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今日の三題話

■連載中のlog
「刀」「灰」「嬉しい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 予定と違ったのはたった一つ。
 それは、嬉しいことではあったけれど、同時に恐怖でもあった。新しいファクターだからこそ、慎重に選んでいたつもりだった。慎重に言葉を選び、次に備えて見守る予定だった。そこまでして、慎重に慎重を重ねた。あの苦しみも、痛みも、絶望も、鉄の匂いと腐臭にまみれ、視界は赤と白。そして、黄色。肉、骨、体液。もう、何度重ねたか判らなくなっても一度も諦めなかった。ただ一人、そうただ一人で戦いつづけていた。何度繰り返しても、それは間違いなく慣れる類の苦痛ではなかった。でも、もう一度その苦しみを受けてでも、慎重にならざるを得ないと思っていた。だから完璧なまでの慎重さと精密さでここまでやってきたというのに。
 予想外だった。

 何度も繰り返した苦痛と時間は記憶よりもすでに、体の肉に血液に、眼底に、脳にこびり付いている。だからこそ、自分はそれなりにやってきたと自負していた。予想をたがえる事は無く、後一つ鍵が手に入れば扉は開けられると信じていた。
 だが、現実ははやりカオスとしか言い様がなかった。予想は何通りも。そう、何通りも用意してその都度修正を繰り返し、確実に確実を重ねた。だからこそ、その予想以外の自体に一瞬目眩と、そしてもしかしたらという、忘れていた希望という感情を思い出させた。
 ――もしかしたら。
 ――こんどこそは。
 何度繰り返しても諦めはなかった。骨の隋まで目的のために向かっている。底には熱いほどの思いも無く、冷酷なほどの割り切りも無い。有るのは、機械的に繰り返す事実だけだった。
 現実に対抗するには、現実と同じように、無慈悲に、そして無表情に。ただ、そうただただ機械的であればよかった。
 
 空には、相変わらず思い出したような灰色の雲が転がっていて、夕日を受けて輪郭だけを赤く染めている。風はないが、窓から染み込んでくる温度差は、確実にリノリウムの床を冷やしていた。長机には、部活申請書――正式名称、部活動活動許可申請書。略して部活動申請書というのが通例だ――が、一枚広げられていた。
「ぶちょー、これって」
 相羽が。部活申請書を取り上げ信じられないような目で眺めている。
 そこには、賀古井の名前から始まり、相羽、志茂居、湯木、加賀、沢村と部員の名前が連ねてあった。そして、既に賀古井と志茂居の名前の欄には本人証明のサインがついており。一番上の顧問の欄には、「増井 天元(ますい てんげん)」という、厳つい名前が踊っている。
「増井……先生?」
 相羽は首をかしげ記憶をたどる。昔から名前というものは彼女にとっては、覚えられない代物だ。何度繰り返しても、自分の名前以外は覚えられない。だから、一瞬思い出そうとしてすぐに諦めた。
「世界史の教員だ。二年の担当だったはずだが。お年を召した男性の人だ」
「えーっと、あー! シワワーかぁ。へー増井って名前なんだ」
 相羽のあだ名のセンスは、最早誰も突っ込まない。ヒサキは何もいえなかったことを取り繕うように一瞬、増井先生に頭の中で哀れんだ。
 廊下から覗いていたはずの湯木も、気がつけば部室に戻っていた。
「あ、ああ後これを」
 そういって、志茂居が取り出したのは一枚の印刷物だった。中には、少し大仰な名前が踊り、なんだか近寄りがたい文体が並んでいる。
「これは?」
「ししし市の教育、委員会会長の推薦文。たた、っ多分芳田先生が反対してくると、おおおお思うから」
「反対? ああ、そっか。こうちょーとせんせーの署名もいるんだ」
 相羽の言葉に、志茂居は頷く。
「会長が何分多忙で、手に入れるのが遅くなってこのざまだ。まぁいい、丁度そろっているのなら、サインを入れるといい」
 そういって賀古井は机から身をひいた。
 言われるがままに、相羽がサインを書き込みはじめる。
「結局、なーんもできなかったわけか」
 湯木がふて腐れたように机に突っ伏した。手には彼の努力の結晶である部活申請書。必死ではしりまわった結果は中途半端で終わり。その間に賀古井はすべてをそろえていた。しかも、芳田への対抗策までを用意して。
 あの日、芳田が廃部の事実を伝えた瞬間から、賀古井は手をうっていたのだろう。頭が上がらないどころか、下がる一方な自分に、湯木は長いため息をついた。
「あ、そういえば。モイモイはなんで電話繋がらなかったの?」
「あ、ああれは。ヒマがああああ、あれば電話してた」
「電話? え? でも話中じゃなかったよ?」
「キャキキャ、キャッチホンだよ」
 確かに、市の教育委員会の会長と電話していてキャッチを取るわけにもいかなかったのだろう。
「ごごごご、ごめん」
「ううん、タネがわかれば結局そんなもんなんだね」
 書き終わった申請書を湯木に差し出し、相羽は嬉しそうに笑う。謎が解けてすっきりといったところだろうか。
「湯木カズも、徒労だったがご苦労だったな」
「どうせ、何も出来ませんでしたよ」
 ふて腐れながら、それでも黙々と自分の欄にサインをしている湯木をみて、ヒサキは少し笑った。ふと、研究所にいたメイドのユキのことを思い出した。今ここに、あの時のメンバーがそろっている。芳田はいないが、それでも殆どそろっているから思い出したのだろうか。携帯の例も満足にしていないことに思い当たり、ヒサキはふとどうしようかと思案する。
「ほれ、後輩」
 声をかけられ顔を上げると、目の前でステラが紙をつきだしていた。まるで、刀を構える侍の如く、一辺のよどみの無い格好。そんなに気合を入れなくてもと、突っ込みたくなるほどだった。
「無視すんなよ、ステラちゃんがかわいそうだろ」
 湯木の声。目の前のステラの無表情な顔。紙。
「あ、あぁ。ごめん」
 驚きで固まった体を無理やり動かして、ヒサキは紙を受け取る。
 そろったサインを見て、一瞬違和感を覚え、そして、
「あ、端山……」



既に無いように対しての拍手というよりは
ボタンのネタに対して拍手されてる気がするweb拍手。


 一応はずれもつくった。
 本当に、どうでもいいことに無駄な手間をかけている気がする。

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