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今日の三題話

「市街」「終了」「永久不変」
Myu氏の挿絵はいりました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ゆらりと、身じろぐように空気が揺れた。音を立ててはいけないという永久不変の不文律があるかのような無音。それは別に侍が対峙するような無音ではなく、もっとネガティブな無音だ。消えた音を探すように不安げに風はゆれつづけ、匂いが振り落とされる。慣れ親しんだわけではないヒサキには、その教室の匂いは既に違和感としてのみ鼻に届けられる。
「何を言っているんですか」

 はじめに口を開いたのはヒサキだった。教室内に染み渡った無音を払拭するには至らないその声は、ただポツリと漂いはじけて消える。
「別に犯罪者だ、などと言っているわけではない。でも、自分でもわかっているのだろう? あの事件のことを未だに気にしているのだろう? だが、これ以上私たちが何かを言うことは無い。君が、事なかれ主義で居るのならそれでかまわない」
 ヒサキは賀古井が言っていることが判らなかった。何故あのことを知っているのかが判らなかったし、事なかれ主義なのがなぜかまわないのかも判らなかった。
 夕日は熱を持って教室を照らし、ヒサキの顔を赤く染めている。目の前で賀古井が静かにヒサキを見ていた。窓から見える市街も既に赤く染まり、その色に負けるかと必死でネオンを焚き始めていた。
「別に脅すつもりではない。君が入部を拒んだところで言いふらすような、下種な真似はしないから安心してくれ。ただ君が居てくれると幾分ありがたいというのは本当だ」
 一瞬賀古井は目をそらし、廊下を見る。
「君の諦めが必要だ」

 どうでもいい。めんどくさい。それは多分本心。
 ヒサキは鬱屈な気分で、なれない帰路を歩いている。目の前には、沢村ステラがなぜか歩いていた。普通なら「どうしてついて来るのか?」「同じ帰り道なのか?」みたいなものがあってもいいとは思う。しかし、そこまで考えてやはり面倒臭くなってヒサキは思考を中断する。沢村ステラはやはり無言。
 あまりに色々とありすぎて気持ちの整理がつかない、なんていうナイーブな人間を演じるつもりはヒサキには毛頭無かったけれど、それでも多少なりと混乱はしている。
 暗くなり始めた道をステラの後をつけて歩いているようで、ヒサキはなんだかいたたまれない感覚を得た。まるでこれではストーカーではないか。何も悪いことなんか、していないというのに脅迫されてるような気分。
「あの」
 だからと言うわけではないのだけれど、ヒサキは声をかけずには居られなかった。
 ヒサキの声にステラが振り返る。が、やはり無表情。「なに?」とも聞き返してこないまま、ステラは無言でヒサキを肩越しに見ている。
「沢村さんって、家こっちなの?」
 ヒサキは自分で自分をほめてやりたかった、人見知りが激しく他人が何を考えていようが興味のない自分が、同じ部活とはいえ全く親しくない他人、しかも女性に会話を持ち出したのだから。だが、ヒサキの問いかけにステラは返事をしなかった。心臓が、戸惑いを燃料に加速する。体中の毛穴から汗が噴出したような、そんな体の冷える感触。
 そして、しばらくそのままヒサキを見ていたステラが口を開いた。
「うん」
 ただその二文字。そして、仕事は終了したとばかりに前を向き、振り返らないステラ。すぐに規則的な足音しか聞こえなくなった。
 ヒサキには、湯木先輩がステラに話し掛けている姿が目に浮かぶ、想像の中で二人は楽しそうに話している。ああは、なれない。ヒサキは軽くため息をついた。
 違和感が明るみに出る瞬間はいつも唐突だ。
 相羽カゴメが袋にお茶を入れたまま、お茶を新しく買いに行く後姿。
 湯木カズのタバコの匂いは個室越しにまで匂って来たのに、本人は気が付いていなかった言葉。
 志茂居ケイタの食事量。
 賀古井の背。
 そして、沢村ステラのまるで人間が見えていないようなそんな表情。
 何かがおかしくて、そしてそれがあまりにも絶対的すぎる。
 はじめはこんな人も居るのか、そう思っていたけれどそうでもないような気がし始める。一度浮かんだ疑問を、ヒサキは払拭できない。
 そういえば、自分だっておかしいじゃないか。ヒサキは思い至り、苦笑いを浮かべた。いつからこんな投げやりな性格になってしまったのだろうか。思い返しても、あの事件意外には考えられない。そういえば、この道だった。
 ――そう、目の前をそうやってアイツが歩いていて。
 ステラが、金髪を揺らして歩いている。
 ――丁度その交差点だ。
 ステラが交差点に差し掛かった。
 ――確か左から車がやってきて。
 左から、ブレーキが、タイヤが擦れる音が聞こえる。
 ――僕は叫んで。
 搾り出すような叫び声にステラが振り返る。
 ――走り出しながら手を伸ばして。
 バカみたいに左足がアスファルトを蹴る。浮き上がる体を無理やり倒して右足を地面にたたきつける。まだだ。衝撃が膝に直接届いたけど気になんかしない。悲鳴をあげる関節を無視して右足がアスファルトを蹴る。力いっぱい伸ばした手がまるで他人ごとのように視界に映った。
 ――伸ばした手は触れないまま、彼女は右に飛んでいった。自分の小さな手だけが視界に残った。
 流れる視界の中、小さな手は届かなかった。でも、もうこの手は子供の手じゃない。
 突き抜けろ――
 でも届かなかった。白いバンがヒサキの視界に見える粘性を帯びた時間の中を、まるで死の宣告を告げる死神のようにゆっくりと、埋め尽くしてくる。
 伸ばした手に触れる感触。違ったのは一つだけ。
 体が大きくなっても何も変わりはしなかった、ただ一つだけ違った。
Unconsciousness. Expressionless. However, there is will being not to die.
 沢村ステラが伸ばした手を、力いっぱい掴む。バカみたいに力いっぱい着地した左足をすぐに逆回転。体を背後に倒しながら伸ばした右手を後ろに引いた。
「あああああああああ!」
 ヒサキの体中を軋ませるのは、ニュートンの亡霊。気合と根性なんかで、林檎の神様は見逃してくれるほど甘くは無かった。
 左足、新しく降ろした靴が災いした。綺麗にコーティングされた靴底は、いまだ滑りやすく、あまりにも無常にヒサキの力を支えている摩擦力に敗北した。
 一瞬で下へと抜ける力に、視界がバカみたいに傾いていく。ステラを掴んでいた右手が諦めかけて力が緩む。やっぱり駄目だった。体中が弛緩していくなか、その瞬間。確かにヒサキは右手に感じた。ステラが、ヒサキの手を握り返してきた。初めて、ステラの感情を感じた。
 諦めない、この右手だけは諦めない。握り返すようにヒサキは力いっぱい右手に力をこめる。
 けれど傾いた体が、踏みしめる場所もなく重力の手から逃れる術は無かった。見上げた空は、黒くて赤くて青かった。
 衝突音が響く。窓ガラスを揺らし、樹の葉を震わせ、風を塞き止めるほどの大音響。
 倒れこんだヒサキの上に、ステラが乗るような形で二人は道に倒れている。
 ステラの金髪の向こうに、黒くて赤くて青い空が見える。
 いい匂いがした。
 
 結局のところ、その場にへたり込んだとしてもステラが車に轢かれることは無かった。現実はどこまでも、努力に対して無慈悲で無関心なのだ。
 結局、功労者はバンを運転していた運転手だったのだが、運転手はそのことを黙ったまま、抱き合っている学生を少し羨ましくもほほえましく見下ろしている。遠くで救急車の音が聞こえる。まぁ、二人とも怪我はしていないだろうがと運転手は一人ごちる。
 野次馬と運転手に見下ろされながら、高校一年生の二人組みは気絶したまま寝息を立てている。



 今週のラノベスレ参加作品に猫の地球儀のパロを入れておいたのだけど、誰も気が付かなかった。気がついていわれなかったのか。まぁどっちでもいいけど。
 来週は「嘘」だそうです。そしてMyu氏から「ガチファンタジー縛りで」といわれたので、ファンタジーでがんばります。
 ガチファンタジーって戦記物に近いというイメージなんだけど、未開拓すぎるなぁ……

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コメント

 いや、今、純ファンタジー(中世西欧風味の剣と魔法のアレ)のラノベは売れないとか言ってたので。そう言えばかつては単にSFとかファンタジーってだけでヤングアダルトに分類されてたのかなぁと思って。SFの一部は早川に行ったのかもしれないけどファンタジーはどこに?とか思って訊ねただけだったのだけど、えーと、んー、まぁ、がんばれ。
 あとやっぱり、ハリポタとか海外文学はまた別なのかなぁ。

  • myu
  • 2005/04/05 00:06

 その後、たしかじゃぁ今度はファンタジーでと言われた記憶がある。ファンタジーに出来ない御題の場合はスルーでというはなしだったような。あれMyuじゃないってことは、kooさんかチンギスさんかな。
 取り合えずやれって言われたんで善処します。
 調べたところ、ファンタジーの源流は不思議の国のアリスとかオズの魔法使い的なものらしいという説がはっけん、それでいくならハリポタも十分ファンタジーなのではないだろうかと。
 魔法や剣があればファンタジーってわけじゃないっていう話だったですよ。

  • カミナ
  • 2005/04/05 10:02

 や、アリスやオズやハリポタがファンタジーなのは異論挟む余地ないですけど、ラノベというくくりには入らないよね?ということ。
 あと、「じゃ次は純ファンタジーで」と言ったのは確かにワタシです。

  • myu
  • 2005/04/05 11:52

 >「じゃ次は純ファンタジーで」
 僕の記憶に間違いがなくて、よかったでございますですますです。
 ラノベでファンタジー。って、電撃でそういえば一つあったような。
 「ゆらゆらと揺れる海の彼方」なんかそうかもしれませぬ。
 やっぱ、あまり見なくなってるなぁ。エロゲーにファンタジーがないとエルフがエルフが! もっと、エルフを普及させるべきであります。世界のエルフ分が希薄なっている!
 ハリポタは一応ライトノベルの部類なんじゃないのかなぁ、たしか児童向けだよねアレ。御伽噺に近いものもあるけど、御伽噺よりは年齢層が上ってかんじで。
 絵も一杯あるし。
 ライトノベルみたいな低俗なものと一緒にするな。なんていわれそうだけど。

  • カミナ
  • 2005/04/05 14:07
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