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今日の三題話

■連載中のlog
「考察」「診療所」「ノリ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 一方向ではなく、しかし一定を保ち、繰り返しでありながら、確実に進んでいる。しかし、それすらも一つの流れのうちの一つではある。場所によってそれは、全く様相が違う。たとえば、全く無いなんて場所もあったりする。
 流れにこれといって正解があるわけではない。一方向ゆえに寿命の短いものもあれば、一定ではない故に差が生まれたりする。繰り返すゆえに、食いつぶすところもあれば、全く進まず観測すら不可能なものまである。
 つまり。一つ一つに欠点がありよい点があるのは間違いないのだ。そして、欠点の中で一つが問題化してしまったからといって、それを言及するのは筋違いだ。いつ、何が問題化してもおかしくないというのに、偶然早かったからといって問題自体を言及する意味は無い。

 それよりも、何がそれを起こすのか。何がそれを起こしたのか。それを突き止めることがさきなのだ。
 第五類一三九代基底は、第五に属する螺旋形状を持っている。一方向ではなく、一定周期を持ち、繰り返しながらも確実に進行する。完璧とも呼ばれた第五類の螺旋形状に、欠点が見つかったのは僥倖といえばそうだが、不幸といえば不幸である。今まで幾度となく、考察され欠点を見出せなかった、しかしそれはイレギュラーを除いた可能性の模索でしかなく、結局のところ「現実は小説より奇なり」だった。
 一定周期を持つその習性のため、あまりに干渉に弱かったのだ。最外基底からの観測では、それは間違いなく『人間一人分で崩れる』という結果だった。その中で唯一希望を持てる結果は、同基底内であれば。という注釈がつくところだろう。
 外基底との行き来はその柔軟性ゆえに無視できる範囲であり、打ち消すための後処理さえしっかりしていれば何の問題も無い。同規定内であると、打ち消す前に干渉が起こるというのだ。それは螺旋という形状故なので、なんともできない。もし、同規定内で『移動』が起こった場合。削れ落ちた場所を補うため。螺旋は円環へと形変える。それは過去を食いつぶし、先に進まない最悪の形状。もしそんなことになれば、中では見たことも無い現象が起こるだろう、白――
 乾いた音を立てて、本が閉じられる。昼の風は、心地よく肌を撫でていく。
 回りくどく、単語の意味がわからないのでは、日本語だろうが日本語じゃない。ヒサキは頭を軽くふってため息をついた。こんなものをよくステラは読んでいられるなと、視線を向ける。
 図書室の管理を任されている図書委員が窓を開けて回っている。その風に、ステラの髪の毛がゆらりと膨らんで揺れた。
「なに?」
 ヒサキの視線に気がついたのか、ステラが顔を上げた。いや、今の一瞬はそんな感じではなかった。まるで誰かに、「目の前のヤツが君を見ているぞ」と声をかけられたような、そんな反応の仕方だった。どこが? といわれれば、ヒサキには判らない。ただ、なんだか不自然な気がしたのだ。聞こえてるはずの声が聞こえていないような。
「あ、いや。部活、なくならないといいね」
「そうね。でも、努力しなきゃ結果はでない」
 冷たい感じがする言葉に、なんだか寂しさが混じっている。
「沢村さんはなんかしてんの?」
「私は、何も出来ない。何も出来ないから、何も望めない」
 そんなことを静かに言われて、反論できるほどヒサキは熱い思いがあるわけじゃなかった。
 そうなんだ、と呟くほか無い自分にため息が出そうになる。ヒサキはふと、都市伝説の魔女の話を思い出した。
「頑張ったら、魔女が助けてくれるっていうじゃないか」
「そうかもしれない、そうじゃないかもしれない」
 やはり寂しそうな声だった。その声に、ヒサキは顔をしかめる。
 風が流れている、熱を伴わないまぶしい光が一緒に差し込んでいた。本のにおいにまざって、ステラのにおいがした。
「そうだね、来ないかもしれないんだよね」
 チャイムが鳴る瞬間、一瞬前に入るノイズ。ザッっという電気が流れる音。そしてすぐにチャイムが鳴り響いた。午後の始業時間五分前を告げる、予鈴だ。ヒサキは、閉じた本を持ち、立ち上がった。ゴムの床に、すべりの悪い椅子がタカタカと引っかかりながら音を立てる。
「魔女は……」
 ステラの声は、チャイムの音にかき消される。聞き返そうと、振り向いたが既にステラは歩き去っていた。ジワリと手に滲んだ汗がまた表紙に吸い込まれるように消える。
 気持ち悪さに手の力を緩めたが、ノリでもついたかのようになかなか手から離れることはなかった。
 辺りも片付けに入ったのか慌しくなっている。もうステラの姿は図書室にはなかった。

 予鈴が響くなか、カズは窓から校庭を見下ろしていた。丁度良い湿気と、丁度よい温度に身をゆだねて、カズは静かに部室で目を閉じる。
 彼の耳に届く音はすべて遠く。子供の頃、学校を休んだときに部屋で聞いたあの遠くの声に似ている、カズは腰掛けている椅子を揺らしながら思う。
 風が、カーテンを揺らしてカズの目の前を横切った。椅子に深く腰掛け、体を揺らしているとなんだか自分が病人になったみたいだ。
 振り向けば、誰も居ない部室に大きな長机。小さな黒板。さしずめここは診療所。自分の想像に、カズは苦笑いを一つ。
 すっと、風が止まって肌に当たっていた感覚が喪失する。一瞬で熱を上げていく肌の感覚に、彼は不快感を覚えた。
「つかまんねぇな」
 志茂居にかけ続けた携帯は、既に電池切れになった。電池の急速充電をつけた不恰好な携帯は、カズの手の中でもてあそばれている。
 着信はなく、届くのは迷惑メールの類だけ。カズは高く携帯を投げ、そしてキャッチする。
 始業のベルが鳴った。
「さぼっか」
 カズが座っている椅子が、軋みを上げた。授業の始まる、椅子が奏でる多重奏はどこも美しさを見出せない。やる気の無い学生、やる気のない教員、カズはそれを窓から冷ややかに見ている。
 部室がなくなってしまえば、地獄だ。そして、それ以上に――
 握り締めた携帯を頬リ投げた。
「斬れなくなるのはゴメンだ」
 リノリウムの床に、乾いた音が響く。
 休み時間とは打って変わって静かになる学校。たまにワッと声があがるが、それもすぐに沈むんだ。床に、転がった携帯が差し込む光を浴びて光っている。
 カズはため息をつきながら立ち上がり、転がった携帯を拾おうと手をのばした。
「とっ」
 取った瞬間に、携帯が増える。驚いて取り損ね、携帯は再度リノリウムの床にぶつかった。
 上を向いた液晶に踊った文字は、
『相羽カゴメ』
 カズは、期待を裏切られがっくりと肩を落とした。




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 そろそろ40話。実はまだ頭にあるシナリオの1/3弱。俺が飽きるまでにおわるのだらうか。

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