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今日の三題話

■連載中のlog
「大剣」「黄」「まぶしい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 授業中の校舎というのは、放課後よりも一種特別な不安を掻き立てる。ただでさえ、学校にきたばかりのヒサキにとって、誰も居ない廊下というのはなかなか居心地の悪い場所だった。
 人の気配はしているのに誰も見えない、誰も居ない。一種異様な状況が横たわっている。授業の声は、教室と廊下を遮る壁が邪魔して雲って聞こえる。そんな曇った声を、廊下は反響させて更にあやふやなものにしてしまう。
 怪物の唸り声だといわれたら、そうなのかと納得してしまいそうになる程だ。どこかの教室で、どっと笑い声が上がる。まるで唸り声のように届くその声を聞きながら、ヒサキは意識の無いステラを運んでいた。

 既に傾きはじめた太陽が、丁度視界の端に入ってまぶしい。けれど、ステラを運んでいる手前ヒサキは下手に歩く場所すら変えられないで居る。
 なんでこんなことに。
 ヒサキは痛む手首をかばいながら、ステラを背負ってあるいている。芳田にステラを保健室に連れて行くようにといわれ、断る理由も無く頷いてしまった。どう考えても、人一人、例え女性とはいえ、ヒサキに簡単に運べるわけは無い。
 ステラは少々意識があるものの、自分で歩けるほどではない。肩を貸すというよりは、引きずるようにしてヒサキはステラを運んでいる。たまにヒサキの方に視線を投げかけてくるが、ヒサキに気がつけるほど余裕はなかった。
 足音がやけに響く。リノリウムの床は、日を浴び真っ白に染まっている。
 白。何者も寄せ付けない、拒絶の色。孤独な色だ。ステラの髪の毛も、光に当たると白く輝く。それも拒絶の色なのだろうか。金髪というのは、金色というより薄い黄色に近いのだと、ヒサキは目の前に揺れるステラの髪を見て思った。
 階段を足元に注意しながら降りていく。一段一段を確かめるようにして、背負ったステラが足をぶつけないように。一歩一歩と下るたびに、背中でステラが揺れた。重たい背荷物とは大違いだ、人間というのはここまで重たいものだったのかとヒサキは、ため息をつく。まるでこれでは、丸太やサンドバックや大剣のような代物に近い。
 保健室のある階にたどり着いた頃には、ヒサキの膝はかくかくと面白い踊りを始めている。
「はっ、はっ……」
 傍から見れば、かなり危ない息遣いでヒサキは誰も居ない廊下を歩く。
 既にヒサキは自分が何をしているのか、どこに向かっているのかすら危うくなっていた。何故ステラを引きずって歩いているのか。芳田が連れて行けといったからだ。どこへ? 保健室だ。保健室は一階にある。なぜ、連れて行けといわれたのだっけ。ステラが倒れたからだ。なぜ? さぁ? ヒサキは歩く。廊下の向こう、保健室の表記を見つけ少しだけ意識が覚醒する。
 そういえば芳田が何か言っていた。
 口の傍から零れ落ちそうになる涎を必死で啜りながら、ヒサキは考える。何をいっていたのだろうか。
『たとえば、一つしかない物を取り合ったとして』
 芳田が言っていた。まるで呪文のように朗々と歌い上げる言葉は、ヒサキの頭の中でこだまする。
『双方ともが、本当に、頑張って、頑張りぬいて、血反吐を吐いて、指一本動かせなくても諦めないで頑張ったら、魔法使いはどっちを助けてくれると思いますか?』
 どっちかだなんて、簡単なことだ。正解は、
「どっちも助けてくれる」
 にきまっている。頑張った過程が本物なら、魔法使いはきっとどっちの望みもかなえられる方法を示してくれるに違いない。選択肢は、一つじゃないのだから。
 けど、まぁ、自分には魔法使いは助けにきてくれないのだろうなとヒサキは思う。血反吐を吐く努力というものがどういうものかわからない。
 判らないということは、きっとしたことは無いだろうし、そして今後もすることは無いのだろう。努力することすら諦めた自分にはお似合いだと、自嘲気味に笑った口元から涎がたれた。

 顔を上げると、保健室と書かれた札が下がっている部屋の前に来ていた。肩にはステラ。彼女を落とさないようにと、両手で彼女の腕を掴んでいるので扉が開けられない。ここに来て、扉の前で立ち往生したヒサキは所在なさそうに周りを見回す。
 足で扉を開けようかと、片足立ちになった瞬間バランスを崩し諦める。何とか、ステラの両手を片方の手だけでホールドすると、バランスを崩れないようにゆっくりと開いた手を扉にかけた。
 とたん、扉が内側から引かれヒサキの手もつられて持っていかれる。
「のあ」
 バランスを崩し、肩からステラがずり落ちていく。何とか片手で押さえ込もうとしたが、止められるわけも無くステラが背中から滑っていく感触だけが届いた。
「おっと」
 ふっと、背中が軽くなる感触に顔を上げると、白衣を来た女性が目の前に立っていた。その手はヒサキの背に伸ばされている。
「病人?」
 その言葉に頷くと。すぐさま女性はステラを抱え、保健室へと戻っていった。
「貧血。ストレス」
 てきぱきという表現が一番しっくりくるような立ち回りで、ステラをベットに寝かせると脈や触診を繰り返している。
「君は?」
「付き、添いです」
 息も絶え絶えに答えると、病人でもけが人でもないものに興味も無いのか、すぐにステラに視線を戻す。
「軽い貧血。それと肌荒。たぶん、ストレス」
 ものすごい簡潔な説明に、ヒサキは目を丸くして保健師を見る。ショートかとおもったら、頭の後ろで髪の毛を縛っている。かといって髪の毛自体は長く無く、まとめた所から天井に向かって跳ねていた。細い目は開いているのかどうか判らない、化粧はかるくしかしていないようだがピアスの穴が見て取れた。
「は、はぁ」
「はい、担任に届けて」
 渡された紙を見ると、「要休養」とだけ書かれた紙の下のほうに保健士の判子がおざなりに押してある。
「判りました」
 そういって戻ろうとすると、背中から声をかけられた。
「放課後迎えに着なさい」
 振り返ったときには、既に保健師は自分の机に戻って何かをしている。反論しようかと逡巡するが、部活が無いことを伝えてなかったことに思い当たり何も口からは出なかった。
「わかりました」
 短くそう答えると、ヒサキは扉を開け教室むかって歩き出す。出たところで、思い出した階段の長さを思い出してうめいたが、どうにもなるわけでもなかった。

 その日の放課後、ヒサキは誰も居ない保健室で呆然と立ち尽くしていたのだが。階段を上る彼にはそんな未来は見えていなかった。



 祝50話。
 しかし、このままでは長すぎるです。やばいので、どっかではしょるか、連載中止もかんがえておかなきゃな……。
 現在三分の一……。

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コメント

Σ(゚x゚;) エエエーー!
長編でもいいじゃないですかぁッ!
イザとなったらほら、AVGに…(を

  • 木本らい
  • 2005/06/01 03:38

 実はAVGは別企画で進行中ですので、これにはつかえねぇのですよー。
 物語の時間的制限は、やはり有るんですよ。量ではなくて、始まってから終わるまでの時間です。そろそろ半分超えてないと不味いんです。自分的に。
 とりあえず、停止という形より何とかまとめる方向で行きたいと思いまっす。

  • カミナ
  • 2005/06/01 10:17
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