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かみさまごっこ

人生は「過程」か「結末」か?(小説執筆者募集!!)(karimikarimi)
 参加作品。脱稿。
 時間がないのをいいわけにはしたくないけど、あまり推敲してないのに参加していいものだろーか、ちょっとなやむ。むむ。まぁいいか! 勢いで! イヤッホー!
 って、なんかトラックバックおくれないんですけど……。このまま不参加とか笑える。笑えるからあきらめるか。




 その部屋は汚れ一つなくて、とても綺麗だけどつまらない部屋だった。
「おはようございます」
 絨毯敷きの部屋に声は響かず、鈴のように広がり水滴のようにその余韻を消していった。
「おはよう。キキョウさん」
 答えた声は、まるで風のようだった。空気が揺らぐだけの存在感のない、ともすれば気がつくことのないような声だった。

「さん付けはやめてくださいと、再三もうあげているのですが……」
「キキョウさんがボクのこと、かみさまってよばなくなったらね」
「……でしたらあきらめます」
 特に気分を害したわけでもなく、キキョウと呼ばれた女性はいつも通りのやりとりに軽く息を吐き出した。
 神様、とよばれているのは彼女の目の前で座っている若い男性だ。
「どうして? ただぼくのこと、むかしのようになまえでよんでくれるだけでいーのに」
「神様は、神様ですから」
「ボクがよちできるから? みんながそういうから? ぼくはそんなふうによばれたくなんかないよ」
 不機嫌そうに男はうつむく。ゆったりとしたソファーに体を沈み込ませまるで逃げ出すように男は体を丸めた。
「我々は、こういうやり方しかあなたを敬う方法をしりませんので」
「キキョウさんがきめたの?」
「皆できめました。我々の未来を見定めてくださる神様を、出来る限り――」
「やめて」
 静かで柔らかですぐに消えそうな声だが、その拒絶は絶対的な力を含んでいた。まるで首を絞められたかのようにキキョウは息を詰まらせる。
「ごめんね、キキョウさん。でも、そんなふうにいわれてもボクはそんなたいしたとやっていないよ……みらいなんて、ボクはみちゃいないもの」
「神様の未来視の的中率はほぼ100%。外れたのは……」
「ぼくのちからがなくなるというよげんだね」
 無言でキキョウが頷く。
「キキョウさんはしってるでしょ、ボクのほんとのちから」
「神様……」
「ボクはみらいなんかみちゃいない。ボクがもっているのは、ボクがいったよそくをげんじつにするちからだ。みらいをしるちからじゃなくて、みらいをきめるちから。うちゅうかいびゃくいらい、じょうほうもげんし1つだって、じかんぎゃっこうなんてしていない」
 可能性を引き当てる力。それが彼がもってうまれた力だ。可能性確定能力とでもいうべきか、0でない可能性を100にする力。彼が予測した、望んだ未来は確実に起こる。情報の時間逆行もおきてはおらず、未来から彼が来たわけでもない、彼はただあり得る可能性の取捨選択を行っている。
 限りなく完全にちかい未来予知でありながら未来予知とはかけ離れた能力者で、未来を予め知ることが出来るという能力者ではない。
「みらいよちができたら、どれだけいいだろう」
「……それが尊いお力であることに、かわりはありません」
「みらいのかのうせいをなくし、せかいをからせるちからがとうとい? ……きめたよキキョウさん。ボクはもう、おわろうとおもう」
「神様?」
 不穏な空気に、思わずキキョウは神様のそばに駆け寄る。
「こんなのろわれたちからは、もういらない。ちからがなくなるというよそくだけは、かなわなかった、むじゅんがおきたんだ。ちからをつかってちからのないみらいはひきよせられない。だけど、ひとつだけおもいついたんだ」
「ちょっと……まってください」
 神様は、笑った。キキョウが久しぶりにみる笑顔だ。いつ以来だろうか、そんなことを頭の裏側で考える。
 ――ああ、そうだ。まだ神様が神様じゃなかった頃だ……
『次、僕が眠りに付いた時を最後に、僕は二度と目覚めないだろう』
 甘い眠りのなか、深い深い闇に吸い込まれていく感覚。眠るように、そして二度と目覚めない甘美な闇。消え溶けていくのは記憶か意識か。
「神様!」
 絶望の叫び声のなか、キキョウは未来が確定される音を聞いた。
 ただ人が一人死ぬ未来のために、誰かが誰かと出会う可能性がなくなった。仲直りできるチャンスを逃した。光を失った。音をうしなった。手術が失敗した。どこかで海流に飲まれて客船がしずみ、遠い惑星で新しく生まれるはずだった生命体が偶然で潰え、星が一つくずれた。手に渡ってはいけない取引が成功し、子供はお使いの紙をなくした。
 世界の可能性という可能性がつぶされ無理矢理収束していく。世界選定の音だ。
 まるで悲鳴をあげているように、男にはきこえた。もうこれがさいごだから、ゆるしてくれ、とそんなことを考えながら。

 ◆

「いや……いや! 神様、どうして、どうしてこんなことを」
「きこえたでしょ。ボクがこうしてみらいをきめるたび、かわりのかのうせいがきえるんだ。これはみらいよちじゃない、せかいをころすちからだ。もう、いやなんだ……ごめんね」
 どこか、すっきりした顔で男はソファに体を預けて天井を見上げている。
「はやく訂正して! おねがい! ねぇ、アベリア!!」
「はは、ひさしぶりになまえ、よんでくれたね」
「そんなこと……おねがい、あなたが居なければもうこの世界は……」
「ぼくがきめたみらいは、ぼくのちからではかわらない」
「……どうして」
「ごめんね、キキョウ。かわりに、きみのほしいみらいをひとつあげる」
「――私に共犯者になれって? 力をつかって可能性を殺せというのね?」
「……むかしからいじわるだね。じゃぁちからをつかわないことで、できることならなんでもするよ。いままでずっとおせわになったし、ね」
 アベリアは相変わらず力のない笑みをたたえたままだ。
「わかった……じゃぁ、死ぬとき私のことを覚えていて……おねがい」
「うんわかったよ。『僕は、死ぬとき君のことを――
 考えて死ぬ。
 それは未来を決める言葉だ。アベリアはとっさに己の口をふさいで、言葉をのみこんだ。
「べつに、言葉に出さなくてもいいから。ありがとう……、じゃぁ。神様の最後の言葉を伝えてきます、世界は混乱するでしょうけど」
「まって! まって、ちゃんと……」
 おぼえている。考えよう。それでは、やはり未来を決めてしまう。
 考えてみせる。はどうだろうか、しかしそれでは約束したことにならないのではないだろうか。頑張るといっているの同じでは、意味がない。
 言葉をかえようが、旨い言い回しだけが浮かんでこない。
 ――ああ、ぼくはなんてばかなんだ。
「どっちにしても、報告はしないといけないから。もどってきますから」
「あ……」
 キキョウは背を向けると逃げ出すように部屋から出て行った。
 アベリアは誰もいなくなった、何もない部屋でじっと天井を見上げる。
 願うとなんでも叶った。慰めのつもりでつぶやいた言葉が真実になり、気がつけば周りには相談事をもちかけてくる人間がたくさん集まり始めた。気がつけば相談相手が、一般人ではなく偉い人間になりはじめ、自分は気がつけば祭り上げられていた。
 最後には、その未来予知の力で神とまでよばれていた。世間になにがあるかはしらない、この部屋から出たのはいつだったか覚えていない、願えば何でもかなったから望みはなかった。昔からずっと一緒にいた、キキョウだけが彼にのこった最後の人間らしさだったのかもしれない。
 ――ああ……いろいろなものをなくした。
 閉じ込められて、とうに日付の感覚はなく、知識も薄れていき、言葉も忘れそうになる。ふと、首を巡らせるといくつかの本があった。社運をかけた本の出版の未来をみてくれときた、どこかの偉い社長だっただろうか。アベリアはソファから立ち上がると埃一つかぶっていないその本を取り上げる。
 難しくて、適当に流し読みして大丈夫売れるでしょうと、責任のない言葉をつぶやいて終わった記憶だけは残ってる。
 泣いて喜んでいたあの社長、いったい今はどうしているだろうか。
 乾いた紙のめくれる音が、部屋に落ちた。
「ほんよんでも、なんにもならないかもしれないけど……」
 もしかしたら、なにか未来を確定させないでも伝えられる言葉があるかもしれない。

  ◆

 本の中身は、見た目から小難しそうな文学小説かとおもっていたがもっと軽いものだった。難解な文章というより、丁寧で綺麗で読みやすい整理された文章で綴られ、会話も内容もごく日常的な話だ。
 読み始めてしまえば、その本の吸引力はすごくアベリアはすぐに夢中になった。主人公の少年が飼っていた犬が逃げ出して、それを探しにいくという話。恋愛もなければ、誰も死なない、大きな病気で苦しむことも、不思議なことが起こることも、未来の機械がでてくることもない、戦争もないしミサイルも飛んでいない、イジメもなければ、家の教示に縛られることもなかった。ただ少年は自分の足で彼の世界を走り回り、飼っていた犬を見つけ出すことに成功した。ただそれだけの話だった。
 だが、きっとこの本はアベリアに未来を予知してもらわなくても十分にうれただろうことだけは彼にもわかった。
 どれだけの時間がたっただろうか、軽く体の疲れをおぼえ思わずあくびがでる。と、扉が開く音が聞こえた。
「もどりました」
 一瞬開いた扉の向こうから、喧噪が一瞬漏れ聞こえてくる。
「おかえり、キキョウさん」
「……大混乱です。新たな神をさがそうだとか、見捨てられたと泣き叫ぶものや、自殺しようとするものも、大半はこのままあなたの死を隠し通しやっていくつもりだそうですが」
「……あんしんした」
「にげれることにですか? あなたの予測はつねに100%、覆らないのだからしかたありません」
「そうじゃない、ボクもただのにんげんだったってことがわかったから」
「たしかに、あなたが死んでもこの教団は変わらず存続しつづけ、システムはそのまま動き続けるでしょう」
 すまなそうなキキョウの言葉は、何もない部屋の壁にぶつかって力なく消える。
「ねぇ……キキョウさんがでていってから、どれぐらいたった?」
「半日はたちました、そろそろお休みの時間かとおもいまして」
 ありがとう。アベリアは、そういって机にあった本を閉じるとソファへと戻っていった。
「本、よんでらしたんですか?」
「キキョウさんに、ちゃんとつたえられることばのみほんとか、あるかなって」
 キキョウは持っていた資料を机におくと、アベリアの横にすわる。
「めずらしいね」
「今日ぐらい、最後ぐらい……いいじゃない」
「ごめんね、さいごまでわがままで」
「神様だしなんでもゆるされるでしょ。わがままといっても、アベリアはいつも勝手にきめて勝手にやっちゃうけど。何でも出来るんだから、当然……」
 そこで言葉を詰まらせた。
 よこでアベリアがあくびをしていたのだ。眠いのだろう。いつもならもう寝る時間だ。
「眠い?」
「うん、もうすぐさいごだ……」
「後悔してない? 死ぬのは怖くないの?」
「そんなこと、ずっとまえからかんがえてた。ぼくのちからがけせないって、わかったときからずっとだよ。ようやく、けっしんがついたんだ。ほんとなら、くるしんでしんだほうがいいのかも、でもそこまでのゆうきはなかったよ」
「ばか……」
「ごめんね」
「おねがい……いまからでも間に合う、死なないで。生き返るって言って……」

 おねがい。

 そう、キキョウはつぶやいてうつむいた。

 ――あ、あそうか。そうだ。
「キキョウ」
「……」
 顔をあげた、キキョウの目は赤く腫れ上がっていた。
「しぬときは……きみのことをかんがえて、しなせてください」
「!」
 ひさしぶりに本をよんで、頭が、目がつかれていた。もう、瞬きもおっくうな明滅する視界のなかで、キキョウの泣き顔が見える。
「アベリア……」
「ありがとう、きみがいてくれてよかった。きみでよかった」
 アクビをかみころしながら、アベリアがつぶやくように言う。
 首をふりキキョウは涙を振り払った。もう、アベリアの意志はかわらないだろうこともわかっていた。せめて笑って送り出したいと、キキョウは涙をぬぐう。
「ありがとう。おつかれさま、アベリア」
 アベリアの視界が落ちる、思考がとまる、ゆっくりとふかくどこまでも。意識が拡散していく感覚。体が体ではなくて、物質になっていくのがわかる。
 ――ああ、キキョウ。そんなに、なかないでくれ。ボクは、
 意識は溶けて消える。
 神にもっとも近かった男は、こうしてこの世から消えた。

 ――悲しくなんか無いよ。

 遠く、喧噪が聞こえる。
 無くなった頭を必死出隠そうと、誰かが叫ぶ。もうだめだと、絶望の声が上がる。キキョウは、めんどくさそうにため息をつくと、横で眠るようにして息をとめた幼なじみの頭をぎゅっとだいた。
 昔とかわらない、アベリアのにおいがした。

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