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今日の三題話

■連載中のlog
「秘密」「日」「特撮」
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 ぶつぶつと、独り言を言いながら歩く姿というのは、大抵気味悪い姿に見えるものである。しかし世の中には例外とよばれるくせに、必ず居る除外対象が存在している。たとえば、今廊下を大またで歩いている芳田がそうだった。そうだったというのは、現在の彼の姿は既に狂気の域へ到達しているような気迫と、疲労が滲み出ていた。殆ど狂人にしか見えない彼の姿に、居合わせた生徒達は道をあけ、無言でその姿を見送っていた。
 後に残るのは呆然としている生徒と、芳田が巻き上げた埃が舞う廊下だけだった。
「これ以上はどうしようもない、後は……やはり、有賀か」
 呟きは、隠れ始めた夕日に照らされて廊下を漂った。

「やけにあっさりいうな、後輩」
 沈黙を破ったのはカズだった。目の前に広がっているノートと教科書の山を弄りながら、カズは視線を上げずに言う。
「でも、五人いて、あとは生徒会の承認が得られれば大丈夫なんじゃないんですか? 顧問さえ見つかってしまえば」
「じゃぁ言うがな、五人って? 少なくても、ステラちゃんは辞める気まんまんっぽいけど」
 言われて振り向けば、ステラは相変わらず無表情で帰り支度を始めていた。
「でも、五人そろいそうなら喜んで手を貸してやんよ」
 部室が残るならいくらでも、とカズは言いながら立ち上がる。そんなにも部室にこだわる理由はヒサキには判らなかったが、それよりも自分が何故こんなことをしようとしているのか、判らなかった。
 別に、本心を秘密にしているわけではない、それどころか彼は自分の本心がどこにあるかすらわからなくなっていた。何事も無く学校生活を送るという当初の予定は、既にどこかに行っていた。かといって、部活が好きだときかれれば、首を捻るほか無い。何故、自分の場所を守ろうとしているのか、ヒサキには判らなかった。
 結局のところ、それがただの惰性と、防御本能に属する本当に下らない感傷であるなんて、認めたくなかったというのが、どこまでも冷淡な事実ではあるのだが。
「やる気満々だね、後輩。別に俺らはかまわんけど」
 カズの言葉に、カゴメは静かに頷いた。
「沢村さんは、どうするの?」
 既に、荷物をまとめ終え静かに座っていたステラが顔を上げた。夕日は殆ど沈み、電気をつけていない部室の奥、ステラの表情はよく見えない。
「荷物はまとめたけど?」
 彼女は、ただ賀古井に言われたとおりに荷物をまとめ、部活終了の鐘がなるのを待っている。
 そして、すっと空が暗闇に覆われた瞬間、同時に鐘が鳴り響く。電子音の鐘は、後ろにノイズを混ぜながら校舎に染みていった。
「今日は終わりだ、やるなら明日ここに来い。もし、新しい部活の方がいいとおもったら来なくていい。そんときゃまた考える」
「モイモイに電話つうじないや……」
 カゴメは一度も顔をあげなかった。賀古井が居なくなってから、ずっと下を向きそして携帯を弄っていたのだ。
 その姿をヒサキは、何も言えずただ呆然と見つめている。何も出来ないが、何か出来るとも思えない。横で、ステラが引きずった椅子の音に、驚きヒサキは体を起こした。
「おつかれさまです」
 既に扉に手をかけ、ステラは頭を下げている。
「お、つかれさまです」
 ステラを追いかける形でヒサキも部室を出ていった。
 二人が出て行った部室で、カズとカゴメは静かに佇んでいる。電気がついていない部室の奥は闇にとけ、どこまでが壁なのかわからなくなっている。音まで飲み込むような闇につつまれた部室に、二人はただ佇んでいる。
「アレは、掃除する必要はないってことか」
「せんせ、変だった」
「わかってる、でも部長がああなら、俺たちはなんもできない。後輩がやりたいっつーなら、せっかくだし付き合うけど。ドラマで、アニメでも、ましてや特撮でもないのに、上手くは行かないだろうな」
 ため息交じりの言葉には、全く力が無かった。
「モイモイ、電話でないや……」
 最終下校の鐘が鳴る。スピーカーから流れる鐘は鳴り響き終わった後も、ノイズを残し最後にブツリと音を立て沈黙した。校舎は闇に飲まれていく、もう屋上に佇んでいる小さい人影は誰にも見えなくなっていた。
 
 目の前をふらふらと歩くステラの姿に、ヒサキはどうしても気になり声を出す。
「ねぇ、沢村さん。あまりフラフラしてると危ないよ」
 夜道を、まるで人ごみを歩くようにフラフラと歩く姿は危なっかしく、彼には見ていられなかった。声に振り返ったステラは、少し驚いたような顔をしている。
「あぶないよ?」
 もう一度言うと、ステラは静かに頷いた。わかってくれたのかと思ったが、歩き出したステラはやはりフラフラと歩いている。
 が、よく見れば先ほどより気をつけて出来るだけふらつかないようにしている感じだった。
 それを見て、ヒサキは小さく苦笑する。
「また、車に轢かれちゃうよ」
 その言葉に、ステラは体を振るわせた。立ち止まり、彼女は顔を伏せる。
「ごめん、なさい」
 立ち止まっている彼女の横に、ヒサキは立つ。顔は夜の闇と角度でよくは見えない。けど、ヒサキにはなんだか、ステラの表情が見て取れるような気がした。
「沢村さんは、部活どうするの? やっぱり、他の部活探す?」
「わからない」
 そこでやっとヒサキは理解した、彼女はただ荷物を片付けろと賀古井に言われて荷物を片付けてたことに。何が起こっても、驚かない彼女を少々変だとは思っていたけれど、どうも驚く驚かないという話ではなかったみたいだと、ヒサキは思い直す。
「そ、う。んじゃさ、明日部室行く?」
 きっと、彼女は行かないというだろう。なんせ、いく理由は部活に入っていたというただそれだけの理由のはずなのだ。目の前に居るのは、まるで自分の意見をもたない鏡のような人間。ヒサキは、半ば確信しながらも問い掛けた。
「行く」
「えぇ?!」
 予想外の答えに、ヒサキはのけぞるように驚く。
「新しい部活を探すのは、大変だから。それに、」
「それに?」
 夜の街に灯が灯る。春先の風は、新芽のにおいと幾分かの冷たさを混ぜて流れていく。二人の会話は、残念ながら近くを通る車の音にかき消された。どこまでも広く高い夜は、静かに待ちに降り注ぐ。闇のダムはとうとうと闇を湛え静かに揺らぐ。
 どこかで、ため息が揺れた。

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