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今日の三題話

■連載中のlog
「電撃」「地」「交換」
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 よく見る風景も、逆向きから見れば意外と見慣れないものに変わったりする。彼は、はじめて見る住み慣れた町の姿に、少々違和感を覚える。知っているはずなのに見慣れないというのはそれだけでも居心地が悪い。まるで立ちの悪い夢でも見ていような気分になる。
 しかめ面をした自分の顔が車の窓ガラスに映っている。その顔が、なおさらヒサキの気分を悪くさせた。駅の向こうという、芳田の言葉は別に嘘ではなかったが、駅を通り過ぎてから既に数十分は立っている。気がつけば、町を見下ろしている自分に気がつき、次に山の中を走っている車に気がついた。右隣の相羽は、楽しそうに鼻歌を歌っている。志茂居が食べているスナック菓子の匂いが車内に充満して頭がいたい。ステラも、賀古井も無言で、音なんて殆ど相羽の鼻歌だけだった。たまに、湯木がどうでもいい話をはじめるが、相槌を打つのが芳田だけとなると、やはり長続きはしない。別段雰囲気が悪いというわけではないが、チグハグの空気が流れる車内は、居心地がいいというには程遠かった。

 地面のデコボコも、むやみやたらに伝えるサスペンションが、まるで用をなさないように音を立てている。シート自体はすりつぶされてるほどではなく、何とかクッションとしての役割を担ってはいるのだけれど、ヒサキは揺れるたびに相羽に当たらないように気をつけるだけで必死である。
 既に卑屈に近い精神状態は、楽しげに揺れる相羽を見ると更に加速する。彼は必死で窓に寄りかかるようにして、体がぶれないようにふんばっている。
「つきましたよ」
 最後の最後に、今までとは違う揺れ。体勢を崩したヒサキの耳に芳田の声が飛び込んできた。
 ドアをあけて、外に出ると今までとは違う湿気た空気を感じる。菓子と排気ガスの匂いから開放されたヒサキは、一度大きく息をすった。
「おー、真っ白」
 後ろで、相羽が研究所を指して喜んでいる。つられてみれば、本当に白い。影さえ白いのではと思えるほど、非現実的な白さだ。できたての建物でもここまでは白くない。
「白すぎだぞ、こいつは」
 白いことが、そんなに嬉しいのか湯木の声は妙にはしゃいでいた。確かに、コマーシャルや絵でしかみれないような白さではある。
「おかしいですねぇ、昔みたときと色が変わっていません。外壁塗りなおしたんでしょうか、それにしてはガラスが綺麗過ぎますね。交換したんですかね」
 芳田も少々予想外だったらしく、珍しげに建物を見上げている。その横で建物などそっちのけで、菓子を食う志茂居と、どこを見ているのかわからないステラ。
 彼は、自分も似たようなものなのだと、理解しそして顔を伏せる。
「いきましょう」
 先頭を歩きだしたのは、芳田。すぐ横に、付き添うように歩く賀古井。よどみない足取りを追いかけて、彼もまた歩き出した。地面は少々湿っているが、歩きづらいということはなく、ドロまみれになる心配もなさそうだった。
 真っ白な正立方体を三つL字がたに並べ、三つそれぞれに、一回り小さい正立方体を乗っければ研究所の模型が完成する。駐車場というべき舗装された広場はないが、L字型の内側、そこにそれなりに平らな広場があった。
 そこに学校からヘロヘロとやってきたバンは、そこでエンジンを止め静かに佇んでいる。入り口は、L字の頂点。そこにぞろぞろと7人は向かっていた。進行方向に、一つ森にはない彩色が佇んでるのに気がついたのは、ヒサキが一番最初だった。
「あれ? 誰かいません?」
 いわれて、目を凝らし始めるが立方体の大きさは一辺で、四、五百メートルはある。ヒサキ以外の誰もすぐにはそれに気がつけなかった。
 ヒサキがいってから、暫く歩いてから志茂居が口を開いた。
「メ、メイメイメイドさん。いますね」
 静かに一行の到着を待つように、そこにメイドが立っていた。どこまで見てもメイドである。まるで、コスプレ開場から抜け出てきたか、なにかの撮影か。そんな違和感すらする。それは、森の中に佇んでいるという違和感からだろう。もしかしたら、研究所という場所というのもそうなのかもしれない。
 そして、メイドの違和感は近づけは近付くほど増してくるのだった。
 マネキンのようなその立ち姿は、確かにロボットと言われると、なるほどといわざるを得ないような雰囲気を発している。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました芳田様」
 その声を聞いて、ヒサキはやはりロボットではないと確信する。こんな流暢に言葉をしゃべられては堪らない。彼のなかでは、ロボットはやはりカタカナでしゃべるような感じでないと許されないのだ。
「お待たせいたしました。ユキさん、博士は本当にいらっしゃらないんですか? 流石に主なき家に入るというのは少々気兼ねするのでが」
 ユキといわれ、湯木が一瞬反応する。どうも、メイドの名前がユキというらしいことに気がつくまで、視線が泳ぐ湯木の姿は見ものだった。
「博士がお帰えりになる前に問題が起こるほうが、重要度が高いのです。ご容赦ください」
 そういって、優雅に一礼。やはり人間だと、ヒサキは一人頷いた。
 こちらへ、と促されるままに一行は研究所へと進んでいった。入り口をくぐった瞬間、まるでそこが何なのか判らなくなる。ヒサキは研究所というからには、天井にはパイプがのた打ち回り、床にはコードが所狭しと走り、壁は取ってつけたような薄い鉄板や金網。そういう油臭いものを予想していた。もしくは、病院のような堅苦しく整理されたようなものだと。然し、そのどちらでもなかった。まるで、そうまるでこれはホテルだ。
 綺麗な絨毯に、派手ではないが無機質でもない汚れのない壁紙。きつくなく、かといって薄暗くもない照明に、空調のかすかな音。
 大企業の重員のオフィスですといわれれば、なるほどと納得するようなそんな外観だった。
「すごーい」
 全く物怖じせずはしゃいでいるのは、相羽カゴメ。絨毯を靴で歩くのがなれていないのか、湯木は恐る恐る足を進めていた。全くペースを崩さない芳田、賀古井、ステラもそれはそれで変だとヒサキは思う。きょろきょろしながら、菓子を食べるのを止めない志茂居が一番すごいかもしれない。なれない足の感触に、少々慎重に歩きながら、ヒサキは皆の背中を追う。
 先頭を歩くメイドが、すっと立ち止まったのは入り口から数十メートル進んだぐらいの場所だった。
「こちらです」
 指し示されたのは、普通の扉。けれどその先に居るのは、やはりあの白いアレなのだろう。
 しらず、ヒサキは唾を飲み込んだ。
「宜しくお願いします」
 そういって、彼女は扉から身を引いた。あまりに訓練され、よどみのない動きに一瞬見とれる。
 ユキの変わりに、扉を引いたのは芳田だった。音を立てず開いていく扉。その扉の向こう、闇のわだかまる部屋が口を開けていく。扉の向こうから、冷気流れ込んで来たような錯覚。足元が一瞬ぞわりと震えた。
「さぁ、始めましょう」
 無言で頷く相羽と湯木。志茂居も気がつけば菓子をしまっていた。
 暗闇の向こう、飛び込んでいく部員を追いかけるようにヒサキも飛び込んでいく。

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