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連載小説:028

028:log
 駅前にあるチェーンのカレー店に着いたのは、昼過ぎというよりは夕方前というじかんだった。興の空腹が限界に達し、ふらふらになったところで鉄国がようやく気がついてくれたのだ。巨大な荷物をもって、いつたおれてもおかしくないような状況で興は、休憩にありついた兵士のように椅子に倒れこんだ。
 鼻に届くカレーの匂い。目の前に置かれる水を一気にのみほして、興は大きな息を吐いた。
「なんにする?」
 鉄国は、興の醜態をむししたままメニューを広げる。覗き込む女二人組み。ふと、興は己の座ってる場所をみて、鉄国を見た。
 興の視線に気がついたのか、鉄国は顔を上げると一度だけ意味ありげに頷く。
 鉄国の横には空風が、鉄国の向かいに興、そして興のとなりに小崎がすわっている。あまりに露骨で意味のありげな配置に、ふと鉄国がそそくさと席に座る姿を思い出す。うまいこと罠にはめられたのだろうか。冷めためで、興は三人をみる。みなは、メニューを覗き込みあれだこれだと、話し合っていた。が。空腹で今なら何でも食べれそうな気がしている興は既に何を食べるかを決めていた。
 彼の視線の先にあるのは、大盛り千六百グラム。もちろんご飯が千六百。今ならいけるかもしれない。ごくりと生唾を飲み込み興はその店内に張り出されてるポスターを凝視する。

 興の横で、彼の身長よりたかい柱がごとりと揺れた。あわてて興はその柱のような物を支え、置きなおすとため息をついた。小崎がかった例の怪しげな上着掛けである。
「これにしようかな」
「ねー、これにこれと、これと……」
 空風がぽつぽつと、トッピングを指差していく。それを全部のせるらしい。自分がやろうとしている挑戦にくらべればなんとかわいらしいことか。
「それだと、一四〇〇円だな」
「おー、クロちゃんすごーい」
「興はきまった?」
 といきなり小崎がふりかえりポスターを凝視していた興は驚き椅子から腰をうかせた。
「ん?」
 興の見ていた方向をふりかえり、小崎もポスターに気がついた。
「……あんた」
「金ないし……」
 心底あきれた顔で小崎は興をみる。
「なに? 興大食いチャレンジやんのか」
「あ、うん。千六百グラム、一六分だろ。いける一分百グラムだ」
「いや、米の量だけなんだが。それにあわせたルーは重さにはいってないぞ」
「……え?」
 首をかしげる興。
「いやだから。あの重さはご飯の重さだ。皿にのってくるカレーの重さじゃない」
「まじ?」
「まじ」
 鉄国も小崎も興をバカにしたような目で見てくる。唯一空風だけは、トッピングをみて、うれしそうに鼻歌をうたっていた。
「……いや、いく」
 決心したように興は言う。
「まじか」
「だって、金ないもん」
 情けないと頭を抱える小崎。面白そうな物が見れるかもと目を輝かせる鉄国。一人トッピングの選別を終えた空風が店員をよび、注文を開始していた。
 あわてて注文をはじめる三人。
「大盛りチャレンジで」
 一瞬にして店内が凍りつく。数人先にはいっていた客までもが、興たちを振り返った。
 すでにその結果がわかっているのか、哀れみの視線でこちらを見てくる客までもがいた。店員は生唾を飲み込むと注文端末を操作する。
「あの、本当に大盛りチャレンジを?」
「え、はい」
「千六百グラム一六分で食べ切れれば無料サービスとなります、食べられない場合は五千円の料金がかかりますがよろしいですか?」
 頷く。
「では、先に御代をいただくことになっておりますので、あちらで会計を」
 頷いたまま固まった。
「へ」
「申し訳ありません、過去に色々とありましてこういう決まりになっております」
 店員のことばに鉄国は含み笑いをする。きっと食べれないまま、お金もなく支払いのできなかった人間が何人もいたのだろう。
「鉄国……」
 すがるように興は友人を見た。ため息一つ、財布から一万円を抜き出し興へ差し出した。
「すまん」
「食いきらなかったら、倍にして返してくれ」
 苦笑で返事をした興はレジに向かう。腹はいい具合に空腹だ。飲み込んだ水のおかげで、全く胃が空っぽのまま、というわけでない。調子がいい。満腹になるまえにかきこめば勝利はある。彼は一人うなずきながら、レジのまえで会計をすませた。手渡された五千円を握りしめ、興は席へと戻る。
 通路側に小崎がすわっており、後ろをすり抜ける形に必然的になる。小崎の後ろを通っているとき、いきなり小崎が顔をあげ興を見上げた。
「残したら、許さないから」
「おう。まかせておけ」
 そのときはまだ、何を残したら許さないのか、興はわかっていなかった。

 目の前に運ばれたきた皿をみて、鉄国が引きつった笑みを浮かべた。空風は我関せずといったぐあいに、自分のさらに乗っているトッピングを確認している。
「ほんとに、それ食べられるの?」
 小崎の言葉に興はあいまいに笑いを返す。目の前には、やまともいえるカレーが聳え立っていた。
「いただきまーす」
 最初にスプーンを取った空風がカレーを食べ始める。鉄国も、小崎もそれにならって食べ始めた。
「お客様、よろしいですか?」
 頷く興。ストップウォッチが掲げ上げられる。まるで神聖なもののように皆の視線がそこに集まる。
「はい」
 すたーとの掛け声と同時、興は一気に巨大なカレーの皿へとスプーンを付きたてた。

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