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今日の三題話

■連載中のlog
「激走」「土」「カラー」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 傷口を無理やり広げられた、そんな痛みと痒み。
 痛みを感じない脳細胞が、痛みに悲鳴をあげていた。
「うぇ」
 ヒサキは頭を振ってその痛みを追い払おうとしたが、逆に明確になった痛みにうめく。薄暗い部屋、飾りというものが何一つ無く、まるで牢獄のような部屋で、ヒサキは呆然とあたりを見回した。
 彼の感じている違和感は、漠然としててつかみ所が無い。何かが変なくせに、何が変なのかわからない。窓の無い、コンクリに囲まれた部屋。床はリノリウムで、机は古い樹で出来てるのが見て取れる。机の上には、ハードカバーの本が数冊。多分日記だ。そしてブックスタンドのように、地球儀がそれを押さえている。引き出しは三つ、よくある机だ。椅子も、机に合わせたシックな飾り気の無い椅子。クッションもなにもついていない。ベットも、全く用途のみをなすために作られた鉄パイプのベッド。白いシーツと白い掛け布団が載っている。彼の尻のしたで、潰れた布団が皺を寄せていた。

「ああ」
 違和感の正体に気がつき、彼は天井を見上げる。窓も無いのに何故モノが見えているのか。壁と同じカラーの天井の中央で飾りのような電灯がぶら下がってる。やはり、電灯がついていない。彼は、記憶どおりの点いていない電灯に安心するも、新たな不安が湧き上がるのを覚えた。
 電灯が点いていないのに、なぜ窓の無い部屋が見えるのか。
 結局のところその疑問に答えるものはないのだけれど。
 彼の目の前にたれているのは、電球につながる紐。それはスイッチであることは明白で、そして、世の中の決まりから言って引けば明かりが点くはずだった。
 おもむろに、彼は手を伸ばし紐を引っ張る。バネを伸ばす感触と、爪がパチリと跳ねる感触が右手に届くと同時、部屋が一気に明るくなった。
 そのまぶしさに、彼は一度目を閉じ、顔を伏せる。
 かすかに振動音を電灯が発してはいるが、それが彼の耳に届くことは無かった。
 立ち上がり、所在なさげに歩き回る姿は、既に牢獄にとらわれた囚人のようにすら見える。
 と、立ち上がり視線が高くなったところから見えた机には、本が数冊見えた。一番はじのそれは間違いなく日記のそれであったが、奥の数冊は日記ではなくて――
「夕日の街シリーズ」
 思わず呟いた自分の声に、ぶよぶよと漂っていた意識が引き戻された。
 気がつけば、彼の足はその本へと向かっている。まるで、一歩一歩確かめるような歩調近付き、その本を手に取る。
 背表紙には、「鉄の神と血の神 ―世界樹の伝説.4― 著:相模 倣夢」
 彼の知っているシリーズとは違うが、それでも間違いなく同じ作者の作品だった。
 手にとろうと、手を伸ばした瞬間扉が軽く叩かれる音がした。
「失礼します」
 そういってはいってきたのは、飲物をもってきたユキの姿。
 ヒサキは、本を手に持ったまま振り返えった。
「コーヒーと、ジュースとどちらがよろしいですか?」
 彼女が持っている盆には、コップが二つのっている。
「え、あ。じゃぁジュースで」
 本を机に戻しながら、ヒサキはしどろもどろに答えた。渡されたコップには、オレンジ色の液体が注がれている。
 ジュースを喉に流し込んでいるあいだ、無言が部屋を埋め尽くす。静かな世界というよりは、幾分緊張をまぜた少々落ち着かない空気。空調もないのに、埃臭くないどころか全くよどんでいない空気には人の匂すらしない。それはユキが本当にロボットだからなのか、それともこの研究室がそういう風に出来ているからなのか、彼にはわからなかった。
「加賀様の落とされたものです。それと、鞄はコチラに」
 言われて、鞄のことをやっと思い出した彼は、一度視線をやって鞄を確認する。それらは静かに机に並べられ、天井から投げかけられる電灯の光を照り返していた。
 静かにそれを見ていたヒサキの顔に、少し寂しげな表情が浮かぶ。
「あ、今何時ですか?」
「18時36分30秒を回ったところです」
 ヒサキは飲み終わったコップを返しながら、自分の空腹に納得がいったといった具合に笑う。
「お戻りになりますか?」
「はい、いろいろすみません」
 ユキがあける扉は、やはり無音。後ろを追うように歩くヒサキの足音だけが部屋に響いた。
 鞄は殆ど空で、中に入っていた筆記用具がカタカタと乾いた音を立てている。靴下で踏むリノリウムの床はどこまでも冷たく、やはり違和感があった。

 外は既に暗く、森の中は殆ど暗闇で見えない。空を覆う星も、木々に隠れて半分も見えていなかった。そんな中で、研究所は嘘みたいに白くそこに聳え立っている。光を浴びているわけでもないのに、そこで白くただ佇んでいた。
 白は拒絶の色、何もかもを拒む色だ。夜の闇も、汚れも、何もかも拒んでいるのかもしれない。佇んでいるだけの建物がやけに高く大きく見えた。
 ユキは、コチラで待っていてくださいと言い、ヒサキを置いてどこかへ行ってしまった。舗装されていない土があらわになっている森の中へ彼女は軽い足取りで消えていく。その背中を、ただじっと彼は見ていた。
 木と土の独特な湿気を含んだ風を吸い込みながら、ヒサキは鞄を揺らして空を見ている。虫の声がたまに聞こえるが、春先であまり賑やかとはいえない。雲の無い夜空も、賑やかというよりは静かそのもので、まるで闇にとけそうな錯覚すら覚えるほどだった。
 遠くから、エンジン音とタイヤが土を抉る音が響いてくる。
 その方向に、顔を向けるとどこにでもあるような乗用車、いやなんだか変な改造を施された車がコチラにむかって激走してくるところだった。このまま行けば、自分と激突コースだという恐怖にかられ、ヒサキは一歩体を引く。
 それは少なくても、ユキが運転しているなんて思えないほどに荒々しい運転だった。
 音が大きくなるにつれ、車のディティールもはっきりしてくる。どこかでみたような車だ。
「……デロリアン」
 時をかける車のまさしくそれの格好をした車が走ってきている。見た目に気をとられた彼が、ハンドルを握っている人物に気がつくのは、殆ど目の前に車がついてからだった。
「車って、これですか……」
 呆然と眺めながら、ヒサキは呟く。
 運転席から、優雅に降りたユキは助手席の扉を開けながら、ヒサキに一礼。どうぞ、とこれまた洗練された動きに、気がつけば彼は助手席に座っていた。座ってから、彼は気がつく。本物のデロリアンそっくりだと。後ろにはあの怪しい装置までついている。
「ご住所はうかがっておりますので、ご安心ください」
 行ったが否か、車がいきなり急発進した。
 かつてこれほどの急加速を彼は体験したことが無かった。
「うぅぇっ」
 驚きと、衝撃に思わずうめき声が出る。だが、全てはエンジン音にかき消される。
「あ、あのっ! この車って」
 地面の揺れを如実に伝える車内で、ヒサキは叫ぶ。
「はい、博士の愛車です。車検は通っておりますので、問題ありません」
 ぶれる視界のなかでヒサキは、それは絶対に嘘だと心の中で叫んでいた。



 明らかに終わりが見えてません。
 いくら、連載形式で作った話がどれだけ長いことかけるかの挑戦であっても、長すぎな感じもしてきた。

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