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今日の三題話

■連載中のlog
「電磁」「木」「英雄」
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 車の速度になれはじめ、外を見る余裕が出来たヒサキは、無言で流れる街並みを見ていた。並木道なんていうしゃれたものがあるような街ではないけれど、駅前はそれなりに電飾と装飾によって飾り付けられている。夜は特にそれが映える。まるで、闇に埋もれないように足掻きつづけているようにも感じられる必死さを、少々混ぜてはいるのだけれど。
 空には、明るい街の光を受けた雲が夜空に広がっていた。

「雨、降りそうですね」
「降水確率は、32.45%です。傘はありませんが、問題はありません」
 その数字が、ヒサキにはなんなのか判らない。けれど、まぁあまり心配は無いということは確からしい。横でハンドルを握るユキが、人工のものだろうが、人間だろうが特に関係はないのだ。どうせ、もう二度と会うことは無いだろうし、あっても部活がらみでしかない。
「直接、ご自宅まで戻られますか? それともどこか別の場所がよろしいですか?」
「あ、いや。家でお願いします、すみません」
 ふっと、見上げた夜空にまばらな星が見えた。山で見上げた夜空とずいぶん違う印象に、ヒサキは一瞬寂しくなる。
 起きたら一人ぼっちなんていうのは、十分なれてると思っていたのに、今更になってあの状況に底冷えする寂しさを覚えた。
『関係ない』
 賀古井のあの言葉が、ヒサキの頭の中でリフレインする。そうだ、誰も関係なかった、そのはずだ。自分が倒れ様が、皆が残っている道理は無く、そして自分も皆がいることが良しとは思えない。
 いてくれたらどうだっただろうか? けれどその思いをヒサキは無視して空を見上げる。
 横で一瞬、ユキがヒサキを見た。
 
 爆走する車を呼び止める警官は、結局のところ現れることも無かった。杞憂ともいえるが、大体権力に屈しやすい公務員が、市長のあんな目立つ車をとめようとは思わなかったのだろう。
 結局、見つからなかったというのが正解ではあるのだけれど。
 デロリアンは、ヒサキを家の前に降ろし、爆音をバカらしい加速で置き去りにして走り去っていった。カートゥーンのようだな、とヒサキはその排気ガスを見ながら思った。
 夜の住宅街は、あまりにも暗い。点々とついている家の照明がかすかに漏れる程度で、殆どあたりは暗闇だった。マンションのように家を照らす必要性はなく、道を照らすための街灯は、曲がり角などに、おざなりにぽつぽつと存在するのみだった。只でさえ、この街は暗い、周りは山と海に囲まれている。海の向こうは暗闇で、都会の光りは山に遮られて届かない。たまに上空をヘリコプターが旋回するていど、ほんとに首都圏の近くなのかと疑いたくなるようなところだ。
 夜は潮のにおいがする。ヒサキは、スンと一度鼻を鳴らして家の門をくぐった。否応なしの孤独感が襲ってくるが、彼の表情に変化は無い。数日、少々騒がしかっただけだ、差があれば上下を意識しざるをえない、ヒサキは玄関のかぎを開けながら、口をへの字に結ぶ。
 玄関を空けたところで、そこは暗闇だった。嗅ぎなれた家の匂いが鼻に届いて、やっと帰ってきたという感覚にはなれても、ヒサキの顔は全く変わらない。機械的に靴を脱ぎ捨て、冷え切ったフローリングに足を下ろす。熱を吸ったフローリングが、ミシリと音を立てた。
 
 結局、布団に大の字で寝転がるといういつもと変わらない終わりを迎える。
 ヒサキは、窓から入るかすかな光に照らし出された天井を、何の気なしに眺めていた。また、ビデオが時間あわせのために起動する音が聞こえる。毎日聞くその音で、彼は時間を確かめる。掛け時計もただ定期的な音を発するオブジェでしかない。
 何もかもが同でも良くなっていく瞬間は、睡眠に落ちる瞬間によくにている。倦怠感と虚脱感に支配された筋肉が、どんどんとたんぱく質の固まりに変わっていく感覚。関節に電磁石をしこんでも、動かせないだろう。
 呼吸すらおっくうになるあたりで、意識もやみに埋もれていく。
『関係ない』
 背を向け、賀古井が呟いた言葉が離れなかった。ヒサキは、一度寝返りをうち、そして布団に潜り込む。そう、関係ない。どうでもいい、ヒサキは長い息を一度吐いた。

 街中を爆走するデロリアンを横目に賀古井は覚めた目でそれを見送った。アレは研究所にある都紙博士の車だったはずだ。買い物にしては時間が遅すぎる、誰かを送ったというのが大方の正解だろうか。然し芳田は研究所に戻ったはずだ。いくらなんでも、顧問が生徒を置いて帰るはずは無い。もう、デロリアンの廃棄音はかすかにしか聞こえなくなっていた。
 ではあのメイドは何故研究所を出たのか。買出しの確率は殆どゼロむしろ、何らかの事情で芳田が帰り、ヒサキを送った帰りというのが一番ありえる選択肢。
 では。なぜ芳田は帰ったのか。
 何度コールしても出ない形態を握り締めながら、賀古井は車の消えた方向を眺めていた。携帯の画面には、加賀の名前が点滅している。
 駅前の街道を、警官がうろついている。それを見ながら、賀古井は無言。喧騒も一段落といった時間になって、賀古井はその場に佇んでいる。じっとみているのは、白い建物。闇夜に沈まない、ただ一つの白い建物だ。
「予想外ではある、かな」
 背を向け、呟きを吹き消すように歩き出す。
 横を、警官が通り過ぎたが彼に視線すらよこさなかった。どう見ても小学生なすがたの彼を無視して、警官は歩き去っていく。
 夜の街は、闇を湛え静かに眠り始める。流れ出す先の無い闇が、昏々とたまり静かに太陽が昇るのをまっているのだ。
 デロリアンがエンジンを止めた頃、丁度賀古井が角を曲がって姿を消した。



■キャリア女子とオタクの濃厚恋愛mixi日記、書籍化■(ルクダルのだるだる日記)
 これ、mixiで有名な日記なんですが。(リンク先は、web上の紹介ページ)今日はじめてしってずっと読んでしまった。
 なので今日は短め。 うーん、文字中毒。面白いとどうしても全てをなげうって読んでしまうのは悪い癖だ。

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