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今日の三題話

■連載中のlog
「短剣」「青」「涼しい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 水は青くない、どちらかといえば白なんじゃないだろうか。そんなことを考えながら、ステラは目の前でゆらゆらと揺れる世界の境界を、手で揺らしてした。赤く染まった指先が、水面をなぞる。指を追うように、波紋が伸びてすぐに消える。水面が膝小僧の上でくすぐったそうに笑った。水面に、映る自分の顔にステラは嘆息。
「なー、ごめんってばー」
 ワンが風呂場の天井あたりでゆらゆらと回っていた。今日一日、ヒサキに言い訳をすることが出来なかった事を、ステラはモヤモヤとした頭でずっと考えている。
 ワンの言葉は聞こえていたが、彼女に反応するほどの余裕はなかった。
 自分の感情すらままならないなんて、彼女にとっては既に忘れた感覚だったのだ。幽霊と種別されるのかどうか解らないが、少なくともステラは人に見えない人の残滓が見える。

 そして、それは子供の頃にしか見えないはずの物。子供の頃にしか見えないというのは、心の問題らしい。彼らは存在が不安定で回りに影響されてしまう。そのため、確固たる己を持っている人間には彼らは絶対に見えないのだ。まだ、物心つくまえの子供や感受性の強い、いわば己の世界を持たない子供には彼らが見える。しかし、それは時間がたつにつれて彼らが見えなくなるという意味でもあった。ステラは、それを恐れ自分を殺した。
 鏡。未来をすて過去を振り向かず、そして今だけを映す鏡だ。彼女は望まず、そして先をみない。それだけが、彼らを彼らとしてみる方法だった。
 だからもちろん、彼らが幽霊かどうかなんてステラには関係なかった。ただ、見える彼らは大抵死んだ人だったりするので、多分幽霊なのだろうとステラは勝手に思っている。
 周りに、幽霊が見えるという人が居たことがない。ステラには自分が見えているものが幽霊が見える人にも同じようにみえるのか確認したことが無かった。テレビ番組でやっているような、幽霊スポットなんかにわざわざ足を運ぶようなことなんてしたこともない。そして、秘密だが、ステラは電車に一人で乗れない。というよりは、乗ったことがないし乗り必要性がなかったので乗れないのだ。心霊スポットに一人で出かけるなんていうのは、彼女の中で選択肢にすら入っていなかった。
 天井の滴が、重力との綱引きに負けて落ちた。小さくて高い、まるで弦の音のようなすんだ音が風呂場に響く。しかし、ステラは肩までお湯につけながら、身じろぎ一つしない。頭と、膝頭だけが水面から出ている。
「げ、もしかしてもう見えなくなったのか? おい、ステラ!」
「みえてる」
 しかし確実に見えづらくなっていることを、彼女は告げなかった。原因なんか、既にわかっているが彼女は自分で自分を否定する。そんなことはない。自分は何も望んでいなかった。何度も言い聞かせては、ため息。水面に映った自分の顔が、ふにゃふにゃに揺れて情けなさを更に煽る。
「でも、そこまでへこむって。そりゃ……お前望んだんだろ?」
「ちがう」
 ただ、誤解されたから訂正したい。そうだ、そうにちがいない。心の中につっかえ棒を射し込むように、無理やり感情を押さえ込もうとする。無理して支えたぶんが、ため息になって口から吐き出される。
 ため息が揺らす水面に映った顔は、やっぱり情けなかった。

