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今日の三題話

■連載中のlog
「突剣」「藍」「悲しい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 最悪だった。既に部活に顧問でない教師がのこってるわけもなく、顧問の掛け持ちなんていうのは前例が無い。そして顧問がいなければ、非公認部となり部室は与られない。
 部員も顧問もそろっているが届出を出していない、いわゆる部室の空き待ちをしている部活はかなりの数に登っており、そして昨日のステラの宣伝で知れ渡ることとなった。

 悲しいかな、現実はどこまでも非情でそして機械的だった。
 部も顧問もそろってる部活が書類をそろえて審査通過までにかかる時間は、中二日。帰宅部が持っているイニシアチブは、顧問がかわり、部員が少し減っただけで、活動内容に差が無いというただその一点のみだった。活動内容は同じで、顧問の退部による再編成は前例を見る限り中一日。つまり、今日提出すれば同じ部室を使うという理屈も通り、帰宅部ははれて部室を追い出されずに活動を続けることが出来るはずだった。
 そして、部員はギリギリになってそろったのだ。
 しかし、顧問を誰も探してはいなかった。
 部室に沈黙が落ちている。それは、まるで原油のようにドロリと床にたまっている。天井から染み出し、床にたまっていく。ぽつりぽつりと、落ちては床に波紋を広げる沈黙。足がどんどん埋まっていく感覚。動けない、沈黙に足を取られて誰も其処からいっぽもうごけないでいる。
「あー、端山」
 沈黙を破ったのは、湯木だった。真っ青を通り越して黒くなりかけた顔色は、人工の光に照らされてその色をやけにきわだたせた。
「は、はい」
「わざわざ足はこんでもらったのに、わるかったな。写真部にもどっていいぞ」
「あ、しってました?」
 ヒサキは驚いて、端山を見る。ヒサキの視線に気がついて端山は一瞬笑った。
「ま、もしこのまま上手くいってもいかなくても後輩が伝えるから大丈夫だろ。まぁ、ヒマなときにでも出てきてくれたらいいから」
「判りました。んじゃ、僕はこの辺で」
「ばいばーい、パタパタ」
 じゃぁといって、部室を出て行く端山にヒサキは手を振るだけで精一杯だった。彼は、普通に部活動をするものだとばかり一人で勘違いしていた。言われてみれば、そっちの方がおかしい。ヒサキは気持ちを切り替えようと一度頭を振った。
「どっちにしろ、これじゃ無理だな」
 頭をかかえて、湯木が呟く。
 顧問の欄がうまっていない部活申請書が机の上に寂しそうに広がっていた。
「せっかく五人そろったのにね」
 相羽が、机の上から申請書を拾い上げてひらひらと弄ぶ。紙が揺れる、軽い音が部室に響いた。
 ステラは静かに座っている。ヒサキの目の前だ。いつもどおり、無表情で机に視線を落として何を考えているか判らない。
「くそ、とりあえずじっとしててもしかたないし、教員室いってくる」
 相羽から紙を奪い、湯木が部室を走り出ていった。
 廊下に小さくなっていく足音が響いている。ヒサキは椅子に座って机に映る自分の顔を見ていた。茶色と黒、青白く光る電灯が混ざって奇怪な色の縞模様を映している。自分の黒いはずの髪の毛は青みがかり藍色に見えるし、肌色は既に茶色と区別がつかない。
「今日中に提出できればね、朝一で生徒会の顧問の先生にいくんだけど。間に合わないね、これじゃぁ」
 ため息だけが漏れる。
「ごめんね、ひーちゃん。せっかく友達つれてきてくれたのにね」
「い、いえ。僕はなにも……あ、そういえば」
 もう一つ忘れていた。
「なに?」
「一週間で、ここ開けろって部長いってませんでしたっけ」
「あ……」
 瞬間、大きな音を立てて扉が開いた。
「ぶ、」
「部長……」
 振り返った先には、賀古井と志茂居が立っていた。既に暗くなり始めた廊下を背に、二人は静かに部室の入り口に立っている。ヒサキは言葉が出ず、ただ二人をみる。
「おはよう、いやこんばんわか」
 賀古井の言葉に、律儀に頭を下げるステラ。その姿があまりにも場にそぐわなくて、違和感がごろりと床に転がった。
「どうして」
 相羽は驚きで言葉が出ない。もう帰ってこないものだと思っていたのだろう。賀古井を凝視したまま動きを止めている。
「どうしてとは言い草だな、相羽カゴメ」
 そういって、賀古井は振り向き志茂居に顎で合図した。ごそごそと、志茂居が鞄から何かを取り出す。
「それにしても、残っているとはね? 部活はそんなにたのしかったか?」
「え? だって、私の部活だもん。そんな、勝手に辞めろっていわれてはいそうですかって行かないです」
「ふん。沢村ステラ、加賀ヒサキ、二人まで居るとは少々予想外だったが」
 賀古井の視線に射すくめられ、ヒサキは動けなくなる。目の前に突剣を突き出されたような緊張感。思わず、体がびくりと震えた。
「他にないから」
 ステラが淡々と呟く。賀古井はその答えに満足したのか一度だけ軽く笑った。
「加賀ヒサキは? まぁ君のことだ、おおかた、あい――」
「げー! 部長!」
 廊下から、部室の中に響くほどの大きな叫び声。一瞬、湯木の声だとわからないぐらいの叫び声に、賀古井の声がつまる。
「湯木カズ……、ん? それは部活申請書か」
「う……これは」
 紙が揺れる音。ヒサキのところからは、湯木の姿は見えないが間違いなく後ろ手に紙を隠したと判った。
「どうせ、顧問が見つからなくて時間切れといったところか」
 賀古井の笑いを含んだ言葉に、皆が押し黙った。何もかもお見通しだといわんばかりに、賀古井は笑う。
「まぁいい。志茂居」
 言われて志茂居が、部室に入ってくる。手には、一枚の紙。
「く、くく苦労したんだ。こ、れでも」
 机に置かれた紙は、
「部活申請書……」
 すべてが書き込まれている部活申請書があった。



毎秒16連打


昨日の二人は、間違いなくあの二人です。ハイ。夕日の赤にピンクは掠れたということで。一つ。

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