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連載小説:044

044:log
 施術はもうすぐ終わる、そんなことを到着したそうそうに言われても意味がわからなかった。興は首をひねりながらも、ムイの後ろについて研究所の中を歩いている。
 なんだか外観より中が広いように思える不思議な研究所の中は、あまりにも静かで油と鉄とコンクリートの匂いだけが漂っていた。
 二人はどこまでも続く長い廊下を歩いている。緩やかに左側にカーブを描いている通路は、先が見えない。同じ作りのまま繰り返す廊下を、ずっと左曲がりに歩き続けているのだが、すでにかれこれ一〇分以上を歩き続けているきがした。いくら緩やかとはいえ、興の経験上このカーブであるのなら既に一回転しているきがするのだが、入ってきた通路は見えてきてはいない。
 まるで、いつのまにかにドーナッツの中を歩いているようなそんな錯覚にとらわれている。
 灰色の通路に、等間隔で存在する扉。控えめな間接照明は床を照らすのみで見通すための光ではない。どこまでも同じ景色が永遠と続いている。間違いなく外から見た研究所の大きさは超えているはずだった。

 あまりの繰り返しに眠くなり始めたころ、興は一瞬からだが傾ぐ感じを受けてたたらを踏んだ。
「とと」
 あやうく、前を歩くムイの背中に抱きつくところだったがソレをなんとか寸でのところでこらえる。
「大丈夫か? まだもう少し歩くんだが」
 目ざとく興の足音の変化を聞き取ったのか、ムイが振り返り笑った。なんだか失敗を見られたようでいやに恥ずかしい気分になった興は、ついと、顔を背けてべつにと呟いた。
 歩き出したムイの背中をおいかけ、興も慌てて一歩を踏み出す。と、そこで彼は違和感にきがついた。なんだか、目が回っているきがするのだ。同じ場所をぐるぐるまわってるからだろうか。
 興は首をかしげる。やはりおかしい。この場所はすでに一周以上しているはずだ。疑問というよりは恐怖にちかい感覚がこみあげてきて、興は立ち止まる。
「どうした?」
 振り返ったムイが、興をみあげていう。
「……ああ、そうか」
 興はつぶやき前に飛び跳ねる。目をつぶり、軽く前に。
 とん、と軽い音がして着地。
「下にむかってるのか、これ」
「良く気がついたな。あの博士は頭が変態でな。いつかこの場所で密室殺人が起きたときのためにトリックにつかえそうな仕掛けを建物の中にたくさんしかけてあるんだ。そら。見えてきた、あそこだ」
 ムイに指された扉をみる。他の扉と差は全くない。外に出たら確実に迷うだろう。
「もう、手術もおわってるだろう。そして、この建物はあいつ等がでてきやすい。早く朝弓を返してもらわないと」
「まじ?」
「まじだ」
 扉が開き、室内から明るい光がもれだしてくる。あまりの光量の差に興は思わず目をつぶった。



