スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

今日の三題話

■連載中のlog
「勇敢」「学校」「定規」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 目覚まし代わりの携帯アラームが、嫌味なほど軽快なメロディーで鳴り出した。同時にガタガタと揺れ出した騒がしい音に、ヒサキの意識は無理やり起こされた。
 顔を枕にうずめたまま、音がするあたりを手探りするが、一向に携帯の感触は得られない。いつもすぐ近くに置いているというのに。
 ガタガタと、乾いた音が五月蝿くて叶わない。なんで、こんな音がと思った瞬間やっと頭が回り始めた。そういえば、寝る前にテーブルに携帯を投げ出したのだ。今なっているのは、テーブルだろう。何とか体を起こして、細めた視界をテーブルへ。

「んぁ」
 まぶしくて良くはみえないが、多分あそこだと、ヒサキは体を引きずりながらテーブルに向かう。大きくなる音と共に、ヒサキの確信もいっしょに大きくなっていく。
 伸ばした手が、外気に触れ冷たくなったテーブルに触れる。四つんばいになって、変な格好で伸びたわき腹が痛かった。同時、ヒサキの意識は完全に目覚める。相変わらず気分は重く、このまま学校に休暇連絡をいようかと思案する。が、仮入部の時期は既におわり、既に入部届が出ている一年生もいるぐらいだ。さすがに、いまの状況で学校を休むのは不味い。ヒサキは、頭をふって気力を奮い立たせた。
 やる気は何度頭をふっても、気力が戻ってくるわけもなかったが。それでも、いくどか頭をふりヒサキは立ち上がった。
 カーテンを閉めなかった窓から、朝日が差し込んでいる。手には、いましがたアラームを停めた携帯。なんだか、朝日が明るい気がしてヒサキは携帯をあける。
 フリップフロップ式の携帯が、ぱちりと軽い音を立てて開いた。不在着信を告げるアイコンが、ちかちかと点滅していた。
「?」
 珍しいこともあるものだと、ヒサキはなれない手つきで履歴を開く。見知らぬ番号からの着信が数件。首を捻るが、とりあえず家族からではなさそうだった。知らない番号が、携帯の画面に映し出されている。
 用事があるのなら、またかかってくるだろう。そう思い、ヒサキは携帯を閉じてため息をついた。シャワーを浴びよう、と呟き部屋を後にする。

 既に数回ともなると、意外となれるもので。人ごみの中を、ため息混じりにヒサキは歩いていた。学校はヒサキの家からそれほど遠くなく、別に疲れるような距離ではない。駅前からのびる定規のような大通りを横切り、そのまま住宅街を歩く。海側へ、大通りを下る道もあるのだがヒサキは出来るだけ人通りが少ない道を選んでいる。それに、直進してしまえばその分早い。
 特に碁盤の目のようになっているわけではないが、それなりに行き止まりが少ないつくりをしている街は、大抵どこからでも方向さえあっていればつける作りだ。
 ヒサキは、すでに見慣れた住宅街をただもくもくと歩きつづけていた。
 ちらほらと、学生の姿が増え始める頃に住宅街から大き目の道に出る。学校に向かうとおりにぶつかるのだ。このあたりになると、学生の数は石を投げれば当たるほどになりヒサキのため息も増えてくる。
 邪魔だとか、ゴミどもめというそんな陳腐な感情とはちがい、ただただ近付いて欲しくないという欲求は、腹のそこでゴロゴロと転がっては吐き気と共にヒサキをいらだたせた。
「よう、後輩」
 かけられた声に振り向くと、カズが後ろにたっていた。
「おはようございます」
「ん? 後輩、寝不足か?」
 ヒサキの顔を覗き込みながら、カズはすこし不思議そうな顔をした。ふっと、風に煽られてカズから香水のにおいがする。タバコのにおいを消すにしてはなんだか薄い匂いだ。
 すん、とヒサキは鼻を鳴らすと愛想笑いを浮かべ、そんなことは無いですよと呟いた。脳裏に浮かぶのは昨晩の愚行。思い出してまた、体が痒くなるような感覚に教われヒサキは身じろぎする。そういえば、ステラが辞めるとカズは思っているらしいことをヒサキは思い出す。
「先輩、沢村さんは部活続けるそうです」
「まじ? でかした後輩!」
 力いっぱい背中を叩かれた。肺から、空気が漏れヒサキは咳き込む。
「そうか、後輩も頑張ったし、俺ももう一頑張りしないとな」
 まだ頑張るのか、とヒサキは首を傾げる。自分、沢村、湯木、相羽、志茂居。既に五人そろっているじゃないか。
「人数は五人じゃ?」
「ああ、志茂居に連絡とれねぇんだと。昨日カゴメがずっと電話してたみたいなんだけど……。多分、部長になんかいわれてんだろ。隣のクラスだし、あとでみてくる。っと、お前部活つづけんの?」
 カズの驚きの声に、周りを歩いていた学生が何人か振り返る。すぐに興味を無くし歩き始める様は、見ていて薄ら寒さすらかんじた。
「ええ、まぁ。新しく探すのも大変ですし」
 自分でも良くわかっていないまま、よくわからない返答をする。現状維持がきっと一番なのだ。ヒサキは言い聞かせながらカズの後ろをついて歩く。
「知らない人間と話すのは苦手か」
 振り向かないまま、カズが呟く。
「そうですね。得意じゃないです」
「俺には、よくわからんが。勢いでなんとかなる」
「はぁ」
 何でこんなことをいうのだろうか、ヒサキは首を傾げながら相槌を打った。
「無理に、部活に残る必要は無い」
「そんなことは」
「エグイだろ? きついだろ。ただ知らないところに行くのが怖いってだけで、続けるのは辞めた方がいい」
 ヒサキは答えられなかった。
「部活の連中は、みんなどっか壊れてんだ。みてりゃわかるだろ」
「……」
 確かに少しは変わった人が多いかもしれない、しかし壊れてるというほどなのだろうか。
「人との関係が気付けないわけじゃない、お前はまだ普通に戻れる。あんな白いのと戦う勇気があるなら、知らない人に話し掛けるほうがらくじゃないか?」
「僕は、――」
 ヒサキは後が続かなかった。彼は、勇敢に白い人と戦う自分の姿も思い浮かべることができなかったが、知らない人に話しかけてる自分も想像することが出来なかった。
「部長がいってた、人殺しってのがなんだかしらんが。お前は俺から言わせて貰えば一番まともだ」
「え?」
「ステラちゃんとか解りやすいだろ。俺もそうだけど、みんなそうだ。どっか欠けてる」
 言われて想像するが、少なくてもカズが普通の生活を送れないとはおもえなかった。
「わかんないって顔してるな? いいさ、もしかしたらお前にとっては知らない人間と話すことよりも、アレと対峙するほうが楽なのかもしれないし。居てくれるなら助かるってのには、かわらし」
 そういって、カズは笑った。とても乾いていて、寂しそうな笑いだった。
 ヒサキは、静かにカズの揺れる肩を眺めている。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL