スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

今日の三題話

■連載中のlog
「盗賊」「うるさい」「首」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 体が揺れる振動に、ヒサキは目を開けた。
 自分がどこに居るのか判らない、といった感じの視線が彷徨っている。
「おはよう」
 聞き覚えのある母親の声に、意識の火がヒサキの目に宿り始めた。
 ――病院に居たはずなのに。

 廃棄寸前のオンボロ車は、地面のデコボコに当たるたびにうるさい音を立てて揺れていた。乗りなれた、加賀家の唯一の車。後部座席に足を折り曲げ寝転がっているヒサキは、首だけを巡らしてそれを確認していった。
「……あれ?」
「部長さんがね、連絡くれたの。あなた、学校で倒れたんたって?」
 ヒサキは上体を起こし母親の言葉に、めんどくさそうに頷く。賀古井が何を言ったのかはヒサキは知らないが、上手くいってくれたのだろう。特に変な心配もされずに住みそうだと、ヒサキは内心で一息ついた。
 あのまま病院で倒れたのだろう。ヒサキは記憶にない自分を思いながら情けない気分になる。部長に掴み係り、邪魔をしたときのあの手の感触だけは覚えていた。
 そして「貴様の行動は、チグハグすぎる」といった、部長の表情を思い出した。
 賀古井の顔は、理解できないものに出会ったような、絶望したような、悲しそうな顔だった。少なくても、あの時怒りは感じられなかった。むしろ、家を泥棒にあらされて、どうしてといっているような、盗賊に襲われてなぜ自分がといったような、そんな理解できない状況に出会ったような不安と憤りの表情。
 明日あわせる顔がない、とヒサキは顔を一度しかめまた眠りにつく。目を閉じ、古い車の硬くなったタイヤが叩くアスファルトの音を聞きながら。

 既に、あの星空はない。泥を被ったような夜空に、点々と一等星や二等星が見える程度だ。いくら田舎とはいえ、都会の近くに位置するこのくぼ地は、都会の明かりに喰われる星が続出している。春の先とはいえ、夜風は優しい風ではない。アスファルトと一緒に黒に溶けた街と空は、境界線をゆらゆらと揺らしながら、風にゆれる。瞬間、歓声が上がるような草木のざわめきが起こった。一際強い風は、その黒に溶け込まない二人を襲ってすぐに過ぎ去っていった。湯木と賀古井の姿だ。
 相羽カゴメの背中を見送りながら、湯木と賀古井は同時にため息をつく。
「まーさか、停めるとは思いませんでしたよ」
「……確かに、じっと見てるだけだと思ってはいたが。それより、責任を加賀ヒサキへと押し付けようとしていないか?」
 びくりと、湯木の体が震えた。
「いえ、そんなことはないです。それよりも、逃がしちまいましたけど……」
「原初を取り逃がしたからには、上から色々言われるだろうな」
 角を曲がり、相羽カゴメが二人から見えなくなった。それでも二人は、その方向をじっと見ている。志茂居はといえば、ヒサキを背負い家族が迎えにきた車に乗せそのまま、その足で帰っていってしまっていた。
「原初が手に入らなかったからですか?」
「原初自体に、優位性はない。唯一、原初と複製に差があるとするのなら向こうへ行ってしまったときの差だ」
 いわれて、湯木は白い靄のかかっていく少女の姿を思い出す。
 拒絶。
 何者も近寄らせないという意志に彩られた泣き声。白い靄が消える瞬間いった言葉。
「もしかして……」
「そう、原初だけは向こうに行ける」
 風が吹く。春はただの幻想だと思わせるほどの、強く厳しい風が吹く。夜空は黒く所々に、点々と見える星。それでも十分に綺麗と思わせるほど晴れ渡り、厳しい空に彩りを添えていた。
「最悪の事態ってやつっすかね」
「最低最悪」
 賀古井の言に湯木はうぇ、とうめいた。



 会議だけは鬼門。昼休みとかで何とかがんばれ。俺。
 今日は短め。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL