がいなくなる瞬間はドコにだって存在してるんじゃない? よくわかんないけど、少なくても人ごみが安全かといえばそうじゃないとしかいいようがないんだけどね」
 ため息混じりに小崎は呟く。逃げ場も終わりも休憩もないのだ。その事実に興は思わず生唾を飲み込んだ。
「大変だな」
「だから興がいるんじゃない」
「え? あ、あうん。そうだな」
 あいまいに答えたところで、駅ビルから大きな人影が見える。身長一七〇後半、いくら最近の子供は育ちが良く珍しくなんかないとはいえ、一七〇を越えた女性がけたけた笑いながら自分より頭一つ小さい男といっしょに歩いてくれば嫌が応にも目立つ。
「朝弓ちゃん、おはよー」
 朝、顔を付け合せたことなど忘れてるようなテンションで空風は手をふった。

 先ほどまでビルのなかで暇つぶしをしていたらしい。二人がおそいので、じれた空風をなだめるために鉄国が仕方なく駅ビルへとつれていったのだと、ため息混じりに語った。幾分疲れきった顔に、笑みを張付けながら鉄国は肩をすくめる。小崎にビルの中で何があったのかと事細かにしゃべり倒す空風は、ドコまでも楽しそうだった。
「モテモテじゃん」
 興の言葉に、少し恨めしそうな目を向ける鉄国。
「結婚もまだだというのに、娘に引きずられる父親の気持ちがわかった」
 体力的には、父と娘にひとしいのかもしれない。どうでもいい想像に興は思わず噴出す。
「お前はどうなんだよ」
 鉄国のにらむ視線に、特に何もないと興は答える。
「じゃぁ興より、僕のほうがましだったのかもね」
 たしかに、血なまぐさい思いをしないだけ鉄国のほうがましかもしれない。興はぼんやりとそんなことを考えながら、あいまいに微笑んだ。




 忙しくて更新確認してなかった。
 とりあえず誰も教えてくれないところをみると、アレなかんじ。すこしだけ、泣いた。
 ともかくいまさら更新。なくもんか。

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