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今日の三題話

■連載中のlog
「召喚師」「強い」「腹」
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 アレが何なのか、呼称はなく、ただ居るだけのアレは一体なにか。
 唯一答えを持っていたであろう人間は、既に行方不明となっている。存在を、観測や哲学で論じることは可能ではあるし、そこに真実が一片も含まれていないというと、それは流石に言い過ぎではある。しかし、世の中を人が知る科学的理論だけで論じることもまた一元的である。

 アレが何か。最初に知覚された歴史は記録されてはいない。大体二年前だと、賀古井は言う。少なくとも、それより前に賀古井は見たことはないと言う。事実、あの白い「何か」はその二年前を境に、組織だって掃除されている。掃除方法は至極簡単。
 人を殺すのと変わらない―――
 ナイフや、棍棒を使うボランティアに似た組織。特殊機器を使う私設部隊も存在し、政府機関にいたっては銃火器まで持ち出しているところもある。白い「何か」は間違いなくそこに存在し、事実そうやって掃除されてきた。
 しかし、その「何か」が何であるかはどうやっても理解できなかった。曰く、人の怨念である。曰く、人の跡である。怨念であるという者たちは、そこに何か不吉な影をみたのだろう。確かに、その「何か」は間違いなく見るだけで吐き気を催すほどの嫌悪感を伴う。ただ、幾人かの自称霊能力者は、アレは霊ではない人の思いや怨念の類ではないという。どちらが正しいかは、誰にもわからない。そして、アレが人の跡だというもの達は、機器を使い検証し出した答えだった。あたかもそこに在ったような隙間が存在しているのだ。まるで空間に焼き付けられた人の跡だと言う。強い力で空間に焼き付けられた人間の跡だというのだ。魔術師や召喚師などが行う召喚に応じた悪魔や天使だなんていう、オカルトから果ては宇宙人だというものもいる。
 結局なんであろうとも、白い靄のような形状で、恐怖の対象であることに変わりはない。
 だから掃除をするのだ、ナイフを振り上げて、銃器を構えて殺すしかないのだ。少なくても殺すことで、それ以上の「何か」を防ごうという名目で。
 殺しつづけて、何が起こるかなんてことに興味はないのだ。そのままにして何かが起こるほうが怖いのである。それはただ、何かをしているという確固たる物が欲しいだけなのかもしれない。

 日が昇ればやはり春だったのだ、と思い起こさせる陽気が空気を暖める。春の匂いというものは、どうやら温度と共に湧き上がる代物らしい。走り回った夜は全くといっていいほどしなかった春の匂い、芽吹く匂いが光と共に校舎に染み込んでいく。
 ヒサキは、いまだ万全ではない体調を振り払うかのように頭を振る。遠心力で血が偏り一瞬軽い目眩を感じたが、無視して歩き出す。
 見上げた視界、排気ガスに汚れた灰色の校舎が聳え立っている。見上げて思い出すのは、昨日の騒動だった。ヒサキは、思い出すたびに重くなる足と気だるい肩を無理やり動かし、何とか学校へと向かおうとする。
 教室に行けば、質問攻めは変わらないだろうし部活に行けば、倒れた自分を運んでくれた手前、顔をあわせづらい。向かいたくない気分だけで、腹が痛くなりそうな感じだ。ヒサキは、深いため息をつきながら人ごみにまぎれて足を進める。
 と、見慣れない色彩にヒサキは俯きかけた顔を上げた。金色。人工的ではない、あくまで自然な金色は前の方で一定のテンポを刻みながら揺れていた。
 ステラだというのは、すぐにわかる。あれほどの金髪なんて、他に間違い様もない。ヒサキは、声をかけようかと、一瞬足を進めたがすぐに止める。結局話しかける理由なんかないし、周りの目が気になって踏み出すことが出来なかった。速度を緩めながら、ヒサキは前を行く金髪を眺める。幾人かが、ヒサキと同じように金髪を見ていた。
 ものめずらしいのだろう、そしてやはり目が離せないほど綺麗な金髪なのだ。あの髪を見た後、脱色したり染色したりなんて言う欲望は絶対に湧きあがらないほどに完璧な金。
 日差しを受け、まるで輝いているようにまで見える。事実、艶のある金髪はハイライトを強め光を容赦なく反射させていた。
 その金髪に近付く人影が二つ。汚い茶色に染めた髪を揺らした中肉中背のいかにもな風体の男が二人。いきなりステラの肩に手をおき、一人が何かをしゃべりだした。あたりの空気は一辺したが、ステラを取り巻く二人組みには関係ないらしい。
 どうにかし様という気にすらならない自分に、ヒサキは顔を一瞬しかめた。ただ目をそむけることしか出来ない。そんな自分を、そんなの当たり前じゃないかと一人で納得させて歩く。ステラをよけるように先に行く生徒達をみて、そんなもんだろうと自分もそうだと頭の中で呟いた。
「ほほぅ、これまた懐かしい場面ですねぇ」
 頭の上の方から聞こえた、なんだか人を小ばかにしたような言葉がふってきた。あまりに近くで聞こえたので、ヒサキは顔を上げる。というよりも、頭の上から声が降ってきたという事実が信じられず彼は顔を上げていた。
「おはようございます。加賀ヒサキ君。帰宅部顧問の芳田(ヨシダ)です。どうぞ宜しく」
 面長で細い顎、常に微笑を湛えているようなめに、あまりに高さのない長方形の眼鏡。ブランド物らしきスーツに身を包み彼は目線だけをヒサキに向けていた。ヒサキよりも頭二つ近く出ている長身、190近くあるだろうか?
「お、はようございます」
 ヒサキが挨拶すると、嬉しそうに細い目を更に細め笑った。
「では、ボクは正義の味方でもやってきましょう。では、また部活で」
 ふっっと、ヒサキを覆っていた影がなくなる。そしてすぐ横を影が横切った。
 予想通りとはいえ、あまりにでかい背の高さに、ヒサキは一瞬たじろぐ。
 芳田は、ゆっくりと目の前を歩くステラへと近付いていった。
「おはようございます」
 芳田は平然と、ステラにまとわりつく二人組みに挨拶を。二人組みは、巨大な教師に驚き曖昧な笑いを浮かべ始めた。

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