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今日の三題話

■連載中のlog
「槍」「緑」「暖かい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 何も進展がないまま時間だけが進んでいく。それは苛立ちと、焦りと、そして無力感を募らせる。そしてそれは、ストレスという名前で部室に降り積もっていた。
 残り三日。小さい黒板に殴り書きされた文字に、一瞬目をやった後に一人で帰る。既に慣れてしまった行動に、ステラは表情すら浮かべずに廊下を歩いていた。
 今日で残りは二日になった。結局部員は見つかっておらず、湯木と相羽の憔悴の程をみると、いつ倒れてもおかしくないように見える。
 相変わらずに頭の上ではワンが背後霊のようにくっついてきていた。

「なー、ステラ。何もしなくていいのか? なんかあるだろー、人に話すとかさ。いいのかよ、先輩たおれちゃうぞ?」
「よくない」
 良くないが、ステラは自分が何をしたらいいかもわからない。だから、なにもしない。
「だったらさ……」
 ステラの耳に、こそこそとワンがささやきかける。

 一人で帰る帰り道に、得体の知れない寂しさを感じる。散り始めた桜は、既に緑色を見せていて、その寂しさに拍車をかける。地面の隅に積もった花びらは、踏みしめられて茶色く変色していた。においだけは一人前の癖に、見た目は既に桜の花びらかどうかも怪しい固まりだ。
 カズとカゴメの憔悴具合が、ヒサキは頭から離れなかった。何かしなければとおもっているが、何をしたらいいのか判らないまま時間だけが過ぎていっている。投げ槍になっているつもりはないが、やはりやれることが殆どない。
 横を過ぎ去っていった車の、生暖かい排ガスが顔にかかってヒサキは咳き込んだ。
 踏んだり蹴ったりになったじぶんに、ヒサキはため息をつく。排ガスの匂いに、また咳き込んだ。結局、ステラと会話できずに数日が経っていた。そのことがまた、ヒサキの肩を重力に逆らえなくするのだ。はたからみたら、病気か、怪我かと疑われること請け合いなほどの格好で、ヒサキは家にむかってあるいていた。
 ポケットにはいっている、賀古井に貰ったカッターがカタカタと歩みにあわせてなっている。
「加賀ヒサキ」
 かけられた声に、ヒサキは飛び上がるように反応した。まるでばね仕掛けのように背筋が伸び、ゼンマイのようにぐるりと百八十度回転。
 目の前には、久しぶりに見る姿。
「部長」
 ヒサキの言葉を反応せず、賀古井はゆっくりと彼に近付いてきた。
「いや、あの……部は」
 辞めろといわれたのに、続けようとしているのだからきっと怒られる。
 だが肩をすくめ、下を向き口篭もったヒサキにむかって、賀古井は軽く笑った。
「少しずつだが、近付いていた」
「は?」
 ヒサキは、賀古井の言っていることがわからない。
「だが、早すぎるのだ加賀ヒサキ。確かに近付いていた、問題は用意が整っていないことだ」
 賀古井の言っていることが判らず、ヒサキは立ち尽くす。固まってるヒサキを無視して一歩、また一歩と賀古井は彼にむかって歩いてきていた。
「確かに急いでいたが、予定範囲を逸脱している。このままではまずいのだ。わかるだろう? 加賀ヒサキ。君が引き金なのか? それとも沢村ステラか?」
 気が付けば、目の前に来ていた賀古井からヒサキは目を離せなかった。
「な……にを」
「知らないのか、知らされてないのか、それとも知らないふりをしているのか」
 ヒサキは、賀古井の勢いに一歩下がった。倒れこむように、後ろに一歩。それにあわせて賀古井が一歩つめてくる。
「わかり、ま、せん」
 何もされてないのに苦しい。心臓が引っ切り無しに血液を体中に投げつけ、呼吸は浅く多く。既にいつ過呼吸で倒れてもおかしくないぐらいの緊張に、ヒサキはまた一歩下がった。
 胸を抑えても心拍数がおちるわけじゃないのに、ヒサキは自分の胸を無意識に掴んでいた。
「……そうか。加賀ヒサキ、私がやったカッターを持っているか」
 言われて、ヒサキはポケットからカッターを出した。疑問すら浮かばず、体が言うことを聞いていない。
「ふむ、まぁまだ大丈夫か。折れた刃は取っておくといい。それは市販の刃ではない」
「あ、は……い」
 ヒサキの返事を聞くと、賀古井はきた道を戻り始めた。賀古井が離れるたびに呼吸が戻ってくるような、そんな錯覚に襲われながらヒサキは一度深呼吸をした。
 彼が手にもっているカッターの刃が、月の光をあびて白く輝いている。



 朝がきても、ヒサキの頭から賀古井の姿が離れることがなかった。相羽や湯木のように憔悴しているというよりは、なんだか焦っているようなおびえているような感じだった。といっても、賀古井がそのままおびえるような姿は、ヒサキには想像できない。
 ただ、なんだか酷く急かされているようないらついているような感じがした。
 何があったのだろうか、ヒサキには判らない。何かいわれたが、解らない事だらけで、しかも部活のことと合わさって、ヒサキの頭は混乱の極みに達していた。
 気を抜けば、思考は永久ループを始め、そのまま歩けば間違いなく事故に遭う。考えないように必死に考えるという、無駄極まりないエネルギーの使い方をしながら、ヒサキはふらふらになって登校していた。
 日差しがつよく、目が痛くなるような青。コントラストの高い白い雲がやけに不愉快に移るのは、間違いなく自分の精神状態だと、ヒサキは頭を振る。人のとおりが多くなりはじめたころ、いつもと違う雰囲気に、気が付いた。
 顔を上げると、校門の前に人だかりのようなものが出来ていた。だが、よく見かけるにぎわった人だかりというには、少々消極的な感じのする集まりだった。
 一瞬止まっては、すぐにあるきだすようなそんな感じの流れ。
 ヒサキは、その人だかりを避けるように歩く。一瞬声の波にまぎれてしった声が届いた。
「はい」
 何か質問された答え。無表情だが、聞き覚えのある声にヒサキは振り向く。
 人ごみの中央には、見知った無表情の顔。
「沢村さん……」
 ステラが何か配っていた。横を通る人間が手にしていた紙に視線をやると、
『帰宅部部員募集中』
 の文字が躍っていた。
 呆然と、その光景を見ているヒサキの前で。ステラは無表情に紙を配っている。
「どうぞ」
 あと二日。
 ヒサキだけがなにもしていなかった。



|∧
|。`ーァ
| 々 ゚ l ……

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