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今日の三題話

■連載中のlog
「鎌」「赤」「柔らかい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 母親が死んだ。
 病気ではなかった、そして事故でもなかった。
 ――殺された。
 
 それからのことは、よく覚えていない。気がついたら海を渡って、東の端にある島国に来たらしい。らしいというのは、父親からそう聞いたというだけで、実際飛行機も船ものった記憶は残っていなかった。
 母親は幽霊になって初めて、ステラが幽霊が見れることを信じ。そして、泣いて謝っていた。もうおそいというのに、それでもステラは少しは嬉しかった。
 でももう、母の暖かさを感じることは出来なかった。
 そして、気がついたときには自分の国から遠く離れた場所へ、来ていた。
 建前は、仕事の都合。本音は、辛すぎるから。そんなところだろう。そして、新しい国で父親は新しい母親を見つけ籍をその国にいれた。それは、自分のためだ。自分がこの国で生活していくために、必要なことなのだ。だから、自分の苗字が変わったことをステラは納得できなかった。
 どうして自分なんかのために。凝り固まった恨みというのは簡単にほぐれるものではない。心を殺しつづけても、その思いだけは残りつづけた。
 曰く、父は自分のために母親を捨てた。
 今なら、そうではないのだと理解できても、時既に遅しというやつだ。
 この国の言葉でそう言うらしい。
 
 だから、ステラは自分の今の苗字が嫌いだった。本当にそれだけかと、聞かれたとき、彼女がどんな顔をするのかは判らない。
「ステラってよんで」
 大声で、「沢村」の名を呼ばれたくは無かった。それぐらいには嫌いだ。教師などに呼ばれるぐらいであるのなら、我慢もできるが。加賀ヒサキに、その名をよばれることは嫌だった。
 ただ、言ってからステラは自分が失敗したことをしる。周りの視線は、好奇にみちみちていて、痛いどころか熱い。ヒサキは顔まで真っ赤に染まって、呼吸すら忘れていそうだった。
 嵐の前の静けさ宜しく、ぞわりぞわりと興味の波が鎌首をもたげてきたのが、ステラにもわかった。
 ぞわりと、肌を舐めまわす生暖かい雰囲気にステラは周りを見回した。
「お」
 ――来る。
「おぉぉおおおおおおおお!!」
 歓声、罵声、怒号、応援、嫉妬、興味、そのどれもが強烈な力を持ち、それにつられて更に波及する。爆発に近い音の波に、ステラは体のバランスを崩しかけた。
 強烈な意志というのは、それだけで他者を排除する。対抗できるだけの意志が無ければただ潰されるのみ。それは水圧や気圧と同じだ。弱い人間に、それは毒だ。
 視界が揺らぐのを知っても、ステラは重心を元に戻すだけの力が無かった。
 壁が見える。校舎の窓は味気なくて、冷たい印象がする。でも、その窓の向こう柔らかい綿のような雲がふわふわと浮いていた。意志の波に吹き飛ばされ、空を漂ってるワンが見えた。嵐のような声の中に、悲鳴が混じっているのが聞こえた。
 足音。
 あの時見たいに。
 ――そう、あの時みたいに。
『手を伸ばせば、助けてくれる』
 
 ――欲しいものは、無口な口と、何事も気にしない強靭な心。
 目立たない体と、当り障りの無い関係――
 それ以外はいらなかった。
 怒声とも、歓声とも取れない叫び声の波の中ヒサキは、倒れていくステラの姿を見た。
 危ないと思ったときには、体が走り出していた。
 正直間に合わない。ヒサキの頭に自分とステラの距離は絶望的に移った。体を動かすのは得意ではない、早く前にと思っても体が全然着いてこない。一歩。
 廊下を埋め尽くしていた声は、既に後ろ。耳に届くのは、自分の息遣いと廊下を蹴る足音。二歩。
 手を伸ばしても届くそぶりすら見せない距離に、ヒサキは焦る。踏みしめた足が、滑りそうだと本能的に速度を落とそうとする。体が諦めたらそこで終わってしまう。ヒサキは、歯を食いしばり転倒の恐怖を振り切ろうと歯を食いしばった。
 目の前で、ステラが手を伸ばしている。自分の手は伸ばしても届かない。
『本当に、頑張って、頑張りぬいて、血反吐を吐いて、指一本動かせなくても諦めないで頑張ると、そこに魔法使いが現れて助けてくれる』
 踏みしめた足に力が戻る。三歩。
 広げた指先に風がまとわりつく感触。後少し。
 間に合う。
 瞬間、踏みしめた足から、体中の力が抜けた。
 滑ったのだ、と理解する前に慣性力が体を前に押し出す。足はついてこない。視界がどんどんと高度を無していく。
 それでも。と、出しかかっていた足で無理やり廊下を蹴った。まだ、諦めない。衝撃音。上履きが廊下を叩く音。
 全体重を踏みしめ、慣性力を受けきり、それでも足りずに膝が軋んだ。
 前に。伸ばした手は廊下について体を支えるためのものじゃない。軋んだ膝が体を無理やり前へ。体制が立て直っていく瞬間、ヒサキは顔を上げた。
 ステラが倒れていく。
 ボクの手は、届いていない。
 そして、踏みしめた足がまた滑った。体が横になっていく。無理に蹴り出した所為で、体の重心がバラバラだった。体が回転していく、それでも前にとヒサキは手を前に――
 体中に衝撃が走った。
 廊下に倒れたのだと意識したが、体は痛くない。衝撃は肩から手に抜けなくなっていた。不思議に思って目を開けると、目の前にはステラが居た。
 疑問に思って顔を上げれば、自分の手とステラの手を掴んでいる影。
「たとえば」
 芳田だった。やつれた姿で一瞬わからなかったが、その声は確かに芳田だった。
「たとえば、一つしかない物を取り合ったとして」
 芳田は、右手にヒサキ、左手にステラを掴みながら呟く。視線は、遠く空の向こうを眺めているようだった。
「双方ともが、本当に、頑張って、頑張りぬいて、血反吐を吐いて、指一本動かせなくても諦めないで頑張ったら、魔法使いはどっちを助けてくれると思いますか?」
 顔は動かさず、視線だけをヒサキに向けて芳田が言う。
「え……」
「答えは簡単です。魔法使いは、どちらかにしか味方しない」
 ヒサキは、芳田の表情を読み取れなかった。
「どちらかは、どれだけ頑張ってもかなえられない。現実はどこまでも非常です。一つしかないものが二つに増えることはありません。選択肢は常に一つだけです」
 つかまれている手首が、軋んだ。
 
 
 


 2/3も仕上がっていたのに、ラノベスレに間に合わなかった。
 元からあるものを弄るときに、矛盾が残ってるといきなりブツリと思考が途切れる病気らしい。
 今更、書き直すのもかきつづけるのもアレなので、全没お蔵入り。南無。

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