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今日の三題話

■連載中のlog
「日光」「揺れ」「交差」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 余りにもまぶしくて。瞼を閉じてもまぶしくて。手で覆ってもまぶしくて。
 それはまるで。
 まるで、頭の中に直接光をつきこまれたような感覚。目だけではなく、体中が光を感じていた。日光というには余りに直接てきで、ライトにしては余りに美しいその光りのなかでヒサキは恐怖した。体の中に質量をもった光が突き刺さる。
 何だと思う余裕も、恐怖に震える暇も、逃げ出す時間も無かった。
 光がと思った瞬間には、頭の中が白一色に塗りつぶされ思考すらままならない頭で、ただ現状に恐怖するしかなかった。

 声が聞こえる。叫び声だときがついたのは、意味をなさない言葉だったで、叫び声の大きさではなかった。曇ったような声は、まるで壁越しのような錯覚すら覚える。
 結局叫び声も、すぐに聞こえなくなりまた無音の世界がやってきた。
 恐怖がじわじわと、体を締め付け始めヒサキは身をよじる。そして、体の感覚すら危うくなっていることに気がついた。
 驚きに任せて体を動かそうとするが、一向に体を動かせた感覚がなく焦りは積もる。
「ひっ」
 恐怖が、肺を押し上げ、悲鳴が漏れた。瞬間体に衝撃が走る。
「ひ、ひひさきくん」
 声をかけられ気がつけば、元の場所だった。現状が理解できないままヒサキは腕を引っ張られるままに引きずられていく。
 次第に落ち着きを取り戻し始めたヒサキは、あたりを確認する。
 目の前には志茂居が居た。背を向け、前に立っている。床に座り込んでいるせいで、視界がやけに低く、志茂居がいつもより大きく見えた。
「ごご、ごめん。大丈夫だった?」
 振り返った志茂居の言葉に、ヒサキは頷く。横には、同じようにステラが座り込んでいた。志茂居がここまで運んできたのだろうか。疑問に思っていると、図書室の扉が開いた。
「芳田教頭は、本気らしいな」
 賀古井と、後ろに続くように相羽と湯木が顔を出す。
 予鈴がなる学校の廊下で、六人はボロボロになって立ち尽くしていた。
「つーか、いつ入ってきたんだ芳田は……後輩みたか?」
「い、いえ。見てません、入ったときにはいなかったような」
「てことは……」
 うんざり顔になる湯木。
「ああ、間違いなく別の場所から。多分窓、もしくは既に通路を見つけたか」
「え? 通路って理論上のものじゃぁ」
 相羽は首を傾げる。ボサボサになってしまった髪の毛が重力にひかれて揺れた。
「無いとも証明されてないのなら、可能性は考えておくべきだろう。あの場所の研究なんてあってないようなものだ。何が起こってもおかしくない」
 授業が始まるぞ、という賀古井の言葉で皆は歩き出す。こんな体調で、授業に出て大丈夫だろうかとヒサキは不安になるが、今更保健室に歩くのもめんどくさいきがして歩き出す。
 どうせ授業なんて聞いてないのだから、変わりはしない。
 
 これほどまでに、じぶんの席の場所に感謝したことはない。ヒサキは、机に突っ伏しながら黒板を見上げる。良くわからない文字の羅列を、目で追いながら何とかして体力の回復を図ろうと必死になっていた。
 ただ静かに座り、時間がたつのを待つ。
 教師の声が、なんだか遠くに聞こえ始めたときには、既にヒサキは眠りに入っていた。
「ああ、落ちる」
 眠りにつく瞬間を意識する。体が落ちる感覚と共に、意識が途切れるのがわかった。寝るわけには行かない、と一瞬意識を揺り動かそうとしたが上手くいかずそのまま闇へと沈んでいった。
 遠くで教師の声が聞こえる。野太くよく通る典型的な教師の声。頬かた伝わる机の温度と、湿った木の匂い。どこまでも落ちる感覚に、ヒサキは身をゆだね眠りについていく。
 
 手。
 赤く、厚みの有る液体に覆われた手。
 鉄。
 酸化し、やけに鮮明に届く錆びた匂い。
 赤。
 あたり一面に広がっていく、血。どこまでも広がる赤。まるで泉のように湧き出る赤い血。むせ返すような鉄錆びの匂い。そして。
 地面にこすり付けられ溶け焦げたゴムの匂い。
 引きずって残滓を残したアスファルトから、立ち込める吐き気を催すゴムの匂い。
 タイヤ。
 足音。叫び声。悲鳴に、心無い話し声。
 クラクション。
 だらしなく、なりつづけるクラクション。とまらない、クラクション。止まらない、赤。止まらない、血。広がりつづけ、とうとう空まで赤く染まった。けれども、その赤は手しか染めてくれず、自分の体はいつものように普通だ。
 鉄。そして……油。
 見開いた先に、
「ライナ!!」

 騒々しい音に、飛び起きた。とおもったが、その音を自分が立てたことに気がつきヒサキは体中の血が冷えていく感覚を得る。
「加賀、四十九ページだ」
 顔を上げると、教師がコチラを見ている。視線が交差してヒサキはすぐに目を外す。そして、端山がこっちを見て笑っていたのをみた。
「わりぃ。呼ばれて起こそうとしたんだけど。そんな驚くとは」
 眉尻をさげ、本当にすまなそうにしている端山、両手を合わせて謝っている。
 教科書を広げながら、嫌な汗をかいた背中を意識する。クラスのところどころから、薄い笑い声もきこえてきた。
「四十九ページ、八行目。昼飯の後に寝ると太るぞ」
 教師の言葉に、教室の笑い声に火がつく。体中が冷え切っていく、変わりに顔に血が集まっているような感覚。
「え、と……」
 薄笑いを浮かべながらヒサキは教科書を読み出した。

