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今日の三題話

■連載中のlog
「棍」「紫」「薄い」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 足が震えていた。思い返したら、それはもう面白いぐらいに。
 ヒサキは、夕暮れ時の赤い空を見上げながら携帯を握り締めている。簡単な会話しか出来なかった自分に失望し、上手く舌の回らない自分に絶望し、そして、それじゃぁと言って自分から電話を切った自分に呆れかえっていた。

 自己嫌悪と後悔が、胃にこびり付いている。それは、意志をもってヒサキの胃をかってに動かす。胸焼けしたような気分の悪さに顔をしかめたら、薄いため息が出た。
 住宅街は夕暮れ時になってしまうとすぐに人気が無くなる。家路を急ぐ人間がちらほら見えるだけだ。自分は何をしているのかと、一瞬思い出そうとするが携帯が表示している時間と記憶に有る時間の差はどうしても埋まらなかった。
 学校を出てから何をしてたんだろうか。へとへとになったところまでは思い出せたが、その後何をしていたのかヒサキは思い出せないでいた。まぁ、無意識ということもあるのだと自分を納得させて足を進めつづける。
「おい、待てって!」
 遠くから飛んできた声に振り返ったが、その声はどうやら自分へむかってかけられた声ではなかった。大学生らしき男が、コチラに向かって走ってきているが、彼が追っているのは彼の目の前を走っている女だった。
「ご飯〜!」
 前を走る女が叫ぶ。意外とアニメっぽい声に、一瞬こけそうになったが失礼なので我慢した。髪もツーテールに結わえ、近付いてくれば近付いてくるほどアニメに居そうな人っぽい。
 そして、立ち止まってるヒサキの横をその女が駆け抜けていった。
 軽い足取りに、笑い声を乗せて走り抜けた女を目で追う。高校生ぐらいだろうか。一瞬、桜の匂いがした。
 そして、追いかけるようにすぐ後を男が走り抜けていく。両手には、パンパンに膨らんだ買い物袋。がさがさを揺れるその音を聞きながら、ヒサキは歩き出す。前を走っていったカップルは、そのまま路地を曲がり見えなくなっていった。
 一瞬、自分の姿に重ねあわせそうになって慌てて頭を振る。自分には似合わない。ステラも、あんなんでは……と、そこまで考えて、ヒサキは顔を真っ赤にして走り出した。
 足を止めたら妄想が追いつくのではないかと、理由の無い恐怖に狩られながらヒサキは走る。急がないと、自分が恥ずかしくて死んでしまうのではないか。紫色に染まりだした空の下、自分の息使いがやけに耳についた。

 寝る前の、布団に入る瞬間はヒサキにとって至福だった。最近、まともに寝れた記憶が無いが、この際自分に正直になってしまえば、幸せ一杯夢一杯なのは目に見えている。
 起きた後の自己嫌悪で、間違いなく登校拒否になりそうなのも目に見えているけれども。
 だから何も考えないようにして眠る。思考するのは疲れるし、それに嫌なことばかり思い出すからだ。肺から搾り出すように息を吐く。自分の部屋の匂いを吸い込み、深呼吸。目をつぶれば、家の前を通る車の走行音だけが聞こえて来た。
 そして、まるで棍棒で殴られたようにヒサキの頭に思い出される思考。火花のように目の前で散って、焼きついて離れない。そして、何故今更とヒサキは頭を叩いた。
「明日が期日だ……」
 しかし何もできることなんてない、ヒサキには自分に言い訳をする。心臓だけが早鐘のように脈打っていたが、今は寝るしかなかった。いや、そう思おうとしていた。
 自分だけが何もしていない、それだけが申し訳なくそして情けない。無視を決め込んで被った布団は、自分の匂いがした。