 春先の風の冷たさは、涼しいというよりはやはり寒い。暖かくなってきたとはいえ、やはり薄着は無理な季節だ。
 ヒサキは、いつものように布団の上に横になって天井を見上げている。やる事はないし、やりたいことは無い。部活をどうにか守りたいという気持ちはあるのだが、それで体がついてこない。結局行き着く思考の淵は「結局自分に出来ることは無い」という、諦めのような情けない結末だ。
 部室で、ずっと俯いていたステラの姿が目に焼きついている。
 部員が四人しかいなくて、部活が存続の危機だという事実よりも、ヒサキにとってはそっちの方が問題だった。自己嫌悪と後悔が、ヒサキをじわじわと削り取っていく。これならまだ、刃物で一思いに切られたほうがましだ。手首をきったら楽になるだろうか。直接的な痛みで、悩みが忘れられるだろうか。体に穴をあけたら、そこから嫌悪も後悔も血と共にでていってくれるんじゃないだろうか。ヒサキは布団に蹲り、体に爪を立てながら思う。
 けれど、爪が血管に到達することはなかったし、嫌悪も後悔も薄れることはなかった。体中に短剣が突き刺さっているような、けれどそれが痛くない。違和感と圧迫感。恐怖と幻痛。
 蹲った布団のなかで、ポケットに入っていた携帯が音を立てて落ちた。押さえつけられていたズボンが少しゆるくなる。
 無意識に伸ばした手が携帯を探り当てるまで、ほとんど時間はかからなかった。
 プラスチックの硬い感触と、自分の体温が映った少し居心地の悪い暖かさを手に感じながら、ヒサキは携帯をあける。軽い音と共に、布団の中が明るくなる。
 昔に比べれば、バックライトもあかるくなったなとヒサキは漠然と考える。
 電話帳には、部員全員の番号が並んでいる。ユキに持ってきてもらってから入れたのだ。かなりの数の着信があったから、もしかしたら誰からかわかるかもしれない、と。
 けれど、着信のデータは電話帳に部員の電話番号をいれても更新されていなかった。ヒサキは、とりあえず電話をかけないですんだことと、反応できなくて申し訳なかった罪悪感から逃れられた。けれど、彼は気が付いていなかったのだ。着信のデータは、電話帳とデータとリンクしていないことに。だから、着信があった時点で電話帳にデータが無ければ、着信はやはりただの番号のみで記録されるのだ。同じ番号かどうか、しっかりとしらべなかったヒサキには、それはけっきょく判らずじまいだった。

 のぼせかかった頭でステラは、脱衣所でワンの謝罪を上の空で聞いている。
 自分の失敗なのだから、ワンが誤るようなことは無いと思うのだが。ワンからしてみるとそうでもないらしい。バスタオルで濡れた髪の毛を拭きながら、そんなことを思う。
 ふと、洗面台に置いてある携帯に目が止まった。鏡に映った自分の顔はやはり情けない顔をしている。ステラは、バスタオルを体に巻きつけると携帯を取り上げる。
「おいー、ステラー。きいてる?」
「電話するから、黙って」
 短く言い放たれて、ワンは口を噤む。これ以上、ステラに嫌われたくないのもそうだが、それよりもステラの言葉には有無を言わせない凄みがあった。
 履歴から、目的の番号を探し出す。殆ど電話をかけないので目的の番号はすぐに見つかった。
 それを見下ろしながら、彼女は一度大きく息を吸う。
 液晶のディスプレイには、加賀ヒサキの名前が踊っている。

 ヒサキは、布団の中で電話帳を眺めていた。芳田、賀古井、志茂居、湯木、相羽……。既に三人ほど、無意味になった番号。そして、沢村ステラの名前が電話帳に表示される。
 液晶のバックライトは、無骨に名前を表示するだけだ。しかし、その無表情な文字が、何か語りかけているようなそんな気にすらなってくる。
 ヒサキは、蹲っている肩を一度揺らして息を吐くと、通話ボタンを押した。

 単調な電子音が響いている。話中の電子音。
 ヒサキは殆ど聞かないその音に、電話を切った。
 ステラは聞きなれたその音に電話を切った。
 ため息は、誰にも聞かれないまま落ちていった。



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コメント

Σ(゚ゥ゚; 半ば冗談で「入浴シーンキボン」とか拍手ったら反映されててどうしよう。エロくない入浴シーンGJ!
でも、なんだろうこのモヤモヤはっ!
そして明日夢級のフラグブレイカー・ヒサりんに微萌え(を

  • 木本らい
  • 2005/05/24 17:04

 もやもやといえば、IQサプリ!
 モヤモヤ落ちまくりです、知らない人には意味わかりません。
 三題話をやり続けて唯一得た、「メインシナリオから外れずに寄り道するスキル」のおかげで、途方もない寄り道以外は意向に沿ったままシナリオを進められることに気がつきました! 実は俺すげぇ!! とか思ったけどよく考えたら脱線してないだけで、シナリオすすんじゃいなかった。orz
 そんな感じですだ。最近、不幸キャラが人気だと思ったんです。明日無(夢)といい、エウレカのレントンとか。
 きっと、今はやりっす! まちがいねぇっす! 今時代に乗ってる!


 気がする!

 

  • カミナ
  • 2005/05/24 18:51
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