 
 部室は、廊下よりも教室よりも温度が低い。コンクリの冷たさは余りにも強く、周りの温度をひきずっていく。窓から差し込む光は、見て取れるほどに角度を少なくしていき、更に部屋の温度はさがる一方だ。
「ああ、加賀ヒサキか。もうすぐ沢村ステラもくるな」
 部室には、賀古井が一人静かにすわっていた。全く温度を感じさせない雰囲気に、少したじろいだがヒサキも習うように机に座った。
「あの」
「白い人がいる空間のことか?」
 聞きたいことがばれたことに、体がビクリと反応する。ヒサキの反応をみて、賀古井は薄く笑った。
「判りやすい。まぁ、無言で二人きりというのは居心地が悪いものだ。いいだろう、知っていることは教えてやる」
 それは、多分。ヒサキが知っていていい事、という意味。初めから判ってはいるし、知らなくていいというのなら知るつもりはない。ヒサキは、ゆっくりと頷いた。
「まず、あの場所は私たちが居る世界からずれている。ずれているから、余り問題にならない。あんなものが居ても、同じ場所に居合わせない限り殆ど害がないからだ。発生している場所は、連絡されるからわかる」
「え? 連絡?」
 そんなものは受け取ったことがない。それに、一体だれから連絡がくるというのか。
「我々のような集まりは他にも一杯いるといった。それらが連絡を取り合い、こうして近場にいるリーダー、帰宅部でいうと私だ。に連絡が来る」
「ということは」
「そう、観測専門のグループもいるし、両方をこなすグループもいる。そして、掃除のみを目的とするグループもだ。我々は、両方をこなすタイプに当たる」
「え、誰が……」
「志茂居だ。彼が武器を振るって前に立つことは稀だろう? たしか加賀ヒサキは見たことがないはずだが」
 そういえばそうかもしれない、ヒサキは思い返す。大体志茂居は後ろに陣取っていることがおおい。
「だが、志茂居が独自に持ってる情報網も、あの空間を調べる方法も私たちは、不干渉だ、何も知らないし教えてもらえない。そう言う決まりでね。ただ目的を同じにするからには、協力はしてくれるし我々も協力するわけだ」
「え、じゃぁ部長はなにも」
「いや、私はまた私で知ってることがおおいのだけれど。ふむ、一応危険に晒される可能性を考えれば、最低限はおぼえておいたほうがいいかもしれないな」
 まるで、獲物を見つけたというような笑みに、一瞬ヒサキはたじろぐ。しかし、逃げ場は既にない。諦めて、ヒサキは佇まいを直した。
「まずあの空間が、どうして出来るかは公にされていない。ただ、あそこに入るには、招き入れてもらうほかないのだけは確実だ。つまり、扉を開ける行為。つぎに、共に扉をくぐる行為。この二つがあって、初めて感染する」
「感染……ですか」
「一種の病気みたいなものだ。既に加賀ヒサキは、扉を開けたとき向こうを開ける可能性を常に孕んでいる。だから、例えどんなときでも武器を忘れるな」
「は、はい」
「これは、双方にそういった意志がなくても関係ないから病気のようなものとして、感染といっているだけで、特にウィルス性とかそう言うものではない。さて、ここで問題が一つ出てくるな。わかるだろう?」
「最初の一人ですね」
「そう、最初の一人。招き入れられず、関わらず一人で、あそこへ到達してしまう人間が稀にいる。現在確認されているのは、私の先輩に当たる人間に一人。この前の病院での一人に、もう一人このグループの発足に関わった人間。あわせて三人のみだ。いや、もう二人になったのだった。原初、つまりは最初の一人というのは、向こう側に行きやすい。こちらに踏みとどまっているの人間が、二人といった表現の方が正しいだろう」
「あの、向こう側って」
「白い人とおなじになるのだよ。そして、コチラにいたぶん、コチラへの干渉も並大抵ではない。現在、そういった向こう側にいった人間は、二人ほど確認されているが、他にも大勢いるだろう。行方不明者の中に確実に存在しているはずだ。ああいうのは、向こう側に行ききる前に、殺すのが一番てっとりばやい。浄化施設があるばしょなら、連れ出して治療することも可能らしいが、その浄化がどういったものだとか、どこにあるかは志茂居しか知らんし、今までそういった事態に出くわしたのはあの病院が初めてだ」
 あの時、振り下ろされたナイフを見て飛び込んだ記憶。ヒサキは俯く。
「いや、そう責めるな。確かに、殆ど人間。抵抗がない方がおかしいし、全くないのなら病院か刑務所にいってしまうだろうな」
 そういって笑う賀古井の笑い顔は寂しげだったが、ヒサキは何も言えず黙り込んでしまう。
「加賀ヒサキ、君が覚えておなかければならないのは、扉の向こうにはいつ「白い人」が居てもおかしくないという今の状況と、君が不用意にあけた扉で感染する人間がいるということだ」
 ヒサキはその言葉にゆっくりと頷く。
「質問はあるかな?」
「あの、通路って」
「ああ、芳田がもしかしたら通路をつかったかもしれないという話だ。あの空間は基本的には扉を開けて、閉じた場所へ踏み出す行為によって入ることが出来る。だから、同じ場所に入るにはその空間に通じる扉。たとえば、教室ならば前後ろの扉と、窓。からはいってこれるわけだ。もちろん内側からもかのうだから、掃除用具箱に入っていて、教室に出れば入ることも出来るわけだな。場所は関係ない、その空間へ『扉をあけて入る』という行為がそこにはいる方法なのだ。そこまではいいね?」
「は、い」
「だが、あの空間自体は、全て同一だという話がある。簡単にいってしまえば、異世界というわけだな。もちろん異世界だから、異世界同士は同じであってしかるべきだと。つまり、向こう側同士は繋がっていて、もしかしたら通路のようなものがあるかもしれない、ということだ。我々があの空間にある扉を開けてしまえば、元にもどってしまうため調べ様がないのが現状でね。まぁ大方芳田は別の入り口から入ってきたと考えるのが普通だろう」
「ですよね……」
 しかし、図書室は……
「そう、図書室は窓を覗けば、君が入ってきた扉以外に外に通じる場所はない。そして、最上階だ。あの軍隊らしきものが窓から入ってくるのを許容しても、芳田がはいってこれるとは思えない、だから通路の可能性は捨てきれないし、通路があるかどうかは判別することが不可能だということだ」
「あの、そういえば」
「ん?」
「僕、あの空間に道端で入ったことがあるんですけど」
 その時の賀古井の恐怖に歪んだ顔を、ヒサキは一生忘れられないとおもった。



週末二倍更新。というか、ただの説明台詞。


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