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今日の三題話

■連載中のlog
「未来」「月」「ロボット」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 人は、未来を予想して自分が取る行動、つまりリアクションをとるために身構えて生活している。それは、数多の経験や、直感といわれる数々の失敗の上に成り立っている行動で、そしてそれは個性と呼ばれている。だから、予想できなかった事がおこれば反応できなくなるのは自明の理である。半ば反射てきな反応である、痛みから逃げるや驚きに声を上げるといった場合でなかったばあい、それは一律に弛緩した表情筋が全てを物語る。

 一人だけ、いつもと変わらない表情なのは、沢村ステラだけだったことにその場の誰一人として気がつく余裕はなかった。
 夕日がじりじりと動く音が聞こえそうなほど、部室は静寂に包まれている。どこからか聞こえる掠れ酷く劣化した叫び声が、雑音になって届く。
 ヒサキは、静まり返った部室を一人見回して、いきを飲んだ。夕日に赤く染まる部室はまるで血まみれの部屋みたいな赤。机の鉄パイプが放つ錆びのにおいが、一瞬血のにおいに感じられて、ヒサキは音を立てて鼻を啜った。ズッという音を皮切りに、賀古井が口を開いた。
「納得のいく説明を願えますか?」
 そして、やっと部室に時間が流れ始めた。
「な、先生なにいってんだいきなり」
「え? え?」
 無言なのは、ヒサキとステラの二人。状況が飲み込めないままのヒサキと、最初から表情一つ動かしていないステラは対象的だが、同時に酷く似ている。
「説明はありません。私が出資できなくなったとでもしておいてください」
 口調は何一つ変わっていないのに、余所余所しくそしてとげとげしい物言いに、カズもカゴメも口を閉じた。
「部室の使用はどうなりますか? いくつか私物もありますが」
 その賀古井の言葉に、カゴメは泣き出しそうになる。既に、諦めた言葉は彼女に深く突き刺さった。
「空き部屋になるので、新しい部活が作られるまで管理は誰もしません。その間に片付けて置いてください。今後学校内、学校外での活動は禁止します」
 いい終わると、もう問答する気はないとばかりに芳田は部室を逃げ出すように出て行った。
 無言で見送られた芳田は一度も振り返らず、足早に廊下を走り教員室へと戻っていく。

「部長、どうすんですか?」
「ん? 既に最高学年の私はなくなっても問題ないし、二年も特に部活に入らなくても無くなったとあれば、正面からとがめられることは無いだろう。問題は、一年の二人だな」
 賀古井は携帯と取り出し、小さな手でボタンをプチプチと押し始める。その大きさに、久しぶりにヒサキは、賀古井が小さかったことを思い出した。いつも、悠然と構えている賀古井をみていると、背の高さなんて何の問題にもならないのかもしれないとすら思えてくる。
「いや、そーじゃなくて! いいんですか? 部活なくなっちゃいますよ」
「ほう。湯木カズは、部活が好きだったのか」
「ちょっ、そう言うはなしじゃ――」
「私は好き! だから嫌!」
 カゴメが叫ぶ。それは、窓ガラスが揺れたのかと錯覚するほどの大声だった。驚き、方をすくめるヒサキが顔を上げると、カゴメは俯き、カズは渋い顔をして教室の端を見ていた。
 そして、賀古井は手元の携帯を弄っている。
「既に、明日には仮入部期間は終わる。加賀ヒサキ、沢村ステラ、どうする?」
「え?」
 いきなりふられた言葉に、ヒサキはうろたえる。
「どうするって言われても、どうもできないんでは?」
 至極まっとうな返答をしてしまい、ヒサキはすぐに口を噤んだ。そんなヒサキを無表情でステラが見ている。まるでロボットのようだな、とヒサキは思う。
「ふむ、そうだな。それは正論だ」
 賀古井の言葉に、カズは顔をあげ何かを言おうとしたが、結局言葉にならずまた顔をそらす。カゴメは相変わらず俯き、ぶつぶつと何かを呟いてはいるがそれも言葉にはなっていない。
「仮入部の届は出ている。このまま別の部に所属するつもりが無いのなら、何もしなければいい。全校生徒部活所属とはいえ、実状はそんなものだ。新しくさがすのなら、明日回るといい」
 入部しようと思った矢先の出来事に、ヒサキは上手く頭が回っていなかった。自分がどうしたらいいのか、どうしたいのか、彼にはよく判らないまま口を閉ざす。
「部長、あまりにも酷すぎじゃないっすか」
「顧問がいない部活は存在できない。顧問が廃部だというのなら、従うほかに生徒ができることなんで無い」
 携帯から顔を上げず、賀古井は吐き出すように言う。
「平穏な生活を送りたいのなら、何もしないことだ」
 平穏。平凡。その言葉に、ヒサキは体を振るわせた。そういえば、自分はその生活を望んでいたはずなのに、今は……。
「新規で部活を作るのに、最低でも許可が下りるまでに一週間。文科系は部室を狙っている部が多い。とくに通常の教室で活動しているゲリラ的な部活にだ。見つければすぐに、顧問を見つけ認可を取りに来るだろう。この教室は、早くてあと一週間で使えなくなるから、荷物は持ち帰れ。今日はこれで終わる」
 賀古井は、言うだけ言うと荷物を持ち歩き出す。
「ちょっと! 部長!」
 カズは、賀古井を引きとめようと手を伸ばした。
「湯木カズ、他人は所詮他人だ。他人の行動を決めることは出来ないし、するべきではない」
「けど……」
 小さな賀古井の腕を掴むカズの姿は、あまりにも必死だった。カゴメは座り込んで、二人をみてもいなかったし、ステラにいたっては相変わらず椅子にすわって無表情だった。ヒサキは、所在なさげに視線を動かし、一人うろたえていた。
「狡兎死して良狗煮らる、か? 必要なら一人でもできるだろう? それとも必要なのは、敵ではなくて、馴れ合いだったか? それとも、女といる時間の言い訳だったか?」
「――!」 
 
