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連載小説:035

035:log
 どうしたい、といわれてふと自分のいる状況を確認する。それは、思うほどに確定した立ち位置ではなかった。捕まってるから逃げ出したいが、逃げ出したところで小崎はやってくる。ともかく苦しいこの紐をほどいて欲しいが、かといってその後どうするかもわかっていない。この場所を知ったところで、なにか自分にできるかといえば、きっと否だ。
 じゃぁ、どうしたいかなんて一つしかないじゃないか。興はガムテープのはがされひりひりする唇を一舐めしてため息を付いた。
「俺に出来ることを教えてくれ」
 興の言葉に、ムイは一瞬ほうと言葉を漏らして薄く笑った。
「あるとおもうかい?」
「人質にされた人間が、役に立たないわけがあるかよ」
 いやな揺さぶりだ、興は視線をそらしながら呟く。といっても暗闇の中で、目の前にムイがいる確証はなかった。人質なのだ、現状邪魔になっていて開放しても役に立たないのなら、殺すのが一番てっとりばやい。開放して何か役に立てる状況なら、それでじゅうぶんだ。嫌な問いかけだ。興は胃が軋む感覚を得る。
「いいね、自分を売り込むきなわけだ。死ぬこともいとわない、やれることなら何でもやる。泣かせる下僕精神だ」
「事実をいったまでだろ……あんたはほんとに嫌な奴だ」

 暗がりになれたところで、全く光が入ってこないこの場所は周りが見えてくることは無い。
「ああ、なるほどなるほど。うん、わかった。じゃぁ君が逃げ出す手助けをしてあげよう」
 ムイは心の其処から笑う。完全に小崎の下僕になってしまった美甘・興という人間を見下ろしながらムイは彼の足に巻きついているワイヤーに手をかけた。
 ココまで順応するとは彼女も思っていなかった。選択肢に、このまま救出されるのを待つという選択肢はなく、逃げ出すという選択肢もない。小崎・朝弓にとって有益になれる状況なら生かせ、そうでないなら殺せと表情一つ変えずに言ってのける目の前の少年に、ムイは今にも大笑いしそうになっていた。
 ――ある意味末期だな。
 興の足に巻きついていたのは、金属製のワイヤーだった。
「ここは、廃ビルの地下だ」
 ふと、ムイが呟くように言う。彼女の手は興の足首に巻きついたワイヤーにかかっている。
「廃ビル?」
 自分の町にそんなものがあったのかと、興が首をかしげた。
「隣町の廃ビルさ。そういえば、君はアレがなんなのか知りたがっていたね」
「え、あ……ああ」
「アレらはね、世界中が彼女に押し付けたゴミなのさ」
「ゴミ?」
「そう、生贄ってしってるかい? 神様に供物をささげるっていう風習」
「そりゃまぁ、しってるけど」
「あれの現実はみたことないだろう」
 ぐい、と足が引っ張られると同時、一気にワイヤーがはずれ足が自由になった。そのまま背を向けろといわれ、興は狭い箱のなかでぐるりと体を回す。
「神様にささげる供物、なんて聞こえはいいけどね。実のところを言えば、魔女狩りとなんもかわらない、責任の押し付けとそれ以外の人間の心の平静のためなのさ」
「責任の取れない現実に、無理やり責任者を選んで責任を取らせる」
「そう、そういうこと。彼女も一緒だ。彼女は被害者であり、責任者だ」
「押し付けられたというのは、アレのことか」
「正確にはちょっとちがう。アレは副産物に過ぎない。彼女は未来永劫始まりも終わりも無い牢屋に閉じ込められて永遠に責任を取らされる立場にある」
「いみがわかんねーよ」
 またぐいと引っ張られた。手が曲がらない方向へ引っ張られ一瞬興はうめいた。
「たしかに、彼女の立場はどうでもいいね。つまりだ、アレは小崎・朝弓が世界から押し付けられた世界のゴミだ」
 手がすっと楽になる。枷がはずれ、興はもう一度座りなおすとありがとうと呟いた。
「ゴミねぇ。なんかいつもと違うのがいたんだけど。あと、この右手のやつ外れない?」
「どれだ?」
 そういって、興の右手にふっとムイの手が伸びた。
「……君、もしかして自分のからだに突き刺したのか」
「あ、いや。うん……。勢いで」
「頭は大丈夫か!?」
 いきなりつかみかかられ、揺さぶられる。勢いで頭をうち、興はうめいた。
「なんなんだいきなり! やめろよ」
「いや、君に渡したあの棒は、世界に悲鳴を上げさせるための代物で……」
 珍しく歯切れが悪い。
「すまない。さきに言っておくべきだった。よくへいきでそんなもの……」
「いや、よくねーって! 死ぬかとおもった。めっちゃくちゃいたいし」
「普通なら気がふれる代物だとおもってたんだけど、そうか実はそうでもなかったのかもしれない。へぇ、そうか。気絶は出来なかったみたいだな」
 すん、と鼻を啜る音。
「失禁もなしと」
「……!」
「そいつは抜けないが、肌にあわせて折ることはできる。ちょっとまってくれ」
 と、いきなりあっけない音をたてて右腕につきささった棒は付け根からぽっきりと折れた。
「……」
「とりあえず、この狭い箱からでようか」
 同時、ごきと鈍い音がした。つづいて軋むような音。木と鉄がこすれあっている音だ。木箱に釘をうったものだろうか。
「さてと、美甘・興。馬鹿な下僕を助けるために東奔西走しているお姫様を探しにいこうか」
 淡い光が漏れてくる。自分の居た場所が照らしだされ、興にも光がふってきた。そして、ソレをみおろしてムイは目を丸くする。
「きみ……なにしてるんだ」
 体を丸め、まるで女の子のように隅っこに丸くなっている興をみて、ムイが眉をしかめる。
「……」
「へぇ、もしかして」
 匂いをかがれたのが恥ずかしかったのか。
 ずい、とムイは興に顔を近づけていく。まるで逃げるように興は隅っこへ。しかし、既に箱の隅にいる興は体を小さくさせることしかできなかった。
「面白いな……っと、朝弓に怒られてしまうか。さぁ、早く立ってくれ。急がなければ、役立たず以下の邪魔者にしかならないぞ」

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