 珍しく目覚ましの前に目が覚めた。が、特に寝起きがよかったわけでもない。むしろ逆だった。胸に冷たい鉛を流し込まれたような不安感。あまりの不安に目が覚めたのだ。
 自分だけが何もしていないという焦りは、思ったよりヒサキの頭の中にこびり付いていた。
 そんな不安をつれたまま、朝食をとりすぐに家を出る。急いだところで何をするかなんて決めていないのに、ヒサキの足は知らずに早くなっていた。
 住宅街を抜け、人の流れに乗った頃には既に息は上がっていて、肩を揺らしながら人の波に乗る。顔があわせづらい湯木や相羽を一度探して見回してみたが、ヒサキの視界にそれらしき人は見つからなかった。
 どうせ放課後になれば嫌でも顔を突合せることになるのは、ヒサキにも判っていたが、嫌なことは後にかぎる。こそこそと人ごみに隠れるようにして、ヒサキは校舎へと向かっていった。
 何とか校舎まではついたものの、昇降口に到達すると何故だか無防備になったような感覚を得る。何に急かされているのか、自分の上履きを投げつけるように取り出すと、急いで履き替える。
「おはよう」
「!」
 声をかけられ、ヒサキは驚き跳ね上がった。声にならない叫び声。
「うおっ、ど、うした? 加賀君?」
 聞き覚えの有る声に、もう一度驚き、そして顔を上げる。同じクラスの前に座っている男だ。ヒサキは緊張から解き放たれ、大きく息を吐いた。
「なん、でもない」
 涎を飲み込みながら、ヒサキは答える。そういえば、声をかけてきた男の名前をヒサキはまだしらない。授業で生徒の名前で出席を取る教師はまれで、殆ど開いている席と座席表から欠席者を割り出している。だから、ヒサキは目の前の男の名前を知らない。
 慌しく流れる人で溢れている廊下を、二人は並んで歩いている。特に会話はないが、特に無視するわけでもなく無言。
「ああ、そうだ」
 思い出したように男が、ヒサキのほうを向く。ヒサキが首を傾げると、少し意地悪そうな顔になって笑った。
「おまえ、隣のクラスの沢村さんに告白されたんだって?」
 やっぱり、噂が広がるのを阻止することは不可能だったらしい。ヒサキはため息をついて顔を振る。
「よくわかんない。それに、名前を呼ぶぐらい友達でもするだろ」
 とはいうものの、ヒサキの中では暴走しかかっている思いもある。自分で自分を否定しておかないといけない。もし違ったとき、きっと自分は血反吐を吐くほど端を書くことになる。だから、転ばぬ先の杖だ。ヒサキは、戒めるように言葉を飲み込む。
「まぁ、そりゃね。でも強制させるかなぁ。うーん」
 男は首を捻ってうなる。そんなきもするが、そうでもないきもする。そういった感じの反応だ。
「じゃぁ……苗字が、嫌いとか」
「ふーん、まぁそれなら」
 少し含み笑いを漏らしながら、男が言った。そこまで否定することも無いのにと言われた気がして、ヒサキは目をそらす。
 教室について鞄を下ろしたあたりで、やっとヒサキは一息つけた。周りの視線は相変わらずで、昨日の一件いらい更につよくなっている。嫌でも注目される場所にいるのかもしれない。少しだけなれてきたその視線をかいくぐって、ヒサキは椅子に座った。
 目の前の席に男が戻ってくる。顔を上げると、クラスがざわめき始めていた。次の瞬間、鳴り響く予鈴。そうか、そんな時間だったのかと、ヒサキは納得する。
「そうだ、加賀君。昨日言おうとおもってたんだけど」
 男が背もたれに体を預けながら、振り向く。
「ん?」
「僕が、帰宅部にはいるよ」

 胸を張って部活に向かえるのは良いことだと、ヒサキはしみじみと思う。ステラのことは良くわからない。うるさいと言われ、つぎに名前で呼べといわれた。何がなんだかわからない。ただ、少なくてもステラに嫌われてないとヒサキは思う。最悪は、彼女の中に好きや嫌いというものが無かった場合の話だが、まぁ其処までとは思いたくない。
 ヒサキは、先導しながら部室へと向かっている。後ろには、いつも前に座っている男。名前は、端山オサム(はたやま おさむ)というらしい。珍しく、返事をさせるタイプの教師の授業があったのでしっかりと覚えておいた。
 部室の前にくると、既に電気がついていた。
「おはようございます」
 賀古井が居たら、色々とまずそうだと思いながらゆっくりと扉を開ける。
「おう。後輩か」
 湯木が一人で頭を抱えて座っていた。というか、やつれていた。驚いてヒサキが声を出そうとした瞬間、
「部員みつかんなかったわ……あーだめかこりゃ……」
「あ、それなら」
 見つかりました。
「あー、くっそ! 部室無かったらここにいたいみねーっつーの!」
 机が蹴り倒されて、派手な音を立てた。驚いて、声が引っ込む。
「ちょっと、ユキカズ。私の鞄になんてことすんの」
 机の上に乗っていた鞄は、無残に床に転がっていた。そして、それを拾っている相羽。やはり志茂居は居ない。
「だー、わりぃわりぃ。つい」
 相羽には頭が上がらないのか、湯木はそそくさと、机を戻して散乱したものを片付け始めた。とりあえず、端山が入るということを伝えないと、
「あのっ」
「おはようございます」
 ステラが、扉の前で突っ立っていたヒサキの隙間をぬって部室に入ってきた。
「お、ステラちゃんおはよう」
「すーちゃん、おはよー」
 二年の二人は次々に挨拶する。またも、言い出すタイミングを逃がしたヒサキは、ううと一度うなってうなだれる。
「おい、加賀君。どうしたんだ。はいっていいのか?」
 背中からつつかれて、目の前ではタイミングを逃がして部活の日常は始まっていて、ステラはあんなことあったのに、やはりいつもどおりで。
「う……あ……」
 ヒサキは倒れそうになっていた。
 ひよったヒサキをみて、端山は苦笑。部室を少しのぞいてから、ヒサキを押しのけて扉をくぐった。
「ども、加賀君に誘われて帰宅部に入ることになりました。端山オサムです。一年です。宜しくお願いします」
 部室に流れる時間が止まった。一瞬端山は間違えたかと、焦った顔になった、
「おおおおおお!」
 泣き叫びそうな声をあげて湯木が飛び上がる。
「おー」
 相羽が拍手している。
「……」
 ステラは相変わらず無言だが、端山を見ている。
「ども、ども」
 大丈夫そうだとみた端山が、部室の中央にむかって入っていく。
「こ、れで」
「そろったねー」
 二年の二人が嬉しそうに笑う。鞄にしまっていた書類を取り出すと、相羽が端山を見た。
「えっと、ハタヤマ……」
「端山オサムです」
「んじゃ、パタパタ」
「は? パタパ……?」
 いきなりつけられた愛称に、端山が目を丸くする。
「あーこいつな、人の名前覚えられねぇのよ。あだ名つけないとだめなんだ」
 湯木がフォローを入れる。
「漢字は、っと、畑?」
「いえ、端っこの端と山で端山です」
 相羽が紙に名前を書いていく。その紙には、部活申請書という名が踊っている。
「1,2,3,4,5。そろった」
 湯木が覗き込みながら、感慨深そうに呟く。そのこえに、相羽も嬉しそうに頷いた。この二人は本当に部活が好きなのか、部室がすきなのか、どっちにしろ一生懸命だった。ヒサキは知っている。ずっと頭を抱え、学年名簿を眺めていた二人を。
 ――本当に、頑張って、頑張りぬいて、血反吐を吐いて、指一本動かせなくても諦めないで頑張ると、そこに魔法使いが現れて助けてくれる――
 魔法使いは現れなかったが、頑張った結果がここにあった。きっと、二人のどちらかが諦めていたら、こうならなかったのだと、ヒサキには思える。ステラが、部員募集の紙をつくったから、こうなったのだと、ヒサキは思える。
 頑張った結果がその紙に五人目の名前をつづることになった。
 そして、加賀ヒサキは何もしていなかった。
 
 ――加賀ヒサキは居ても居なくてもよかった――
 
 行き着いた結論に、一瞬目眩を覚えた。が、すぐに立ち直る。自分でもわかっていた答えだからだ。ヒサキは一度深く呼吸をすると、部室の扉を後ろ手に閉める。いま、部員名簿に一人ずつサインをいれているところだ。
 自分も、頭数合わせの役ぐらいには立てるのだと思うと、気が晴れる。ヒサキは、机につくと名簿を覗き込んで順番を待った。
「ほい、後輩。お前のばんだ」
 湯木カズ、相羽カゴメ、加賀ヒサキ、沢村ステラ、そして端山オサム。五人の名前が並んでいる。自分の名前の横にサインを書く。加賀。
「はい」
 書き終えて、ヒサキは紙を湯木に渡した。
「ありがとうな後輩」
「へ?」
 なにがだろうか? 頭数合わせが? ヒサキは間抜けな顔で湯木を見返す。
「お前のおかげでつぶれずに済んだ。大手柄だ」
「え、」
「そうだよー、ひーちゃん。誰も見つけられなかったのにすごいすごい」
 真っ白になった頭でヒサキは周りを見回す。ステラと目が合った。
「ありがとう」
 ステラが微笑む。
 
 ジワリと、視界が歪んだ。疑問を覚えたときには、頬に冷たい感触。やっと、涙だと思い、焦って目を擦る。俯いて、ステラに見られないようにと何度も目を擦った。
「なんだー、ステラちゃんに感謝されたのがそんなに嬉しいのか」
 俯くヒサキの頭を湯木が揺らした。ヒサキの横で、端山も笑っている。
「そ、んなことないです」
「おーおー、そんなこといっていいのかねぇ? なぁパタパタ」
「まじで、パタパタなんすかぁ?」
 そのわりには、端山は嬉しそうに笑っている。良かったとおもえる。ヒサキも、つられて笑った。
 紫色の空。夕日になるまえの、青と赤が混ざった空に、赤い雲が浮いている。日は目に見える勢いで長くなってきている。風がゆっくりと部室の窓を揺らした。
 カタンカタンという、軽い音と、学校の校舎に響く生徒達の声。
 そんなおとは、もう部室には流れ込まなかった。笑い声が、部室に響いている。夕日が雲に隠れて影が落ちた。
「んしょ」
 相羽が部室の電気をつける。一度瞬いた電灯が、すぐに部室と部員を照らす。
「さーて、じゃぁ提出してくるか」
 湯木が立ち上がって、紙を取る。床に引きずられて、椅子がやかましく騒ぎ立てる。
「あの」
 端山が顔を上げた。
「顧問ってだれなんですか」
「あ……」



 やりたいこと消化。本当は金曜日にとおもってたけど。
 いつもの二倍でお送りしております。

 Q.最近挿絵が無くて寂しい
 しかしweb拍手。
 熱い思いは、Myu氏に責任をもって伝えておきます。
 The 他力本願。

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