 真っ白な壁と真っ白な床、真っ白な天井に、白い照明。完全に統一されたあまりにもまぶしい部屋の中央には、白衣をきた一人の男がすわっていた。奥には大きなガラスが張られその奥に吹き抜けのような大きな部屋が見えている。しかしその部屋もまた白く、唯一の色彩はその博士の髪の毛の黒ばかり。
「ようこソ」
 微妙にイントネーションのおかしいしゃべり方で興たちを迎えたその博士は、座ったままこちらに視線を向けている。無精ひげと癖のある髪の毛が印象てきで、表情がみえない。
「どうも……」
「朝弓は? 急がないと位置を特定される。早く別の場所へ移動したい」
「そう焦らないでクれ。腹部の銃弾は思ったより形がかわっててね……これ、彼女に撃ち込まれる前に、人間の体かなにかを通過したダろう? おかげで結構内臓の損傷が激しい」
 思わず興は右胸に手を当てた。
「だから?」
「絶対安静。傷はなおしたが、内臓の代用は利かない。彼女に別の物を埋め込むわけにはいかないのは、君もしっているダろう?」
 座りたまえと、彼が指し示したさき、椅子が二つおいてあった。先ほどまでは無かったはずの場所に忽然と現れた椅子に一瞬驚きを覚えたが、建物のおかしな作りもあったせいか、興はすんなりと受け入れその椅子に座る。
「たしかに、転移する前に体に別の物を入れるのは避けたいが」
「なんのはなしだよ」
 眉をしかめた興をみて、ムイは今更きがついたように目を見開いてしまったというような表情をつくる。
「なんダ。何も教えてないのか」
「忘れてたんだ」
「美甘・興君。君は結構非現実的なことに首をつっこんでいるんだ。だから、信じるのも理解するのも期待してないので、聞き流しテくれ。いいかい? 彼女は始まりも終わりもない存在でね、というかそうさせられてしまったといったほうがいいか。世界の原因と結果の一本道から外れてしまったんダ」
 いきなりわけのわからないことをいわれ、興は無言で男をにらむ。が、彼は全くそれを意に介さず言葉を続けていく。
「彼女が、アレらを見分けられるのは、彼女がアレらを呼んでるからだ」
「意味が……」
「小崎・朝弓はこの先の時間、子供を身ごもル。そのときに、彼女は転移する大体三ヶ月ぐらいのはずだ」
「はぁ?」
「その子供を腹に抱えたまま、彼女は時間転移し、今からおよそ四十五年前にたどりつく。その子供はその時代で育ち、そして今から十七前に子供を生む」
「え? えーっと、小崎の孫がいま十七歳?」
「いやちガう、それが小崎・朝弓だ」
 頭が理解を放棄する瞬間を興はかんじた。なにをいってるのだ、逆に怒りが頭をもたげてくる。
「だから、理解しなくて良いし信じる必要もない。ともかく、彼女はこの先子供を身ごもる。時間にしてあと六、七年後だ。その子供は既にいまから四十五年前に生まれている。そして今から十七年前に子供をうんだ。それが小崎・朝弓だ」
「いみが……つまり、小崎はこの先自分の親を……」
「そう、いまから七年後ほどたてば、彼女は自分の親を身ごもル」
「えっと、じゃぁ、小崎の親は……」
「彼女の子供だ」
 目が回ったのか、それともあまりに突拍子も無い言葉に頭がついてこないのか。興は椅子にすわったまま頭をかかえ深いため息をついた。
「弾丸は間違いなく下腹部から体内に侵入している。弾丸の形が正常だったラ、間違いなく子宮へ一直線のコースで。しかし弾丸は何かに当たり変形しており、彼女の体の中で軌道をかえ内臓をえぐるにとどまっタ」
「思わず、因果の自然治癒を疑いたくなるな」
 ムイが呟く。
「むしろここまで作為的な結果をみると、アカシックレコードの存在すらボクは疑いたくなるネ。過去も未来も変えられない。正確にいえば、変えた未来もすでに用意された過去でしかない、選べるが自由ではないといったところかナ。まるで、ゲームの選択肢のようダね」
「だが、無数にあればそれは自由とかわらないだろう」
「しかしそこに決定的な結果と結論の帰結をもちえる存在があるとしたら?」
「無数にあるとおもっているのは、内側の存在のみ……か? 外に出れば思わず世界の選択しの少なさに愕然とするかもしれないな」
「なにいってんだよ、あんたら!」
 思わず椅子から立ち上がり、興が叫ぶ。
「美甘・興」
 ぴしゃりと、さえぎったのはムイだった。
「朝弓の存在は矛盾だらけのままこの世界にある。彼女の血縁は彼女が身ごもった時点で費えるし、彼女の祖先は書類でしかたどれない。彼女には始まりも終わりもない」
「それがなんで、アレとかんけいあるんだよ」
「彼女と彼女の子供は、たった二人で世界の矛盾を背負い込んだんだ。いや、背負い込まされた。世界は常に矛盾し続けている。どこかにほころびがでてくるんだ。聞いたことぐらいあるだろう、怪談や不思議な話しの類に、時間をとんだ話や、見たことの無い景色をみた人間の話しぐらい。あれは真実ではない。といっても、現実だ。世界は常に壊れそしてそれを修正している。そのなかで出てくる老廃物の捨てる場所がひつようなんだ。つまり、未来を見てしまった人間の話を嘘にしたり、過去からやってきたといいはる人間の言葉を虚言にするために必要な修正をする過程で出る、世界の垢だ。その捨て場はどこになると思う?
「垢? 生物なら排泄すんだろ」
 ぶっきらぼうに答えた興のことばに、ムイは満足したのか薄く笑みを浮かべる。
「そう、排泄するんだ。世界が溜め込んだ垢、つまりアレらは。本来存在しない確率ともいえるアレらは、彼女という捨て場にあつまる」
「人が捨て場って」
「あくまで存在確率を捨てるといういみだ、空間とか施設が必要なわけじゃない」
「わかんねーよ!」
「彼女は、世界が存在する上で必要なゴミ処理場だ。しかも永遠己の親を生み続けるという業を背負い、永久に同じ時間を繰り返す矛盾した存在なんだよ」
 ムイの言葉と同時だった。いきなり真っ白だった部屋が赤く染まる。照明がいきなり赤くなったのだろうか、上を見上げると天井までもが赤くそまっていた。
「時間切れのようだネ。早速かぎつけられた。すでにこの施設は取り囲まれたようだが」
「のんきだな、やっぱり選択はミスか」
「事情がわかる医療設備のあるばしょなんて、ここぐらいしかないダろう?」
「たしかに。興、でるぞ。眠れるお姫様を守るのは君の役目だろう?」
 ムイがいい終わるまえに、興は部屋を飛び出していた。

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