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今日の三題話

■連載中のlog
「信望」「役所」「消しゴム」
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 あまりなれない音が耳元で鳴っている。くすぐったくて、ステラはすぐにそれを離した。義母に「何かあった時に」といって渡された携帯電話は、やはり役には立たなかった。
「なんなら、何してるか見にいってやるよ」
 といって飛び出したきり、帰ってこない友達に、少々苛立ちを覚えつつもやはり無表情。
「ステラが生きてる人間に興味持つなんて、久しぶりじゃない」
 海を渡ってもついてきた友達の一人が、笑いながら言う。
「そんなー、ステラちゃん。生きてる人間なんて、良くないって! やめときなよ」
 目の前の机から、顔だけを出して叫ぶ友達。ステラは、なんだかバカにされてるような、見世物になったような気分になって、顔をそむけた。

 彼女の周りには、「幽霊」と総称される思念体が漂っている。彼女にとって、それがどんな者であろうと友達には代わりが無いのだけれど。
 故郷の国からずっとステラについてきている、なんだか姉御肌の幽霊はいまステラの頭の上あたりでフラフラと浮かんでいる。
 今の家に初めから住み着いていた幽霊は、いま机から顔をだしてステラに、生きている人間の酷さを説いていた。見た目が、普通の青年だけに似つかわしくない状況だ。
 周りがうるさいのは生まれてからずっとだ。静かになんてなったことは無い。彼らの声は、空気を無視し壁を抜け届く。それは感情の波のようなもので、耳ではなく頭というか体の中心に届くような声だ。
 だから、ステラは白い人が上げる悲鳴も彼らが送ってくる感情もいたって平然と受け止められた。彼女に言わせれば、事故現場のほうがもっときついと言い張るだろう。
 それでも、あの白い人に驚いたのは、久しぶりに耳をふさぎたくなるほどの強烈な悲鳴だったことには違いなかったから。昔は、同じぐらいうるさく感じられる場所なんていくらでもあったはずなのに。
 最近、幽霊を見えなくなってきているのは解っていた。いつだって、遠くからも響く叫びは、よくよく注意すれば薄れているような気がするし、見える幽霊も殆ど自然に帰りかけてるのになってしまうと、薄れて見えない。まるで、消しゴムをかけられたかのようにじわじわとそれは起こっている。目が悪くなってきたのと同じなので、すぐには気がつけなかった。気がついてからも、眼鏡があるわけではなかった。
 彼女にわかることは、もし見えなくなれば友達が居なくなるということに他ならないということだけだった。
「ただいま〜っと」
 窓からゆるゆると戻ってきたのは、見に行くと出て行った幽霊。見た目は子供の幽霊だが、服が見たことも無いほど古い。ステラが始めて友達になった幽霊でもある。始めてみたときは、普通に子供だと思い公園で何度も遊んだ記憶もある。それが発端で、親に変なことを言うなと起こられた記憶もある。
「おかえり」
 ステラは、顔も動かさずに呟くように答える。音は彼らにはあまり必要性がない、声を出したという行為と心の動きの方が重要なのだ。しゃべれない人のほうが、とても賑やかだと彼らが言うのは、多分しっかりと心からしゃべっているからなのだろう。
「アイツの部屋に、女の人いたよ」
 さらっと、大問題になりそうな発言を告げる幽霊に、ステラは顔を向けた。一瞬動揺のような表情が浮かぶが、すぐに消える。
「おっと、感情を動かすなよ。俺たちが見えなくなるぞ」
 幽霊がそう言うものか、ステラにはわからない。けれど、彼女は彼の言うとおりにしてきた。そのおかげで、目に見えて彼らが見えなくなるようなことは確かになくなっている。ただ、進行が遅くなるそれだけではあるのだけど。
 感情を押し殺し、未来を望まず、過去を顧みず、彼女はまるで鏡のように今を生きている。信望なき生活は、何事にも動じず、受動的に生を受けてる。思い悩み、想像するだけで、彼らはステラの目の前から消えてしまうのだから。
「携帯忘れて、女が届けにきてたって感じだったな」
「ほらほら、ステラちゃん。もう生きてるやつのことなんて忘れてさ! 幽霊とかマジオススメ、どこにも行かないし浮気もしないよ!」
「あーらら、いきなりフられちゃったの」
 そんな声を聞きながら、ステラは無言で携帯を見ている。発信履歴を一つずつ送るように見る。発信時刻と、履歴番号だけが動く携帯の画面は、静かにステラの手元を照らしていた。

