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今日の三題話

■連載中のlog
「義理」「温泉」「鉛筆」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 結局、何も起こらない。世に言う、フラグの取り逃がしだという状況であっても、ヒサキにとってはそんな選択肢すら見当たらなかった。
 ヒサキは、ステラの家をしっていたから抱えたまま彼女を家に送り届ける選択をした。
 彼には、それ以外に思いつくことは無かったし。本人もそれでいいと納得していた。

 そして、家にかえってからステラを抱えたときの手の感触にまたもだえ苦しむのだ。そんなことわかっていながら、ヒサキは悶々と家にむかってあるいていた。
 そういえば、あの男は。と、血圧の下がった頭で考えたところで突然だった状況で顔すらおぼえていない。やけに垣根の薄い人間で、きっとああいう人間がもてるのだ。ヒサキは、思考が殆ど一方向へと固定されてることに気が付かないまま、ずっとそんなことを考えていた。
 心配と後悔に戻ってきたのは、結果として成功だった。だが、ヒサキの望みは一つとして叶わなかったわけで、そんな生っちょろい希望は、残念ながら夜風と共に吹き倒れている。
 見下ろした自分の手のひらは、まだ暖かくて、まだ感触がのこっている。そんな手を見下ろしながら彼は『あの時気がつくまでその場で待っていたら』などとどうでもいい蒸し返しを繰り返している。
 夜に傾いた空は、山から転がって風になる。吹き降ろしの土臭い風が、ヒサキの頬をなでて海にむかっていった。夜は、この町が海に面してることを忘れさせる。黒一色にそまり、闇を湛えるダムの底からは海なんか見えはしない。 
 ヒサキの目の前を、車が走っていった。駅から下ってくる車は、まるで血液のように光を街に届けようと躍起になっている。全然光はたりないのだけど、諦めるそぶりは全くない。
 闇を掻き分けて、必死で進むその姿に、共感どころか同情している自分に、ヒサキは頭を振った。

 時間は残り五日となった。そして部員は相変わらずに四人だった。二年の二人が忙しく走り回っているのを、手持ち無沙汰で見ている一年二人。しかも、一年二人は会話すらしていない。
 部室は、慌しいくせに静寂に包まれるという、なんとも奇妙な場になっていた。
「なぁ、カゴメ」
 夕日に染まる資料で顔を隠しながら、カズが小声でささやいた。横にいる一年生二人に聞こえないように、気を使いながら。
「ん?」
 カズの気遣いを全く理解しないまま。カゴメはいつものトーンで返事をする。
「あの二人何かあったのか?」
 視線を俯きつづける一年生二人に向けながら、カズが言うとカゴメはただ無言で頭を振る。それをみて、ため息混じりにカズは椅子に座りなおすとまた資料に目を戻した。
 資料の内容は、現在の部活の活動状況と活動部員。これは部が毎月生徒会に提出する活動報告書からまとめられる資料だ。これを集積し、最終的には部の予算や部員の内申が決定される。内申目当ての学生には、この部がだす活動報告書だけが重要になってくる。顧問がほぼ毎日部活動を見ているようなことはほぼ無い。つまり、不正の温床になっているのだ。簡単にいえば、顧問がいないからこそ部に出ずとも、報告書に活動態度に丸がついてしまえば勝ちとなる。
 そんな信用のない資料を、カズはじっと眺めている。
「そういえば、これ先々月のじゃない? もっと新しいの手に入らなかったの?」
 カゴメが資料をひらひらさせながら文句をいう。夕日を写しこんだ真っ赤な紙がゆらゆらと揺れた。
「もう部長が頼れないいま、知り合いに頼んで手に入ったのはこれだけだ。わざわざ最新版手に入れてくれるほどの義理があるような知り合いはいないよ。大体これ取ってくるのに、部長の認可とか色々必要なんだぞ。個人情報保護だのなんだのうるさいんだって」
 内申に直接関係してしまうこの資料は、原紙からのコピーしか許されておらず更に一ヵ月後には、その資料は生徒会が回収しにくるといった徹底ぶりだった。部活動の方針決めという大義名分と、現役部長と顧問の承認があって初めてその資料は部に手渡されるのだ。
 カズが、これを手に入れられたのは奇跡だった。それこそ、都会で地面を掘って温泉を掘り当てるほどの奇跡だ。そしてこれをもってることが誰かにばれれば、即刻カズと、カズに資料を渡した人間は部活動停止処分を言い渡されてしまう。
「今日かえすからな。いつまでも持ってていいものじゃない」
「わかってるよー」
 解ってなさそうなカゴメの返事をカズはうんざり顔で見ていた。
 結局のところ、資料に書き込まれた赤鉛筆のマークは役にすら立たなかった。素行の良い人の名前は挙がってはいるが、逆に幽霊部員に成り下がった人間の名前はのっていないのだ。部員名簿と照らし合わせてやっと、意味がある資料だった。片方が欠けた資料には、殆どその価値はない。それがわかっていても、その欠けた資料にすがりつくほか無いほど、切羽詰っている。カズは頭を抱え、資料を眺めていた。
 
 結局、部活に出てもヒサキは何も出来なかった。目の前に座るステラも、なんだか今日は沈んでいるように見える。といっても殆ど無表情なので、ヒサキがそう思ってるだけなのかもしれないが。
 横でカズが頭を抱えているのを知っていても、ヒサキは何もできなかった。
 頭の中は、昨日言われた「うるさい」の一言と、抱え上げたステラの重さでぐちゃぐちゃだった。昨晩も眠れないまま布団の上でグルグルと回り続けていたため、授業中の記憶は無い。
 ため息すら許されていないと、一人思い込みヒサキはただ下を向くほか無かった。
 チャイムが鳴ったことにすらきがつかず、カズに肩を叩かれてやっとヒサキは我に返った。
「かえるぞ」
 顔を上げると、部室にはカズしかいない。窓を覗けば夜が広がっていて、既に空は見えなくなっていた。
 部室を出ようとするカズを追いかけるようにヒサキは部室をでた。誰も居ない廊下に、二つの足音が規則的に響いていく。そのリズムを崩したのはカズだった。
「後輩、ステラちゃんとなにがあった?」
「い? いえ、なにも」
 振り返ったカズの表情は、暗い廊下では殆ど解らなかった。ヒサキは、たじろぎながら言葉を紡ぐ。
「そうか。ならいいけど」
 そして、また無言がおちる。足音が、せきたてるように耳朶を打つ。そのストレスに、ヒサキは一度唾を嚥下する。
「あの、先輩」
「ん?」
「どうして、先輩はそんなに頑張ってるんですか? あの資料も手に入れるのスゴイ大変だったって……、そんなに部室って大事なんですか?」
 ヒサキの言葉に、カズはすぐに答えられなかった。一瞬かんがえ、すぐに諦める。
「わからん」
「え?」
「惰性だ、惰性。部長のあの諦めの悪い態度が気に入らん。部室は気に入ってるし、自分の荷物を持って帰るのもだるい。何より、この程度で諦めるなら、部長にいわれてはいそうですかって頷いてたさ」
 それはきっと、惰性ですらないのだろう。自分の居場所を守るのは、きっと当然なのだ。



 しかし、新しくしたとたんクリックしてもらえなくなる罠。
 間違いなく、某国の仕業なのじゃよー ギャワー!

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