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今日の三題話

■連載中のlog
「忠誠」「墓地」「はさみ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 無言に彩られた部室に四人。思い思いの場所に座り、視線もバラバラ。無言が加速させる静寂はあくまで無表情、静かに丁寧に沈んでいく。
 志茂居は連絡が取れなかった、とカゴメが伝えてから部室はこのなんとも居心地の悪い静寂に包まれていた。学校にくれば連絡は取れる、そう信じていた予定がすべて裏切られて力なくうなだれるのは、二年生の二人。することも無く、ただ静かに佇むのはステラ。
 そんな無言にはさみ困れて、ヒサキはただ小さくなるしか他なかった。

「とりあえず、名前だけでも貸してもらえる人間を探さないと」
 携帯を弄りながら、独り言のような呟きを漏らすカズ。
 誰も反応はしないし、反応できない。そして、聞いてもいない。日が沈むにつれて、部屋の気温がじりじりと下がっていく。春先とはいえ、薄着をすれば風をひく寒さだった。
 思い出したかのように、カタリと窓が揺れる。けれどそれ以外に音は無かった。
「もう仮入部期間もおわったから、見つからないと思う」
 カゴメの沈んだ声をヒサキは初めて聞いた。少し驚いて、ヒサキは顔を上げる。カゴメは俯き、爪を弄っていた。表情は、ヒサキの場所からでは陰になって見えなかった。
「あー辛気臭ぇ。通夜か葬儀かってんだ」
「差し詰め、墓地だね」
 確かに、静かさからいっても墓地かもしれない。通夜も葬儀も、そんなに静かなものじゃない。ヒサキは、自分のクラスを思い出す。殆どが有名部活へ所属をきめ、部活の話を目的もなく垂れ流していた。その中で、部活の話をしていない、もしくは部活に入っていないという話をしていた人間を必死に記憶の中から探す。
「あぁそうだ! 三年なんかなら既に部活やめた人間いるかもしれない」
「辞める人はいないよ。早くても夏までは続けるだろうし。続けていた方が内申もいいし。それに良くも悪くも部活に忠誠を誓うような人が多いし」
「二年にいる、ゲリラの部活の奴らひっつかまえて」
「ゲリラの人が、正規部に名前を入れるなんておもえないよ。あの人たち顧問とか嫌いそうだし、部室にも興味ないだろうし。それに今潰れてるってゲリラの人たちにばれたら、それもまずいでしょ」
「う……」
 ことごとくカゴメに論破され、カズは押し黙る。
「二年は部室取られる可能性があるからだめ、三年は夏の大会があるからだめ、一年は既に入っているからだめ」
「三年生でゲリラの人とかいないんですか?」
 ヒサキの言葉に、カズが顔を上げるが全く駄目だといわんばかりの暗い表情。カズが口を開く前に、ヒサキは駄目なんだろうなと判ってしまう。
「ゲリラは、受験とか他にやりたいことがあるからゲリラやったり、幽霊部つくって家にかえってんだ。遊びたいからってやつは、実はすくねぇ。毎日見てればわかるかもだけど、学年違ってもそれがわかるほど人を見る目はない」
 ため息をつくカズ。そりゃそうだ、とヒサキも一緒にため息をついた。
「大声で探せないのが辛いよね。秘密にしなきゃいけないし」
 ため息の三重奏を、ステラは無表情で聞いている。
 運動部の掛け声が遠くから聞こえてきている。風が揺らす窓枠の乾いた音と一緒に、変なリズムを取りながら部室で控えめな合奏が始まった。ぱっと、吹奏楽の演奏が混ざり更に音は不可解なうねりを作り出す。野球部の掛け声、バットの乾いた音。罵声と嬌声。歓声と説教。放課後の学校は、音に溢れている。ともすれば消えてしまいそうな程小さなうねりは、少なくてもこの部室に吹き溜まり、存在していた。
「月にむら雲花に風ってか。うーん、俺様博識」
「今日授業でいってただけじゃん」
 カゴメに突っ込まれて、カズはうるせぇとそっぽを向く。本当にままならないというわりには、どこか気が抜けた部室で、ヒサキはずっとクラスでかわされた会話を必死で思い出そうとしていた。

 チャイムがなって、なし崩し的に解散になった。部室を後にしたステラは、静かに家にむかって歩いている。夕日は街を殆ど水平に舐め、影はどこまでも永遠に続きそうなほど長く伸びていた。その影を踏まないようにヒサキが後ろをついて歩いている。ステラは、それを邪魔だとは思わない。それどころか、――
「ね、え。沢村さんは、心当たりとかいる?」
 不意に声をかけられて、ステラは振り向いた。
「ない」
「そ、うだよね。僕のクラスにも居ないんだ、こまったなぁ」
 乾いた笑い。気まずさを紛らわせようと、ヒサキは笑う。
『ずいぶんと、冷たい返事だな』
 学校までついてきた幽霊の一人。一番昔からいる、一番ふるい友人だ。名前は無いそうだ、だからステラは始めのワンと付けた。彼はそれをいたく気に入り、こうして今まで十数年間一緒に居る。
『むしかよー、俺はべつにお前が普通に戻ってもいいんだぜ? キャップみたいに引き止めるつもりはないぞ』
 キャップは、ステラが引っ越した家に居着いている若い男の霊だ。あったその日に、ステラに告白をしてコンマ二秒でふられた経歴を持っている。
「どうしたの? 沢村さん?」
『ほらほら、よんでるぞー。いったらどうだ? 沢村ってファーストネームは嫌いだって』
「うるさい」
 思わず声にでた。
「え……」
 見開いた目のさきに、ワンの体の向こうに。呆然と立ち尽くすヒサキの姿。
 後悔は先に立たず。そして、口からでた言葉は、
 神様にだって取り消せやしない―――
 
 先に帰るね。と、泣き出しそうな顔をして走り去っていったヒサキを、ステラは止められなかった。じっと、その場で立ち尽くしている。既に夜、街灯も少ない住宅街の道は、夜の宴が始まっている。家のカーテン越しに漏れる光はあまりにも頼りなく、家に人が居るという事実を控えめに呟くだけにとどまっていた。照らされないまま、暗闇に沈むステラは、ただその場から動けないでいる。
 ワンは既にそそくさと帰ってしまった。住宅街ともなると、幽霊の数はそんなに多くは無い。ちらほらと空を飛んでる幽霊も、立ちすくむステラに視線をよこす程度で、すぐに通り過ぎていいった。彼女は一人だった。
「?」
 風が顔にあたって、ステラは違和感を覚える。頬に当たる風だけがやけに冷たかった。反射的に手を当てる。
「涙」
 久しぶりに、泣いたな、とステラは思う。が、やはり表情には出ない。友達から離れられなくて、それだけの理由で友達を失った。顔の筋肉はいつから強ばって動かなくなっただろうか。吹いた風に、髪の毛が揺れた。
「こんな夜道に学生一人とは、危ないな」
 背中から、いきなり男の声が飛んできた。




 拍手してくださった方々、ありがとうございます。
 久しぶりに、息抜きに短編挟もうかな。三題話っぽくね……。

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