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今日の三題話

■連載中のlog
「智識」「美術館」「筆」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 一瞬身を強ばらせるが、声に嫌な感じが全くしなかった。それどころか、心地よい響きを混ぜている。夜道で声をかけられたという状況を差し引いても、特に怪しさを感じはしない。ステラは、それでも用心しつつ声のする方に振り向いた。
「せめて大通りに出た方がいいぞ。あー、それとも家近くなのか? それならおせっかいか。わるかった。ん? どうした? もしかして道に迷ったか?」
 光りが全くたりなくて、男の顔はわからなかったが意外と年が近そうな、若い声。それに、今まであった人間の誰よりも声に感情がある。それと、何故だか不思議なことに、男の声のようなくせに女性的なものを感じた。

「いえ。大丈夫です」
 ステラの声に、男は口を噤んだ。ゆっくりと目の前に歩み寄ると、ステラを上から見下ろす。暫くそうしたあと、男はいきなりステラに顔を近づけた。まるで、大人が子供をあやすように目線を同じ高さにして。
「泣いてる女がいて、大丈夫だといわれて、はいそうですかとはいかないね? ……ととっ」
 いきなり、横に頭を殴られたようにスライドした。
「つつー。いてぇ」
 本当に殴られたように、頭を押さえて痛がる男。ステラはそれを無表情で見上げている。
 幽霊は見えなかった。だが確かに、なにか見えないものに殴られたようなそんな動き。
「わりぃ、わりぃ。気にしないでくれ。つーか、あんた表情うごかないのな。おーい、みえてるかー?」
 目の前の男は、暗闇で自分の顔が見えているのだろうか。ステラは、暗闇に隠れてよく見えない男の顔を見上げながら思う。しかし疑問もすぐに消えてなくなる。
「みえてる」
 何が見えてるか判らないが、とりあえず目は機能している。男は、ステラの答えに一瞬考えるように黙ったがすぐに頷いた。
「そうかそうか。なんだかわかんないけど、わかった。あんた、喧嘩したんだろう? それで不機嫌なんだな。うん。道に迷ったんじゃないとしても、もしかして自暴自棄になって……」
 一人で結論をだし、一人で納得している。ステラはそれをただ静かに見守るしかなかった。
「うーん」
 目の前の男が、顎に手を当てて考えている。声からしても必死で頭を捻ってるのが判る。まるで美術館にある考える人だ。
 ずるりと、何かがずり落ちる感覚。足元がおぼつかなくなるほどの嫌悪感。一歩、ステラは足を下げる。扉も無いのに、閉じられた場所じゃないのに、あの闇が来る。
「ん? なんだ?」
 目の前の男が、消えていなかった。一緒につれてくるという行為は、たしか扉を開けなければ成立しないと記憶している。そして、つれてこられない限りこの場所には居られないし知覚できない。例え智識でしっていようとも、実際つれてこられるという感染経路いがいにこの場所にはこれないはずである。唯一の例外は……
「原初……」
 音が引き金になったのか、白い人が近くに立っていた。しかし、いつもと様相が違う。
 動いているのだ。
 ステラにはそっちの方が驚きだった。今まで動いてるのを見たことはなかったし、動かないと説明されたのだから。目の前に居る原初は、平然とこの場にいる。病院でみた、あの子供とは違うらしいとステラはそれを無視することにした。
 彼女はしらない、原初がどれほど珍しいものか。
「なんだこの白いの。敵意? 違うな? 恐怖か? それとも……緊張?」
 男は、平然と白い人に近付いていく。しかし吐き気も嫌悪感も無いようだった。確かに、今までと違うのは動いてることもそうだが、受ける印象もそうだ。吐き気を伴うような嫌悪感はまるで無い。
 それでもやる事は一つだったし、それ以外にステラは知らなかった。
 手提げ鞄から、定規のようなナイフを取り出しすと、彼女は鞄を道の端に投げた。乾いた衝突音に、男が振り向く。
「ん? あ、おい」
 男を無視して、彼女は一番近くの白い人に向かって走りこんだ。男を挟んで線上。一歩目を踏み切った瞬間、男をすり抜けるように体を縦に。
 二歩目で体制を元に。一緒に右手にもっていたナイフを振り上げる。
 白い人が動いている。が、捕らえられない速度ではない。
 大上段からの一線。体重を乗せた剣線は、闇をはらんで円弧。風を切ったかすかな音と共に、
「あああぁぁぁぁああぁっぁつ」
 白い人が悲鳴をあげた。
 あの時、原初が上げた声に似てる、つんざくような悲鳴。しかし、あの時とは違った。白い人が手を伸ばした。いや、手なのかどうかすらわからない、ただ何か筆のような長細いものがステラに向かって伸びてきた。
「あぶないっ」
 声と同時、ステラは体が横に飛んでいく感覚を覚えた。景色が流れる瞬間、男の手がステラを掴んでいるのが見えた。
 真っ暗な夜空が視界一杯に広がる。この空間の夜空は何も見えない。彼女には、星は見えていない。彼女は星を忘れたから。
 肩が地面に触れたと思った瞬間、体中に衝撃が走る。思ったよりも思い切り投げ飛ばされたらしい。焼けるような衝撃が肩から腰に抜けた。無意識に出た手が、アスファルトの地面に擦れる感触。小石をかんだ手のひらが、削れて行くいやな感覚。
「う」
 痛みに顔をしかめた頃には、彼女の体は止まっていた。
「やべ、ミカンと同じ感覚でなげちまった。おーい、大丈夫か? けがしてないか?」
 足音が近付いてくる。ミカンとは果物のミカンだろうか。目の前に広がる地平線のような地面を眺め、ステラは思う。
「だいじょうぶ」
 とりあえず、体は動く。ステラは、手のひらをかばいながら立ち上がった。
「手、怪我したか。おい、だいじょうぶか? ごめんな、あんまり動きが良かったから勘違いしちまった」
 ステラの手を覗き込むように、男が顔を近づけてくる。それがなんだか恥ずかしくて、ステラは手を引っ込める。
「だいじょうぶ」
「そ、うか。ごめんな」
 心底申し訳なさそうな声にステラは首を振る。
 と、男の肩越しに白い人が立っていた。またあの長細い手のような何かを伸ばしている。というか、形から行っても多分手に違いない。なんだか長い気もするが。
 男を払いのけ、ステラは右手を振りかぶる。
「!」
 さっき吹き飛んだときに、手からナイフが落ちていたらしい振り上げた手には何ももっていなかった。
 そして、ステラはなぜ武器をもって白い人と対峙していたのか、体で理解することになる。
 伸びた手が、ステラの手に触れた瞬間。彼女は仰け反り、そして跳ねた。
 手から、いや指先から針金をねじりこまれたようなそんな感覚。それは瞬時に体中に伝わり、激痛を染み込ませていく。
「かっ」
 呼吸もままならないまま、ステラは倒れていく夜空に星を見た。大きく見開いた瞳に、もうそれ以上何かが映ることは無く暗転。
「おい!」
 遠くから、男の声が聞こえる。もう、あの闇はなくなっていた。



 言い訳したくてうずうずうずうずずずずずずずずずずずずずごべらっ

 はらへったなぁ。

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