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連載小説:027

027:log
 昼前の駅周辺は、いくら田舎っぽいといわれるこの街ですら賑やかで、しかも休日となればさらに華やかにもなる。
 特に祭りがあるわけでもないのに、大き目の遊歩道には出店のようなものがぽつぽつとみかけられる。食べ物をうる屋台が大目だが中にはアクセサリなんかをうってる出店というよりは、店先においた展示台のようなしゃれた物もみうけられた。
 頭の後ろで手をくみ、興は前を歩く女二人組みをみながらやる気なさげにあるいている。鉄国はというと、何度か思考したのちに興に「とりあえず、空風はまかせておいてくれよ。それ以上は手助けできないけどね」と、意味ありげな含み笑いを向けてきた。
 ややこしい勘違いをしているなと思った興は、一瞬口を開きかけたがめんどくさくなって、あいまいに頷いた。
 ふと、駅前に着いたとき叫んだ小崎の姿を思い出す。
 普通では考えられない毅然とした態度。目には恐怖なんて微塵もみえず、ただじっと生き残ることを、いや勝ち残ることを考えているのみ。あの叫び声に自分の体が自然に動いた。それは主人に仕える使用人の気分ではなくて、王に仕える騎士のような。
 そこまでかんがえて、興は頭を振る。まるで使用人とその主人の関係になにか問題があるような考えにおもえたのだ。

「朝弓ちゃん、あのビルの三階でね――」
 空風が楽しそうに先ほど出てきたビルの話をしている。指をさした方向、ビルの三階あたりをみてみるものの、マジックミラー処理が施されたビルの窓は空を黒く映すばかりだった。
 アホみたいな顔をして興が顔を上げてるあいだに、では其処に行ってみようという話しになったらしく、前の二人は後ろも振り返らずに進路を変えていた。
 興が気がついたのは鉄国に名前を呼ばれたからだ。呼ばれなかったら、きっと興はそのまま別の方向へ歩いて迷子になっていただろう。
 ふと、ポケットにある携帯を触る。
「そういや」
「ん、どうした」
 振り返った鉄国のめがねに空が写りこみ表情はみえなかった。
「俺、小崎の連絡先しらねーや」
 興の言葉に、鉄国は反応できず硬直してしまった。とうの興は、さて連絡できないとまずいな、などとのんきな事を考えながら携帯を取り出す。
 かかってこないしかけない電話は、一度親にかけたときのあの履歴を最新にしたまま、液晶画面に光をともしていた。操作せずにじっとながめていると、ふとバックライトがきえ液晶が暗くなる。写ったのは空。真っ黒な空だけがうつっていた。

 ◇

 空風が他の三人に先導してつれてきたのは、怪しげな民族工芸のようなものがならんだなんとも言えない店だった。店の中は香がたかれているのか、一歩入り込むと咽るような匂いが鼻から頭へ突き抜ける。
 思わずバランスを崩す興。先に入っていった女二人組みはというと、マッタクきにしないふうに店内をまわっていた。
「きつ……なんだこの匂い」
「香だな……入り口付近でたいてるから、奥に行けばましだ」
 先ほどもつれてこられたのだろう鉄国が、匂いがましな場所を指差して言う。すぐさま頷き興はそちらへと必死であるいていった。
 匂いがましになって、服についた匂いぐらいしか残らなくなったところで、やっと本来の匂いをかぐ。いくらかいいにおいだとはおもえたが、やはり濃すぎるのは問題であると一人興は納得してため息をついた。
「さっきもつれてこられたのか?」
「ああ、しかも店内を引き回された。もう少しすれば匂いになれるだろう。そしたらなんとでもなるさ」
 既に体力を使い果たしたような二人とは対照的に空風と小崎は店内の商品をみてまわっては嬌声をあげていた。
「これかわいいー!」
 二人の目の前には、木でつくられた怪しげなアクセサリが並べられている。麻の紐に結えられたそれは、贔屓目にみてもかわいいものではなくてどちらかといえばえぐいムカデにしかみえない。玉のようなものが麻の紐で結えられ人目でみればみかんを彷彿とさせる。だがよくみれば、紐の隙間から髭のような物が生え、玉の先頭には闇を見透かすような目玉のようなものがついている。消してつぶらな瞳ではなくてどちらかといえば呪術てきな印象を受ける。それを、小崎はとりあげて空風とともにカワイイを連呼していた。
「おれは、おかしいのか」
「いや、そんなことはないとおもう」
 ソレをみて、男二人は肩をおとして呟いた。
「イケメンならなんていうんだ」
「……イケメンにきけよ。僕はそんなことまでしってない」
 すでに興味がうつったのか、二人の視界のなかで女二人組みは巨大な置物へと足を向けていた。柱のようなそれには、どうみても呪いをうけそうな顔が所狭しと掘り込まれている。ニスで黒くなった木に牙のはえた顔や、隈取をほどこした顔が掘り込まれている。そのすべての目にあたるぶぶんには穴があいており、柱の向こう側へと突き抜けているのだ。柱の上のほうには、その目にあろうことか棒がささっており、どうやらソレが上着掛けか帽子掛けのようなものだと推測された。如何せんエグイくて役目をはたせそうにはないが。
 もちろん二人は、それをみてかわいいと声を上げている。
「あー、鉄国」
「なんだ興」
「なんで、かわいいのか教えてくれ。頼む」
「わかっていることは、二人の前で”ソレは可愛くない”といったが最後、もう攻撃を受けることは間違いない」
「……なんで、可愛いんだあれが。のろわれそうなんだが」
「かわいいと言っている自分をかわいいと感じている、なんて話しもあるな」
「さすがにソレは極論だろうけど……」
 興ははしゃぐ二人をみて思う。すくなくても、心の底からかわいいといっているようなきはした。
「男が納得する理由がひつようなだけで、真実はひつようないんじゃないかな、きっと」
 あろうことか、テンションが最低までさがった二人の前で空風がその柱に刺さっている棒を引き抜いた。そして、別の場所の面の目にあたるぶぶんに突き刺す。
「えぐいな」
「スプラッターだな」
 笑いながら作り物とはいえ、目玉に棒を突き刺す姿は子供がみたら泣きそうなビジュアルであった。頭を抱える興と鉄国。
「とめてくる」
 そういって、鉄国はふらふらと二人に近づくと、空風の腕を掴んだ。まるで姉にじゃれ付く弟のようだ、そんなことを思ってるうちに、何とか説得に成功したのか空風は鉄国にひっぱられて柱から離れていく。ふと、気軽に女に触れている鉄国の姿に驚愕するが、言葉を出さずに成り行きをみまもっていると、小崎が店員をよびつけていた。
「あ。これください」
 たぶん、聞こえた言葉は空耳だろう。興は、背筋をすべっていく汗がいやに気持ち悪くかんじた。

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