スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

今日の三題話

■連載中のlog
「造花」「表情」「疑問」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 全てが元の鞘に戻った。ソレがいいことなのか、悪いことなのか、ヒサキには良くわからなかった。ただ、漠然と端山に対する申し訳なさが、胸の辺りでうずいている。
 次の日、端山に名前を借りなくて済んだことをはなしたら、端山は「部活続けられてよかったな」と、笑っていた。あの時の、表情が作られた表情なのか、どうなのかヒサキにはわからない。だいたい、ただ名前を貸しただけだ、いらなくなったのなら別にかまわない。ヒサキは、自分にそう言い聞かせるように何度も呟いた。
 先の一件のおかげで、端山と話せるようになったのは確かに良かったことかもしれないと、ヒサキは頭を切り替える。

 少なくても、聞けなかった連絡事項を他人に聞けるというのはそれなりに安心感はあるものだ。きっと、クラスの空気がゆるくなったのはそう言う理屈なのだろう。助けてもらえるという、暗黙の了解が、安心に繋がり、緊張をほぐすのだ。一人ぼっちでいるなら、ずっと緊張していなければならない。移動する教室の場所を聞き逃しただけで、授業が受けられなくなる可能性だってあるのだから。
 一人も居ないのと、一人居るのとでは大違いなのだなと、ヒサキは実感しながら机に座って前を見ている。目の前に端山は居ない。窓際で数人で集まりながら話している。彼の人の良さを考えれば当然だとヒサキは思う。何度も何度も芳田のことを聞いてきた女子が、慌しく教室にもどってきた。流行のバンドの話を大声でして居るのが、遠くからでも聞き取れるほどだった。クラスに流れる話題に耳を済ませると、色々と情報が入ってきて面白い。美味しいケーキ屋。お洒落なグッツ店、品揃えのいい本屋、はや売りするゲーム屋。有名人がきている飲食店に、全国大会にでた人がくるゲームセンター。読んだ漫画に、テレビにドラマ。
 そして、噂話。
「そうそう、あの駅前の裏。うん……そうそう、ここ。この山の真中辺りに、真っ白な家があるんだって」
 山の真中? 中腹のことだろうか。ヒサキの頭のなかで疑問はモヤモヤと頭の中で渦巻いてる間にも、会話はどんどんと加速する。まるで等加速運動のように、永遠と早くなりつづける、冷淡な速度。
「うん。だって、あそこから車でてくるのみたよ」
「車? じゃぁ人がすんでるんじゃん」
「メイド! メイド。アニメのメイドみたいなのが」
 ユキのことだろう。そういえば、たまに街に下りているという話だったし。ヒサキは、その話に耳を傾けながら時計を見る。残り三分。雑談は終わりそうに無い。
 クラスの会話の中で、一瞬耳につく小さな音が聞こえた。ソレは、聞こえるように、いや聞こえないように気を使ってるように聞こえる、声。
 小声の声が、後ろから聞こえてくる。
「そう。帰宅部。まちがいないよ、病院近くのファミレス。そう」
「へぇ。なにしてんだろうねぇ」
「気がついたらね、居なくなってたの。食い逃げじゃないと思うけど。それと」
「なに?」
「えーっと、加賀君はいなかった。二年生と三年生」
「へぇ」
「でねでね、へんなのが」
「ん?」
「誰も、その席に座ってなかったようなかんじで」
「え?」
「だからえっと、コップとか食器あったはずなのに、気がついたら消えてた。あそこのファミレス、店員やる気無いのに。おかしくない?」
「えー、偶然でしょー。消えたってわりには、普通に学校にいたじゃん」
「そうなんだけど」
 他愛も無い噂話が繰り広げられる。ヒサキは後ろから聞こえる、押し殺した声にまるで全身を引かれるような感覚をうけながら、静かに座っている。残り……。
 チャイムが鳴った。
 顔を上げると、教室が慌しくなりはじめる。椅子が、床を擦る音が響き渡り、声が次第になくなっていく。朝日さす教室が一気に静まり返っていく様は、何度見ても奇跡的だ。まるで本能に刻まれた、行為であるように。
 席が近くのものたちは、まだ小声で話をしている。このタイミングで教師が来ないと、次第に小声が大声になり、座っていた生徒が立ち上がり始める。
 ヒサキは目を閉じる。新しい制服の匂いが充満する教室で、一度大きく深呼吸するとまた、遠くから噂話が聞こえてきた。
「ねぇしってる? 頑張った人のところにだけ来る魔女の話――」
 
 昼休み、何も変わらないかのようにヒサキは図書室にむかっていた。
 喧騒を背に、ヒサキは廊下を歩く。と、携帯が震える感触が足から来た。立ち止まり、携帯を取り出すと、液晶に賀古井の名前が浮かんでいる。共に光っているのは、メールの着信を示すアイコン。
 ヒサキは、少しおぼついた手で携帯を操作し、メールを開いた。
 メールにはただ完結に、放課後に集まるようにと書いてある。そういえば、部長が召集を必ず参加だったと思い出す。元から休むつもりもなかったヒサキには、どうでもいいメールだった。
 携帯を閉じまた歩き出す。
 彼の頭の中はたった一つのことで一杯だった。
「頑張った人のところにだけ、来る魔女の話――」
 都市伝説なのか、伝承なのか、いまいちはっきりしない。むしろ伝承が、今また流行り始めたとみるべきなんだろうか。ヒサキには、物語がどうやって伝播するのかも、噂がどういう理由で流行ったり廃れたりするかも、漠然としかわからない。そんな自分が、伝承を調べたところで答えを見つけられるのかは怪しいと、判ってはいる。
 判ってはいるが、気になるのだから仕方ない。
「それに、やることもないし」
 結局は暇つぶしの一環だと、呟き図書室に向かう。
 そう、暇つぶしなのだ。べつに、ステラに会いにいくわけじゃない。
 図書室の鉄扉に手をかけながら、ヒサキは思考を振り払うように頭を振る。少し重たい扉が開いていく向こう、そこには静かな図書室が待っている。本棚に、みっしりと並べられた本と、その本の上に薄く積もる埃の匂い。窓から入る風が、カーテンをゆらゆらと揺らして、その横で色あせた造花が一緒に揺れる。そんなのどかな風景が底には広がって……。
 いなかった。
 どろりとした、鉄の錆びた匂い。既にかぎなれた血が空気に触れ酸化していく匂い。腐肉の匂いもまざった、肌にねっとりとこびり付く風が扉の向こうから吹いてきた。
 開く――
 少しの衝撃のあと、扉が行き場を無くして軽い音を立て跳ね返ってくる。扉の向こう、真っ暗の闇がわだかまった図書室に、
「白い人……」
 新しく扉の向こうに招き入れてしまわないよう、廊下を見回し、生徒が居ないのを確認する。ポケットには携帯と、賀古井に貰ったカッター。
 なぜか躊躇いは無かった。すぐさま飛び込むと、カッターの刃を引き出し振りかぶる。白い人へと振り下ろされる銀線を見ながらヒサキは焦っていた。
 早くしないと、昼休みが終わる。
 ヒサキは思う。
 早くしないと、沢村に会えない。



正直、30万hitはまだまだすぎて、先走りすぎだと思う。
 クラムボンは多分、パックマンだとおもうんだな。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL