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今日の三題話

「砂漠」「開始」「絶体絶命」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そこまで、美味しい話があるとは思えないし。結局のところ無かったのだから、やはりそんな事はないのだ。と、勝手に自分の中で命題が出来上がる。
 そんな、納得したくないのに納得させられてしまった。そういうなんだかむず痒い感覚を引きずりながら、ヒサキは目の前を歩くデコボココンビよろしい先輩二人の背中を追っていた。
 何もしない部活と言うのは、流石にないよな。ヒサキは、少しそうであったらよかったと考えながら、歩く。
「ぶぶぶぶ部長、きょきょうは今日はどこですか?」
「今日は、卓球部だ」

 目の前で、二人が話しているのを、右から左へと流しながらヒサキは歩く。横ではステラが無表情のまま歩いていた。気まずい雰囲気は、多分ヒサキ以外感じていないだろうが、それでもヒサキにはそれが真実だったし、逃げ出したいことに変わりがあるはずが無かった。
「さて、歩きながら説明するといったけれど。残念ながら、私たちに説明するほどの知識はないのだ。答えられる範囲で質問には答えるつもりだが、何かあるかな?」
 いきなり、後ろを振り返り賀古井が言う。あまりにいきなりな言葉に、ヒサキは面食らい言葉をなくす。説明できないようなことをするというのが、既にヒサキには理解できる言葉ではなかったし、予想できるものでもなかった。何かを聞かなければいけない、そんな気はしているのだが、何を聴いていいのか判らない。
「私はありません」
 ステラは、依然無表情に歩きつづけている。目の前の二人も、コチラを見ないで静かに歩いている。廊下は静かなもので、四人の足音以外には風の音だけが聞こえる。外の風は強く、窓の外で吹き荒れているのが判る。足音と風お音だけ。まるで砂漠を歩いているような錯覚に陥る。
「加賀ヒサキはないのかな?」
「え? あ、はい。えーっと……」
 名前をいきなり呼ばれ、ヒサキはたじろぐ。
「気になっていることを言えばいい。別に堅苦しく考えなくてかまわない」
「え、えと。じゃぁ。帰宅させるって一体どういうことですか? 風紀委員みたいな取締りのことでしょうか?」
 ついて出たのは、先ほどから頭の中に渦巻いている疑問。自分でいってなんだが、部活が部活を取り締まるというのも変な話ではある。
「いや、もっと具体的に。対象を元の場所へ帰すのが仕事だ。ああ、仕事というのは私たち帰宅部は通常の部活とスタンスが違うので、活動ではなくて仕事と言っている」
 間違えて蹴り飛ばしたら、吹き飛んで転がっていきそうな小柄な部長の背中を見ながら、ヒサキは考える。部活と違う。でも部活と言う名前がついている。おかしな事だらけで、何がなんだかわからなくなってくる。賀古井の物言いが的を得ない周りくどい言い方だというのもあるのだろうが、ヒサキには既に話しについていくだけで精一杯だった。
「違うって言うのは、具体的にどう違うんでしょうか?」
「学校側としての扱いの差でいうのなら、部費が学校から出ていない。顧問が、本来顧問になりえない教頭が顧問だという二点だ」
 それ以外で扱いの差はない。賀古井の言葉にヒサキは更に混乱する。
「文化祭での活動もあれば、部会とよばれる部長たちが集まる会にも普通にさんかしている。部室もあるし、特に表面上ほとんど変わりはないよ」
 本来部活と言うものは学校の運営の中に組み込まれているものだ。つまり、学校側が場所と金と保護者を提供し、学生達はそこで楽しい学生生活を送る。そういうシステムのはずだ。なのに、学校が提供するものは場所と保護者。いや、保護者である教頭が個人で設立している可能性のほうが高いかもしれない。
「あの、それは教頭が私設した部活ということですか?」
「正解だ。そして、後は見た方が早いだろう。さぁ、目的の場所へついたぞ」
 言われて顔を上げると、そこは運動系の部室棟が立ち並ぶ建物の一角。年中日陰に覆われてるであろう地面は、熱ではなくて湿気を立ち上らせている。ヒンヤリとじめじめの間の青臭い微妙な雰囲気。風があるのに、そんなことを忘れてしまうほどに停滞した空間がそこにはあった。殆どの部活は出払っているのに、なぜか部室棟自体は静かでない。かすかなざわめきのような活気がそこにはあった。
 四人が立つのは、部室棟の廊下。電灯は殆ど明かりを照らすのには役に立ってはおらず、廊下の入り口から差し込む光りでかろうじて見える程度だった。
 目の前の扉を背に、賀古井が三人に振り返る。
「さぁ、我ら帰宅部の仕事場へようこそ諸君――」
 水平に、上げられた腕。まるで扉の向こうで誰かがあけたかのように、勝手に扉が開いていく。猟奇じみた笑顔を顔に貼り付け、賀古井が笑う。
 軋みも無く、まるで映画を見ているように無音で開いていく扉、扉の向こうにはぽっかりと開いた闇がわだかまっていた。
 それは開始の合図。ヒサキは一歩後ずさりをする。だが、心のそこから理解していた。
 自分はもう、逃げられない。
 また一歩後ずさり。そして、扉が開ききった。
「さぁ、行こう」
 そういって、賀古井は既に後ろを確認せず闇へと消えていく。続いて志茂居が、そしてステラまでもが全くためらわずに闇へと飲み込まれていった。
 ヒサキはその瞬間、置いて行かれるという恐怖に負けたのだった。絶対に、今すぐ、背を向けて、逃げ出すべきだったのに。足が前に出る。既にヒサキの中で意志はなく、葛藤だけが埋め尽くしている。呼吸が浅くなってるのか、腹のそこが苦しい。けれど、また足が前に出る。
 そして、気がつけばヒサキは部室の中へと足を運んでいたのだった。

 白。本来白というのは、可視光の全てを反射することで見えることのできるものだ。逆に黒は反射しない。然し、今眼前にあるのは間違いなく白。そして、この場所は真っ暗な暗闇だった。自分の手が見えないぐらいの暗闇の中で、白い柱見たいのが建ち並んでいた。柱といっても、高さはヒサキと同じぐらいかそれより大きかったりする。けれど、大体はヒサキと同じぐらいの高さで切れている。白い柱。そして柱は発光していなかった。手を近づけても、自分の手が影から出てくることは無く、己はただただシルエットに成り下がったのかと不安にすらなる。体を触れば、自分が居ることを確認できるし、服だって着たままだ。
「加賀ヒサキ。きたかな? そろそろ目が慣れてくる頃だろう。あまり凝視するなよ? 間違いなく、その白いのは君にとってショックだろうから」
 言われて、逆にヒサキは見てしまった。目の前にある白い柱。いや、柱じゃない。
 これは。
「ひっ」
 尻餅をついた。そしてこみ上げる吐き気。恐怖ではなかった、どちらかといえば嫌悪感。
「うっ……うえぇぇぇぇ」
 水っぽい音と共に、ヒサキは胃の中に入っていたものを吐き出した。こらえられない吐き気。鼻にツンとくる、胃液。ぐっとせりあがる二度目に波に、ヒサキの抵抗は空しく
「おあっ……ゴホッゴホッ」
 戻した。もとから胃の中にものが入っていなかったのもあり、胃が激しく律動するのがわかる。ものがないののに、必死で吐き出そうとまるで自分の内臓を外に出そうとするぐらいの勢いで、胃が――
「うえぇ……」
 律動を繰り返している。
「だから言った。凝視するなと」
 人は、人を嫌悪する。自分の結末をみて嫌悪するのだ。恐怖から来る嫌悪は根が深く、そして目を背けられるものではない。
「志茂居ケイタ、加賀ヒサキは任せる」
「わわわわか判りました」
 倒れこんでいたヒサキはいきなり引き上げられ視界が高くなる。
 高くなった視界に、白い柱。いや、白い人が目に入った。白い人。シルエットとしてただ白く、そして表情だけが見て取れる。
 全てが全て、苦悶や悲哀を浮かべ、死ぬ寸前という瞬間を焼きつかせたようなそんな感じだった。それとは別に、いやそれだけでも十分に嫌悪するようなものではあるのだけれど、それ以外に胸の中に抉りこんでくる感覚。目が合った瞬間に流れ込んできた、白い人の感情。それは、ヒサキには耐えられない衝撃だった。
「うっ」
 二度目は何とかこらえる。けれど、それはいつでも決壊するような危うい戦場だった。
 吐き気というよりは、嫌悪感にさいなまれつづけるヒサキの頭は、既にこの場から逃げることしか考えていなかった。絶体絶命。人の死体すらも見たことの無いヒサキが、こんなところで耐えられる道理は一つも無かったのだ。
「沢村ステラ。少し下がっているんだ。今日は私一人で終わらせよう」
 引きずられながら、部室を後にする、その背中に賀古井の声が聞こえる。
 憔悴しきったヒサキは、意識が落ちていく瞬間聞いたことの無いような音を聞いた。

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