 拍手のような、乾いた音が落ちたあとは、静寂がここぞとばかりにあたりに流れ出してくる。夕日が届かなくなった空から、夜が振ってくる。次第に街は夜に濡れる時間だ。月が降らす夜は、すぐそこまで迫っている。
「言い過ぎた。湯木カズ、進退は自分で決めろ、他人に任せるな」
 カズの拳は、賀古井の小さな手のひらに軽く受け止められていた。ありえない光景に、ヒサキは唾を飲み込んだ。体重さからいっても、到底受け止められるモノにはみえない。
「……」
 カズもそれが信じられないのか、呆然としている。半分は、賀古井に手を出した自分自身に呆然としているのかもしれない。
 手を振り払い、賀古井は部室を出て行った。扉が閉まる音が、あまりにも軽くそして軽薄に部室に響く。
「先輩……」
「後輩、お前どうすんだ?」
 ふてくされたように椅子に腰をかけたカズの姿は、いつもどおりに見える。
「あの、ゲリラ部って」
「ああ、うちの学校な、部活の承認がめんどくさくてさ。承認が降りない部活が幾つもあるんだよ。顧問は最低一人、人数は最低五人、活動内容は生徒会と顧問の承認が必要」
「はぁ……」
「それだけじゃなくて、部室は今うまってて、新設の部は教室を部として使うことになる。そして、部室は設立した時に決められてそこから変更はきかない。だから、わざと承認をせずに部室が空くのをまってる、ゲリラ部が多い」
「そういう部活って、部に入ってるっていうんですか?」
「結局は、名目なんだって。始めに籍おいちまったら、意外とおざなり。簡単にいったら、最初に届けだしちゃったらそれでよし。ただ幽霊部員になると、内申に響く。でも、内申をつけるのは部活の顧問だ。ゲリラにはいない部もある」
 そこまで説明されて大体読めてきた。本来の帰宅部は、幽霊部員ならぬ幽霊部活をつくっていたのだ。部活に入ってるかどうかは、ゲリラか正規かは無視であり、その上で正規のみが内申に響く可能性を持っている。ゲリラは部室を腰淡々と狙う血気溢れる部活と、全く活動をしていない幽霊部活の二種類だということだ。
 部活の活動については悶着しなくせに、入部しているかどうかは悶着するということだ。
「じゃぁ、このまま承認が降りれば、今までどおりってことですか?」

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