 パソコンが必死になって廃熱する叫び声は、大合唱となって部屋に響き渡っている。春先にクーラーも無いだろうと、志茂居はその大合唱の中で窓も開けずにキーボードを打っていた。
 軽度だが、花粉症なので出来れば窓は開けたくない。締め切った部屋にこもる熱に、額から汗が滲むが、既に部屋は飽和してるのか全く汗が渇くそぶりは無かった。
 天井から吊り下げられてる電灯は、光を掲げる事は無く、部屋を照らすのはもっぱら彼の目の前に並ぶディスプレイだ。
 下段に五つのCRT。その上に乗るように液晶ディスプレイが四つ。コードは整理されているとはいえ、抜き差しするために前面にでていて綺麗とはいえず、マシン本体も机の上と下に埋め尽くすように並んでいる。
 マシンの数に合わないキーボードは切り替え装置に繋がれ、その数にあわせたトラックボールが所狭しと並んでいる。彼の机には、ディスプレイとマシン本体と、キーボードとマウスしかない。他にあるものといえば、携帯電話が充電器にささっているぐらいだろうか。携帯電話が震えている。その影でもぞりと、何かが動いた。
「あの、けいたさん。でんわなってます」
「わ、わかってる」
「でんわ、とらないんですか?」
「そ、それどころじゃ、な、ない」
 そういって、一度も携帯に視線を移さないまま、彼はじっと九つのディスプレイを眺めている。両手はせわしなく動き、それにあわせてディスプレイにうつるマウスと文字列が踊る。
「けいたさん、なにしてるんですか」
 志茂居ではない声は、女の子の声。少々舌足らずで、拙い感じがする声だった。
「チャ、チャットだよ」
 携帯の横に、携帯の二倍ぐらいの背丈の人が立っている。震える携帯と、志茂居を交互に比べてみていたが、やがて携帯が先に音を上げて震えを停めた。
「とまりました」
「う、うん」
 頷きながら、膝に乗せていた菓子袋に手を突っ込みごそごそとやる。片時もディスプレイから彼の目は離れなかった。
「た、食べる?」
 志茂居の手にポテトチップスが握りこまれている。
「わたしは、たべれませんよう」
「そうだ、だった。ご、ごめん」
 いいえ、とゆっくり顔を振りながら小さい人影が笑う。
 妖精と形容するのがふさわしい格好と大きさは、志茂居の趣味思考によるものだが、しゃべり方は志茂居のしるところはない。精霊と呼ばれる、人に寄り添うものたちは人のなりをかり、こうしてただ一人のために目の前に現れる。
 精霊たちは、ただ人に寄り添い、共に生きる。彼らは、人の心の余波をエネルギーに存在するため何も溜めない。余波という表現がわるいのなら、垢とか排泄物といったほうがいいだろうか、心が発し、使い終わった人には使い物にならない心は、大抵土に返り新しい命へと転化するが、彼らはそれを糧に世界に存在する。
「だれとおはなし、してるんですか?」
 覗きこんだ彼女には、文字はよくわからない。最近やっとひらがなを覚えたばかりで、英語や漢字が混ざりしかも高速で流れる様は、既に呪文のようにしか見えていなかった。
「し、し、市役所の人とか。あとは、教育委員会のひ、ひ、ひと」
「あの、あにめみたいに、しないんですか?」
 言われて志茂居は一瞬思案した。そういえばハッカーが活躍するアニメをこの前一緒に見たようなきがする。
「あぁ、あ、あれは、作り話だよ。ぼ、ぼくはプログラムの一つも打てない」
「そうなんですか」
 彼女は少し寂しそうな顔をする。精霊の彼女にとって、志茂居はスーパーマンだった。大きくて、やさしくて、話をちゃんときいてくれる。だから、前にみたアニメの主人公みたいに悪者をやっつける正義のプログラマーなんだとおもっていたのだ。なんだか見た目も似ているし。主人公はふとってなかったけど。 
「で、でも、ここには知り合いがいっぱいいる」
 そういって、笑った志茂居を彼女は最高にかっこいいと思った。



 精霊は耳長。
 描写できなかった隙に挿絵を描かれたら、もだえ苦しむので先手を打っておこう。いや、忙しいからMyu氏は今挿絵をかけないはず……。多分……。

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